混沌を受け継ぎし者の外伝   作:鎌鼬

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聖杯大戦開幕、そして介入

 

 

「ーーーアァ、良い月夜だなぁコンチクショウ」

 

 

深夜、レイニィは頭上に輝く満天の星空と荘厳に輝く月を眺めながら()()()()()()()。魔術など使っていない、純粋な脚力で空中を蹴って移動しているだけだ。レイニィ曰く、慣れれば簡単らしいのでやれば良いのにと勧めているのだが誰からも色好い返事を貰えない。唯一バゼットだけが便利そうだと言って実践しようとしているのだが三段ジャンプが限度らしい。

 

 

本来なら今はまだ動かないはずだったのだが、メディアの魔術が赤でも黒でも白でも無い、新たなサーヴァントの存在を感知したのだ。すぐに遠見の魔術でその反応の持ち主を見つければ、それはまだ大人になり切っていない幼さを残している金髪の少女。

 

 

サーヴァントであるならどちらの陣営だと疑問に思うのだが赤の陣営はすでにマスター全員がルーマニアに入っており、敵陣に赴くのにサーヴァントを呼んでいないという事はあり得ない。

 

 

ならば黒の陣営かと消去法で思いつく。可能性としてはあり得ない話では無い。何故ならユグドミレニアの一族の魔術師の相良豹馬がこの時期に日本に向かうというおかしな行動を取っていたのだ。これは切嗣が得た情報で信憑性はある。時計塔から離反したユグドミレニアの魔術師が無意味な行動を取ると思えないのでサーヴァントを召喚するために向かったのだと考えられる。なら、あの少女は相良豹馬が召喚したサーヴァントか?可能性としてはあり得なくは無いがマスターであるはずの相良豹馬の姿が見えない。メディアに頼んでサーヴァントの周囲を捜索しても、それらしい反応は見つからなかった。

 

 

正体不明のサーヴァント。あのサーヴァントは一体何かと話し合っている時に、レイニィはアハト翁から聞いたあるクラスのサーヴァントの話を思い出した。それは通常の聖杯戦争で呼び出されるはずの無いエクストラクラス。聖杯戦争の監督役として聖杯によって召喚されるマスターを必要としないルーラーのサーヴァントの事を。

 

 

なぜアハト翁がルーラーの事を知っていたかといえば、それは実際に召喚した事があるからだ。ユグドミレニアに大聖杯を奪われた時の第三次聖杯戦争で、アインツベルンはエクストラクラスのルーラーを召喚する事で勝利を収めようとした。ルーラーは聖杯にかける望みを持たぬ聖人が呼ばれるクラスで、監督役として相応しいサーヴァントの真名を看破するスキルと他のサーヴァントを律する為に聖杯から与えられた令呪があった。実際、ルーラーのサーヴァントは聖杯戦争を生き残っていたらしいが小聖杯の破壊とナチスドイツの介入のせいで勝敗のつかぬままに聖杯戦争は終わりを迎えてしまったわけだが。

 

 

ともあれ、あのサーヴァントはルーラーのサーヴァントである可能性が出てきた。そうすると何故ルーラーが召喚されたのかという事になる。ルーラーのサーヴァントの役割とは監督役、つまり聖杯戦争を円滑に行わせる事にある。十四の英霊の呼び出された聖杯大戦だからという理由があるかもしれないが、レイニィたち白の陣営の介入が原因だとしたらという可能性がある。

 

 

そうなれば最悪だ。ルーラーのサーヴァントは与えられている令呪を使ってでも白の陣営を潰そうとしてくるだろう。そうなれば構図として七対十四、大聖杯を奪還する事など不可能に近い。

 

 

故に、レイニィは白の陣営の介入を明かす事にした。如何あっても敵対する事が決まっているのなら堂々と暴露してしまい、戦場を混沌化させてしまおうと考えたのだ。

 

 

この事にクー・フーリンとフランシス・ドレイクは大喜び。ロビンフットも呆れてはいたが反論はしていなかった。ハサンも殺る気なのか武器である短刀を砥石で研ぎ始め、アステリオスは静かに頷き、メディアはため息をつきながら拠点の防衛を強化してくれた。アルトリアは言う事を聞かせたければ私と寝ろなどとレイニィに言っていたがモードレッドの美しい軌跡を描くジャーマンスープレックスによって黙らされていた。

 

 

マスターに関しては戦線に出てこない者らは特に反論は無かった。バゼットと切嗣はこれから戦闘が激しくなる事を見込んでか装備や礼装の点検をすると言っていた。

 

 

そして仮想ルーラーと接触するのは彼女がトゥリファスに着いてからという事で話は纏まったのだが……その日の深夜、状況が変わった。メディアの探知に引っかかったのは赤のランサーがルーラーを殺害しようとして、それを阻止しようと黒のセイバーが戦っている姿だった。

 

 

この状況は白の陣営にとって好都合だと言えた。何せそこには赤の陣営の目と黒の陣営の目、そしてルーラーが出揃っている。そこに出向いてルーラーに聖杯大戦に参加する旨を告げ、認められればその瞬間から赤と黒との三竦みが始まる。認められなかったら赤と黒の陣営が共闘し、白の陣営を狙うという事態が待っているのだが敵対していた赤と黒が手を組んでもまともに連携が取れるはずがなく足を引っ張る事は目に見えて分かっている。リスクはあるがリターンもある、それが白の陣営の判断だった。

 

 

そこで使者として選ばれたのはレイニィ。聖杯大戦への参加を認められなかった場合、その場にいる赤のランサーと黒のセイバーがそのまま敵になる。その可能性を警戒すればその二騎の相手を取れるアルトリア、そして白の陣営の中で最も強く生存の可能性も高いレイニィが選ばれる事は必至だった。

 

 

これがレイニィが夜空を駆けている経緯である。一歩間違えば死に至るような任務を前にしてーーーレイニィの顔には子供が見れば泣いてしまいそうな程に獰猛な笑みが張り付けられていた。

 

 

『ーーー嬉しそうだな』

「あぁ嬉しいとも楽しいとも。遠見の魔術で除く限りどちらも英雄の名に恥じない強者。そんな奴らの前に出て、戦えるかもしれないだなんて俺からしたら嬉しい事この上ないさ」

『この数日共にしていて思ったのだが……やはり狂っているな』

「それがどうした?」

 

 

霊体化しているアルトリアに狂っていると言われて、普通なら怒りそうなのにレイニィはまるで当たり前の事のようにそれがどうしたと聞き返した。

 

 

『いや何、社会からは爪弾きにされるだろうが私からしたらそれくらいぶっ飛んでいた方が好ましいのでな。という訳で帰ったら私とヤるぞ』

「いい加減にしろよ淫乱王!!俺にはモードがいるって言ってんだろうが!!!!」

 

 

出会ってから変わらぬアルトリアにレイニィは同じように出会ってから変わらぬ態度でアルトリアの誘いを断った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー槍が大気を切り裂き咆吼する。

 

ーーー剣が風と共に絶叫する。

 

 

赤のランサーの槍と黒のセイバーの剣が激突し、闇夜を照らす火花を散らす。この光景を何度繰り返したか、前例の無い聖杯大戦の初戦はほぼ拮抗した物になっていた。

 

 

黒のセイバーのマスターであるゴルド・ムジーク・ユグドミレニアと監督役であるルーラーの前で行われている二騎の英霊の戦いはまさに人知を超えた物だった。

 

 

間合いに関して言えば1mを超える長い槍を持っている赤のランサーの方が優位、しかしそれだけ長い獲物を使えば攻撃速度が鈍ろうものだが一刺突を行った後には槍を引き戻すという僅かなタイムロスが現れる。

 

 

そして黒のセイバーはその僅かなタイムロスを見逃さずに一歩ずつ間合いを詰めていく。しかし如何な英霊であろうとも神域に踏み込んだ赤のランサーの槍を前にしてすべてを受け止めるなど出来ない。だが、それでも黒のセイバーは平然と死地に踏み込んでいった。

 

 

そうして受け止められない刺突が現れ始める。最小限の動きで大剣を操作し、槍の連撃を受け流していた黒のセイバーだったがそれだけではとてもでは無いが追い付けない。幾つかの刺突が黒のセイバーの大剣を超えて眉間に、喉に、心臓に突き刺さるーーーはず、だった。

 

 

急所を穿ち赤のランサーは後退するが黒のセイバーは平然としている。無傷という訳ではなく、槍が放たれた場所には流血が見えているがその程度なのだ。赤のランサーが手を抜いている訳では無い、だが黒のセイバーの傷はすべてゴルドの治療魔術で即座に回復できる程度の傷しかついていない。

 

 

当然赤のランサーも無傷という訳では無い。この打ち合いを始めてからすでに何度か黒のセイバーによって斬りつけられた。だが、それはすべて自己治癒力にて完治している。

 

 

二騎の心中にあるのは共に久しく感じた事の無い高揚。自分を倒せる可能性を秘めている英雄と戦えているという事実が彼らに互いに感嘆の念を抱かせている。

 

 

そして黒のセイバーは大剣を構え直し、赤のランサーが槍を両手で握り、再び戦いに耽溺しようとしたーーーその瞬間、二騎は同時に上を見上げた。

 

 

「何をしているセイバー!!」

「ーーー静かに!!」

 

 

黒のセイバーの愚行、戦いの最中に手を止めて相手が隙を晒しているというのに動こうとしないのにゴルドは怒鳴りつける。だが、それは二騎と同じように何かを感じ取り、武器である旗を召喚したルーラーによって遮られる。

 

 

何かぎ近づいてくる。ルーラーはそれを感知することは出来たが正体までは分からなかった。だが黒のセイバーと赤のランサーはその正体に気づいていた。何故ならそれは古来より彼ら英雄が打ち倒してきた存在ーーー〝魔性〟の気配だったから。

 

 

猛スピードで近づいてきた〝それ〟は緩やかに速度を落として空からルーラーの前に降り立った。白いコートを茶髪の男性ーーーレイニィがこの場に現れた。

 

 

「ーーー凄いなぁ!!」

 

 

レイニィは警戒している黒のセイバーと赤のランサーを向いて第一声に賛辞を送った。顔には隠せないほどの喜色が浮かんでいて、まるで子供のようにはしゃいでいる。

 

 

「遠目から見せてもらったけど凄いとしか言いようが無い!!赤のランサーの槍裁きも、黒のセイバーの剣裁きもとても素晴らしかった!!あぁ!!もう!!なんて言ったら良いか分からない!!誰かアルデルセンかシェイクスピア辺り召喚してくれて無いかなぁ!?ぜひともこの気持ちの代筆を願いたい!!」

「……」

「……」

「うわー凄い警戒……いや、警戒されるのは分かるんだけどね」

 

 

二騎から警戒されていることが分かるとレイニィは目に見えて落ち込んでいた。なんとも上がり下がりが激しい男である。落ち込んだ様子でレイニィは頭を掻き、ゴルドを庇うように立っているルーラーに向き直る。

 

 

「初めまして、ルーラーのサーヴァントで間違いないか?」

「……はい、私が今回の聖杯大戦で呼び出されたルーラーのサーヴァントです。貴方は何者ですか?答えなさい」

「せっかちだねぇ、程度が知れるぞ?まぁ答えるつもりでいたから答えるけどさ……」

 

 

ゴキリゴキリと首を回すレイニィ。そして役者掛かった動作で両手を広げ、左手の甲に刻まれている令呪を見せつけながら宣言した。

 

 

「ーーー俺の名はレイニィフィール・フォン・アインツベルン。アインツベルンより派遣された白の陣営だ。我らは此度の聖杯大戦への参加を希望している」

「っ!?アインツベルンだとぉ!?」

 

 

アインツベルンの名に反応を見せたのはゴルドだった。アインツベルンといえば彼が知己であった錬金術の大元であり、そして聖杯大戦の景品となっている大聖杯の本来の持ち主であるから。

 

 

そしてレイニィが白の陣営を公言し、聖杯大戦への参加を宣言した瞬間にルーラーが大聖杯から与えられる情報の一部が更新された。

 

 

ーーー黒の陣営、サーヴァント七騎を確認

 

 

ーーー赤の陣営、サーヴァント七騎を確認

 

 

ーーー()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ーーーこれ、は!?」

 

 

突然の情報の更新、そして大聖杯が新たな陣営の参加を許可したことにルーラーは困惑した。ルーラーの召喚される要因は大きく分けて二つある。一つはその聖杯戦争が非常に特殊な形式で、結果が未知数なため、人の手の及ばぬ裁定者が聖杯から必要とされた場合、もう一つは聖杯戦争によって、世界に歪みが出る場合である。今回のルーラーが召喚された理由は間違いなく七対七という今までで類を見ない特殊な形式だからだろうと考えていた。だというのに、大聖杯は新たな陣営の参加を認めてしまった。まるでーーー未知数な結果を求めているかのように。

 

 

「如何かな?ルーラーのサーヴァント」

「……大聖杯が貴方たち白の陣営の参加を許可しました。よってルーラーの名において貴方たち白の陣営の介入を認めます」

「ーーー馬鹿な!?」

 

 

ゴルドの気持ちは理解出来る。今まで戦っていた二騎も信じられないという顔でレイニィのことを見ていた。当の本人はルーラーから参加が認められたことが嬉しいのか、安堵の溜息を吐きながら朗らかな笑みを浮かべていた。

 

 

「いやぁ良かった良かった!!認めてくれなかったら最悪ゲリラってテロる事も考えてたからなぁ!!穏便に済みそうで何より何より!!」

「待って、一つだけ聞かせてください。貴方はどういった目的でこの聖杯大戦に参加しようなどと考えたのですか?」

 

 

ルーラーはレイニィへの警戒を緩めていない。ルーラーが召喚される二つ目の可能性を警戒しているのだ。十四騎のサーヴァントが召喚されただけでも異例なのにそこにさらに七騎を追加した二十一騎の聖杯戦争。何か裏があると考えてしまうのは当然のことだろう。

 

 

その問いにレイニィは僅かに考える素振りを見せた。

 

 

「少なくともアインツベルンの家の目的としてはユグドミレニアに奪われた大聖杯の奪還とユグドミレニアに対する報復って辺りだ。個人の願いについて知りたいのなら俺たちの拠点に来れば良い。客人として来るのなら茶と茶菓子くらいは出してやるよ」

「……分かりました、後日向かわせてもらいます」

「んじゃ、俺帰るから!!後は殺し合うなり帰るなり好きにしてどうぞ!!」

 

 

目的を済ませた以上ここにいる理由は無い。そう思ったレイニィは未だに警戒を緩めないサーヴァントたちとゴルドを素通りしてこの場から立ち去ろうとするーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーッ!!」

「ーーーあ?」

 

 

ーーーそして、目の前に現れた鉛色の巨人の一撃によって叩き潰された。

 

 

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