血を受け継ぐ者たち   作:Menschsein

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エクスペクト・エンド・ツアー ③

『拝啓 アインズ・ウール・ゴウン様

 

 突然こんな手紙を出して申し訳ございません。でも、手紙という形が一番ご迷惑にならないかと思って、手紙を(したた)めることに致しました。

 単刀直入に書きます。

 私には、貴方様しかいません。そう確信しました。

 

 正直、この確信が持てるまでに私の心は揺れていました。私の仲間がお世話になったあの、吸血鬼(バンパイア)の女の子かもしれない。闇妖精(ダークエルフ)の男の子がそうであるかも知れない。闇妖精(ダークエルフ)の女の子に付き従っている執事がそうなのかも知れない。

 ある一面を揃えようとしたら、せっかく揃えた他の面が揃わなくなってしまうルビキューのように、私の心は定まりませんでした。

 しかし、今は私は確信しています。もう一度書きます。

 

 私には、貴方様しかいません。私に敗北を教えてくれそうなのは。

 

 もし、私の気持ちに応えて下さる気持ちがあるなら、エ・ランテルの南へ十キロの所へ来て下さい。来て下さらなかったら、私が貴方様の所へ行きます。ですが、ナザリック学園で戦うことになったら、困るのは貴方様ではありませんか?

 

かしこ

 

 漆黒聖典番外席次”絶死絶命”』

 

 ・

 

 アインズは、その手紙を読む。自らの学習の成果を確かめるようにマジック・アイテムを使わずに一度読み、そして今度はマジック・アイテムを使って読んだ。自らが執務室で仕事をしている時に、いつの間にか執務室の扉の隙間に差し込まれていた手紙。そして、執務室の外を守っていた八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の亡骸が廊下にはあった。

 

「舐めやがってぇぇぇぇぇ」と激昂のあまりアインズはその体から絶望のオーラを発する。一般の生徒が近づくことを許されない場所であり、その絶望のオーラに触れる生徒などはいないであろうが、そんな事を気にする余裕さえ、怒り狂ったアインズには無かった。

 こっそりと、そして八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を殺しながら手紙だけをそっと置いて去る。舐めているとしか思えない。

 手紙の内容も、舐めているとしか思えない。

 シャルティアを洗脳したのは自分たちだと言っているのも舐めているとしか思えない。

 全てに腹が立つ。アインズ・ウール・ゴウンが舐められている。

 

『ナザリック学園で戦うことになったら、困るのは貴方様ではありませんか?』

 ふざけた文言だ。人質でもとったつもりか。ペロロンチーノさんやスーラータンさんが一生懸命作ったデータ。かつての仲間達が作った者を、暗に破壊すると言っている。

 行動の一つとっても、それ一つで万死に値する。

 

 精神安定化されたのち、アインズはアルベドに向けて伝言(メッセージ)を使う。

 

「ガルガンチュアに起動を命じろ。ヴィクティムも呼び出せ。全守護者をナザリック学園に集合させろ! 大至急だ!」

 

 

 

 ”絶死絶命”は、エ・ランテルから南十キロの指定した草原に座っている。両手にはルビクキュー。

 

「早く来ないかなぁ。敗北って何だろう? 生きてるって何だろう? どちらにしろ、人間じゃない奴らは皆殺しだね。ねぇ、あなたもそう思うでしょ? ルビクキュー?」

 

 草原に一陣の風が吹く。“絶死絶命”の長い髪が風で踊る。そして、風によって露わになった耳。その白色の髪側の耳は、明らかに人間の耳の形ではなかった。

 “絶死絶命”は慌てて踊った髪を抑える。自分自身の血に、滅ぼすべき他種族の血が入っている。その確固たる証拠たる耳。自分自身というアイデンティティーの汚点。自分が好きになれない理由。

 

「早く、来ないかな。私の準備は万全なのに」と“絶死絶命”は言った。彼女の装備しているのはすべて六大神が残した遺産。神々の装備。

 

「あっ。揃った」

 “絶死絶命”の両手にあるルビクキューの六面全てが同じ色に統一されている。それぞれの面をゆっくりと”絶死絶命”は見回す。黒、白、茶、青、赤、緑。全ての面の色が綺麗に揃えられていた。

 

「幸先良いなぁ」と“絶死絶命”は満足そうに微笑み、そしてまたルビクキューを無作為に回し、また色をバラバラにするのであった。


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