インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者 作:カオスサイン
Side春季
音六の両親に引き会わされてから翌日。
「おい、まさかもう手を出したりしてはいないだろうな?」
「はは、そんなまさか…」
「なら良いんだ…俺も他人の事言えないしな…」
「?」
「いやいや、コッチの話だ…」
セラフィーノ母娘に囲まれて己の理性と戦いながら眠れぬ夜を過ごした俺に仕事を終えてきたのであろうタイセイさんがそんな事を言ってきた。
何か気になる事を言っていたが聞いて欲しくなさそうだったので疑問を隅においやる。
「冗談はひとまずおいといて…坊主ちょいと入り組んだ話がしたいんだが良いか?」
「ええ何でしょう?」
タイセイさんは一際険しいマフィアボスの顔になる。
特に断る理由も無かったので話を聞く事にしたのだが…。
「なら坊主よお前は俺の後を継ぐ気は無いか?」
「は?…」
突然そんな事を言われ俺は困惑するしかない。
俺にマフィアの首領になれと?
「俺の後継者にふさわしいといえる奴が他にいなくてよ~…あンだけいつも俺にベッタリだった音六がようやく初めて他の男、坊主に興味持ったんだ。
俺としては寂しいが是非共安心して娘を任せられる奴にファミリーを継いで欲しいと考えている」
「嫌々、待って下さいよ!?」
タイセイさんはそんな事を言ってくるが俺としてはそう簡単に決められる事ではない。
他よりは真っ当な組織とはいっても結局は今の所お上の慈悲で見逃されているだけに過ぎない筈だ。
第一彼女が他の男性に興味が持てなかったのは此処の環境のせいなのでは?という突っ込みをするが彼は「音六の感性は繭音譲りだしな~」と言って其処は譲らないようだ。
「…じゃあ一つ教えて下さい。
何故彼女の左手にあんな酷い傷があるのかを」
そこで俺は最大の疑問をタイセイさんにぶつけた。
「…見ちまったのか…良いだろう話してやるよ…アイツが何故傷痕を消さないのかを含めてな」
「な!?…」
傷痕を消さない?
ああ、そうか現代の医学だったらあの程度の傷は綺麗さっぱりとはいかずとも跡が分からなくなるぐらいには治せた筈だ。
「そいつは約九年前、俺が第十四代目首領の座を認められる前のゴタゴタの中で起きちまった事だ…」
可笑しいと思った俺の疑問を解消する様にタイセイさんは話を続けていった。
「そうだったんですか…」
彼の話はこうだ。
セラフィーノファミリー首領への有力候補はタイセイさんの他に一人居たそうだ。
その人はタイセイさんとは強敵とも親友ともいえる存在であったがある事件をその人の右腕といえた人物が起こしてしまった。
~九年前 Sideタイセイ~
「ゴロちゃん、もうじき決まるな」
「ああ…正々堂々と首領の座を射止めてやるさ」
タイセイと彼の親友であるゴウシロウ・フォン・フィーノは二人してセラフィーノファミリー第十四代目首領としての有力候補に挙がっていた。
そして、首領が正式に決定される四日前の事だった。
その事件、ゴウシロウ一派であり彼の右腕であった舎弟を含む数人が候補敵であるタイセイの首を狙い襲撃するという事件が…勿論コレはゴウシロウの指示でやった事ではなく彼の認知していない所で起きてしまった予想外の事件であった。
「タイセイ、アニキの為に覚悟!」
ゴウシロウとファミリーの集会所で別れた直後にそれは起きその際タイセイはまさか寝首をかかれるとは思わなかったのだろう。
何故なら命を狙ってきた右腕の彼もまた親友と同じく信頼をよせ彼の実弟でもあった凄腕の情報屋と呼ばれた人物、ヤタ・フォン・アルイアーだったからだ。
だから油断しきっていたのかそれとも勘が鈍っていたのか定かではないが回避する間も無く己に向けられた凶刃が到達するのを見ているしか出来なかった。
だがそこに…
「おとーさんあぶないっ!」
「音六!?」
「何ッ!?」
何故か家に居る筈の愛娘が現れて自身に向けられていた凶刃を庇い逸らしてくれたのだ。
が
「あああああ!?…」
その逸らされた凶刃は音六の左手の甲に突き刺さってしまい彼女は悲痛な声を上げながら地面に倒れそうになる。
急いで倒れそうになる音六を支え起こそうとするが彼女の様子が可笑しい事に気が付く。
音六の左目は以前とある事件のせいでオッドアイとなっており何故かこの時は両目共に灯りその金色の輝きは一層強くなっていた。
「音六?…おいどうした!?」
「うああああー!…」
一目散に叫び声を上げながら音六がヤタへと向かっていき彼に馬乗りになって首を絞めようとしていた。
「音六やめろ!お前がそこまでやる必要性は無いんだ!」
「うううう…」
「あがが…」
すぐにやめさせようとするが今度は音六は呻き声を上げながらヤタから飛び退き今度は此方に向かってきてタイセイを押し倒す。
「…はっ!?おとーさん?…」
だがすぐに正気に戻ったのかいつもの音六になっていた。
「音六!お前どうしてこんな所に?…」
「お…おとーさんがとてもあぶないめにあっちゃう気がしたから…」
息を荒くしながら音六はそう言う。
愛する娘が唯一自分に似た所といえば勘が常人よりも鋭い、人間の悪意に対して者凄く敏感な所である。
恐らくはその勘が働いて危険に晒されていた自分を危険を顧みずに此処まで助けに来てくれたのであろう。
「馬ッ鹿野郎!…本当に心配させやがって…無事で本当に良かった!…」
「それはおとーさんもおあいこだよ…
ごめんねどうしてもおとーさんのやくにたちたくて…」
「はは…そうだったな…」
思えば娘だけはマフィアの仕事に関わらせまいと努力してきたがそれが裏目に出てしまったのが今回の事件という事だったと痛感した彼は改めて思い直した。
今迄自分が与えたと思っていた愛情は娘に届いてはいなかったのではなかったのだろうかと…。
「ううん…おとーさんもおかーさんもわたしはだいすきだよ!…」
襲い来る激痛に耐え涙を流しながら音六はそう言ってくれたのを最後に痛みに耐えられなくなった様で気を失ってしまった。
「音六!…もうじき他の奴等が救援に来る筈だ。
だがその前に俺の大事な娘を傷付けた手前ェを一発、嫌三発ぐらいは殴らせてくれや!…」
「ヒ、ヒイッ!?ゴホォッ!?……」
タイセイはその場から首を抑えながら逃げ出そうとするヤタを追い彼の顔を思いっ切り殴りつけた。
その直後、音六経由で警告を聞いた繭音が召集をかけたファミリーメンバーがようやく救援に到着し残りの取り巻きの男達を取り押さえていた。
件の彼等が事件を起こした切欠は組織に属する者なら誰もが持つであろう崇拝意識からくるものであった。
だが被害者であったタイセイの気が済んだ事、娘の音六の傷が完治出来る見込みがあった事を含め情報屋としての腕を買われていたヤタ等は以降ファミリーの命令に逆らう事の一切を許さないという条件付で追放を逃れる事となった。
事件解決から翌日
「本当に良いのかよ?…」
「ああ、私の知らぬ所だったとはいえ今回の事はウチのメンバーと私の弟が起こした事に変わりはない…しかも予想外だったとはいえお前の娘迄も傷付けてしまった。
だから責任を取って私は首領候補から降りる」
「そうか…」
彼にも首領を継いだ後成し遂げたい事の一つや二つあったのであろう。
それが自分の弟やその他の者達の陰謀により台無しにされてしまったというのに彼は何処か清々しいといった表情をしていた。
「これでも私はタイセイ、君の事を高く買っているのだよ。
君はその早い歳で家庭を持った。
一方の私は家庭を持たない独身者だ
守りたいものに差があるのは当然さ。
だからこそ私は君に首領の座に就いて欲しいと心から願っているぞ!」
「…悪いなゴロちゃん…今迄ありがとうな!…」
「私は隠居する事にするよ」
彼はその宣言通りイタリア政府の監視プログラムの保護下に置かれ隠居生活をする事になる。
そして正式にタイセイが第十四代目首領の座に就く事になって数週間後、遂に音六の傷に縫合された糸を抜かれた。
それでも傷痕が完全に治った訳ではないのでこれからそれを消す為の手術が行われようとしていた。
だがそれを行おうとしていた直前の事だった。
ふと音六がタイセイにあるお願いをしてきたのだ。
「おとーさん、わたしのおねがいをきいてほしいの!…」
「何だ?なんでも叶えてあげるぞ」
「うんあのね…わたしこのきずあとなおしたくないの…」
「へっ?…」
彼女の予想外のお願いにタイセイはポカンとなるしかない。
「このきずあとはおとーさんをまもれたあかしだから…」
「音六、お前って奴ぁ…」
あの事を忘れたくはない…心の底からそう思っている音六に対してタイセイは頷いてやる事しか出来ずなんとか先生を説得して手術をとりやめさせた。
だがこれからが大変である。
もしこの先傷を広げる様な事態があれば今度こそ感染症を引き起こす確率がグンと上昇してしまう。
あくまでも確率の話でしかないが。
それでなくても彼女の傷跡の意味を知らない他人からすればただの不衛生な傷跡でしかないのだ。
まあ、イタリア国内では音六がマフィアの娘だという事はほとんど知られていたし彼女の天使な性格によって幸いしたのでそこは心配する必要は無かった。
そして月日が経ち、篠ノ之束が開発したパワードスーツISが世界に出回る様になった頃だった。
「何ISのパイロットになりたい?」
「うん…駄目かな?…」
すっかり中学生に成長していた音六はそんな事を言ってくる。
「そりゃあまたなんでだ?ISは動かせない男にとっちゃ悪意の塊でしかないものだから好きになれないってお前は言っていたじゃねえか」
「うんそうなんだけどね…この子達から声が聞こえてきたの…」
「この子達って…」
音六はタイセイが御守り代わりに渡していた、イタリア政府から譲り受けていたISコアの一つを握り締めてそう言う。
恐らく彼女にはコアの本当の意思が聞こえているのだろう。
「もう誤った使い方をされたくないって…」
本来の扱い方とは違うベクトルで使い始めた腐った世界政府の連中には心底呆れる。
その言葉にタイセイは少し考え返答する。
「ああ良いぜ。ただし!あまり危険な事には余程の事が無い限りしないでくれよ?
それと機体の方はファミリーの面子に最高の物を作らせるからな!楽しみにしといてな!」
「うん分かった!お父さんもありがとう!…この子の事お願いね!…」
音六はタイセイにISコアを返し彼女の専用機が完成する時を待つ。
そして専用機が完成しまずは代表候補生になる為の練習の日々、そしていつかIS本来の扱い方である宇宙開発へと軌道修正させるというISコア達の願いを叶える為に彼女は奮闘する様になった。
だけど一度目の代表候補生を決めるISバトル試験においてそれは起きてしまった。
対戦相手が音六の優しさにつけこんでかなり悪質な嫌がらせをしてきたのだ。
「うああああ!…」
それは本番でも終わる事は無くあろう事かラファールを纏う相手は彼女の手の傷を隠し覆っている装甲ばかりを狙い撃ちしてくるという酷い戦い方をしてきたのだ。
ISの絶対防御は体に響く痛覚までは抑える事が出来ない。
それを知っていて尚相手は攻撃の手を緩めようとはしない。
結局そのまま音六は理不尽に襲い来る痛みに耐える事が出来ずにSE切れとなり結果は不合格となってしまった。
この事を知ったタイセイは激怒し合否に異を唱えたがルール上は問題無しとのIS委員会イタリア支部の阿呆過ぎる回答に頭を抱えるしかなかった。
「糞!奴等め!」
いっその事イタリア支部と対戦相手をファミリー総出で社会的に潰してやろうかとも一瞬考えたがそれをやってしまえば音六に余計な心配をかけてしまう。
現に彼女は
「もういいの…私の事でこれ以上お父さん達の手を煩わせたくなんてないから…」
「お前…」
それから音六は専用機を封印、ISに関わらなくなる様になり塞ぎ込む様になってしまった。
「ってワケなんだが…ちょいと話を変えるが良いか?」
「ええ…」
「今度は音六の目についてだ」
やはりか!…繭音さんはオッドアイでも無いのに何故彼女はそうなっているのかまた一つの疑問を解消する為タイセイさんは話を続ける。
~ファミリー首領候補襲撃事件より更に数ヶ月前~
タイセイがファミリーの集会後、家に帰宅すると繭音が床に倒れているではないか。
「おい、しっかりしろ繭音!」
「う…うーん…此処は?…」
「家ン中だよ」
どうやら気を失っていただけの様だったのでひとまずは安心したがもう一人いる筈の姿が周囲には見当たらない。
「一体何があった?音六はどうしたんだ!?」
愛妻の繭音が気絶していた事と言い、愛娘の姿が何処にも見当たらない事に只事では無いと確信したタイセイはなんとか冷静になり繭音に問う。
「はっ!?…そうだったなの!
お昼前に一緒にお買物してたら音六ちゃんが誰かに誘拐されちゃったなの!…」
「なんだって!?犯人の顔は覚えているか?」
「うー~ん…ごめんなさい私も咄嗟に抵抗したんだけど気絶させられちゃってそこから先の事は何も見てないなの…」
「そうか…だが任しとけ!大体の事は俺は分かっているからな」
犯人像はおおよその見当がついていた。
恐らくは最近巷で噂になってきている詳しい理由は分からないが幼い子供達だけを狙った誘拐魔の仕業に間違いない。
政府も未だ事態を収拾出来ずに頭を抱えていて早急の解決を望んでいる。
今日の集会もそれが議題に挙がっていた程だ。
それだけデカイ組織に違いない。
「だが…それはもう終わりにしてやる!」
相手が悪かった。
流石にこれは敵も予想していなかったのだろう。
誘拐した子供達の中に決して敵に回してはいけないイタリアンマフィアファミリーの愛娘がいたのだから。
ファミリーの総力を挙げて収集された誘拐魔組織の情報を見たタイセイは一人怒りの声を上げる。
「臓器売買だけに手を染めてるのかと思いきや非合法研究の被検体としての人身売買も行ってやがるだと!?
これは不味い!」
恐らく臓器売買は他の犯罪グループに紛れる為のスケープゴートでしかなく誘拐魔組織の本命は非合法研究への被検体提供にあると考えたタイセイは警察に居る唯一信頼する友人からタレこまれた非合法研究を行っているであろうと目星を付けられている研究所を重点的に組織を壊滅し子供達を救う為の計画を実行に移した。
~実行の日~
「ヒ、ヒィッ!?…イタリアにあんな化物がいるだなんて俺は聞いてないぞ!?」
「ひ、怯むな!相手はたかだが数人じゃない…」
「おらよおっ!」
「ブベェーッ!?……」
そう言った誘拐魔組織の構成員達は裏√産の拳銃を撃つ間もなくタイセイとその仲間達によって殴りかかられ、蹴り飛ばされていく。
「か、かかれ!いくらなんでも多人数でかかれば…」
「そうはさせると思うかよ!トゥー!」
「な、何!?ウギャアアァ-!?……」
タイセイは先程よりも多い人数の構成員に囲まれるが彼は物怖じする事無く物凄いスピードで翻弄しまるでどこぞの改造人間が如く空高く宙返りをしそれに驚いた構成員の隙を突き飛び蹴りを喰らわしていき彼等は付近の壁へと打ちつけられて泡を吹きながら気絶した。
そして残っていた構成員は一人を取り残し一目散に逃げていった。
「て、テメエ等は一体何者だ!?」
「おいおい、こんだけデカイ悪事働いてて勉強不足だぜ?
俺達はなイタリアンマフィア、セラフィーノファミリーの一員だ!
お上に代わってお前達に天誅を下しにやってきた!」
「そしてこのお方は第十四代目首領次期候補でもあらせられます」
「なっ!?…テメエ等は同業なのか!?…」
一人取り残された男はタイセイと刀を持った彼の専属女性執事であるレキナ・灰鉄の言葉を聞いて絶句した。
何故同業でありイタリアンマフィアの一角である彼等がこの組織に出張ってきたのかが分からない。
だけど男は忘れていた彼等が正義のマフィアであるという噂を。
「はあ…ド汚い悪事を働いたお前等とウチを一緒にされちゃ困るぜ…それに言ったろ?お上に代わって天誅だとよ!オラァッ!」
「ぶべん!?…」
タイセイは男を殴り飛ばし掴む。
「おい、お前に聞きてえ事がある。
お前等が誘拐した子供達は一体何処にいる?」
「ヒッ!?…が、ガキ共なら此処の研究スペース区へと隔離させてある…だが研究員の決められたパスコード以外で入室しようとすれば区内外に毒ガスが流れるようになっている…」
「チッ!用意周到なこったな…案内してくれるよなあ?」
「あ、あひい!」
男を脅しパスコードを所持しているであろう研究員達の下へと案内させる。
「なんだ?侵入者は排除出来たのか…!?…」
ゴタゴタが済んだと思い込んだのであろう研究員のリーダー的存在の男が振り向くと刀を自身に突き付けている見知らぬ女性と手を鳴らしながら此方を睨んでいる男の姿があった。
そう、レキナとタイセイだ。
他の研究員達は全員彼等によって気絶させられている。
「き、貴様等ッ!…」
「おっと我々の指示以外で動こうものなら首が飛びますよ?」
咄嗟に銃を取ろうとした瞬間に今度は首下へと刀を突き付けられている為出来ない。
「な、何が望みだ!?」
「アンタが持っている筈のこの区内全域のパスコードを全ておとなしく渡しな」
「なんだと!?…もしや我々の研究成果を奪いに来たのか!?」
何処からか情報が洩れ別の組織が自分達の研究成果の強奪に来たと考えるが検討違いである。
「あン?俺等はアンタ等とは違ってそこまで外道な事に手を出しちゃいねえよ!」
余程ファミリーを馬鹿にされた気分になった上に中々ブツを出さない彼にタイセイは手を再び鳴らす。
「ヒッ!?わ、分かった!」
男は解放された瞬間机に向かいパスコードを差し出してくるかと思いきや…
「死ねえー!」
「!」
銃を取り出しタイセイに向かって発砲するが、一早く察知したレキナが銃弾を叩き斬り落とした。
「なっ!?…」
「行動が丸分かりなんだよ!」
驚愕する男の隙を突きタイセイは銃を持っている左手を思い切り蹴り上げた。
「アギャアー!?う、手が俺の腕が!…」
蹴り上げられた手は銃を持っていた為に指はあらぬ方向に折れ曲がり悲鳴を上げていた。
「タイセイ様、発見しました!」
その間にレキナが周辺を漁りパスコードを見つけ出し報告する。
「おう!とっとといかせてもらうぜ!っとその前に…」
「な、何をする…ゴフッ!?…」
タイセイは激痛に未だ襲われている男に再び近付き腹パンした。
「俺は全てと言った筈だぜ?
いくつかは生体認証セキュリティーもある事はちゃんと把握しているんだよ」
気絶させた男を抱えながら何重ものセキュリティーロックを解除させ音六と他の子供達が監禁されているであろう区へと急ぐ。
「音六!それに他の子供達は無事か!?」
最後のセキュリティーを突破し男を放り投げたタイセイは扉に勢い良く突入した。
すると
「ううう…」
「いたい、いたい!…」
音六や他の子供達が苦しみの声を上げながらのたうち回っていた。
恐らく彼女達に行われた実験によってもたらされた悪影響だろう。
「レキナ、他の子供達は頼んだ!」
「分かりました!」
他の子供達をレキナに任せタイセイは遂に救出出来た愛娘へと歩みより抱きしめた。
「音六!俺だ父さんだ!しっかりしてくれ!」
「うああ…うあああー!…」
「音六!?」
音六は呻き声を上げながら両目を金色に輝かせタイセイの首を掴もうとした。
が…突如更に苦しみ出ししばらくすると目を覚ました。
「うう…お、おとーさん?…」
「ああ、そうだ!…大丈夫だよな?」
「うん…まだちょっとあたまがいたいけどだいじょうぶだよ…ほかのこは?…」
「レキナが今頃全員助け出せている筈だ」
「そうレキナお姉ちゃんが…よかった…」
フッと瞳に光を取り戻した音六はそう言って自身の心配ではなく他の被害者達の心配をしていた。
「タイセイ様、無事に子供達全員を保護しました!
ですが…三人程はもう手遅れだったらしく…」
「そうか…クソッ!…他に容態が悪そうな子は何人いる?」
レキナの報告を聞きタイセイは悔しさのあまり手を地面に打ち付けたがすぐに調子を戻し引き続き報告を聞く。
「はい、今すぐにでもしかるべく治療を受けるべき人数はかなりのものかと…」
「聞くまでもなかったな…レキナは先に子供達を此処から連れ出してといてくれ。
俺はもう一仕事片してくる」
「了解しました!」
「……」
未だに助け出された安心感から泣きじゃくる子供達と一人眼帯を付けられ虚ろな目をした銀髪の少女を見たタイセイはレキナにそう言って先程気絶させていた研究員リーダーを叩き起こす。
「おらよ!」
「…ハッ!?…な、まだ何かあるのか?!」
叩き起こされた男は与えられた恐怖で震えながら言う。
「この期に及んで恍けてるんじゃねえよなあ?
あの子達に施す治療プログラムデータも何処かにある筈だ。
まさか無いなんて事は言わせねえぞ!」
「ち、治療のデータなら私の部屋のパスで開けれる金庫に…」
更なる怒気を含ませた睨みに遂に観念したのか男は答えた。
「待った!」
それを聞いたタイセイは自室のパスコードを持って走り出そうとした男に待ったをかけ壁に向かって蹴り飛ばす。
「おっと自分で取りにいかせてもらうぞ?」
「ぶへへえ…」
案の定パスを持ったまま逃げ出そうと画策していた男のその場限りの計画は失敗に終わった。
「だから行動が丸分かりだっての!…そして案外タフな野郎だな」
「き、キシャマは一体!?…」
なんとか気を失わずに済んだ男はタイセイに疑問を投げかけてくる。
「俺か?良いだろう教えてやるぜ
セラフィーノファミリーの次期首領候補のタイセイ様とはこの俺の事よ!」
「ま、マフィアだと!?」
タイセイの正体を聞いた男は驚愕を隠せない。
「何故ウチがアンタ等みたいなチンケな犯罪グループを潰す為にやってきたかって?
そんなもんアンタ達が俺を怒らせるのに十分過ぎるくらいの事をしたからに決まっているじゃないか!
それは三つ!
一つは俺の愛妻を傷付けた事、二つ目は俺の愛娘を誘拐した挙句にこんな怪しい実験で可笑しくさせてしまった事、三つ目は幼い子供達をあんな目に遭わせた事だあー!」
「!?…」
男はこの時悟る事になった。
知らず知らずの内に敵に回してしまった目の前の存在に…正に因果応報!
男はショックのあまりか再び気絶した。
「俺達ファミリーの総意はな…少なくともアンタ等みたいな存在よりは真っ当に存続してきてんだよ…さてとデータ回収して早い所おいとまして音六と子供達の世話に専念しなきゃな!…」
気絶した男から急いでパスを取りデータ回収後速やかに撤退したタイセイは友人の名でタレ込む。
その情報により誘拐魔組織は壊滅の一途を辿る事になる。
Side春季
「…というワケだ」
「…その実験って一体どういった代物だったんですか?」
話を聞いた俺は新たに湧いて出た疑問を投げかけてみた。
「ああ、あの事件で回収出来たデータは治療プログラムのみで他の詳細なデータは俺達が研究所に突入した際にほとんどが抹消されちまったみたいで良く分からなかったんだ…」
タイセイさんはそう返答する。
治療データが残ってたのが不幸中の幸いだ。
もしもそれまでもが抹消されていたらと考えると恐ろしくなる。
…まあ、余程の外道でもない限りやらないと思いたい。
「ただな、実験の大元の首謀者の名はどこかの馬鹿が塗り潰して分からないんだが、ファミリーネームは分かっているんだ。
ソイツはトゥイニャーノフ」
「明らかに外人ですね…」
「そんでソイツが当てはまる人物に探りを入れたんだがどうもこれがさっぱりでな…まるで今迄この世界には居なかった人物の仕業の様に網にかからねえんだよ…」
「はは、そんなまさか…」
嘘みたいな話に俺は苦笑いをこぼすしかない。
「まあ、連中の残党が隠れ蓑にしている活動拠点がまだあるのかもしれないからもうちょっと探りを入れてみる予定ではある…坊主日本に帰ったら先生によろしくな!」
「ええ…ってン?タイセイさん今なんて言いました?…」
「ン?ああそいや言ってなかったけ?
俺も昔オヤジにどやされた時に一度亥曇先生に会って弟子入りした経験があんだよ。
お前さんの奥義の型を音六から聞いた時もしやと思っていたがどうやらその様だな!」
「なんですと!?…」
タイセイさんの発言を聞いて驚きを通り越して卒倒しそうになった俺はその後彼から色々な裏事情を色々と身に付けさせられた。
そしてそれから数週間後、修行と高校受験の為日本に帰国した俺は師匠と共にまた励む。
タイセイさんの事を聞いた師匠はというと
「あの弟子第一号、そこまで強さを会得し得ていたか…
うむ!素晴らしい成長振りの様だな!」
と感慨深い表情になっていた。
その後、通う予定だった愛越学園試験会場で迷いISを起動させてしまうという大事件を起こす事になってしまった俺と秋彦兄さんは偶然にも職員さんと鉢合わせしてしまいIS学園へと強制入学を強いられる事になった。
それを聞いた師匠は「わっはっは!まさかそこまでやるとは流石の私も思わなかったぞ!この一年半で奥義の全てを体得し得たお主なら例えISでも存分に戦えるであろう!」と言って笑顔で送り出してくれた。
入学直前に俺の知らせを聞いたのであろう音六から『再び代表候補生になってIS達の願いを叶えてみせる』と手紙が来たのは。
「という訳なんだ」
「ほう…思ったより壮大だったみたいだな」
「はは…」
俺の話を聞いていたイチカ兄さんは何処か考える素振りをしながらそう言ってくれた。
此方も話した介があったというものだ。
Sideイチカ
春の話を聞き終わった俺はセラフィーノのひたむきな一生懸命さに感銘を受けていた。
一度諦めてしまった者達の戦いがこれから始まるのだと…
「…それにしても不味いな…」
春の話の中でマフィアの情報網ですらファミリーネームしか分からなかった実験の首謀者である本名、ヴィタリー・トゥイニャーノフ。
かつて己の実験成果である人工ヴァリアントにされた、だけど今では肩を並べられる戦友であるオルフレッド兄妹を操った上での自身ももう一つの実験成果である人工型サベージと共に乗り込んできたリトルガーデン襲撃計画【ガーデンズ・クライシス】を仕掛けてきた女性科学者。
でも彼女は確かジュダルさんに拘束・射殺され亡くなったとクレア会長から聞かされていたが…。
恐らく何らかの理由で俺達よりも以前にこの世界に飛ばされてきたであろう彼女を未だに崇拝している者達の残党が人工ヴァリアントの研究を引き継ぎ行っていた事に違いない事を確信する。
あの時セラフィーノに眠る力をヴァリアントの本能で感じ取っていた俺は急いで彼女の専用機について調べた。
通常のISではもしも彼女の人工ヴァリアントとしての力が本格的に覚醒すればついていけなくなるからだ。
そうなれば暴走を引き起こすリスクが高まってしまう。
そうならない為にも一刻も早くISを調整する必要性がある。
そう思っていた俺の心配は杞憂に終わる事になったが…
「これは!…ヴァリアブル・ストーンが組み込まれている!?…」
俺は彼女の機体データを見て驚愕する。
もう既にもう一つの核となるべきヴァリアブルストーンが機体に組み込まれていたのだ。
そこで俺は思案する。
そういえば春がもう一つ言っていたな…研究所で彼女の父親が不思議な石を拾い解析した治療データにその石の事が載っていたと。
恐らく彼等が取れた治療法とは投薬治療とヴァリアブルストーンを用いて適度に被験者達の体内に流れるセンスエナジーを放出させ安定させる方法だろうか。
その際にまたセラフィーノの感性が働いて彼女のISとヴァリアブルストーンを引き合わせたに違いない。
まあ、これは俺の立てた推測に過ぎないが…一応束さんにも見て貰おうと彼女に連絡を取る事にしてその日は何事も無く過ぎたが…。
騒ぎを否応無しに起こす馬鹿者達がいるもので…。
駆足気味に久々にこんなに長くなりましたがこれにて春季の憂鬱は終わりを告げます。
後治療初々については作者独自の見解ですのでご了承を。
次回、春季から音六の傷の意味と彼女の感性について聞いたイチカは彼等の為に行動を起こす。
音六を無意味に嫌悪し春季とイチカをどうにかしたい秋彦はある一人の上級生にある事を持ちかけられ、影で音六に罵詈雑言を浴びせ追い詰めようとする。
そしてあろう事か
現場に偶然居合わせた鈴と春季はそれに激怒し件はクラス対抗戦へと持ち越されるが…当日其処に現れるは…
「クラス対抗戦前編 企みと憤怒と挑戦」