一年を通して雪が降り続けるアインツベルンの森、今日は軽く雪が降る程度でここで暮らすにしては比較的過ごしやすい天気になっていた。アインツベルンの城で暮らす者なら今日は晴れだと言って子供たちと一緒に外で遊ぶのだがーーー今日に限ってはその日常が行われていなかった。
高い金属音が森の中に響く。弾かれながらも空中で体勢を整え、獣のように剣を持っていない腕と両足で着地したのはレイニィ。それを彼が召喚したサーヴァントのセイバーが雪を爆ぜさせながら手にしている剣の振り下ろしで斬りかかる。常人なら何があったか理解出来ずに、達人なら斬られたのだと理解して死ぬ程の剣速の一撃をレイニィはその体勢のままに身体を仰向けにして剣で受け止め、それと同時にセイバーの顔面に蹴りを放つ。
サーヴァントの膂力は人間とはかけ離れている。たとえ最低ランクであってもトップアスリート並みの力を誇っている。セイバーの筋力は規格外を除くと最高とされているランクのA、そんな不安定な体勢で受け止めよう物ならそのまま叩き伏せられる筈なのだがレイニィはアッサリと受け止めただけではなくカウンターを極めてみせた。
蹴りを見てから反応し、両手で握っていた剣の片手を離すことで受け止めたセイバーは深い笑みを浮かべる。それは見る者を安心させる物ではなく、威嚇するような獰猛な笑み。事前に人間からかけ離れた存在だと紹介されていたがサーヴァント相手に互角以上に戦える程だとは思ってもいなかった。
「ーーーハハハッ!!凄いなぁマスター!!流石は私が見込んだ男なだけはある!!」
「まぁたその話かよ!!俺にはモードがいるから諦めろって言ったよなぁ!!諦めろよ騎士王だろ!?」
「生憎と私はサーヴァントとして呼ばれた身であって今は騎士王では無いからなぁ!!つまり寝取る!!」
「助けてモード……!!」
レイニィが召喚したサーヴァントはブリテンの国王のアーサー・ペンドラゴン。本来なら騎士王と呼ばれるほどに高潔な人物だった筈なのだがマスターであるレイニィの影響を受けているのか属性が反転し、かなりいい加減な性格になっている。それにアーサー王は選定の剣を抜いた時点で不老になっている筈なのに召喚されたアーサー王は成人の姿で現れた。アーサー王の性別についてもだがこの事は流石に予想外、モードレッドも眼を見開いて驚いていた。
それだけでもいっぱいいっぱいだというのになんとセイバーは召喚された直後にレイニィの前に膝を着き、結婚して欲しいと告白をしたのだ。これを聞いてランサーとライダーを除く全員が白目を剥いたことは語るまでも無いだろう。いち早く正気に戻ったレイニィが自分には妻がいるから無理だと言ったが、ならば実力行使で寝取ると宣言したのだ。
「はぁ……何がどうしたらあそこまで張っちゃけるんだか……やっぱり円卓時代のことがストレスになってたのか?」
アインツベルンの城の一角でレイニィとセイバーのやり取りを見ていたモードレッドが呆れながらそう呟く。ブリテン時代では王であり、父であると慕っていた人物が予想外の方向に天元突破していたら呆れもするだろう。
モードレッドはアーサー王の下に集った円卓の騎士の一人、そしてブリテンの崩壊の原因を作った叛逆の騎士モードレッドと同一人物である。
アハト翁が養子となったレイニィに妻としてホムンクルスを鋳造しようとしたところでレイニィが乱入し、どうせなら凄い性能のホムンクルスを鋳造しようと魔改造を行ったのだ。それで埋め込まれたのはレイニィとアハト翁の合作である龍の魔力炉心。だが幻想種の頂点として知られている龍種の魔力炉心など簡単に作れる者ではなく、本来のそれとは比べるまでもなく劣った物だったがそれでも一般的な魔術師、そしてこれまで鋳造されたホムンクルスに比べれば規格外の魔力量を生み出す炉心となった。
そうして劣化版の龍種の魔力炉心を埋め込んで鋳造されたホムンクルスは本来なら人格など持たない筈だったーーーしかしどういう訳か、叛逆の騎士モードレッドの記憶を持って誕生したのだ。
誕生した当初はモードレッドは混乱して自傷行為に走るなどをしていた。しかしレイニィの献身的な介護の甲斐がありなんとか立て直し、ゆっくりとレイニィという人柄を知るにつれて徐々に彼に惹かれていった。ブリテンのことには思うことはあるのだが、今の家族とブリテンを天秤にかけたら迷わずに家族を選ぶ程である。
「あらあら、レイニィもセイバーも楽しそうね」
モードレッドの向かいに座り、二人の戦いを見ているのはアイリスフィール。アインツベルンで鋳造されたホムンクルスであり、今のモードレッドからすれば妹のような存在である。世間知らずの箱入り娘のような印象を受けるのだが二人のやり取りを見て楽しそうと言える辺り天然なのか豪胆なのか判断しづらいところだ。
「……サーヴァントと正面から戦えるなんて本当に人間なのかしら……いえ、そういえば化け物を自称していたわね……」
どちらかといえば反応として正しいのはモードレッドが召喚したキャスターのメディアの方だ。ローブを下ろして紫色の長髪と尖った耳を晒し出して疲れた様に紅茶を入ったカップを口に運ぶ彼女を見て思わず同情しまう。
「そういえば他の奴等はどうしてるんだ?」
「レインレッドならイリヤと一緒にバーサーカーと遊んでいるわ。アーチャーにはそれについて貰ってる。ライダーはシンジを連れて飲んでたわね……ランサーも一緒じゃないかしら?バゼットは礼装の点検があるとか言っていたわね」
メディアが手を振ると遠見の魔術で幾つかの風景が映し出される。一つはレイニィとモードレッドの息子のレインレッドと衛宮切嗣とアイリスフィールの娘のイリヤスフィールを肩に乗せているバーサーカー……アステリオスとそれを眺めているアーチャー……ロビンフットの姿。一つは酔い潰れたシンジをソファーに寝かせて酒を飲みながら何か話し合っているライダー……フランシス・ドレイクとランサー……クー・フーリンの姿。一つは与えられた部屋の中で何かの点検をしているバゼットの姿だった。
それを見てモードレッドとアイリスフィールは素直に感嘆する。魔術としての遠見の魔術はそう難しい物ではないが、媒体も何も無しでここまでの精度の魔術を使えるかと聞かれれば出来ないと答えるしかない。それなのにメディアは手を振るという簡単な動作だけで容易く高精度の遠見の魔術を使って見せたのだ。素直に凄いと褒めるしかないだろう。
今このアインツベルンの城にいるマスターとサーヴァントは六人と六騎、切嗣と彼が召喚したアサシン……ハサン・サッバーハと共に事前にルーマニアへと向かっている。普通なら単騎で敵の本拠地に向かうのは愚策でしかないのだが切嗣は対魔術師の戦闘に特化したプロフェッショナルで、ハサンはアサシンのクラススキルである【気配遮断】によってまず見つかる事はない。それにレイニィがかけた保険もあり、下手に大人数で動くよりも彼らに任せた方が効率的に動けるのだ。それに彼らの役目は情報収集で戦う事ではない。蛮勇な者なら意気揚々と本拠地に乗り込んで無残に死ぬのがオチだが彼らに限ってはそれは無いだろうというのがアイリスフィールを除くマスターたちの見解だった。
とは言っても妻であるアイリスフィールからすれば夫の身を案じるのはおかしな事では無い。今も心労でアイリスフィールが眠れなくなりつつあるのをモードレッドが察してメディアに頼んで催眠の魔術をかけて貰うほどだ。幸いなのはレイニィがかけた保険によって切嗣は健在だと伝えられていることだろう。これがなかったら最悪聖杯大戦の間眠り続けてもらうことも考えていた。
白の陣営がサーヴァントを召喚して二日目、予定なら明日にはルーマニアに向けて旅立つ手筈になっている。聖杯戦争史上、最も混沌とした戦争が開始されるときは近い。
サーヴァントたちとの交流回。なおケリィは既に現地入りしている模様。
少し考えていた白の陣営のサーヴァントたち
セイバー:アルトリア(カリバー、ロンゴミ、アヴァロン装備)
アーチャー:姫ギル(ノット慢心)
ランサー:スカサハ
ライダー:イスカンダル
キャスター:メディア
アサシン:李書文
バーサーカー:アステリオス
……これは酷い。