混沌を受け継ぎし者の外伝   作:鎌鼬

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白槍兵と赤騎兵

 

 

甲高い金属音が響き渡る。その正体は互いの獲物である槍がぶつかり合い、弾かれる音。

 

 

何かぎ爆ぜる音が木霊する。その正体は足場となった大地や木の幹が彼らの脚力に負けて砕け散る音。

 

 

白のランサークー・フーリンと赤のライダーの戦いは誰の目にも触れられる事はなかった……いや、正確には誰にも()()()()()()()()()()()

 

 

速すぎるのだ。金属音が、爆ぜる音がそこで彼らが死闘を繰り広げていることを教えているがその主役である二騎は影しか残っていない。

 

 

「ーーーハッ!!やるじゃねぇか!!まさかこの俺について来られるとはなぁ!!」

 

 

賞賛を送ったのはクー・フーリン。自身の速さについて来られ、あまつさえ互角に打ち合える英雄との出会いに高ぶり、嘘偽りの無い賛辞を咽喉元へと突きと同時に送った。

 

 

「ーーーそれは此方のセリフだ白のランサー!!」

 

 

その突きを弾き返しながら吠えたのは赤のライダー。彼は英雄の中でも最速であると称されている。それは事実であり、本人にもその自覚はある。だというのにクー・フーリンはその速さに食らい付き、こうして自分を殺そうとしている。

 

 

実を言うとクー・フーリンの敏捷はA、それはサーヴァントのステータスの中でも最高峰の評価を受けているのだが対する赤のライダーの敏捷はA+、敏捷だけで言えばクー・フーリンの方が劣っている。さらに赤のライダーの〝あらゆる時代のあらゆる英雄の中で、最も速い〟というしか伝説が具現化した宝具【彗星走法(ドロメウス・コメーテース)】により、視界に入っていれば瞬間移動じみた移動が行える。それでも赤のライダーに食らい付けてれいるのはひとえにクー・フーリンのバトルセンスというしか無い。

 

 

「楽しいなぁ!!ライダー!!」

「ハハッ!!そうだなぁ白のランサー!!戦場で笑わぬ者は楽園(エリュシオン)で笑いを忘れてしまうからなぁ!!」

 

 

互いの槍が弾かれたことで両者の距離が開き、打ち合わせたわけでも無いのに同時に足が止まる。あれ程までの高速で戦闘を繰り広げていたというのに二騎の息が乱れている様子は全く見られない。それどころか嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべている始末だ。

 

 

「ーーーあぁ?」

 

 

そんな時にクー・フーリンの笑みが曇る。鬱陶しそうな顔になっているのはマスターである者から念話を受けているから。だがそれも僅か、念話を続けていると曇りは除かれ、再び獰猛な笑みが咲き誇った。

 

 

「ーーークハハッ!!そうかそうか、どうりで速いわけだぜ」

「何がおかしい?」

 

 

戦場で突然笑い出したクー・フーリンを赤のライダーは訝しげに見る。そしてその問いに答えずにクー・フーリンは爆音と共に赤のライダーに接近した。横薙ぎに振るわれた槍は低い。その狙いは足首ーーー否、()()()()()

 

 

クー・フーリンの狙いに気づいた赤のライダーはそれまでの楽しげな表情を消して、槍で防ぐのでは無く大きく飛び退くようにして逃げた。明らさまな過剰すぎる反応にクー・フーリンはマスターからの念話で伝えられた赤のライダーの予想された真名が正しかったことを知る。

 

 

「ーーーハッ!!」

 

 

逃がさぬと追撃の一突き、殺意が乗せられた矛先は真っ直ぐに赤のライダーの心臓に向かう。咄嗟に払い退けようとした赤のライダーだが、槍の穂先が鎧に触れるかどうかの瀬戸際で止められた瞬間に誘われたことを知る。

 

 

「そらよっと!!」

「ガハッーーー!!」

 

 

フェイントで出来た一瞬の隙にクー・フーリンの蹴りが赤のライダーの脇腹に突き刺さった。鎧越しだとはいえど手応えは十分、そしてその蹴りが二騎の死闘での初めての被弾となる。

 

 

「うちの参謀役は優秀だわ、テメェのクラスやら言葉やらで真名を判断したんだからよぉ」

 

 

クー・フーリンのいう白の陣営の参謀役とはシンジ・マキリの事。彼は正式な魔術師では無く、聖杯戦争に参加する為に魔術師になった急造の魔術師である。魔術師としての腕は二流にも届かぬ三流以下、だが彼には知識があった。俗に天才と言われる部類であったシンジは聖杯戦争の詳細を聞き、急造の魔術師になるのに並行してありとあらゆる文献を読み漁り、そしてその全てを頭の中に記憶している。言ってしまえば頭の中に検索エンジンを搭載している様な物だ。僅かな手掛かりがあれば幾つかの候補を上げることが出来るし、宝具すらも予想してみせる。

 

 

そんなシンジからすればこの赤のライダーの正体は実に分かりやすかった。

 

 

ギリシャ神話で神々に愛された人々が死後に向かう楽園であるエリュシオン。

 

ライダーのクラスでありながらランサーのクラスを上回る程の敏捷性。

 

 

ギリシャに関わりがあり、ライダーの適性を持った疾い英雄などシンジの頭の中には一騎しか思いつかなかった。だがそれでもまだ八割程しか確信出来ていない。そこでシンジはクー・フーリンのマスターであるバゼットに赤のライダーの踵を狙う様に指示を出してもらった。そしてその時の赤のライダーの反応を見て、真名を確信する。

 

 

ーーートロイア戦争の大英雄、アキレウス。全世界に名を轟かせ、英雄の中でも最速を謳われるギリシャの大英雄。母である女神テティスにより踵を除く全てに不死の祝福をかけられた不死身の戦士。

 

 

だが、仮に赤のライダーの正体がアキレウスだとしたら一つ疑問が出てくる。それは赤のライダーがクー・フーリンの蹴りを受けて、その場所を押さえて蹲っていることだ。アキレウスは不死の祝福により踵以外は全てが不死身で傷が付かないはず、それなのに蹴られた場所を明らかに痛がっている。本当にアキレウスなのか訝しげに思っても仕方ないだろう。

 

 

そんなクー・フーリンとは反対に、蹲っているアキレウスは脇腹を押さえながら震えていた。

 

 

それは痛みから来る恐怖か、それとも不死の祝福が通じなかったことによる困惑か。

 

 

それを見てクー・フーリンは肩透かしを食らった気分になる。アキレウスという大英雄なのに、所詮は不死の祝福に頼っていただけの小物だったのかと。同じ不死の存在である師匠(スカサハ)とは違うのかと。

 

 

だが、それは違っていた。上げられたアキレウスの顔にあったのは脅えでも恐怖でも無くーーーはち切れんばかりの歓喜を含んだ笑みだったから。

 

 

「ーーーハハハ」

 

 

アキレウスが笑い、地面を蹴る。その瞬間にアキレウスの姿はクー・フーリンの視界から消えた。期待外れだと落ち込んでいたが警戒していなかった訳ではないし、目を離していた訳でもない。ただ、アキレウスの速度がそれまでよりも速かっただけのこと。

 

 

「なーーー」

「ーーーハハハハハハッ!!」

 

 

視界の端に映っていた影からアキレウスの動きを追うが追い切れない。あと引くアキレウスの笑い声を追いかけるだけだ。

 

 

視界に捉えられない神速のままに、アキレウスは攻めに転じる。刺突、凪ぎ払い、石突き、槍で行える可能な攻撃が一息の間にまとめてクー・フーリンに襲いかかる。

 

 

「オォォォォーーー」

 

 

自身を鼓舞するための叫びを上げながらクー・フーリンはそれを捌き切る。神速の攻撃を見切れた訳では無く、全てをクー・フーリンが積んできた経験から来る反射で捌く。そのどれもが必殺の威力を誇っていて、下手をすればその一撃でクー・フーリンは敗退してしまっていた。

 

 

だが、それをクー・フーリンは見事に捌き切った。

 

 

だが、それはアキレウスにとっては囮でしか無かった。

 

 

神速の連撃を捌き切った事による代償の硬直、アキレウスはそれまでの神速の移動を辞めてクー・フーリンの前に姿を現し、()()()()をクー・フーリンの脇腹に叩き込んだ。

 

 

クー・フーリンの放ったそれよりも威力の乗せられた回し蹴りは容易く肋を砕き、木に叩きつける。声こそ上げなかったもののダメージが軽くないのは互いが理解している。クー・フーリンの口元から溢れる鮮血がその証だった。

 

 

「ーーー素晴らしい、素晴らしいぞ白のランサーよ!!俺の脚に追い付くばかりでは無く俺を傷つけるか!!お前は俺を殺すことが出来るのか!!」

 

 

スパルタクスの狂気的な笑みとは違い、子供の様な無邪気でありながら獣の様な獰猛な笑みを浮かべてアキレウスはクー・フーリンに賛辞を送った。

 

 

クー・フーリンに蹴られたことでアキレウスが震えていたのは恥辱では無く歓喜だった。自分の祝福を貫ける存在など同じ陣営に召喚されたカルナだけだと思っていた自分が恥ずかしい。

 

 

自分と正面から互角に戦える程の英雄が敵として召喚されていた。それだけでも、アキレウスは自分がこの聖杯大戦に召喚された価値はあったのだと心の底から歓喜する。

 

 

「ならば!!俺とお前の戦いは宿命であるッ!!おぉ!!オリンポスの神々よ!!この戦いに栄光と名誉を与え給え!!」

 

 

そういってアキレウスは槍を構える。不死の祝福を貫けたのはクー・フーリンがアキレウスと同じ存在、つまりは神の血を引く存在であるから。そして自分に劣らぬ実力を持つ彼を、アキレウスはこの聖杯大戦における最大の宿敵と見定めた。

 

 

その言葉を聞き、クー・フーリンは肋が折れた苦痛で歪めていた顔を歓喜の笑みで塗り潰す。

 

 

あぁ、そうだ、()()()()()()()()()()()()()()()。大義名分など投げ捨てて、目の前の戦いに命を捨てられる、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ぺっ……悪かったな、テメェのこと侮ってたわ」

 

 

喉から込み上げていた血を吐き棄てて、クー・フーリンは四肢に力を入れて槍を構えた。肋が砕けたことは確かに重傷だーーーだが、それがどうした。その程度の傷で戦う事を諦められるのなら、自分は英雄などと呼ばれていない。事実、腸がはみ出しても丸太に自身を縛り付けて戦っていたクー・フーリンからすればこの程度では戦闘に支障は無い。

 

 

逆巻く闘気と殺気、それらが頂点に達した瞬間に打ち合わせたかの様に前傾姿勢になりーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーースパルタクスが向かっていった方向に稲妻が落ちた。そしてクー・フーリンとアキレウスにほぼ同時に互いのマスターから念話が伝わる。

 

 

「ーーーあぁ?」

「ーーー何ッ?」

 

 

その内容は撤退しろというもの。それだけなら二騎は無視して殺し合っていただろうが、それに続く言葉が二騎を押し留めさせる。

 

 

それはーーーアタランテが重症だという報告と、赤のバーサーカースパルタクスが、()()()()()()()()()()()()という報告。

 

 

聖杯大戦が始まってから初めてのサーヴァントの脱落、それに加えてアタランテの重症の報告。それらはこれ以上のサーヴァントの脱落を防ぎたい赤の陣営に撤退を決意させるのには十分過ぎた。

 

 

 

アキレウスも戦いを求めているが戦況が読めない程に愚かでは無い。この場に満ちていた闘気と殺気は霧散していった。

 

 

「ーーーおら、引きてぇんなら引けよ。今なら見逃してやる」

「ーーーほぅ?」

 

 

クー・フーリンから出された提案にアキレウスは眉を潜める。何か策でもあるのかと警戒するがクー・フーリンは構えを解き、完全にやる気を無くしていた。

 

 

「どうせそちらも引く様に言われてんだろ?こっちも同じだ。だから仕切り直しだ、次会った時にゃケリをつけようじゃねぇか」

「ーーーいいだろう、白のランサーよ。勝負はまたの機会だ!!」

 

 

アキレウスが口笛を鳴らすと上空から戦車を牽く見事な馬が三頭現れて傍に跪く。そしてアキレウスはそれの荷台に飛び乗るとムチを一つ振るい、空にへと駆け上がっていった。

 

 





すまない……日中の暑さにやられて筆が進まなくてすまない……

槍ニキと騎ニキ、対決は持ち越し。ここで決着させるのには惜しいですから。

彼らにはもっと相応しい舞台で決着をつけてもらいます。


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