「はぁ……ご馳走様でした……」
「はいはい、お粗末様」
幸せそうな顔をして惚けているジャンヌを流しながらレイニィは食器を片付けている。
「食後のお茶淹れるけどいるか?」
「あ、すいません、お願いしてもよろしいですか?」
「まぁ手間はかからんしね……はいよ」
「ありがとうございます」
レイニィからティーカップに注がれたお茶を差し出される。それに礼を言って受け取り、立ち上るお茶の香りを楽しみながら口を付けーーー
「ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」
ーーー口内を蹂躙する苦味に思わずお茶を噴き出した。
「口が……!!口の中が……!!」
「いやー良いもん見れたわー」
「外道ですか貴方は……!!」
レイニィから飲まされたお茶ーーーセンブリ茶の苦味を無くそうと必死になって水を飲むジャンヌを見て楽しそうに笑うレイニィ。過去現在未来において聖人に世界一苦いお茶を飲ませる奴はきっと彼しかいないだろう。
レイニィとジャンヌが居るのは応接室、そこをメディアの魔術で一時的に遮断して貰っている。理由は言わずもがな、ジャンヌのことを警戒してだ。
聖杯大戦の監督役とはいえサーヴァントである事には変わりは無い。それにルーラーのクラスには大聖杯から召喚されたサーヴァントを縛るための令呪が与えられている。それを考えるなら拠点に入らせてくれた事もかなり譲歩している。
無論、無警戒という訳では無い。ジャンヌはルーラー特権として自身を中心とした半径約10㎞内のサーヴァントの気配を察知する事ができる。その精度は高く、例え気配を消しているアサシンであっても大体の居場所を看破出来る程だ。その気配察知によって知覚出来ているサーヴァントの数はーーー六騎。一騎足りないのは恐らくはアサシンだろう。六騎の内五騎はこの応接室を中心に囲うような形で居て、何かあればすぐに踏み込めるように警戒されている。
そして残る一騎だがーーー反応は、天井裏。いや、現在進行形で天井から逆さまに顔を覗かせている。
「……何してるの?」
「男女が二人っきりで密室にいてする事と言えばズッコンバッコンだろう?そうならない為に見張りをな……おいルーラー、お前部屋から出ろ。私がレイニィとヤるから」
「ヤらないからぁ!!それに俺既婚者で他の女とするつもり無いからなぁ!!」
「」
とんでも無い事を真顔で言うサーヴァントがいて、そしてそのサーヴァントの真名を看破してしまってジャンヌは白目を剥いてしまう。
クラスはセイバー、真名はアルトリア・ペンドラゴン。アルトリアという名には聞き覚えが無いがペンドラゴン、そしてセイバーのクラスと宝具の名から正体に気がついてしまったらしい。
アーサー・ペンドラゴン。ブリテンの王にして騎士王の通り名で知られている大英雄。史実では男性だったのだがその当時の時代背景を考えると男装でもしていたのだと予想が出来る……だが、騎士王と呼ばれる程に高潔であるアーサー王がレイニィに迫っている光景は予想出来なかった。いつものジャンヌならアルトリアの言葉に恥ずかしがって顔を赤くするのだろうがそれよりもアーサー王の豹変を目の当たりにして現実逃避をしてしまっている。
このジャンヌの姿を召喚後のモードレッドが見ていたら肩を叩いて自分も同じ気持ちだと慰めるのだろう……今では
「ーーーはっ!?」
「お、現実逃避は終わったか?」
「グギギギ……愛が痛い……!!」
現実に戻って来たジャンヌが見たのはギザギザの敷物の上に正座で座り、膝に天井に届きそうな程石畳を乗せられているアルトリアの姿だった。あの一瞬で何があったのだという混乱と、サーヴァント相手にこんな事をやってのけるレイニィに対する戦慄がジャンヌを襲う。
「まぁそこの淫乱王の事は放って置いてだ。誘いをかけたのはこっちだけど何の目的でここに来たのか、改めて聞かせてもらえるか?」
「その前に、ルーラーのクラスがどの様な条件で召喚されるのかご存知ですか?」
「……聖杯戦争を円滑に行わせるのが目的じゃないのか?十四騎の聖杯戦争だなんてイレギュラーなものが行われるんだ。そこに俺たちが乱入したもんだから俺たちの排除にって考えてたんだけど違うのか?」
「えぇ……まずはそこから説明を始めましょうか」
そう言ってジャンヌはセンブリ茶ではなく紅茶を飲んで喉を潤してから、ルーラーのクラスについての説明を始めた。
ルーラーの召喚される要因は大きく分けて二つある。一つはその聖杯戦争が非常に特殊な形式で、結果が未知数なため、人の手の及ばぬ裁定者が聖杯から必要とされた場合。もう一つは聖杯戦争によって、世界に歪みが出る場合である。
前者は語るまでもなく十四騎ーーー白の陣営も加えれば二十一騎ーーーで行われる聖杯大戦だろう。この聖杯大戦がどんな結果に終わるかなど誰にも予想が出来ない、それを考えればジャンヌが召喚されたのにも一応の説明がつく。
だが、気になるのは後者の理由。説明によればルーラーは勝利者が叶えようとする願望に例えそれが我欲による物であろうとも干渉しない。だが世界の崩壊を招く願いは絶対に許容せず、聖杯戦争によって世界の崩壊が理論的に成立すると見做された時点でルーラーは召喚されるとの事。
そのどちらかの条件で召喚されたのがジャンヌであり、彼女は自分が召喚されたのがどちらの理由なのかを探る為に各陣営を訪れているとの事だった。
ルーラーが召喚されるだろう理由にレイニィは心当たりがあった。
「あー……後者の理由なら内のマスターの一人が当て嵌まりそうな感じはあるな……」
「それは本当ですか?」
「あぁ、それは本人に聞いてくれ……話が出来るならだけどなぁ!!」
「あ、その言葉で誰のことか分かりました、キリツグですね……どうして彼は私の事をあんなに嫌っているのでしょうか……顔見て顰めっ面された後に唾を吐き捨てられるだなんて……」
「あいつの英雄嫌いは筋金入りだからな……ただ俺から言える事があるとするなら、俺はその願いが間違ったものだとは思っていない、むしろ尊敬に値する様な尊い願いだと思ってるよ」
レイニィは迷う事なく言い切っているが、ジャンヌにはそれが理解出来なかった。まともに話す事なく、初対面であるはずの自分の事を拒絶している切嗣。そんな彼の願いが尊敬に値するものだと言われても想像が出来ない。
「いざとなったらアイリ……切嗣の奥さんからか彼女を通せば何とかなるから頑張れ」
「夫婦で聖杯大戦に参加しているのですか?」
「夫婦でっていうか……内の陣営の七人中五人がアインツベルン出身だからな」
「聖杯戦争って……」
知識として与えられた聖杯戦争の在り方とのギャップにジャンヌは項垂れる。だがそれからすぐに立ち直り、自分の目的を果たす為にまずは目の前にいるレイニィに話を聞く事にした。
「レイニィフィール・フォン・アインツベルン、貴方に問います……貴方が聖杯にかける望みは何ですか?」
「第一目的は大聖杯の回収。あれは元々はアインツベルンの物だ、それを黒の陣営で頭やってるダーニックが盗み取った。だから、取り返そうとしている」
「それはあくまで貴方の使命であって貴方の願いではありません」
「第一目的はって言っただろうが……俺が個人的に聖杯に望む願いはーーー人間になる事だ」
「……」
「驚かない、予想はしていたって感じだな」
「昨夜のあれを見ていれば予想はつきますから」
「それはそうか」
レイニィは間違いなく人間では無い。それは昨日の夜に証明されている。人間ならヘラクレスの攻撃を受け止め、原型を留めていない身体を再生させる事など不可能だ。そしてレイニィから感じられる気配から、ジャンヌにはレイニィの正体に予想が付いていた。
「貴方は吸血鬼ですね?」
「その通り。亜種の聖杯戦争に参加した時に死徒とやり合ってな、食われて食い返して何とか一命を取り留めたけどその代わりに死徒になるわそいつの固有結界を引き継ぐわで大変だったわ〜」
「……死徒になる前から随分と人間離れしてたんですね」
「おう、そのおかしな奴を見る様な目はやめーや。ま、これが俺が聖杯にかける望みだよ」
「……主の敵である吸血鬼ですが、普通の人の感性からすれば不老不死なのですよね?それを自ら手放すというのですか?」
ジャンヌが言っている事は理解出来る。聖堂教会などの宗教において吸血鬼は敵とされているが不老不死……死なず老いずというのは人間が求める物でもあるのだ。それを得たというのに自ら手放そうとしているレイニィを見て疑問に思ったのだろう。
それを問われたレイニィは呆れた様に笑いながらこう答えた。
「不老不死?そんなものはどうでも良いんだよ。愛する女と、子供と、ダチ公と一緒に歳をとって老いて、あー楽しかった、まだ生き足りないなーなんて未練を残して死ぬ。それが人として在るべき生き方だと思ってるし、俺もそんな生き方がしたいんだ。それを為す為には不老不死だなんて邪魔でしか無いんだよ」
「……そうですか」
レイニィの答えを聞いて、ジャンヌはどこか安心した様な笑みを浮かべた。
レイニィの目的は大聖杯、これは個人ではなくアインツベルンとしての目的。個人の目的は人間になる事……妖怪人間思い付いた奴は近所を「人間になりたーい!!」と叫びながらランニングしてくださいね(ニッコリ
あと、ジャンヌの様な真面目美少女はイジメられて輝くと思うんだ。