あと、NOUMINでSUMANAI
では、どぞどぞ。
おい、アンタ。
そこのアンタじゃよ。
さっきから壁にもたれて、ぼうっと町を眺めているようじゃが、どうした?
景色が珍しいのか?
見慣れん顔じゃ。
服装からしても他所の国から来たというところかの。
旅でもしておるのか。
なに、人を待っている?
そうかそうか、こいつは失敬。
ワシはここらに住んでおってな。
見かけん者が同じ場所に長い間いるもんだから、なにか悪さを企んでおるのかと思ってのう。
はっはっは。
冗談じゃ、冗談じゃ。
気を悪くしてくれるな。
良い町じゃろう?
町並みもさることながら、気持ちのよい人間が多く住んでおる。
――――これも”英雄”のおかげじゃろうな。
おっと、外の人間には”英雄”の話はわからんか。
今、町はこれほどに栄え、活気に満ちあふれておるがの。
一世紀ほど前はそうではなかったそうな。
祖父から聞いた話じゃがの――――
この地には、ドラゴンがおった。
その痕跡は今も残るが、今や伝聞の中にしか存在しておらんな。
かの生物は食物連鎖の頂点に君臨していたと聞く。
地と空の覇者であったと。
無論、人間はそれでも抵抗したがな。
勇猛な戦士が立ち上がり、挑んでは敗れ挑んでは敗れた。
何せドラゴンは数が多い。
一体や二体倒すぐらいであれば倒すことは不可能ではなかったものの、ドラゴンたちには知恵があった。
集団で狩りをすることを知っていた。
非力な女や子ども、老人はただひたすらに怯え恐れ、命を奪われるのみであった。
人は、超常の怪物を前に為す術がなかった。
もはや対抗手段と呼べる対抗手段は皆無と言ってよかったじゃろう。
しかし、
―――そこへ救世主が現れたんじゃ。
彼の者は人ならざる不可思議な力を持っておったらしい。
その力を以って何千、何万というドラゴンを斬り伏せていった。
そして、
当時、各地では数多のドラゴンが現れる前兆として、
山のように大きなドラゴンが目撃されておったらしくての。
諸悪の根源とも呼ばれたその巨大な悪竜がこの町に現れたとき、
その英雄が打ち果たしたのじゃよ。
あそこが見えるか。
あの少し歪な丘のようになっているところじゃ。
かつてあそこには山があった。
そこに降り立った邪竜を撃つために放たれた英雄の攻撃が三つの大穴を山に穿った。
そのために頂上部分が消し飛んで今のような形の丘になってしまったんじゃ。
”トライデントヒル”
今はそう呼ばれて崇められておる場所じゃのう。
この町だけではない。
フランスという国全土を救った英雄じゃよ。
よければ、もうちっとこの老いぼれの話に付き合ってはくれんかの。
なに、待ち人の来る間だけでよい――――
――――――”竜殺し”と呼ばれた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
自分が何者でどこからやって来たのか、それはわからなかった。
考えようとしても靄がかかったように思考を遮ってしまう。
自己の定義が酷くあやふやだ。
ただ、ここがどういう土地で、その文化や価値観と呼ばれるようなものは理解していた。
そして、自分が英霊と呼ばれる存在であること。
正確には―――、
”それを理解しているということがわかっている”
不思議な感覚だ。
自分が何者かもわからないのに”そんなことだけ”がわかるなんて。
自分の知るはずのない情報を頭に埋め込まれているかのような。
そのせいか、不意に訪れた見慣れぬ場所も初めて来た気がしない。
このような土地に足を踏み入れたことなど、絶対にあるわけがないのに。
この場の空気に馴染まない己の身体がそれを訴えている。
なのにも関わらず、やはりこの土地についての知識のみはっきりとしている。
―――全く、面妖な。
前方に見えている山とその麓にある町をそれぞれ”山”であり”町”だと認識する。
以前、自分が見ていたはずのものとは様子が異なるからか、ほんの少しの違和感を覚えつつも
あれはそういうものだと見て取ることができる。
そして、そこから目線を少しずらしたところに雲が見えた。
黒い雲。
雲は以前の自分も見上げていたであろう。
どこの土地であろうとも雲は雲だ。
違和感なくそれと捉えることできる。
距離があるために小さく見える雲だが、あの色合いでは一雨くるかもしれない。
そんなことを思って、今後の身の振り方をどうしたものかと考えようとした矢先――――
―――黒い雲が、
―――割れた。
なんだ、あれは。
自分の知っている雲はあんな奇妙な動きをしない。
それに。
自分の知っている雲は―――、
――――あんなにも速くない。
風があったとしてもあの速度はありえない。
この土地特有の現象なのか、と思いつつ注意深く目を凝らすと。
クッ――――――――――――――――!
それと気がついた瞬間には駆け出していた。
かなり距離がある。
今から動いたところで間に合うかどうか。
あの”黒い雲”は町に向かっている。
そして、
あれは”雲”などではない。
自分の中にある知識がそう伝える。
まだ米粒ほどの大きさにも目で捉えることはかなわないが―――、
――――あれは竜だ。
竜が群れを成し飛んでいる。
それが黒い雲のように見えているのだ。
どうやら以前の自分は竜を目撃したことはないらしい。
竜というその言葉にも、ようやく視認することのできたその姿形にも、
――――違和感しかなかった。
おびただしい数の竜が町に襲来していた。
「うわぁああああああああ―――――――――――」
翼の羽ばたきにより生み出される、かまいたちのような衝撃波が家屋を吹き飛ばす。
「ぐはっ―――――――――――――――――――」
空中を高速で飛行し、鋭利な爪が撫でるようにして人の身を切り裂く。
「やめてぇぇえええええええええええええええええ」
その口から吐かれる炎が逃げ惑う人々を焼き尽くす。
人々に抵抗する術はなく、ただ一方的な虐殺。
次々に生み出される阿鼻叫喚。
それが、町の入り口に辿り着いた自分の目に映る光景から”想像される”出来事。
―――――間に合わなかったのだ。
自分は、
ここに来て―――
ここに立ち尽くして――――
なにをするつもりだったのか―――――
――――自分が何者なのかもわからないというのに、なにができるつもりだったのか。
火のついた家屋の上にいる一体の竜がこちらに気がついた。
陽の光と町を焼く炎が竜の姿を煌々と照らしている。
ガゥォォォ―――――――――――
一枚一枚が刃物にも似た鱗に包まれた異形の生物。
人の身であれば本能的に恐れずにはいられない圧倒的な体躯。
今にも殺さんとばかりに血走った鋭い眼光。
どれだけの人を殺したのか、爪と顎から鮮血が滴り落ちている。
地の底から響くような低い唸り声が止まった。
次の瞬間に、
グオオオオオオオオオオオオオオオ―――――――――――――――――――
頭蓋を叩き割るかのような咆哮が轟き、屋根から竜が飛び上がり、
滑空しながらこちらに突進してくる。
己の腰に下げたもの。
武器――――
―――そう、刀だ。
扱い方は、論ずるまでもない。
――――自分はこれを振ることしか能がないのではなかったか。
向かってくる竜は目前。
腰の鞘から抜刀する。
グッと体を沈みこませ、地を蹴り――――、
一閃。
竜の目には獲物が消えたように見えただろう。
ろくに反応することなく交錯し、
ドスンと鈍い音を立て、そのまま地にぶつかる巨体。
そして、
――――ぼとり、と。
後から降ってくる竜の首。
―――自分が何者かなどは関係ない。
この身が弱き人々の助けとなるのであれば、そうあるまでのこと。
―――間に合わなかったのか、まだ決まってはいない。
まだ救える命があるのなら、ただ救うだけのこと。
この身は英霊だ。自分にはその力があるのだ。
地を蹴り、屋根を駆け、宙を飛ぶ。
風のように疾走する。
目に付く竜の首を刎ねながら、生き残りを探す。
燃え盛る町並みの中、
蠢くのは竜の群れ。
この状況で生き残っている可能性など絶望的と言えるかもしれないが、探し続ける。
視界に映る無残な死体を意識の外に追いやることに努める。
自分は元より人の死に心を痛めるような性分ではなかったのか、そこまで動揺することはないが、
なにも思わずにいられるほどの悪鬼というわけでもないらしい。
ただ、今は必要のない情報だ。死人に向き合っている暇はない。
優先順位。
生きている人間を捜索することに集中しろ。
どこか、どこかに生き残りはいないのか。
もう完全に手遅れなのか。
どれだけの竜を斬ったか知れない。
近くに動く生き物の気配はまるで感じない。
竜も、人間も。
それでも距離を置いたところからは無数の巨体が蠢く空気を肌に感じる。
まるで数が減ったような気がしない。
時折響く咆哮が焦燥感を加速させる。
先ほどから、町を離れていく竜が目立ち始めた。
連中に目的があるのかはわからないが、この町を襲うことが目的だとして。
撤退を始めたのだとすれば、
よもや――――、ここまでか。
無力なものだ。
この身も英霊であるからには、かつては人の助けとなることもあったのだろうに。
化物退治ができたとて、人を救えないのであれば何の意味が――――
ばさり
遠くからそんな音がした。
人が倒れ込むような――――音。
すぐに見つかった。
齢は10ぐらいだろうか。
焼けた家屋から這い出すように出てきたようで、遠目にもやけどが目立つ。
早く適切な処置をしてやらねば、危うい命。
十数メートルほど離れた距離を駆け寄ろうとした瞬間に、
―――爆ぜた。
その子どもが出てきた家が爆発した。
ように見えたのは一瞬のこと。
その次の瞬間に飛び出てきたのは竜の頭。
生き残りを探していたのは自分のみではなかった。
人が倒れる音を聞きつけたのは自分のみではなかった。
対象を喰い殺そうと大きく開かれた咢が迫る。
――――ああ、これはどうにもならない。
そう直感する。
こちらの移動速度がどうこうという話ではない。
スタートラインが違い過ぎる。
距離の差が絶望的だ。
――――ようやく見つけた生き残りを目の前で殺されてしまう。
無力な自分が呪わしい。
どうしたって自分では埋められない距離の差が憎い。
だから、たとえば。
この絶対的な距離の差をひっくり返すとするならば、
それは自分ではなく―――――
―――――――――――――――大剣が空から降ってきた。
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