「ーーー帰ったぜ」
「ん、お帰り」
アキレウスとの闘いを中途半端に終わらせて不完全燃焼気味に拠点に戻ってきたクー・フーリンを出迎えたのはレイニィだった。足元にある灰皿に積まれた吸い殻の山と空っぽになった空き瓶が数本ある事からそれなりの時間彼がここにいたことを証明していた。
レイニィはクー・フーリンに未開封のワインのボトルを投げた。クー・フーリンは慌てるでも無くそれを受け取り、乱暴に口でコルクを開けてそれを飲む。クー・フーリンたちのよう太古の者たちが飲んでいた酒は現代の酒に比べれば度数は圧倒的に低い。初めてクー・フーリンがワインを飲んだ時にはあまりの酒精の強さに噴き出してしまう程に。だが慣れた今では噴き出す事も無く、味わって飲むほどに余裕が持てていた。
「かぁ〜ッ!!現代の酒も悪くないなぁ!!」
「現代の酒しか知らない俺たちからしたら分からない感覚だけどな。あ、タバコいる?」
「応、サンキュー」
クー・フーリンはレイニィからタバコを受け取り、差し出されたライターを断って虚空にFに似た文字を書いた。そして指先に小さな火が灯る。クー・フーリンと言えばゲイ・ボルクのイメージが強いが実はルーン魔術も納めていて、実力もキャスタークラスの適性を備えている程にある。ルーンをこんな事に使っていることを知ったら師匠が怒りそうだが、それは鬼の居ぬ間になんとやらだ。
「んで、誰が赤のバーサーカーを殺ったんだ?」
「黒の陣営の協力者の一人だな。ユグドミレニアは多数の魔術師のコミューンだ……その一族が総出ともなればちょっとした軍隊の出来上がりだ」
「そうだとしてもバーサーカーを殺せる程の実力者がいるとは思えんのだがな……」
「あぁ、例えユグドミレニアの魔術師総出で戦ったとしてもバーサーカーは倒せない……ただの魔術師ならな」
含みのある言い方をしながらレイニィは酒を飲む。これはレイニィの悪い癖と言えよう。どうにもレイニィは言葉遊びを楽しむ傾向にある。平時からそれで、興奮しているとなると余計にだ。
「おいおい勿体ぶらずに言えよ」
「悪い悪い」
レイニィの煮え切らない態度に笑いながらクー・フーリンは催促を求めた。言葉遊びを楽しむレイニィだが催促されれば素直に応じる。
「
「ーーーあぁ、なるほど」
レイニィから出た一つの単語で何故バーサーカーが人間に倒されたのかクー・フーリンは理解し、納得した。
実はクー・フーリンのマスターのバゼットも
「俺の因子の一つが見ていたから見せられるけど見るか?」
「頼むわ」
クー・フーリンの同意を得てレイニィはクー・フーリンの頭に手を乗せる。そして記憶共有の魔術を行使し、赤のバーサーカーが倒される現場を共有した。
黒の陣営から迎撃用に放たれたホムンクルスをスパルタクスは鎧袖一触の有様で蹂躙しながら進んで行った。一歩踏み出すごとに小規模の揺れが起きて樹々が震える。そうして進んで行った先にーーースパルタクスが心の底から渇望していた存在があった。
「ーーーよくも我が領土を犯してくれたな?赤のバーサーカーよ」
森の中にある開けた場所で、ヴラド三世が立っていた。スパルタクスには彼がサーヴァントだと理解出来る理性は存在していない。だがあれが待ち望んでいた圧制者だと判断する本能は残っていた。
「お前か?お前こそがーーー」
「そうだ。そなたが求めていた者が権力者であるというのならば、余こそがその頂に立つ者だ」
「おぉーーーおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
スパルタクスから湧き上がるのは歓喜一色。スパルタクスが渇望するのは圧制者、そしてそれを討ち滅ぼすこと。例え今の場面が罠だとしても、それを打ち破って圧制者の首に手をかける。
それこそが、スパルタクスのすべてなのだから。
「さぁ、圧制者よ!!傲慢が潰え、強者の驕りが蹴散らされる刻が来たぞーーー!!」
スパルタクスの強面が笑み一色に染まり、ヴラド三世へと突進を始めた。敵地に乗り込んで四面楚歌の状況だというのに微笑んでいるのは相当に自信があるからか、あるいは有利不利を度外視する程に狂っているかのどちらか。それはスパルタクスの狂化の度合いから、間違いなく後者だと判断できた。
スパルタクスの膂力はここに来るまでの惨劇から驚異的だと分かる。例えヴラド三世がホームであるルーマニアで召喚され、知名度による補正を受けていたとしても一撃で葬られる程に。
だが、
「ーーーさぁ行くぞ、アルガリア!!君の力を見せてみろ!!」
ヴラド三世の背後から小柄な人影ーーーアストルフォが
アストルフォの一撃を受け止め、逆転の一撃にてアストルフォを両断する。それはさぞや心地よいものであるだろう。例え腹部を貫かれようとも、スパルタクスは必ず反撃する。だから、スパルタクスは剣を振り上げた。
「ーーー
ーーーだからこそ、スパルタクスの反撃はアストルフォを両断しなかった。超圧縮されたスパルタクスの腹筋にアストルフォの
「ーーー両足を無くした程度で、私は止められない!!」
そう、例えアストルフォの活躍により大地を踏みしめるはずの両足を無くしたところでスパルタクスは止まらない。足が無ければ腕を使い、這い蹲りながらヴラド三世に向かう。
「あぁ、そうであろうな反逆の使徒よ。そなたは足を無くした程度では絶対に止まらぬ」
「ーーーだから、腕も取っちゃいましょう」
アストルフォとは違う幼い声が聞こえ、スパルタクスの両腕を大量の宝具が串刺しにした。それはいつの間にかヴラド三世の隣に現れていたギルガメッシュの宝具による攻撃。両腕を大地に縫い付けられたことでスパルタクスは動けなくなりーーーそれがどうしたと
痛みなど感じていない。そんなものよりもスパルタクスの中に駆け巡るのは圧倒的な歓喜。ヴラド三世の隣に現れたギルガメッシュ、彼を見た瞬間に、彼から放たれる覇気を感じ取った瞬間にスパルタクスは判断した。
「おぉーーーおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
歓喜、歓喜、歓喜。圧制者が目の前に二人もいる。それを討ち滅ぼしたときの絶頂を得る為にスパルタクスは手も足も無くした状態でありながらヴラド三世とギルガメッシュに這いずって向かっていく。
「ーーーあぁ、これは駄目だ。領王様、こいつはここで殺した方がいい」
そんなスパルタクスの姿を見ながら進言したのはギルガメッシュの後ろに立っていたクラウディア。四肢を失いながら迫るスパルタクスの事を蔑む眼で見ていた。
「奇遇だなクラウディア、余も同じ事を考えていた」
それをヴラド三世は受け入れ、地面から生えてきた鋭い杭がスパルタクスの胸を貫いた。サーヴァントの霊核を狙った一撃、だがまだ足り無いのか更に杭を生やしてスパルタクスの頭を、胸を、全身を余す事無く貫く。
「赤のバーサーカーの叛逆は権力に叛逆することをよしとするだけの叛逆では無い。あれは気高き魂の表れだ……いつ如何なる時も強者が弱者を蹂躙することを良しとせず、あれは強者を弱者へと引き摺り下ろす為に戦っていた」
「そんなのを手駒にしたところでいつか手を噛まれるのがオチですからね」
「いつ裏切るか分からない奴なんて怖くて置いておけねぇよ」
スパルタクスの墓標となった聳え立つ杭の山を見ながらヴラド三世たちはスパルタクスに対する評価を口にした。強者を討ち滅ぼす事だけにすべてを捧げたスパルタクスを手駒にしてもいつか手を噛まれるだけ。だから殺した。
サーヴァントは特別なスキルや宝具でも無い限りは霊核を破壊されれば死ぬ。例外としてはヘラクレスだけだろう。仮に死んでいないとしてもこれだけのダメージを受ければその内に死ぬ。
そしてスパルタクスは、全身を杭に貫かれながらもまだ生きていた。虫の息でほとんど死にかけているがまだ生きていた。
そしてーーースパルタクスの叛逆譚はここから始まる。
スパルタクスの墓標となっていた杭の山が内側から爆ぜた。そこから現れるのは肉、肉、肉。スパルタクスの身体と同じ色をした肉が杭の墓標から溢れ出す。
「まだ終わらぬか、叛逆の使徒よ!!」
「アーチャー!!」
「分かってますよ!!」
クラウディアの叫びに近い指示を受けてギルガメッシュは蔵から黄金の船を取り出し、ヴラド三世とクラウディアの身体に友の名を持つ鎖を巻きつけて飛翔した。船底を掠める絶妙なタイミングで、彼らは肉から逃れる事に成功する。
「「「「「「あぁぁぁぁははははは!!!!!!」」」」」」
肉に何十もの口が現れ、そこから何重もの笑い声が放たれる。その声はさっきまで聞いていたスパルタクスの声だった。
「こりゃあ……宝具か?」
「それ以外に考えられませんね」
スパルタクスの宝具【
もっとも変換された魔力があまりにも多すぎてスパルタクスの身体はただの肉の塊になっている。だが、それでもスパルタクスの気高き魂まで失われていない。圧制者へ対する感情を失っていない。
それにいるヴラド三世らに目掛けてスパルタクスは肉の触手を伸ばす。それも一つや二つでは無く、十や二十でも無く、百を超える数で。それをギルガメッシュは船を旋回する事で躱し、さらに蔵から宝具を射出する事で迎撃する。だが千切れた触手は切断面から生え直し、落ちた触手は肉に飲まれてスパルタクスに還る。さらにダメージを受けた事で
「ダメージを受ける度に魔力が増えていってるな」
「となれば手数では無く一撃で葬る事が望ましいな」
「だけど僕らの中でそういうのってセイバーだけですよね?」
黒の陣営の中で今のスパルタクスを打倒できる可能性がサーヴァントはギルガメッシュが言った通りに黒のセイバーだけだった。だが、ここで彼の宝具を使わせる事は躊躇われる。何故なら黒のセイバーの真名が有名過ぎるからだ。もしここで宝具を使わせれば赤や白の陣営の目に止まって真名を暴かれるかもしれない。さらにもう一つ、それは黒のセイバーの宝具で確実にスパルタクスを倒せるかという事。人型の状態ならば行けたかもしれなかったが今の肉塊のスパルタクスを倒し切れるとは到底思えなかった。今のスパルタクスを確実に仕留めるなら、対城クラスが望ましい。
「はぁ……しょうがないな。領王様、
「……いざ仕方ないか」
短い葛藤があったものの、ヴラド三世はクラウディアの提案を許可した。
「ーーーベアトリス、あれを蹴散らせ。帯雷は一つだ」
「ーーーあはっ、愛してるわ。クラウディア様ぁ!!!」
ユグドミレニアの森の上空に黒雲が集まり、雷が落ちた。そこはスパルタクスから50mほど離れた地点で、そこには一人の少女がいた。だがその少女の右腕は異形の物、そしてその腕で
ベアトリスと呼ばれた少女のハンマーに宿る神秘にスパルタクスは気付く。だがそれよりも圧制者を討つ事に専心してしまう。
「消し飛べ、元素の塵までーーー
振り下ろされたハンマーから放たれたのは雷を帯びた純粋な破壊の砲撃。それはスパルタクスを消し飛ばし、余波で森を吹き飛ばし、レイニィが偵察用に放っていた因子を殺した。
ミョルニルという名のハンマーが振り下ろされたところで記憶の共有は終わった。なるほど、あれだけの神秘で、あれだけの破壊力を秘めているのなら人間であってもサーヴァントを殺せるのだろうとクー・フーリンは納得した。
「マジでサーヴァントを殺してやがったな……あの嬢ちゃんと宝具に覚えは?」
「ハンマーは北欧神話の雷神トールの【
スラスラと知っていた情報をレイニィは懐かしそうに口にする。レイニィの出自はすでに白の陣営に明かされていて、黒の陣営のクラウディア・ミクラシェがレイニィの実弟だということもクー・フーリンは知っていた。
その時に少しだけ辛そうな顔をしていたレイニィをアルトリアが性的な意味で慰めようと服に手をかけたところでモードレッドが瞬獄殺を決めて落とすところまでテンプレだった。
「
「説明したと思うけど?完璧な人間を求めて人工交配を繰り返している魔術師だったって。それ考えると
「人間ってなんだっけな……」
自分の中での人間の定義がアヤフヤになってきたのでワインを飲み干す事で逃れようとする。そこにちょうどバゼットから治療をするので早く戻るようにとの念話がクー・フーリンに届く。
「バゼットに呼ばれたから行ってくるわ」
「へーい」
酒瓶をラッパ飲みしながら生返事をし、家の中に入るクー・フーリンを見送る。
「ーーーはぁ、身内と殺し合うってホント辛いよなぁ」
レイニィの呟きは誰にも届く事なく、夜の帳に消えていった。
スパさんはここで脱落。まぁ子ギルとレイニィ弟がスパさんの危険度を察知したら手駒にしようだなんて考えません。
そしてレイニィ実家は
頑張れ赤の陣営!!負けるな赤の陣営!!スパさん脱落して、シェイクスピアが戦えないから実質あと五人しか戦えないけどまだ終わってないぞ!!(なおモーさん単独行動中)