インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者 作:カオスサイン
Sideイチカ
転入生騒動から二日後
「『イッくんが気になった事調べてみたけどドンピシャだったよ!』」
「そうですか…」
俺は束さんにシャルルの件やボーデヴィッヒの事を調べてもらっていた。
「ーとするとデュノア社に息子は存在しない。
存在するのは社長のローグ・デュノアと彼と愛人関係にあったが病死により亡くなったマリナ・ソルファニーとの娘であるシャルロット・デュノアだけか…」
「『恐らくは男装した彼女を学園に送り込んであの屑の白式やイッくん達の機体データを狙っている可能性が大いにあるね…』」
ボーデヴィッヒの事よりこちらが最優先事項であるといえる。
「束さんもそう思いますか…まあ、自ら進んで会社の命令を遂行する気なら容赦はしませんけど…只ですね…」
「『只?』」
「セラフィーノが彼、いや彼女を見て言った一言が気になりまして…ああそれとボーデヴィッヒに関しても」
「『音六ちゃんが?』」
「ええ…」
昨日、昼食時にシャルルを紹介していた時だ。
ボーデヴィッヒは慣れ合う気がないみたいに席が離れてたので後回しになったが。
「…」
「ええっと…僕はシャルル・デュノア。
五組のセラフィーノさんだっけ?よ、よろしくね」
「よろしく…」
口数が少ないセラフィーノにシャルルはどう接すれば良いのか分からずしていたが…
「ん…」
「ひゃっ!?な、何?…」
当然の様にセラフィーノはシャルルをハグしていた。
「なんかとても辛そうな顔をしていたから…」
「え?僕は至って元気だよこの通り!…」
「…」
「あー…スマンなシャルル。
これが音六の愛情表現みたいなものだから…」
「そ、そうなんだ!…」
春にセラフィーノの行動に関する根底を説明されシャルルは納得したかの様に昼食を続けていた。
その隣でくいっ、くいっと春と俺の制服の裾を掴みながらセラフィーノが何かを言いたそうに見ていた。
「な、何だ?」
「…あの子の背後から悪意を感じた…それもとても凶悪な…」
「何だって?!…」
「それは本当か?」
「うん…」
セラフィーノの発言に俺と春は顔を見合わせる。
背後からという事はデュノア自身ではない他の誰かの悪意という事になる。
「後、あの兎みたいな子なんだけど私昔あの子とそっくりな子と会った事ある…」
「!…」
そういえば春の話に出てきたな…それが本当だとしたらボーデヴィッヒも間違い無く…。
「ありがとうな!セラフィーノ、おかげで調べ事が捗りそうだ」
「みゅ?…どういたしまして」
俺はセラフィーノに礼を述べ席を離れた。
Side春季
「俺の方も調べてみた方が良いのかな?これは…音六ちょっと良いかい?」
「みゅ?何はーくん…」
「タイセイさん伝でヤタさんに依頼したい事があるから放課後協力してくれるか?」
「うん良いよ…」
音六がああ言ったのだからデュノア社やシャルル自身に何かがあると思った俺は音六と一緒にデュノア社についてイチカ兄さんとは違う方向から調べてみる事にしたのだが…。
思ったよりその闇は深かったみたいだ…。
Sideイチカ
「『ふーん…やっぱこの事があったかもって分かっているみたい…』」
「デュノア社の実態について何か既に掴んでいるんですか?」
まあ、彼女にかかれば一企業の悪企み等調べるのは容易い事だろう。
「『まあ、そこはその道のプロに任せるとして…私達は彼等の背後に潜んでいる輩を調べないとね』」
「ああ…それもそうですね」
「『んじゃクーちゃんと一緒…いや人工ヴァリアントの可能性があり、アドヴァンスドでもあるラウラ・ボーデヴィッヒの事は調べておくね~!』」
「頼みます」
俺達の目的は百武装技術の漏洩を出来る限り防ぐ事であって一企業を救う事では決して無い。
それはその道のプロに任せるべきだと踏んだ束さんの意見に賛同し俺は通信を切った。
「さてと…」
シャルルは部屋の交換があり愚兄とルームメイトになっている。
もし現状で愚兄にシャルルが女性だとバレれば彼が下手に騒ぎ出して彼女に無益な害が被る可能性が否定出来ないので早目に手を打つ事にした。
翌日早朝、Sideシャルル
「ごめんね…コレが無いと父さんの命が…」
男装スパイとしてIS学園に入学し、織斑秋彦他二名の機体データを奪取する事を命じられた私はPCを操作していた。
「これで最後かな…ってえ?剣崎君は専用機一体いくつ持ってるの!?…」
「そこまでだシャルル。いや、此処はシャルロットと呼んだ方が良いか?」
「け、剣崎君なんで!?…」
私がビックリしているとふいに背後から声をかけられ驚いた。
剣崎君だ。
「一応未完成品のデータも入れといてよかったよ。
おかげで見事に餌にかかってくれたようだしな」
「け、剣崎君…」
私は絶望していた。
こんな早い段階で女性だと身バレしその目的まで完全に感付かれていたのだから。
Sideイチカ
見事に俺の張った罠にかかりシャルロットがデータの吸出しをしている現場を抑えた。
「あー…別にシャルロット、君自身をどうこうするつもりは初めから無いんだ。
だから安心してくれ」
「え?…」
俺のフォローに彼女は目を丸くし驚いていた。
「話してくれないか?一体どうしてこんな事をやっていたのかをさ」
「うん…」
俺の言葉に安心したのかシャルロットは泣きだしそうな声を押し殺し事情を説明してくれた。
なんだか向こうの戦友のエミール、嫌今はエミリアだったな。
王女という地位を捨ててまでもハヤトという想い人と自らの自由を求め決して挫ける事の無かった彼女の姿を思い出した。
最も彼女のハヤトへの想いは遂げられる事は叶わなかったが…。
母親の死からしばらくしてデュノア社へ引き取られIS適正が元々高かった事から専属扱いのテストパイロットとなった。
社長夫人、シャルロットにとっては義母ではあるが彼女との間には一切の愛情等無かったらしい。
そして俺達の事が報道されて社の再建チャンスと見た夫人は彼女に男装スパイ+機体データ奪取を命じてきたらしい。
「その…親父さんはその事に対して何も言わなかったのか?」
「お父さんは…ううん…あんなの私の父なんて呼びたくないよ!…」
「シャルロット…」
彼女の表情を見てこれは彼女の内に秘めた想いと今の発言が真逆だなと思った俺だったが口には出せずにいた。
「しかしデュノア社は確か世界シェア第三位のIS企業だったんだろ?
政府援助が打ち切られて開発が滞ったぐらいでそこまでの急な経営難に陥るなんて普通は考えにくいが…」
「そ、そういえば確かに!…」
シャルロットにも何か思い当たる節があるようで真剣な表情をしていた所に俺は問いかける。
「まあとにかく俺や春はどうこうするつもりは無いから。
シャルロット、お前はどうしたいんだ?」
「わ、私は…」
「ああ、心配しなくていい。
IS学園特記事項第21項だ」
「ええ!?剣崎君あの生徒手帳の内容覚えてるんだ…」
「ああ、だからこの項目が適用されこの件がもし表沙汰になったとしても少なくとも三年間は誰も手出しが出来ず、お前は自由の身だ。
それからどうしたいのかはお前次第という事になるが…変わろうという勇気はあるか?」
「私…」
「昔ある少年は諦めずに周囲の障害に耐え抜きました。
けれどそれでも変わる事はありませんでした。
ですがある日、本当の強さというものに気が付いた少年はそれまでの生活を捨て生まれ変わる事を決意しました」
それでもまだ手をこまねいているシャルロットに俺は過去を話した。
「それって剣崎君の事?…私も本当に変われるのかな?…」
「ああ、変われるさ。それが人の真理というものなのだから!」
「じゃあお願い!私と私のお父さんを助けて!」
「ああ、了解した!俺の事はイチカでいい」
「じゃあ、私の事はシャルと呼んで欲しいかな」
「了解シャル」
「うん!ありがとうイチカ!」
シャルの願いを聞き届けた俺は行動に出た。
休み時間、Side春季
「ねえちょっとアレってドイツの第三世代機じゃない?!」
「本国ではまだトライアル段階って私聞いたんだけど…」
IS実習の帰り道、突如ボーデヴィッヒさんが自らのIS【シュヴァルツェア・レーゲン】を纏い待ち構えていた。
「丁度良いな…おい織斑秋彦と織斑春季。貴様等両名私と勝負しろ!」
「なんだ藪から棒に…ドイツは教育がなっていねえんじゃねえのか?」
「…」
秋彦兄さん…アンタがそれを言うな。
このままでは秋彦兄さんがボーデヴィッヒさんの喧嘩を買ってしまいそうな一触即発の雰囲気だったが…
「ちょっと礼儀というものがなっておりませんでしてよ?」
「秋彦は正直どうでもいいけど春季と戦いたいんならまずは私達と戦いなさい!」
「おい俺がどうでもいいってどういう事だ!?」
「イギリスと中国の代表候補か…フン!恐るるには足りんな!」
秋彦兄さんの異議を無視し話は進む。
「そっちがね!」
鈴とセシリアさんがボーデヴィッヒさんに仕掛けていってしまう。
「温いわ!」
「嘘!?…」
「これは!AICですか…厄介ですわね!…」
二人の攻撃が障壁に阻まれ止められてしまう。
「なら連携でいくしかないわ!セシリア!」
「分かっていますわ!」
バラバラに攻撃しては駄目だと踏んだ鈴はセシリアに合図し再び仕掛ける。
が…
「貴様等の狙い等分かりきっている!」
「何コレ!?…」
「何ですの!?…これは!鈴さん早く散開を…」
「遅い!」
「キャッ!?…」
「がふっ!?…」
セシリアが鈴に指示した時既に遅かった。
彼女達の周囲にワイヤーブレードの蔦が張り巡らされ逃げ場を失っていたのだ。
その蔦が一気に解放され鈴達にダメージを与える。
「こんなものか…力を力として利用しない者の力量というのは…」
ボーデヴィッヒさんは飽きた様に後ろを向いたが…
Side鈴
「な、何…勝手な事抜かしてるのよ!…これでもっ!…喰らいなさいな!…」
「な、何ッ!?…ぐうっ!?…」
私はワイヤーの猛攻に耐えなんとか立ち上がりその隙を狙って龍砲を撃ち放っていた。
撃たれた事に気付いたボーデヴィッヒはAICを発動して止めようとしたが着弾の方が一歩早くそれを受け大きく吹き飛ばされた。
「衝撃砲か!…だが私が見たデータではこれ程の力は…」
「悪いわね…つい先日イチカに特別調整を施して貰っていたのよ!…」
イチカが機体を調整してくれていたおかげで従来の甲龍よりも比べ物にならないぐらいに全体のスペックが上がっていた。
その一つが龍砲から撃ち出された圧縮砲弾を拡散式に切り替える事によって一発、一発の命中精度、火力共に向上させて貰ったのだから。
「そしてこれはダメ押しの一刀!…」
全身の力を振り絞り強化された牙月を連結、投擲する。
「チッ!…」
だがそれはAICによって阻まれた。
「今よイチカ…」
私は痛みによる限界が来てしまい意識が朦朧とする中彼の名を呟くと…
「『残影斬』!」
「何ッ!?…」
いつの間にかボーデヴィッヒさんの背後に現れていたイチカが一撃を加えていた。
「大丈夫か?鈴、オルコット嬢」
「ええなんとか…」
「結構キツイけどね…」
「春、二人を頼んだぞ」
「うん任されたよ」
私とセシリアは春に抱えられ保険室に運ばれた。
Sideイチカ
「ようボーデヴィッヒ、どんな理由で戦おうがそれは手前の勝手だが少しは場をわきまえろよ」
「貴様は…もう一人の男性操縦者か!」
春経由でボーデヴィッヒが愚兄達に勝負を挑んできた事を知った俺は急行し彼女に一撃加え見据えていた。
「一応手前が今行っていた戦いの理由だけは聞いてやるよ」
「…この学園に在籍しているほとんどの者は世界最強の兵器であるISをファッションか何かだと思っている奴が大勢居る…だからこそ私はそんな奴等に力を刻み込んでやったまでだ!」
「力…ね…」
「貴様は良く理解しているようだがそれ程の力を持ち得ながら何故その力を世界に掲げようとしない?」
「…はっ!俺はそんな事には全く以て興味など無いんでね!
力は所詮は力でしかない…ボーデヴィッヒ手前が振り翳しているのは力じゃなくて単なる只の暴力に過ぎない!
本当の力というものはな…守るべきものの為に楯となり、それを誇れる強さなんだよ!」
「なんだと?」
ボーデヴィッヒの戯言という名の理由を聞いて俺は向こうの世界の出来事の一件を思い出す。
武芸者至上主義を掲げか弱き者達に目も向けず権力に酔いしれ自分達を世界の支配者と自惚れ疑っていなかった兄弟との決闘にハヤトと共に挑んだ一件を…
あまり自分的には思い出したくない一件ではあるが今のボーデヴィッヒの思考は兄弟の一人である兄のダグラス・クラウス・ウェンズを思い出させた。
力を力だと信じて疑わず己自身の信念は空虚な物で空回りでしかないそれに本当の強さなどありはしないのだから。
「ほざけ!」
俺の話に納得がいかないといった様な表情でボーデヴィッヒはレールカノンの砲撃を放ってくるが俺は即座に容易く回避してみせる。
「クッ!?…」
焦りの表情を見せるボーデヴィッヒは更に砲撃を撃ち放とうとしたが…
「そこの生徒!此処で一体何をしている?!学年とクラスを言え!」
定期の見回りをしていた教師に止められる。
「どうやら時間切れみたいだな」
「チッ!…興が冷めた。
だが貴様ともいずれは決着は付けてやるぞ!」
教師に止められた事でボーデヴィッヒは機体を解除しその場から去っていった。
「さて…其処でずっとこの場を傍観していたブリュンヒルデ殿?
今のアンタの心境は如何なものかな?」
「剣崎、お前はやはり…」
「…」
俺は元賢姉殿に見向き彼女を見据えていた。
次回、ようやく千冬に自身が果てのもう一人の弟であると悟られたイチカはラウラの事について彼女の話を聞く事にする。
その中で彼等の仲は…
一方で開幕が迫るタッグマッチ戦、それぞれの思惑が交錯し戦いの火蓋は切って落とされたが…
「貴公子の正体と黒い雨の涙 後編」
誤・脱字等ありましたらご報告を。