インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者 作:カオスサイン
ホクト先生の葬儀から一週間後、俺ははじめて先生の娘さんであるトウカちゃんと対面した。
「お前がリュウセイの義理の息子になったっていうイチカか?」
「あ、ああそうだけど…」
若干彼女の雰囲気が元の世界の幼馴染であったいじめっ娘に似ていたので俺は思わず身構えてしまった。
「何をしてるんだ?」
「あ…いやなんでもない。
その…トウカちゃんは悲しくないのか?お父さんが亡くなってしまって…」
「トウカでいい。…悲しいさ…だけど悲しさより父上を奪ったサベージへの憎悪の方が少なからずに勝ってしまっているから怖いんだ…」
そう言ってトウカは震えていた。
「敵討ちしたいというのなら俺は止めない。
だけどこれだけは忘れないでくれ。
あんな体になると知っても君の父さんは…先生はあえてか弱き人達を守る為に戦ったんだという事を…」
「そ、そうだよな!リュウセイも「兄貴自身がそう望んで俺と共に戦ってくれたんだ。後悔なんてある訳無え」と言ってたからな
私がこんな所で立ち止まっていたら父さんに笑われてしまうからな」
「その意気だよトウカ!」
「ああ!イチカ一つお願いがあるんだが」
「何だ?」
「リュウセイに「剣崎流」への私の弟子入りの許可を是非とも貰いたいんだ!」
トウカは真剣な眼差しで俺にそうお願いしてきた。
「ん~でもどうだろうなあ…義父さんは義父さんでホクト先生が亡くなってから早々にサベージ退治から引退しちゃって…俺に剣技をあまり伝授してくれなくなったしな…」
そのおかげで周囲からは臆病者と呼ばれるようになってしまった義父さん。
なんでサベージと戦おうとすらしなかった他の大人達に義父さんだけが糾弾されなきゃいけないんだ!
俺はこの理不尽を思い出し怒りで我を忘れそうになる。
この時は俺の目が金色に輝いていた事に気が付く事はなかった。
「イチカ?」
「ああすまない…最近なんか我を失いそうになる事が多くてな…トウカの弟子入りなんとか頼んでみるよ」
「本当か?!」
「ああ約束する!」
「そうかそうか!持つべきものはお前のような兄君だなイチカ!」
「は?俺がトウカの兄?ってうわ!」
突然そんな事を言われポカンとする俺だったがああそうか義父さんはトウカにとってはもう一人の父さん的存在で俺は兄みたいな存在なのか。
世間一般でいったら従兄という事になるのか。
「というかトウカ…そろそろ俺からどいてくれないか?そのな…」
「へっ?…」
トウカが嬉しさで俺に飛びついてきたようで今は馬乗りの様な状態になっている。
彼女から凄く良い匂いがして別の意味でまた我を失いそうになる。
成程義父さんが言っていた「トウカは剣技以外は全て母親似」はこういう事か。
そういえば母親のソウカさんも凄く美人だったな…と思った所で限界がきて気絶してしまった。
「ワー!?す、スマン!私とした事が…あまりこういう事に意識を向けた事がなくてな…うう…」とかトウカが言っていた気がしてちょっと心配になった。
数時間後…「はっ!?」と目を覚ますと寝かされていたベッドの傍に義父さんからの書置きがあった。
「トウカなら既に家に帰ったぜ。あ、俺はちょいと合コン行ってくるわ。修行メニューきちんとこなせよ?byリュウセイ」と何やってんだあの義父は…ホクト先生が生きていた時でも時々修行をサボって女遊びをしに行っていたらしいから頭が痛くなる。
というか臆病者呼ばわりされている理由が少しだけ分かってしまった事に後悔した俺であった。
俺が頭を抱えているとそこに義父さんから買って貰った俺のPDAに着信が入る。
義父さんからだ。
「何ですか?合コンの結果報告?」
「『違ぇよ!合コンは中止になったというか…』」
「?」
義父さんは何やら慌てた様子で言葉を続ける。
「『ついさっき凶報が入った。…いいか良く聞け…ソウカさんが亡くなっちまったんだ!』」
「え?…ソウカさんが!?…」
嘘だろ?…なんでソウカさんまでが?…思わず俺はPDAを落としそうになる。
先生の葬儀で会った時は特別なんら変わった様子は無かったというのに…
「まさか耐えられなくなって後追い自殺とか?…」
「『違う…何せサベージのウィルスを大量に浴びまくっていた兄貴と生活していたんだ。
彼女も感染して奇病を発症しちまっていたようなんだ。
トウカにはそれを隠し続けていたらしくてな…ソウカさんが倒れているのを彼女が見つけた時にはもうなにもかもが手遅れだったそうだ…』」
「そんな!?…」
サベージのウィルスによる奇病の事についての詳細は未だに分からない事が多いらしいがそれによって死者が出たというケースはソウカさんが初めての事らしい。
「『とにかく俺はトウカの奴を迎えに行ってくるからお前は先に葬儀場に向かっててくれ』」
「はい…」
その後義父さんとトウカが到着してすぐにソウカさんの葬儀が執り行われた。
葬儀が執り行われた二日後、剣崎分家の他の流派の当主や親類等が集まりトウカの事を誰が引き取るかという話し合いが行われていた。
俺も義父さんに無理を言って参加させてもらっているのだが…
「私は絶対に嫌ですよ!あんなウィルス塗れの娘を引き取るなんてのは!」
「うちには子供が居ますしねぇ…」
「大体あの二人や娘にしても…それに臆病者の弟の方も…」
二番目の発言はまだ分かる。
だけどその他は皆ホクト先生やソウカさん、トウカそして義父さんの悪口ばかりを言い合うばかりで話が平行線になって進まない。
義父さんはぐっと我慢していたようだが俺には当然耐えられる筈が無く…
「どいつもこいつも言いたい放題言いやがって何様のつもりなんだよアンタ等は!」
「ちょ!?イチカおまっ…」
ダン!と机を叩き立ち上がった俺はそう言い放った。
義父さんが「あちゃー」といった表情で一瞬俺を止めそうになったがいい加減に我慢出来なくなったのかスルーしてくれた。
「何だね君は!何故君みたいな子供が家の大事な話し合いに参加しているのかね?!」
「私が勝手ながら許可しました。こいつは私の義息子のイチカです」
「フン!臆病者の若造が本当に勝手な事をしおってからに!この剣崎ハジローが勝手な発言は許さんぞ!」
四十代くらいのおっさんが偉そうにそう言ってくるが突如…
「いやあ~スマンのう!道が混み入っておったせいで遅刻してしまうとはのう…」
「け、剣崎本家御当主剣崎コウシロウ様!?これはこれはお待ちしておりました!」
「え!?」
かなりご高齢の御爺さんが入ってきた。
そうかもう一つ空席があったのはそういう事か。
彼が入ってきた事によって場の空気が一瞬にして変わりおっさんがごまをすっている。
「君がイチカ君だね?」
「あ、はいそうです!」
「ウム、何か言いたい事があるのじゃろ?良いこの者の発言を許す!」
「ありがとうございます!」
当主様は俺を一瞥した後そう他の皆に言ってくれたのだ。
「では言わせて頂きます!
はっきりいって貴方方はただ互いの汚点の擦り付け合いをしているだけでトウカの将来性なんてまるでこれっぽちも鑑みていない!
それにあろう事か彼女の御両親や義父さんの事まで悪く言い始める始末だ!
確かに武芸者の素質が無い人にはサベージのウィルスは未知の脅威なのかもしれない。
だけどこんな事態になる迄に貴方方の中で彼等以外に自ら進んでサベージに立ち向かおうとした人は一人でも居たんですか?!
居ないのなら貴方方には危険を承知でサベージと戦い続けた彼等の事を悪く言う権利なんて何処にも無い筈だ!」
「…」
そうソウカさんもまた先生を信じてそして娘を心配させない為に一人病気と戦っていたのだから。
俺がそう発言すると義父さんと当主様は聞き入り、他の人達は皆だんまりになる。
「き、綺麗事だそんなものは!」
沈黙した集団の中でたった一人納得をしない人がいた。
先程のおっさんだ。
「確かに綺麗事なのかもしれない…だけどそれが人が信じている心の力ってもんだろ!
陰口を叩く事しか能の無いおっさんに言われる筋合いなんて無いね!」
「グッ!?…」
痛い所を突かれたおっさんは遂には黙った。
「話は良く分かった!良かろう!剣崎トウカの身元引受人はこの儂、剣崎コウシロウ率いる本家に任せて貰おう!」
「!?」
突然の当主様の提案に皆驚きを隠せない。
「なあに…これは儂ら大人達の責任でもあるからのう!
聞けば武芸者の才はイチカ君の様な年頃の子供達に芽生えるそうじゃな…そんな子達だけにサベージと戦わせるというのも酷な話じゃと思わないか皆の衆?」
「…」
当主様のこの言葉には他の者皆黙って頷くしかなかった。
「こ…こんな馬鹿な事があってたまるか…」
たった一人だけそれでも納得しない者がいて先に退出していったが…。
解散直後、俺は当主様に話をしに近付いた。
「トウカの事…本当によろしかったんですか?」
恐る恐る問いただす。
「イチカ君心配しなさんな、故に男に二言は無い!まだこの件をつっぱねる者がおるというのならこの儂に任せたまえ!はっはっは!」
「あ、ありがとうございます!ご当主様!」
「おっとそうじゃった!もう一つ確かめたい事があったんじゃった!」
「確かめたい事ですか?」
「イチカ君、君が身に着けた剣先流の技を後日儂を含む者達の前で披露してくれぬかの?」
「はい喜んでさせて頂きたいと思います!」
この後、義父さんは本格的に俺に道場の主の座を譲り渡しサベージ退治からの引退を宣言した。
俺はというとこの件に関してトウカに凄く感謝された。
でも無自覚に俺に抱き着いてくるのだけは勘弁してほしい…。
当主様との約束を果たす日、俺の技の型は分家の方達に大層驚かれた。
原作の一文にトウカを親類等はタライ回しにしようとしていたとの文があったものでその為に剣先家をスケールアップしたら長くなった。
これでパパ聞きを思い出したのは俺だけではあるまい