混沌を受け継ぎし者の外伝   作:鎌鼬

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赤の騎士との接触

 

 

深夜のルーマニアの都市トゥリファス。黒の陣営であるユグドミレニア一族の拠点のユグドミレニア城から直線距離にして5㎞離れた建物の一室で銃に付けられたスコープからユグドミレニア城の様子を覗き見ている男がいた。彼の名は衛宮切嗣、白の陣営のアサシンのマスターにして対魔術師に特化した戦法を得意とする魔術使い。魔術師協会や聖堂教会にはフリーランスの時代に【魔術師殺し】という呼ばれ方をされていて、アインツベルンへと婿養子になってからは戦線から引いていたものの知るものが切嗣の名を聞けばすぐに魔術師殺しだとバレてしまうだろう。

 

 

切嗣の目的は情報収集、その為にアサシンを連れて事前に現地に入っていた。ユグドミレニアの黒の陣営と魔術師協会から派遣されたマスターたちの赤の陣営、その両方の情報を少しでも集める為である。ユグドミレニアに関しては大聖杯を持っているので言わずもがな、魔術師協会に関しては大聖杯の回収を目的としているので敵対するが故の情報収集。

 

 

この聖杯大戦では、言うまでもなく白の陣営は不利な状況から始まる事を強いられている。予めこの場を開催地として決めていたのであろう黒の陣営はこの土地一番の霊脈の上に城を築いて籠城の構え、赤の陣営も聖堂教会から派遣されたというマスターからか聖堂教会が保有していたこの土地二番の霊脈を持っている。それに対して白の陣営はこの土地には全く繋がりを持っていない。切嗣独自の人脈によりなんとか霊脈の巡っている土地をアインツベルンの財力で購入することが出来たが黒の陣営と赤の陣営の霊脈と比べればお粗末な物でしかない。唯一アドバンテージがあるとするなら知られていない事だろうがこのトゥリファスはユグドミレニアのお膝元、それに使い魔らしき鳩を何羽か見かけた事から見つかる事は時間の問題、それに下手をすれば黒と赤の陣営が共闘し白の陣営を討とうとするという危険性も孕んでいる。

 

 

だがそれでも、切嗣は諦めない。万能の願望器と称される聖杯なら、きっと自分の願いを叶える事ができると信じているから。

 

 

「ーーー動いたか」

 

 

スコープ越しに見えたのは人影。ユグドミレニアの城からズラしてその人影に焦点を合わせれば、そこにはサーヴァントと思わしき白い鎧を着込んだ人物と強面でサングラスをかけた筋肉質な男が見える。サングラスの男は事前に時計塔から盗み出していた情報から知っていた。

 

 

獅子劫界離(ししごうかいり)、魔術師協会から派遣された死霊魔術師(ネクロマンサー)ーーーつまり、赤の陣営の魔術師である。その経歴を知っている切嗣は獅子劫の姿を見て思わず舌打ちをする。時計塔に籍を置く研究者気質な父親とは違い、切嗣の様に戦場を渡り歩いたフリーランスの魔術師。死霊魔術師(ネクロマンサー)という魔術師の特性からすれば戦場を渡り歩くというのは正しいのかもしれないが切嗣からすれば獅子劫の戦闘方法(スタイル)は相性が良い物とは言えない。切嗣は魔術師殺しと呼ばれる程に魔術師を狩る事を得意としているが、それはあくまで生粋の魔術師だった場合の話。獅子劫の戦闘方法(スタイル)は生粋の魔術師とは言いがたく、どちらかといえば自分と同じ魔術使いのそれに近い。

 

 

まともに正面から戦えば苦戦を強いられる、もしくは倒されるというのが獅子劫に対する切嗣の評価だった。故に切嗣が考えている戦法はーーー獅子劫界離とは戦わないという消極的なもの。白の陣営の目的は大聖杯の奪還と大聖杯を奪ったユグドミレニアに対する報復。例え黒の陣営全員を相手にして大聖杯を取り戻したとしてもその後には赤の陣営を相手にしなくてはいけない。なので消耗は最低限に止めるべきだと判断した。

 

 

「アサシン」

「ーーー此方に」

 

 

スコープを除いたまま声をかければ切嗣の背後に膝を着いた状態でハサンが霊体化を解いて現れる。本当ならハサンは二十四時間体制でユグドミレニアの城の偵察に回したかったのだがトゥリファスは敵のお膝元で人間にすぎない切嗣だともしサーヴァントが現れた時には対処が出来ない。なのでユグドミレニアの城の偵察は日が出ている間に、そして日が沈んでからは自身の側に置いて周囲の警戒をさせていた。

 

 

「アサシン、あの鎧のサーヴァントを殺れるか?」

 

 

切嗣は懐から予備のスコープを出してハサンに渡し、ユグドミレニアで鋳造されたであろう様々な武器を持っているホムンクルスたちと戦っている鎧のサーヴァントを見させる。アサシンのクラスのサーヴァントは戦いには向いていない。それは聖杯戦争を知るものなら常識的な事だ。そもそもアサシンの本領は暗殺にある。己を殺し、隙を伺い、気が緩んだその刹那を逃さずに殺す。それがアサシンの戦い方。切嗣はそれであのサーヴァントを殺せるかどうかを訪ねた。

 

 

「……誠に申し難いのですが恐らく一対一では不可能かと。あのサーヴァントは恐ろしく勘がいい。背を取る事は可能でしょうが殺気を出した瞬間に反撃されます。乱戦時に余裕を極限まで削ぎ落とした状態なら、あるいは」

「そうか、それが分かればいい」

 

 

ハサンの返事は普通なら良くないものだったが切嗣からすれば満足のいくものだった。ハサンは自己評価を違えない。普通の英霊なら例えあのサーヴァントよりも劣っていたとしてもなんとしても勝つなどと誓っていただろう。切嗣はそれを不愉快だと思っている。出来ない事なら出来ないと言えばいいのに必ず勝つなどとほざかれても扱いに困るだけだ。その点、ハサンは己の性能を十全に把握していて一対一では勝てないと断言した。一対一で勝てないのなら複数で当たり、殺ればいいだけの事だ。

 

 

「それはそうと魔術師殿、夕餉は済ませましたかな?」

「あぁ、食べたさ」

「……もしやこのハンバーガーの事ですかな?」

「そうだが?」

「……魔術師殿、自炊せよとは申しませんがもう少しまともな食事を取られよ。奥方様も心配されますぞ」

 

 

欠点があるとすれば切嗣の食生活に口煩いところか。切嗣は時間を有用に使う為にハンバーガーやサンドイッチなどの片手で済ませられる様な物を好んで食べている。ハサンからすればそれが我慢ならないらしい。トゥリファスについて切嗣の食生活を見たハサンが翌日の朝に中東風の料理を作っていた程だ。

 

 

初めの頃は聞き流していたのだが妻であるアイリスフィールの事を出させると言い淀むしかない。彼女が切嗣の食生活を知ったら間違いなく説教になるからだ。

 

 

ハサンの言葉にどう返そうか悩みながらも鎧のサーヴァントの戦いを見ていた切嗣だったが、急にハサンが短刀を取りだして部屋の隅に向かって構えた事で反射的に銃を同じ方向に向ける。切嗣には分からないのだがハサンは何かを感じたのだろう。

 

 

「スタァァァァァァップ!!俺!!俺俺!!俺だから!!あ、おれおれ詐欺じゃないから!!」

 

 

どこかふざけた様な物言いをしながら部屋の隅の暗がりから人影が現れた。暗がりにいるからなのか顔は分からないが声で分かったのか切嗣とハサンは構えを解いた。

 

 

「なんだレイニィか……何かあったのか?」

「とりあえずこっちの報告にね」

 

 

レイニィと呼ばれた人影が月明かりの下に出る。だが、それの顔を判断する事は出来なかった。月明かりの下に出たというのに人影は人影のまま、レイニィフィールの姿をした黒い人型だったのだから。

 

 

これの正体はレイニィの【獣王の巣】から放たれた因子。レイニィと全く同じ姿になる事も出来るのだが本人曰く疲れるらしく、黒子の様な姿のままである。そして黒子(レイニィ)は盗聴対策に防音と隠密の魔術を使う。

 

 

「切嗣が購入してくれた土地はキャスターのスキルとバーサーカーの宝具で固めておいた。俺でも正面から攻めたら攻略出来ないくらいに固い奴だ。拠点周りは俺の分体とアーチャーが見張ってるから良いとして問題はランサーとライダーだな。二人して早く戦わせろやら外に出せと煩い。あとセイバーが魔力供給と称して俺の事を襲おうとしている。助けて」

「そうか……いっその事バラしてしまって動揺を作るというのもありかもね……あとセイバーの事に関しては僕らは関係無いんで、そっちで始末付けてくれ」

「ガッティム!!!!」

 

 

頭を抱えて項垂れている黒子(レイニィ)から目を逸らして切嗣は鎧のサーヴァントに目を向ける。するとホムンクルスとの戦闘は終えたらしく、獅子劫と会話をしている姿が見えた。

 

 

「あぁ……うっし、切り替え完了。あれはどっちのマスターとサーヴァントだ?」

「恐らく赤だろうね。奴は獅子劫界離、フリーランスの死霊魔術師(ネクロマンサー)だ……事前にファックスを送っていたはずだけど?」

「あぁ〜……それならレインとイリヤがバーサーカーと一緒に遊びに使ってな……気がついた時には手遅れで読めなくなってた」

「イリヤか……イリヤなら仕方が無いね。また新しく纏めておくよ」

 

 

基本的にレイニィと切嗣は子供には甘い。レインとイリヤが取り返しのつかない失敗をしても困った様に笑うだけで済ませてしまう。それは二人の家が魔術師の家系で、魔術師としての愛情しか知らなかったからだろう。少年期の体験を自分たちの子供にはさせたく無いから目一杯甘やかしているのだ。

 

 

これ以上の収穫は無いと判断した切嗣がスコープから目を離して銃を片付けようとした時、黒子(レイニィ)は鎧のサーヴァントがこちらを向いたのに気付いた。見つかったか?いいや見つかるはずが無いと考えていたが鎧のサーヴァントは獅子劫を脇で抱えてこちらに向かって来るではないか。

 

 

「ッチ!!切嗣、あのサーヴァントにバレたみたいだ。こっちに向かって来る」

「なっ!?アサシン!!」

「ハッ!!」

 

 

切嗣は片付けていた銃を再び取り出し、アサシンは霊体化して消える。逃走用の経路はすでに確保してあり、アサシンに先行させているのだ。

 

 

「んじゃ、手筈通りで良いな?」

「あぁ、僕らは拠点に向かう。レイニィは囮を頼んだ」

「任せんしゃい」

 

 

交わした言葉は短かったが十年近く一緒に暮らしていた信頼からか、切嗣は黒子(レイニィ)を置いて部屋から飛び出した。黒子(レイニィ)は気怠そうに首を回すとーーー

 

 

「ーーークヒッ」

 

 

短く歪んだ笑みを浮かべて、窓から鎧のサーヴァントに向かって飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー本当なのかよセイバー!?」

「あぁ間違いねぇ!!誰かがオレらの事をあそこの家から見ていやがった!!」

 

 

鎧のサーヴァントーーー赤のセイバーに抱えられながら獅子劫は嫌な予感を感じていた。赤のセイバーが言うには誰かが見ていたらしいがそんな事は無意味としか思えないのだ。確かにあの戦いは見られていただろうがそれは遠見の魔術を通してか、使役する使い魔だと踏んでいた。何故なら、人を使って監視をする意味が無いからだ。遠見の魔術や使い魔の感じならバレたとしても問題にならない、人にさせるとなると最悪尋問されて情報を引きずり出される可能性がある。そのリスクを考えると人に監視をさせるというのは愚策としか言えない。

 

 

そうして赤のセイバーが目指している家までの距離が500mを切ったところで、〝それ〟は現れた。明かりはついておらず、窓が開けられた一室から黒い人型が飛び出してきたのだ。

 

 

「なーーー」

 

 

それを視認した獅子劫は絶句する。暗がりにいるのなら見え難いのは分かるのだが〝それ〟は月明かりの下に出てなお黒く、影の様にしか見えなかったのだ。

 

 

「ーーークヒッ」

 

 

短く歪んだ笑い声と共に影の腕から鎌のような刃が生える。

 

 

「オ、ラァ!!」

 

 

赤のセイバーと影が空中ですれ違い様に斬り合い、火花が飛び散る。屋根の上に着地した赤のセイバーは獅子劫を放り投げて剣を影に向ける。今の一撃は加減はされていなかったが様子見の一撃だった。それはこちらも同じだが赤のセイバーは改めて影の視界に入れて思わず兜の下の顔を歪めた。

 

 

人型の影は凹凸こそ見られるが黒一色、体格から成人男性の物だと思われる。放たれる気配は人間の物ではなく怪物や化け物などと言った英雄に倒される〝魔性〟のそれだった。

 

 

「ーーー貴様、黒のキャスターの使い魔だな?」

 

 

確信など無いが鎌をかけるという意味合いで赤のセイバーは影に問いをかけた。こんな悪趣味な存在を作るのは性格のねじれ曲がったキャスターぐらいだろうという偏見もあったのだが。

 

 

それを聞いた影は可笑しそうに歪んだ笑い声をあげるだけで返事をする様子が見えない。薄気味悪い奴だと内心で思いながら斬ろうと剣を握る手と地面を握る足に力を込めて、【魔力放出】のスキルによるジェット噴射で弾丸のような速度で影に斬りかかる。

 

 

「ーーークヒッ!!」

 

 

音速に迫る速さの赤のセイバーの一撃、それを影は同じ様に歪んだ笑い声をあげながらーーー頭上から落ちる赤のセイバーの剣を半歩前に出て躱してみせた。

 

 

間違いなく殺すつもりで放った一撃を躱された事で赤のセイバーは驚愕で硬直する。そして赤のセイバーと影が背中合わせの様な立ち位置になりーーー【直感】のスキルが鳴らす警鐘に従って赤のセイバーは頭を下げた。それに一瞬だけ遅れて影の肘から鋭い棘の様な物が生えて赤のセイバーの頭のあった場所を通過する。【直感】が働いたという事は今の一撃は自分の命を奪う事が出来たということ。

 

 

「おーーーオォォォォォォォォ!!」

 

 

赤のセイバーは影を引き剥がすために自身を中心とした全方向に【魔力放出】で魔力を放出する。屋根の瓦が弾け、その欠片から顔を庇う様に腕を交差して影は飛ばされる。

 

 

影が守りに入った、ならば攻めると赤のセイバーは影との距離を一歩で詰め、渾身の切り上げを放った。空中にいたからか影はその一撃を受け、脇から肩にかけて大きな損傷を負う。

 

 

損傷した部位から血こそ出ていない物の、形を保つ事が困難になったのか影は崩れて泥水の様なえきたいになり、ズルズルと何処かに去っていった。

 

 

「ーーーセイバー!!なんだよありゃあ!?」

「分からん、だが良くないものだ……黒か赤かは知らんが警戒しといた方がいい」

「警戒?トドメを刺せなかったのか?」

「あぁ、手ごたえはあったが殺せたわけじゃなさそうだ。多分あれは分身みたいな物だな。本体を仕留めるか纏めて消しとばしでもしないと死なない」

 

 

【直感】のスキルで赤のセイバーはあれがまだ生きていて、分身に近い存在だということを察した。つまりまだあの影は生きていて、これから先の聖杯大戦で再び戦う可能性があるということだ。

 

 

「……次に見つけたらゼッテー殺す」

 

 

自分の剣で仕留められなかった事への憤りを隠そうとせずに、赤のセイバーはあの影と再び相見えた時は殺すことを誓った。

 






ハサン母さん現る。

ケリィの現地入りの目的は情報収穫。その情報はファックスでアインツベルンに送られたのだがイリヤとレインとアステリオスの遊び道具になってしまった模様。

そしてレイニィは赤のセイバーの正体に気づいていません。だってステータス隠蔽の兜で顔隠してたから。素顔を見たら間違いなく赤のセイバーの正体に気づきます。
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