その出来事は一瞬の出来事だった。大英雄であるはずの黒のセイバーと赤のランサー、そして【気配遮断】のスキルを使用しているアサシンですら見抜けるはずのルーラーまでもが、それがここに接近している事に気がつかなかった。まるで無から生まれたかの様に現れた鉛色の巨人はこの場にいる全員にあるクラスを思い出させた。
そのクラスは、バーサーカー。クラススキルの【狂化】によってステータスを強化する代わりに理性を失っている狂戦士のクラス。
「■■■■■■■■■■ーーーッ!!」
突然現れたバーサーカーはこの場を去ろうとしているレイニィを一撃で叩き伏せ、崩れ落ちたレイニィに巨大な石斧を振り下ろした。腕力のみで振るわれた力任せの一撃は大地を割り、地面を隆起させて局地的な地震を発生させる。咄嗟に黒のセイバーはゴルドの元に向かい、隆起した地面に巻き込まれる前に救い出す。
サーヴァントであるルーラーもバーサーカーの出現には驚愕したものの、冷静に退避してゴルドと黒のセイバーの元に向かった。赤のランサーは姿が見えなくなっている。このどさくさに紛れて撤退したのだろう。
「なんでここにバーサーカーがいるのだ!?」
困惑の叫びをあげたのは黒のセイバーに抱えられているゴルド。あのバーサーカーは見間違えるはずがない、黒の陣営のバーサーカーだ。そのステータスの高さと宝具から化け物としか呼べない存在として召喚された黒のバーサーカーだが、ダーニックと黒のランサーの意向により彼らの許しが無ければ現界させることが出来ない筈だった。
という事はダーニックと黒のランサーが黒のバーサーカーが動くことを指示した?いや、それは無い。レイニィが現れ、ルーラーから聖杯大戦への参加ぎ認められた時にダーニックからは静観しているように指示をされていた。バーサーカーを送るなど一言も言っていない。だとするなら残されている可能性は一つ。
それはーーー黒のバーサーカーのマスターの独断による出陣。それならまだ分かる。黒のバーサーカーのマスターはユグドミレニアに入って日の浅い魔術師の若造だった。ゴルドの印象としては若いにしては大人びているというものだったがそれでも若いのだ、何かしらの理由で激昂してもおかしくない。そしてこの場に突然現れたのは令呪を使った転移だと予想できる。
レイニィと黒のバーサーカーのマスターの関係がどういう物なのかは分からないが、この光景を見ているだけでも相当拗れたものだという事は分かる。
黒のバーサーカーは何度も石斧をレイニィに目掛けて振り下ろす。それは一人の人間を殺すにしては過剰すぎる行為だった。最初の一撃でも確実に死んでいるだろうにあそこまでやられては死体が残っているかも分からない。
「ーーーあァ、痛イなあ、コノ野郎」
「ーーーば、かな……」
だが、石斧が止まり、声が聞こえたことでその考えは覆されることになる。黒のバーサーカーが石斧を止めた?いや、
「おいおい、年甲斐も無く泣いちまいそうになったぞ、どうしてくれる?」
「■■■■■■■■■■■ーーーッ!!」
押し負けていると判断した黒のバーサーカーは石斧を押すのでは無く全力で引いた。それによりレイニィは釣られるように空中へと放り投げられる。そして黒のバーサーカーは宙に舞っているレイニィの胴体を一閃、レイニィの身体は上半身と下半身に分かれーーー傷口から触手の様な物が伸びて、千切れた互いを引き寄せて結合した。
「仕返しだ」
そしてレイニィの反撃、白いコートの下を見せつける様に広げーーーそこから黒のバーサーカーよりもふた回り巨大な猪を召喚する。間違っても猪があのコートの下に隠れられるわけが無い。召喚魔術かと思うのだがあれだけの存在を呼び寄せる魔術だというのに魔力を感じられない。
そして呼び出された猪は黒のバーサーカーとぶつかる。肉がぶつかり合う様な音では無く、もっと硬い物がぶつかり合う様な音を立てながら両者は激突した。そして猪が黒のバーサーカーを十数m押してそこで止まる。黒のバーサーカーが自分よりも巨大な猪の突進をその身一つで止めているのだ。
「■■、■■■■■■■■■■ーーーッ!!」
黒のバーサーカーの筋肉が隆起し、猪を力任せに投げ捨てる。そして転がった隙を逃さずに石斧で猪の頭を切り落とした。その一撃で死んだ筈の猪はその場に死体を残すこと無く泥状の液体になり、レイニィの身体に取り込まれる。
「ッチ、流石にただの猪じゃダメか。INOSHISHIを連れて来ないと……」
「■■■■■■■■■■■■ーーーッ!!」
邪魔者はいなくなったと黒のバーサーカーが再び動き出す。咆吼をあげ、地響きと共にレイニィに迫る。だが、レイニィはそれを正面で見据えながら不敵な笑いを浮かべるだけ。回避する素振りを一切見せようとしない。
何故なら、必要無いから。ルーラーは気づいているだろうがレイニィはマスターなのだ。なら、サーヴァントを連れていないわけが無い。
「ーーー邪魔だぞ、この脳筋サーヴァントが」
レイニィに目掛けて振り下ろされた石斧を握っていた黒のバーサーカーの腕と首が
魔力を放出して威力を底上げした一閃にて黒のバーサーカーの腕を切り落とし、そして返す刀で首を切り落とした。言葉にするのは簡単だがそれを容易く実行出来るかは別である。
サーヴァントの急所は頭と胸部にある霊核、首を落とされた黒のバーサーカーはそれに従い消滅するーーーだが、アルトリアは首を切り落とした黒のバーサーカーの胴体を魔力を放出しながら蹴り飛ばした。彼女のスキル【直感】が警告を出していたからだ。
蹴り飛ばされた黒のバーサーカーの胴体は人形の様に吹き飛び、地面を跳ねーーーそして、残っていた腕で地面を掴んで停止した。
「■■■ーーー」
切り落とされた腕と首から蒸気が上がり、新たな頭部と腕が現れる。これが【直感】が出していた警告の正体、黒のバーサーカーはまだ生きていたのだ。
「しぶといな」
「条件付きの蘇生か?見たところ宝具みたいだな……ま、最悪全身消し飛ばしたら死ぬだろうよ」
「ふむ……ならレイニィ、解放するぞ」
アルトリアが剣を構え、場に緊張が高まる。アルトリアが言った解放とは宝具の解放に他ならない。宝具とはその英霊のシンボルにして戦況をひっくり返せる程の威力を持った
それなのに、それを理解していながら、アルトリアは宝具の開放の許可を求めた。それは開放する事のデメリットを知っていながら、黒のバーサーカーを倒す事の方が優先しなければいけないと判断したからなのだろう。
開放の許可を求める声にレイニィは呆れた顔になる。
「何を言ってるんだか……良いに決まってるだろうが、やっちまえよセイバー。慈悲無く加減無く、あの英霊をご自慢の剣で薙ぎ払えよ」
「ーーーその言葉を待っていた!!!!」
アルトリアの剣が灼熱する。剣から立ち昇るのは漆黒の光。こうであれと人々から願われた神造兵器でありながら、属性が反転した事によって堕ちた聖剣の輝き。
その魔力を見て黒のセイバーとルーラーはこの場にいては巻き込まれると判断したのか、反転して駆け出した。対する黒のバーサーカーは頭部と腕の再生を終えて、理性の無い目でアルトリアをーーーその奥にいるレイニィを睨んでいた。
だが理性無いバーサーカーでもアルトリアの宝具の危険性を本能で察知したのか、範囲から逃げようと四肢に力を込める。
「ーーー逃がすかよ」
「■■■ッ!?■■■■■■■■ーーーッ!!」
だがそれは叶わなかった。四肢に力を込めた瞬間、地面から伸びた泥状の液体が黒のバーサーカーを拘束する。黒のバーサーカーに取ってはそんなものは拘束になりえないのだが一瞬の足止めになり、その隙に上から同質の液体が降り注いだ。
これはかつてネロ・カオスがレイニィに使った対真祖用の拘束魔術【創世の土】。666の因子からなるこの拘束を破壊する事はネロ・カオス曰く大陸一つを破壊する様なものであり、いかなる大英雄とは言えどその拘束から逃れる事は出来なかった。
そして【創世の土】に拘束されて動けない黒のバーサーカーにアルトリアの聖剣の一撃が放たれる。
「ーーー
漆黒の閃光が黒のバーサーカーを飲み込んだ。
聖剣の一撃の影響で上がった砂埃によって視界が著しく悪くなるがレイニィとアルトリアは警戒を解いていない。首を飛ばしてなお蘇生するという不死性を持つ黒のバーサーカーの事だ、例え今の一撃を受けながら生きていても不思議では無い。
そうして砂埃が晴れた時、黒のバーサーカーが居た場所にあったのはーーー複数の盾で出来たドームだった。盾が消えて現れるのは【創世の土】に拘束されながらも無傷な黒のバーサーカー。防がれたとレイニィとアルトリアは確信する。黒のバーサーカーの宝具か、それとも第三者の介入かと周囲に意識を巡らせれば上空に新たな気配が感じられた。
そこにあったのはーーー空を航海する黄金の船。神威を感じさせるその船の舳先に立っているのは金髪赤眼が特徴的な黄金の少年だった。纏っている衣服は現代的な物だが、その放たれる風格はアルトリアと同じく王である事を知らしめている。
「ーーー初めまして白のマスターとそのサーヴァントさん。僕は黒のアーチャーです」
「……これはこれは、御丁寧にどうも」
和かに微笑みながら黒のアーチャーの紹介を受けたレイニィは冷や汗を流しながらその事に関しての礼を言う。あの少年は黒のアーチャーと名乗っていた、つまり遠距離の宝具を持っているという事。それなのに黒のアーチャーが乗っている黄金の船、そして黒のバーサーカーを守ったであろうあの盾、その両方が間違いなく宝具なのだ。
空を航海する黄金の船とアルトリアの聖剣の一撃を防ぐ盾を持ったアーチャーのクラスに該当する英雄など、レイニィには心当たりが無い。
「俺たちを狙って来たのか?」
「違いますよ、そこの狂犬を回収しに来たんです。此方のマスターが暴走しちゃって……」
そう言って黒のアーチャーは手を掲げる。そうして黒のアーチャーの背後に現れたのは黄金の渦、それからは剣や槍と言った武器が穂先を覗かしている。
「躾の時間です」
見たものを魅了する様な笑みを浮かべながら、黒のアーチャーは無慈悲な裁定を下した。手首を動かしただけで、渦から穂先を覗かせていた武器が高速で黒のバーサーカーに降り注ぐ。それを見てレイニィは咄嗟に【創世の土】の拘束を解いた。
その一瞬遅れで、黒のバーサーカーに武器が突き刺さる。手足を中心に、殺すつもりではなく黒のバーサーカーの動きを制限する為だとすぐにわかった。
そして動けなくなった黒のバーサーカーを黄金の渦から鎖を伸ばして雁字搦めに拘束し、釣り上げる。
「それでは、僕はこれで失礼しますね」
そう言い残して、黒のアーチャーは黒のバーサーカーを連れてトゥリファスの方向に向かって去っていった。
「ーーーアハハハッ!!アハハハッ!!アーハハハッ!!」
黒のアーチャーが去った後、レイニィは狂った様に笑った。気でも触れたかと思うのだがレイニィの顔を見ればそれは違うと分かる。今のレイニィの顔に浮かぶのは絶望では無くーーー喜色、喜びだった。
「ーーー嬉しいか、レイニィ?」
「あぁ嬉しい、嬉しいよ!!黒のセイバーと赤のランサーだけでも素晴らしかったのにその上に黒のバーサーカーとアーチャー!!どこの英雄かは分からんが、どいつもこいつも全くもって素晴らしい!!」
黒のセイバーと赤のランサーの激闘を見ただけでも個人的には満足だというのに黒のバーサーカーの凶暴性を、そして黒のアーチャーの理不尽さを見る事ができた。今まで参加した亜種の聖杯戦争で呼び出されたサーヴァントとは比べ物にならない程の高みにいる英雄だと一目で分かる。
そんな者たちと戦えるなど、レイニィからしてみればご褒美に等しい。
アハト翁の願いを叶えたいという気持ちはある。だがそれに負けもせず劣りもしないほどに、彼らと戦ってみたいという欲求もあるのだ。
「あぁ……最高の気分だよ、ホント……うっし、帰ってこの良い気分のままに酒でも飲もう!!きっとすっごく美味く感じるだろうな!!」
「そうだレイニィ。宝具使ったから魔力が心配でな、帰ったら魔力供給を頼む。無論ヤるぞ」
「良い気分を台無しにしてくれるなよ駄王様よぉ……!!」
聖杯大戦への参加を認められ、そして強敵の出現に心を躍らせながらレイニィはアルトリアと共に拠点に戻る事にした。
黒の陣営にテコ入れ、鉛色の巨人と黄金の少年を追加しました。二人の真名、分かるかな!?(白目)
そして黒のバーサーカーのマスターはレイニィに何やら因縁がある様でしたが……