「……」
「……」
「……」
「(き……気不味い!!)」
白の陣営の参戦から一夜明けた早朝、ルーラーはスーツの上からコートを羽織った目の死んだ男性……衛宮切嗣の運転する車で白の陣営の拠点に向かっていた。
通常なら他のサーヴァントと同じように霊体で、戦場となる都市に召喚されるはずのルーラーだったが何故かフランス人の少女レティシアに憑依する形でフランスに召喚された。そうして慣れない飛行機におっかなびっくりしながら乗り、ルーマニアの首都ブカレストに辿り着き、そこからヒッチハイクをしてトゥリファスに向かっていた。
そこで起きたのは赤のランサーの強襲。黒のセイバーの介入によって助けられる形となり、共闘を持ちかけられたのだが公平を期す為にこれを拒否、静観を貫く事とした。
赤のランサーと黒のセイバーの戦いの最中で乱入してきたのが、白の陣営を名乗るレイニィフィールという男だった。どうやってサーヴァントを集めたのか知らないがこの聖杯大戦に参戦したいと申し出て、どうするか決めかねていたのだが大聖杯が彼らの参戦を認めたのでルーラーも認めたのだ。
黒のバーサーカーの乱入に黒のアーチャーの登場など予期せぬ展開が続いたのだが、それでも無事に一夜を明かす事ができた。後三十分もすれば夜が明けるという時間帯にルーラーはここまで乗せてくれた老人の元に辿り着き、再びトゥリファスに向けて出発しようとしたところで切嗣が現れたのだ。
『ーーーここまで彼女を連れてきてくれてありがとうございます』
登場と同時に暗示の魔術をかけながら老人に話しかける切嗣を見て、ルーラーは武器である旗を取り出そうとしたがそれよりも早くに切嗣が右手の甲に刻まれている令呪を見せながら自分は白の陣営のマスターだと明かす事でルーラーの動きを止めた。そしてこれ以上一般人を巻き込ませる訳にはいかない、白の陣営には自分が案内しようとルーラーの事を説き伏せた。
ルーラーも一般人を巻き込む事には反対で、警戒しながらも切嗣の提案に乗る事を決めた。それが今から二時間前、その間彼女は一向に何も話そうとしない目の死んだ切嗣と一緒の空間にいた。
「(なんで、なんで何も話そうとしないんですか!?普通なら何かしら情報を聞き出そうと話しかけますよね!?)……キリツグ、でしたよね?」
「……なんだい?」
「白の陣営の拠点まで遠いのですか?」
「……後十分程だ。そこから少し歩く事になる」
「そうですか……(コミュニケーション能力低過ぎじゃないですか!?)」
必要最低限な事だけを話して運転に集中する切嗣。そんな彼がルーラーに向ける感情は……嫌悪一色であった。
衛宮切嗣は英雄という存在を嫌悪……否、憎悪している。彼の中で英雄とは、戦いの手段に正邪があると説き、さも戦場に尊いものがあるかのように演出し、若者を煽って誘惑して殺す扇動家として捉えられている。言い方こそ酷いものの、それは間違っては無い。英雄という存在が若者たちの心を駆り立てなければ、戦場へと導かなければ落とさなかったであろう命がある事は事実だから。
そういった意味ではルーラーは切嗣の嫌っている英雄そのものだった。ルーラーが武器として使っていた旗、それに聖人認定を受けた英雄が召喚される事が多いとされているルーラーのクラスで召喚された……〝女性〟で、〝旗を持った聖人〟と言えば思い当たるのは世界に一人だけだ。
聖処女ジャンヌ・ダルク。それが今回の聖杯大戦で召喚されたルーラーの真名。
神の声を聞いてオルレアンを開放した彼女の活躍は、確かに聖人に相応しいのだろう。だがそれも切嗣からしてみれば命を無作為に捨てさせる扇動家……殺人鬼の行いと変わりは無い。本来なら車に乗せる事もしたくなかったのだが今の時間帯で手が空いて、万が一赤か黒に襲われても自衛が出来る人間が切嗣しかいなかったから仕方なく乗せているだけだ。英雄嫌いの切嗣からしてみればかなり譲歩している。
余談ではあるが……切嗣にとって幸福だった事が一つある。それは白の陣営で召喚されたサーヴァントの大半はマトモな英雄ではなかったという事。七騎中五騎がそれに該当し、アルトリアとクー・フーリンだけがマトモな英雄なのだが……アルトリアは召喚者であるレイニィの影響なのか属性が反転して英雄では無い何かとして見ている。クー・フーリンはさっぱりとした性格で切嗣の事情を知ってそれを許容し、魔術師殺しの切嗣の活動は外道ではあるが効率的だと顔を顰めながらに認めていた。それでも僅かに溝があるように感じられたのでレイニィが切嗣にしこたま酒を飲ませて泥酔させ、クー・フーリンと本音で語り合わせるという策を実行し、連携がそこそこの形になるまでに打ち解けさせた。
そうして車を走らせること十分、トゥリファスからそこそこ離れた森の前で切嗣は車を止めて何も言わずに車から降りて、森へと歩き始めた。それを見たジャンヌも慌てて降りて切嗣の後を追う。
「あの!!何か言ってくれてもいいと思いますが!?」
「……ぺっ」
「」
何も言わずに歩き出したことに文句を言うジャンヌだったが、切嗣はそゆなジャンヌの顔を見て
何とかそこから回復して森の中を歩くのだが、森にはキャスターが仕掛けたのか様々な魔術によるトラップと明らかに対人を意識した物理的なトラップが仕掛けられていた。魔術のトラップの方はキャスターが許可しているらしい切嗣がいるので反応は無いが物理的なトラップはそうはいかない。自分のペースでひょいひょいと進んでいく切嗣の後を必死に追う。もし【啓示】のスキルが無かったら危なかったとジャンヌは神に感謝した。
そうして歩くこと二十分、ようやく目的地である白の陣営の拠点にたどり着いた。
「ーーーこれは……」
ジャンヌがそこを見た感想は〝神秘が濃い〟という事。まるでそこだけ神代の時代であるかのように濃密なマナと魔力が漂っている。思い当たるのはキャスターのスキルクラスである【陣地作成】、そして霊脈の流れを見るとこの土地に他の霊脈からこの土地にある霊脈に集められているのが見て取れる。これよりこの空間を作ったのだと看破できた。
「あははは!!アステリオスすごいすごい!!」
「……ん」
庭ではしゃいでいるのはレインレッド、黒のバーサーカー並みの巨体のサーヴァントの肩の上に乗ってご機嫌だ。あのサーヴァントのはバーサーカー、看破した真名はアステリオス。ジャンヌはあの幼子がバーサーカーのマスターであり、そしてバーサーカーなのにコミュニケーションが取れるアステリオスに驚いた。
「ーーーよっ、悪かったな。嫌な役押し付けて」
「全くだよ……こんなのはもう御免だね」
「分かってるよ……そだ、イリヤから電話が来てたぞ。今はアイリと話してるから出てやったらどうだ?」
「それを早く言ってくれよ。
レイニィが出迎え、イリヤという人物の名前が出た瞬間に切嗣が残像を残して拠点の中に入った。その姿に唖然とするジャンヌだが、レイニィがいることを思い出して正気に戻る。
「こうして会うのは二度目ですね。私はーーー」
「ルーラーのサーヴァント、真名はジャンヌ・ダルクで合ってるな?」
「……ご存知でしたか」
「旗を持った女性の聖人となれば思い当たるのはそれくらいしか無いからな。一応白の陣営のマスターは全員知ってる。バレるのが嫌なら話さないように伝えられるが?」
「いいえ、それには及びません。それに私の真名が分かったところで聖杯大戦には何の影響もありませんから」
「そうかそうか……さて、積もる話もあるだろうが」
そこでレイニィがワザとらしく手を叩いてジャンヌの気を引く。
「これから朝食だ。よかったら食べていくか?」
「いただきます」
カロリーの消費が激しいジャンヌにこの誘いは断れなかった。
ちょこっと変更、ジャンヌを運んできたお爺ちゃんとすまないさんと言葉足らずさんとの戦闘後に再会させました。そこにケリィを投下……相性が最悪、混ぜるな危険ですわ(ニッコリ)
原作では空腹で倒れていたジャンヌちゃん。食事の誘惑には勝てなかったよ……セイバー顔=腹ペコのイメージがあるのは作者だけでしょうか?