インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者 作:カオスサイン
Side鈴
それは音六ちゃんが突然飛び出して行ってしまった直後だった。
「『!この海域、いえ春季さん達が戦っている区域に超高速で向かっている機体があります!
この反応は…白式!?』」
信じられない事をラウラの機体AIであるリィズちゃんがそう告げてきた。
「なっ!?それは本当なのか!?リィ!」
「ええ!?だってアイツは重傷を負って今も昏睡状態で眠っている筈でしょう!?なんで!?…」
「『ええ…ですがこの反応は間違い無く織斑秋彦と白式のものと一致しています』」
例え昏睡から目覚めたとしてもとても体を満足に動かせられる状態ではない筈の秋彦が何故此方に向かってきているのか訳が分からなかった。
「うおおおおー!」
グサリッ!
秋彦の叫びとそんな鈍い音が聞こえてくるまでは…
「「なっ!?…」」
この光景を見ていた全員の声が重なった。
それもそうだろう。
何故か新たな姿となった白式を纏った秋彦が突然現れ春季達毎福音を零落百夜を発動した二振りに増えた雪片弐型で滅多刺しにしていたのだから。
当然絶対防御は貫かれ二人は腹部からの大量出血をしている。
一番背後にいた福音は重装甲が幸いしたのか気絶したパイロットが投げ出された。
「い、イチカ?…」
「そんな…こんな事って!?…」
秋彦の零落百夜によってSEを全損させられ強制解除された三人は力無く海へと真っ逆さかさまに落ちていってしまった。
「い…嫌あああああああー!?」
私の悲痛な叫びが海域中に木霊した。
約一時間前、Side秋彦
「…此処は一体?…そうか美月の馬鹿が邪魔しやがったから俺は福音に堕とされちまって…」
昏睡状態だった秋彦は白い空間で目覚め、すぐに愚痴を溢す。
まあ、例え美月が止めなくとも彼が福音を止めれた確率は0に等しいのだが知る由はない。
「『…』」
「あ?なんだお前?…」
秋彦の目の前には白髪の少女が佇んでいた。
「『貴方は何の為に力を求めるの?…』」
少女が秋彦にそう問いかけてくる。
「ハンッ!そんなの決まってるだろう!
この俺が先導するべき立場だと分からせてやる為にだ!」
「『…』」
「なんだその目は?…」
「『…』」
秋彦の返答に対し少女は凄く悲しそうな表情をしそして彼を睨みつけていた。
だが秋彦の問いには無言のまま突然姿を消した。
「はっ!?…なんだったんだ今のは?…」
秋彦は現実でようやく目を覚ましていた。
だが驚くべきことに彼が負っていた筈の傷は綺麗に治っていたのだ。
「コイツは!…」
ふと秋彦が白式の待機形態であるガントレットが何処か違う事に気が付いた。
「あるじゃねえかよ力が!…」
秋彦は新たな姿となった白式・雪羅を纏い再び医者の目を盗んで無断出撃した。
そして彼が暴走イチカ、福音、ギリウス勢力と四つ巴になっている戦場へ現れたのが悲劇への引き金だった。
「(アイツ等が手をこまねくとはな…だが上手い具合に二重の壁がある!…これなら外す事はないな!)」
イチカ達が未だ苦戦している事に少々胸が躍っていた。
そう秋彦の脳裏には黒い歪んだ考えが浮かんでしまっていたのだ。
「(悪いな春季、剣崎イチカこれも勝利する為の俺の方程式なんでね!)」
丁度春季が連撃を叩き終えた直後、未だ彼等の位置が重なっていたのを好機と見てそれを実行に移したのだ。
「うおおおおおー!」
零落百夜を発動した二振りになった雪片を構え勢い任せに突撃し何の躊躇いもなく彼等毎福音を滅多刺しにしたのだ。
Sideギリウス
「フン…まさかこんな幕引きとは俺も予想外だったな。
まあいい、伏兵も忍ばせて今頃は面白い一興の一つになっている筈だ。
引き揚げるぞアヴリル」
「はい…」
繰り広げられた惨劇にギリウスはさも興味無さそうにアヴリルに撤退を指示し自身も撤退していった。
秋彦接近約四十秒前、Side音六
「行かなきゃ!…」
白式のコアの「助けて」という声が聴こえた私ははーくん達の下へ咄嗟に動き出していた。
なんだか他にも物凄く嫌な予感がするのだ。
「ツクモお願い!急いで!…」
私はツクモに語りかけ全開で迫るが一時退避していたせいでとても間に合いそうにはない。
仕方無くドラグーンのバリアを飛ばそうと思ったその直後…
グサリッ!
そんな音が聞こえ感じていた予感が確信へと変わってしまった。
「はあはあ!…やったぞ!遂に福音を堕としたぞ!」
あの怖いお兄さんがはーくん達を巻き込んで福音を滅多刺しにしている所を私は目にしてしまった。
「はーくん、イーくん?…い…嫌あああああああああー!?…」
海に力無く落ちていった二人を見てしまった私の胸の中にはとてもドス黒い感情が溢れ出してきていた。
殺す!殺す!殺す殺す殺す!…コイツだけは絶対に許さない!…
そんな感情が生まれて初めて…いや二度目だったかな。
湧き出してきてとても抑えるなんて出来ず人工ヴァリアントの力を暴走させてしまった私はツクモの静止を聞かず怖いお兄さんに攻撃を仕掛けてしまった。
「んなっ!?」
勝利の余韻に酔いしれていた彼は反応出来ずに私のドラグーンの一斉掃射を喰らいボロボロになっていた。
まだ!…これぐらいで彼を許すものか!…ドス黒い感情に支配されたまま再びドラグーンのチャージを開始するが…
「おやめ下さい音六さん!」
「邪魔を…するなあ!…」
セシリアちゃんがレーザーで威嚇射撃をしてきたので私は思わず銃口を彼女に向けそうになる。
「貴方の気持ちは痛い程良く分かりますわ!
だけど今は海に落ちたお三方をお助けするのが最優先ですわ!」
「!…ごめんなさい…」
セシリアちゃんの言葉で私ははっと正気を取り戻した。
そうだ、早くはーくん達を助けなきゃ!
ツクモにも後で謝らなきゃ…。
その頃、旅館では…Side本音
「ニャー、ニャー!」
「こぉ~らぁ~!ピノピノ、そんな所ひっかいちゃ駄目だよ~…」
音六ちゃんから預かっていた猫さんがなんだかソワソワしているのを見ていた私はふとなんだか嫌な予感が胸の中をよぎっていた。
「もしかしてイッチー達に何か大変な事が?…」
Side千冬
「おい!篠ノ之、春季、剣崎…誰でもいい応答しろ!…糞っ!通信が遮断されているだと!?」
福音討伐任務に出撃した彼等との通信がしばらくして突然途絶え私は焦っていた。
「大変です織斑先生!この旅館に多数の未確認生物が向かっているとの事です!」
「何っ!?…すぐに教師部隊を迎撃に向かわせろ!」
「駄目です!とても間に合いません!」
「くっ!?…」
確か…サベージだったか?
それが何十体ものこの旅館に迫りつつあったのだ。
まさか福音の暴走はほんの一興に過ぎないとでも言いたいのか?
救援部隊を要請しようにも到底間に合わず私がある決断をしようとしたその時、異様な光景が私達の目に飛び込んできたのだった。
はい、遂に馬鹿がやらかしてくれやがりましたよ。
一体イチカ達の運命はどうなってしまうのか!?
次回、突如として旅館を襲撃してきたサベージに成す術が見つからず茫然とする千冬達。
だがそんな彼女達の目に飛び込んできたのは?…
一方、イチカ、春季、福音の操縦者を救助を終えた一行の胸中には深い傷が刻み付けられてしまっていた。
「臨海学校と陰謀PARTⅨ」