血を受け継ぐ者たち   作:Menschsein

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永遠の王国 ⑤

 アインズは多忙だった。

 冒険者モモンとしてエ・ランテルで発生している問題を都市長のパナソレイや、冒険者組合長のアインザックなどから聞き取りをするということが日課になっていた。

 それにナザリック学園の生徒として、文字を学んでいる。文字の教育を受けていない平民の子供と一緒に机を並べて勉強をしているが、子供が知識を吸収する速度と、鈴木悟の吸収力では差が生じる。文字の形を憶えるなどの暗記に関しては子供達に勝てる気がしない。予習、復習に宿題。アインズは大忙しだ。

 

 だが、ナザリックに関すること、山小人国の状況、カッツェ平野の開発状況、そしてビーストマンに与える食料などの報告を受け、そして判断や指示するという支配者としての業務が無くなったわけではない。それに、ナザリック学園も何も問題が発生していないというわけではない。

 どこのブラック企業に勤めているのかと思うほどだ。自分の体が不疲で睡眠不要でなければ過労死していたのではないかとさえ思う。

 

 さて、次の報告は、ナザリック学園の生徒の噂? ナザリック学園七不思議だと?

 

『イビルアイ先生は尻尾が生えている。仮面で隠しているが、仮面の下は悪魔である』

 

 何を馬鹿馬鹿しい。イビルアイは“国堕とし”の吸血鬼だろうに……。噂話などを相手にしてられるか、とアインズは思う。

 

 噂話などの調査など馬鹿らしい…… とアインズは思うが…… アインズの、かつての仲間達との思い出が、噂話を無視できなくさせる。

 

 ・

 

「タブラさん、最近、対アンデッド用のアイテムの値段が上がってるんですが、何か理由をご存じないですか? 噂では、セラフィムが生産ギルドと提携をして独占的に作ったアイテムを買い込んでいるんじゃないかってことなんですが……。あくまで噂で当てにはできないですが……」

 

「モモンガさん、噂も当てにできないというわけではないですよ。たとえば、神話というのは、史実を全く考慮していない荒唐無稽な作り話のように思えるかもしれないけれど、そこに厳然たる歴史的事実が横たわっていることもあるんですよ。たとえば、ホメロスの叙事詩『イーリアス』に出てくるトロイア戦争。トロイア戦争というのは想像上の話であると思われていたんだ。そして、トロイアという都市は架空の都市だと長い間思われていたんだよ。しかし、シュリーマンというドイツ人は『イーリアス』が歴史的事実であったのではなかったかと考え、実際に発掘をした。そしたら、ちゃんと都市トロイアが出てきたんだよ」とタブラが言う。

 

「あの有名な“トロイの木馬”が使われた戦争ですね」とぷにっと萌えが口を開いた。

 

「そうですね」とタブラがそれを肯定した。

 

「“トロイの木馬”を“燃え上がる三眼”に送り込むなんてのはどうでしょう? あいつら他のギルドにいつもスパイを送り込もうとしているけれど、逆に送り込まれてくるなんて思ってないんじゃないですかね? 彼らの戦法を逆手に取るというのは面白いかも知れません」と身体に巻き付いている(つた)をくるくると回転させながら言った。

 

「さすがはぷにっと萌えさん、策士ですね」とモモンガはその発想力を驚嘆する。

 

「“燃え上がる三眼”の事は置いておいて、“セラフィム”がアイテムを買い込んでいるということは気になりますね。天使系統種族が集まっている“セラフィム”が、対アンデッド用のアイテムを集めるというのはちょっと気になりますね。もしかしたら、何かの新エリアやダンジョンなどを攻略するためにそのアイテムが大量に必要って線はどうです?」

 

「なんなら俺がこっそり“セラフィム”の奴らを調査しましょうか?」と弐式炎雷が言う。

 

「お願いできますか? 対アンデッド用アイテムということで、なんだか私のPK(プレイヤー・キラー)を狙っているんじゃないかと思ってしまって」とモモンガがため息交じりに言う。

 

「モモンガさん、なんだかモテモテですね」とぶくぶく茶釜が若干不機嫌気味にそれを茶化す。

 

 ・

 

 そうだよな。神話だろうとおとぎ話だろうと噂だろうと馬鹿にしちゃいけない。実際に、おとぎ話として伝わっている内容から、ユグドラシルのプレイヤーの匂いがしたりするものなぁ。

 

『1つ目は、イビルアイ先生は尻尾が生えている。仮面で隠しているが、仮面の下は悪魔である』

 最初から調査する気を失わせる噂ではあるが、馬鹿にしちゃいけない……。一応、注意をしておこう……。“蒼の薔薇”のメンバーに悪魔がいるということではまずい事になってしまうからな。

 

 

「アインズ様、お待たせして申し訳ないでありんす」とシャルティアが二本足で部屋の中に入ってくる。シャルティアの右手にはリードが握られている。当然、そのリードの先には四本足で歩いてくるイビルアイの姿があった。

 

「……ペロロンチーノ。お前が望んでいた光景がここにあるんだろうな。つーか……ドン引きだわ」

 

 ここまで堂々とされてしまうと、注意する気もなくなってしまう。シャルティアが悪いのではなく、全部ペロロンチーノさんが悪いのだ、とアインズは無理やり納得することにした。

 

「さて、このナザリック学園で奇怪な噂が流れているのは知っているか? シャルティア」とアインズは用件を切り出した。

 

「存じあげんせん。いったいどんな噂でありんすか?」

 

「そこの…… イビルアイに尻尾が生えているという噂だ」と、“お座り”をしていると思われるイビルアイをアインズは顎の骨で指し示す。アインズに名前を呼ばれてうれしいのか、見られてうれしいのか、尻尾が左右に大きく揺れている。どういう仕組みなのかアインズにはさっぱりわからないが……。

 

「はい。ですがもちろん、この駄犬には傷ひとつ付けてたりはしていないであんす。裂傷が出来ないように尻尾も徐々に大きくしていきんして、ここまでの長さと太さになったでありんす」とシャルティアは誇らしげにいった。

 

「それなのだがな…… 少し問題なのだ……」

 

 アインズは、口ごもる。どうやって説明すれば良いのかわからない。

 

「その…… これは命令だ。ナザリック学園でイビルアイに尻尾はやめるのだ。それに、ちゃんと服を着せてあげなさい……」

 

「アインズ様がそうおっしゃられるのであれば、私はまったく異論もございません。そのようにするでありんす。イビルアイ、その尻尾を早く抜きなんし」とシャルティアはイビルアイに早速命令をした。

 

「く~~ん。く~~ん」とイビルアイは寂しげに鳴く。飼い主に捨てられて鳴く子犬のようだった。

 

「うむ。せっかくの玩具を取り上げるようで、イビルアイには悪いことをしたようだな。イビルアイよ、何かその玩具(おもちゃ)を取り上げた代わりに、何か代わりにほしいものはあるか?」

 

「ワン!」

 

「イビルアイ、人間の振りをしてよいでありんす」

 

「大御主人様、お久しぶりです」とイビルアイは言葉をしゃべり出した。

 

「うむ。それで、何か代わりに欲しいものはあるか?」とアインズはイビルアイに尋ねる。

 

「私の純潔をシャルティア様に奪って欲しいのです」

 

「……。そうか…… シャルティア、その通りにしてやれ」とアインズはため息とともにそう答えた。

 

「今すぐ、この場ででございんしか?」とシャルティアも真っ赤な舌で唇を舐めながら尋ねる。白い肌が興奮のために紅潮している。

 

「いや…… それはナザリックのお前の自室でやれ! 絶対だぞ!」とシャルティアにアインズは念を押すのであった。


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