血を受け継ぐ者たち   作:Menschsein

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Prologue

 アインズは、ナザリックの第九階層の円卓(ラウンドテーブル)に報告書を広げていた。それは、報告書の数が膨大になってきたからであった。片手に持ちながら読める量ではなくなってきたのだ。それだけ、アインズ・ウール・ゴウンの名を世界に広めているという物的な証拠ではあるのだが、それを読むのは大変である。また、中にはアインズの判断を仰ぐ書類も存在し、アインズはその書類の処理に追われていた。

 書類を広げるための大きなテーブルであれば、別にわざわざ円卓(ラウンドテーブル)で作業をしなくても良いのだが、アインズの執務室、八畳一間のアインズ以外立ち入り禁止の空間をナザリックに作ろうとしたら、デミウルゴスが、無数の骨で出来た玉座を献上すると再び言い出したのだ。そしてその実物を見たら、蜥蜴人(リザードマン)の時に見たよりも更にグレードがアップされていた。具体的に言うなら、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを立て掛けておく杖掛けが追加されていた。何の背骨か分からない長い背骨を支柱として、スタッフが倒れないように覆う部分は、人間種の肋骨の骨を利用しているとしか思えなかった。王座と同様、純白の骨で作られており、王座と杖掛けをセットで眺めた場合、統一感はあるのだが、さすがにそれを利用する気にはなれない。

 代案としてアインズが仕方なく提示したのが、円卓(ラウンドテーブル)を使うということだ。そこは、至高の四十一人が座った場所。その場を制作したのも至高の四十一人であるから、デミウルゴスとて反論することはできなかったらしく、その場はなんとか治めることができた。

 

 アインズは山小人(ドワーフ)王国関連の報告書を読みながら感心をする。流石はデミウルゴスが認め、そして助命を懇願した人物だ。優秀だ、と。

 ブルムラシュー候は、山小人(ドワーフ)を安価な労働力と見なしていたが、それはアインズからすれば勿体ない話だった。ラナーは、山小人(ドワーフ)の能力を活かした国作りを立案してきた。そしてラナーから届けられる決裁文書には、『既にデミウルゴス様にはご賛同いただいております』という文言が付せられている。

 アインズ自身が、ラナーの立案する山小人(ドワーフ)王国の統治政策は何の意味や意図があるのだろう? と首を傾げることも、デミウルゴスが賛同していればとりあえず安心できるというものだ。

 

 山小人(ドワーフ)は山の種族であり、金属に関しては優れた能力を持つ種族であるということは報告で聞いていた。ユグドラシルにおいても、金属系の生産職を目指すなら山小人(ドワーフ)という種族選択は人気、かつ定番であった。

 

 もっとも、タブラさんに言わせれば、

山小人(ドワーフ)という種族が、背が低く、髭を生やしており、武器は主に斧や戦鎚(ウォーピック)を使うイメージ、また、乗馬が不得意で金槌であるということは、トールキン以降の世界において共有されているイメージに過ぎないよ。

 たとえば、アルプスの山深い所に住んでいる少数民族であるレートロマン人に伝えられてきたギアン・ピッチェンという山の小人の民話では、髭を生やしているという描写はない代わりに、とんがり帽子を被っているとされる。ユグドラシルの山小人(ドワーフ)とは似て非なる者であるという印象を受けるのだけれど、注意深くその物語を観察すると、その物語の大事な小道具として使われるのが、金の玉飾りの付いたピンなどの金属製であったりするんですよ。そこに、ギアン・ピッチェンと山小人(ドワーフ)の共通項を私は見出しますね。また、ギアン・ピッチェンが最後は川で溺れるなども山小人(ドワーフ)を連想させますよね。

 それ以外の共通点としても、ドイツにおける民話では小人は老人という設定でしばしば登場しますし、ポーランドにおいては鍛冶屋は老人という設定で登場するんですよ。また、民話の主人公が山で出会う人物は、大体において髭を生やした人物か、巨人であるかというこの二つのパターンに類別できます。こういった神話や民話の節々に、私達が現在もっている山小人(ドワーフ)という種族イメージに対する土台があるんです。つまり、このユグドラシルに於いても、神話などをベースにして作られている種族やアイテムは、その神話などで伝えられているイメージや効果と共通したものである可能性は高いと思うんです。ですから、まだ名前しか分かっていないワールドアイテムの能力や取得条件もそこから逆算できる可能性があるってことですよ。たとえば、いま集団(クラン)で集めようとしているワールドアイテムの候補の一つに、支えし神(アトラス)が有るじゃないですか? それって、ギリシャ神話に出てくる巨人なんですが、アトラスって別名をモモンガさんはご存じですか?」

 

「え? ちょっと思い付かないですね……」

 

「アトラスって、地図(マップ)の別名です。これは運営からのヒントだと思うんですよね。ヒントでなかったとしても、運営がその名前を命名したのにはおそらくそれなりの理由があるでしょうし、地図(マップ)に関連した何かっていう線もありえると思うんです。たとえば、使用効果は、地図を永久的に変えることができる…… つまり大規模な大陸規模での地形変形を運営に要請する事が出来るとか、もしくは取得条件が、ユグドラシルの九つの世界の全エリアに全て足を踏み入れたら入手できるとか、そういった可能性があるのではないかと考えることができます。もちろん、私の仮説ですが」

 

「さすがはタブラさんです。それに、ヒュギエイアの杯の入手条件はドンピシャだったじゃないですが! 支えし神(アトラス)も、タブラさんの予想通りであるなら、クラン(ナインズ・オウン・ゴール)でいろいろなエリアに足を踏み入れているので…… もしかしたら足を踏み入れるだけだったらあと、六十エリアくらいで全エリアをコンプリートはできるかも知れないですよ」

 

「いやいや恐縮です……。ヒュギエイアの杯は、結構当てずっぽうだったんですけどね。無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)に薬草だけを入れて重量一杯にするって……。九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)全員で、薬草を集めてもらった挙げ句、何も起こらなかったでは皆さんの貴重な時間を奪ってしまって申し訳ないですし」

 

「いえいえ。薬草だけで無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)を一杯にするって偶然ではほぼあり得ない状況でしょうし、流石としか言えないです。他のギルドやクランに先を越されなくて良かったですよ。まぁ、思い付いても、それを実際に試してみるのって、うちくらいなものでしょうけど……」

 

「ありがとうございます、モモンガさん」

 

 

 アインズは、半分別のことを考えながら報告書を読み流していく。だが、一つの気になる報告に目を留めた……。

 

 なに? カッツェ平野でやたら強い魔物が出没する場所がある? その魔物は素早く獲物を弄びながら殺すほど残忍で、しかもその獲物を食べるでもなく入植地の入口近くに放置していく…… だと? その魔物の目は闇でも光り、すばしっこく、体は柔軟性に富んでいる……。生き残ったゴブリンの証言では、その魔物の首元を優しく撫でてやると、攻撃を止めて大人しくなる……。

 ハムスケのような変種か? コレクター魂が燻られるな。直々に調査するとしよう。エ・ランテルでも、第四防壁が建設し終わるまで、俺が創造(クリエイト)系の魔法を使う出番は無いだろうしな。


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