「ーーー切嗣」
「おかえり、どうやら上手く行ったみたいだね」
夜明け前に拠点にへと帰ってきたレイニィを出迎えたのは切嗣。片手にはメディアが用意したらしき水晶が握られていて、あれでレイニィたちの様子を見ていたのだろう。
「確かユグドミレニアの情報持ってたよな?見せてくれ」
「それはユグドミレニアの傘下の魔術師たちの家系の情報って事でいいんだね?」
「あぁ、あの黒のバーサーカーは
「分かった、用意する。あと、バーサーカーに関して一つ朗報がある。キャスターが生前に黒のバーサーカーを知っていたらしく真名が分かった」
「キャスターが……ちょっと待って、メディアが知ってる不死身でバーサーカーのクラスに適性がある奴とか嫌な予感しかしない」
メディアが生きていたのは古代ギリシャ、今では存在しなくなった神が現存していた神代の時代。そんな時代で不死身であり、バーサーカーのクラスに適性がある英雄で思い付いたのはたった一人だけだった。
「多分レイニィが考えている通りだ……黒のバーサーカーの真名はヘラクレス、十二の試練を乗り越え、その功績から人から神になった武人だ。間違いなく大英雄に相応しい存在だよ」
「やっぱりかよ……!!良く俺生きてたな」
「単純な腕力だけなら君は殺しきれないからね……ま、ヒュドラを殺した弓があったら話は変わるけど」
「あ、多分それは無いな。もしヒュドラ殺しの弓を持つにしてもアーチャーのクラスで呼び出された場合だと思う。まぁバーサーカーで召喚されても高スペックで不死身っていう訳のわからない状態になるんだけど」
ヒュドラを殺したヘラクレスの弓があった場合だったらレイニィは死んでもおかしくなかった。ヒュドラを殺したという実績から幻想種を殺す事に特化した宝具に昇華されるだろうと予想がつくからだ。もっとも、その弓を宝具として持つにしてもクラスはアーチャーで呼び出されるのは予想出来る。
思わぬところから真名が判明したのだがそれでも黒のバーサーカーが脅威である事には変わりは無い。むしろ真名が分からない方が救いになった様な気がする。
ヘラクレスと黒のアーチャーに関してどう立ち回るかを考えながら自分を寝床に引きずり込もうとしているアルトリアをやり過ごしていると、切嗣が紙の束を片手に戻ってきた。受け取って中身を確認すればそこにはユグドミレニアの一族に加入している魔術師の家名が記されていた。
ユグドミレニアは一族として知られているものの、その実態は魔術師たちの集まり、いわゆるコミューンである。廃退を恐れた魔術師が、個人では希望が無いと考えた魔術師が党首であるダーニック・プレストーン・ユグドミレニアに膝をついて集まったのがユグドミレニアだ。
「ーーーあぁ、クソッ、やっぱりかよ」
ユグドミレニアの一族の中に、自分に恨みを持っているという条件に当てはまる魔術師の家名を見つけて思わず悪態を吐く。実はレイニィは一番に思い付いたのはその魔術師だった。
「……予想はついたかい?」
「……予想ってか間違いなくここだな。この家ならバーサーカーを嗾けようとしたのも頷ける」
切嗣は横からレイニィの視線の先にある魔術師の家名を確認して、納得した。確かにこの家なら一族単位でレイニィの事を恨んでいてもおかしく無いだろう。
レイニィが見つけた魔術師の家名はーーーミクラシェ。それはレイニィ……レインヴェル・ミクラシェの実家の名だった。
「ーーー何か申し開きはあるか?グランディア・ミクラシェよ」
黒のバーサーカーが暴走した後のミレニア城塞、その王の間にて裁判が行われていた。裁判官は玉座に座るのは闇に溶け込みそうな程に黒い貴族服に身を包んだ男。顔は死人の様に青白く、絹の様な白い髪は無造作に伸ばされている。その正体は黒の陣営が一番最初に召喚したサーヴァント。狩猟に特化した魔術協会の魔術師らを虐殺したそのサーヴァントに与えられたクラスはランサーだった。
その真名はヴラド三世。ルーマニアはトランシルヴァニアにおいて最大の英雄、トルコ兵から畏怖を集めた
ヴラド三世の視線の先にいるのは鎖で全身を拘束されて床に転がされた、まだ18歳の青年。自分を抑える為か左右に立たされている戦闘用のホムンクルスの事など全く気にかけずに罪人である自分を見下ろしているヴラド三世の事を三白眼で睨み返している。
「……何もねぇよ。俺は俺の意思であの男の事を殺そうとしてバーサーカーを向かわせた……ま、結局殺せずに逆にバーサーカーが一度殺されたけどな」
クラウディアの物言いに王の間に緊張が走る。黒の陣営を率いている魔術師がダーニックだとするなら、黒の陣営を率いているサーヴァントはヴラド三世なのだ。ヴラド三世は王であり、黒の陣営の魔術師とサーヴァントの事をすべて自分の臣下として見ている。
そのヴラド三世にあの様な物言いをすればどうなるか?知れた事、〝串刺しにされる〟のだ。ダーニックを狩ろうと魔術協会から派遣された魔術師たちと同じ様に。
許しを乞うと考えていたのかクラウディアの言葉にヴラド三世は眉を顰め、立ち上がり、クラウディアの元まで歩いた。近づいても転がされているので見下しているヴラド三世の事を睨んでいるクラウディア。そしてヴラド三世は武器である槍を召喚してーーークラウディアを拘束している鎖を断ち切った。
「ーーー良かろう、余はお前を許そうクラウディア・ミクラシェよ。余は寛大である、お前が叛逆を意図して余の命に背いたので無ければ、余はお前を許す」
「……寛大な処置、感謝いたします
拘束から解放されたクラウディアは片膝をついて臣下の礼を取りながらヴラド三世に感謝の意を示した。その姿を見て、ヴラド三世はだがと言い加える。
「余は寛大であるがそれは二度までだ。一度目は許そう、二度目は忠告しよう、三度目はーーー死をもって償ってもらう。皆も覚えておくが良い」
『はっ!!』
ヴラド三世の言葉にマスターである魔術師たちとサーヴァントたち全員が返事をした。
そして黒のランサーは玉座に腰を下ろし、側に立っていたダーニックに声をかける。
「ダーニック、お前に言うのは違うと知っているが……此度の聖杯戦争、いや聖杯大戦とでもいうべきか。それは我ら黒の陣営と赤の陣営に分けて行われ、赤を皆殺しにして聖杯戦争を在るべき形に戻すのでは無いのかね?」
「……正直に言って予想外でした。この聖杯戦争に使用されている大聖杯は出自を辿ればアインツベルンの物。これを入手した時からアインツベルンの報復を警戒していましたが全く無く、諦めたのでは無いかと思っていましたが……まさか今になって、それもあの様な形で出張ってくるとは」
黒の陣営の現状ではクラウディアの行いは些事でしかない。早急に解決しなくてはいけないのは白の陣営だ。元々召喚されるべき七騎は黒の陣営、それが大聖杯の予備システムによってさらに七騎増えて十四騎。それだけでも規格外の聖杯戦争だというのにそこからさらに七騎増えるなどと誰が予想出来るだろうか。
だがそれをアインツベルンが行ったと聞かされれば、驚きはするもののまだ納得はいく。何故ならこの聖杯大戦の根幹を担う大聖杯はアインツベルンが鋳造した物、大聖杯を作り出したかの家ならシステムに干渉する事は簡単では無いができない事では無いだろう。
「大賢人、黒のキャスターケイローン。君はあの白の陣営をどう見るかね?」
ヴラド三世が声をかけたのは草色のマントに身を包んだ青年。穏やかで優しげだが決して軟弱というわけでは無い、彼から放たれる気配はヴラド三世のそれに引けを取らない。
黒のキャスター、真名ケイローン。その正体は星座にもなった程に有名なケンタウロス族。本来なら半人半馬の姿だが真名を隠匿する為に人間の姿になっている。そのせいで、そして本来のクラスであるアーチャーでは無くキャスターとして召喚されている為にステータスが低下しているのだがそれでも強力なサーヴァントには違い無い。そして数々の英雄を育てた知恵と頭脳は健在であり、この黒の陣営では指揮官や参謀の立ち位置にいる。ヴラド三世も彼のことを相談役としていたく気に入っている。
「……正直に言って、白の陣営は強敵です。マスターであるクラウディアが怒りに飲み込まれて冷静な指示が出来ていなかったという前提を引いても白のセイバーはヘラクレスを宝具を使わずに一度殺しました。恐らく我らの中であのセイバーの相手を出来るのは王かヘラクレス、それとアーチャーでしょう。そしてヘラクレスに向かって放ったあの宝具、低く見積もっても対軍……全力で放っていないのなら対城宝具の可能性もあります」
ケイローンの慧眼によって推測された白のセイバーの宝具のクラスに王の間で一瞬ざわめきが起こる。だがそれをヴラド三世は目で鎮め、ケイローンに続きを促した。
「そして何よりも恐ろしいのは彼等が明確に我ら黒の陣営を敵だと見ている事です。我らと赤の陣営は元より敵対しています。最悪、彼等は赤の陣営と同盟を結ぶ可能性がーーー」
「ーーーいや、それはあり得ない」
ケイローンの言葉を否定したのはクラウディア。ケイローンの言葉を否定した彼に王の間にいる者から視線が集まるが本人はそれを気にした素振りを見せない。
「ほぅ?どうしてそう考えるのかね?」
「白の陣営の目的はあの男が言った通りに大聖杯なら、大聖杯を回収しようとしている魔術協会も敵だからだ。いずれ敵になる相手と手を組むだなんてあいつが考えるはずが無い」
「クラウディア、貴方は白の陣営のマスター……レイニィフィールのことを知っている様でしたが知人か何かですか?」
ケイローンの言葉はもっともだ。クラウディアは宣戦布告をした男の事をまるで知っている様に話している。何か繋がりが有るのではと考えても不自然では無い。
その事を聞かれてクラウディアは眉間に皺を寄せて、観念した様に告げた。
「あの男の本名はレインヴェル・ミクラシェ……俺の血の繋がった兄だからだ」
その一言で王の間に沈黙が訪れ、そして数秒後にざわめきが訪れた。
「ーーーおいクラウド、心配かけさせないでくれよ。心臓に悪いから」
「……カウレスか。悪かったな」
白の陣営の対策は結論が出ないまま、黒のアーチャーが帰還次第に改めて話し合うという事で一時解散する事になった。そしてミレニア城の城壁で夜風に当たっていたクラウディアはクラウドと自分の事を親しげに呼ぶ同年代の青年カウレス・フォフヴェッジ・ユグドミレニアに顰めっ面だが謝りを入れた。
裁判の様子を見ていたカウレスはクラウディアが殺されるのでは無いかと殺される事は無いと理解していながら気が気でなかった。クラウディアは半端者の自分とは違い魔術師として優秀な部類だ。家の方針から若干魔術使いの方面に向かっている様に見えるのだが、それでもユグドミレニアの中ではダーニック並みの才を持ち、そして今でも成長を続けている。
「……まぁお前の心境を考えたら暴走するのも分かるけどな」
「……」
「兄弟、なんだろ?殺したい程に憎いのかよ?」
「あぁ、憎いね」
カウレスの言葉にクラウディアは即答した。その顔に浮かべられているのは憎悪一色。兄弟なのにここまで憎む事があっていいのかと考えてしまう。
「ーーークラウド!!」
そしてここで三人目が現れる。自身が召喚したケイローンに連れられながら現れたのはフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。名前から察する事ができると思うがカウレスの姉である。
魔術刻印の移植によって足が不自由な為にケイローンの手を借りながら城壁まで登った彼女はクラウディアの姿を見つけると近くに寄りーーー倒れる様にクラウディアに抱きついた。
「心配、かけないでください。心臓が止まるかと思いました……」
「……姉弟だな、第一声が同じとか」
嗚咽まじりに話すフィオレにクラウディアは寄っていた眉間の皺を解いてどこか可笑しそうにそう言った。その光景を見てカウレスはやれやれと首を振りながら城壁から降りる。その隣にはケイローンの姿もあった。
「良いのかキャスター、姉ちゃんの側にいなくても良いのか?」
「えぇ、もう夜明けも近いですしクラウディアがいるなら大丈夫でしょう。それに、若者の逢瀬を邪魔するつもりはありませんから」
「見てて胸焼けしてくるんだよな……」
クラウディアとフィオレは婚約をしていて、そして互いに愛し合っている。魔術師の家系では如何に優れた子孫を残すかが重視されて政略結婚に近い結婚を強制させる。クラウディアとフィオレも本来ならそうなるはずだったが、ミクラシェの家が二人について調べたところ、二人の子供は優秀だと予測して二人の婚約を認めたのだ。
それに関してはクラウディアとフィオレ、そしてカウレスも喜んだ。二人は愛している相手と添い遂げる事が出来るから、カウレスは愛し合う者同士で添い遂げた方が良いという魔術師的な目線ではなく人間的な目線で見ていたから。
ただ文句があるとすれば、自分の前でいちゃつくのは止めて欲しい。二人のやり取りを見ていると口の中が甘ったるくて仕方が無いのだ。
カウレスは溜息を吐きながら自分に与えられた部屋に常備してあるブラックコーヒーを求めて部屋に向かった。
黒の陣営にオリキャラ追加、クラウディア・ミクラシェ・ユグドミレニア、レイニィの実弟です。
あとケイローン先生はキャスターになりました。
その結果ゴーレム師弟、そしてフランちゃんは解雇です。やったね、ロシェ君!!ゴーレムの核にならなくて済んだよ!!