インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者 作:カオスサイン
Sideイチカ
「「…」」
「?」
よもや予想し得なかった非常に困った事態が起こってしまい俺達は混乱するしかなかった。
愚兄に負わされた怪我からようやく回復し、目覚めた春は俺を呼ぶニュアンスと一人称がおかしく、そしてセラフィーノの事は愚か鈴の事まで知らないと言ってきたのだ。
もっと詳しく問いただした所彼の記憶はどうしてか小学二年生くらいの時までしかなかったのだ。
「ねえ一夏兄さん、お母さんとお父さんは?それに千冬お姉ちゃんと秋彦兄さんは?」
「俺達の両親はもう今はいないんだ…千冬姉は今仕事中だ。
後あの馬鹿の事はもうお前が気にする必要は無いんだ」
「?」
キョロキョロしながら質問してきた春は俺の返答に対して?を浮かべている。
医者や束さんが言うには恐らくは刺されたショックによって一時的な記憶の混濁が引き起こされたのではないかという事だが…。
「春、聞くがお前の守りたいものはなんだ?」
「守りたいもの?分かんないよそんなむずかしいこと…」
「…」
やはり…俺は顔をしかめるしかなかった。
今までの春であったならばすぐに答えられた筈の質問だ。
やはり俺達の両親がいなくなってしばらくし愚兄の苛めによる影響が強くなり始めた頃だからか春の表情はとても暗いものだった。
「…はーくん…」
「春季…どうしてこんな!?…」
セラフィーノは茫然と春を見つめ、鈴はこの事態に憤慨していた。
信頼する一友人という鈴はとにかく、まだ本当の意味では踏み出せてはいないが春の事を大切に想っているセラフィーノにとってもこの事態は到底受け入れ難い現実だろう。
「ねえ…悪いんだけど私と音六ちゃんと三人で春季と少し話したい事があるの。
良いわよね?」
「ああ、分かった」
鈴がそう言ってきたので俺は快く了承し退室し報告に向かった。
鈴Side
「いい加減に目を覚ましなさいよこのバカ春季!」
私は無駄だと分かりながらも心のどこかではまだ希望はある筈だと思い春季に一喝してやった。
「目なら覚めているんだけど?…」
だけど当の本人は理解出来てはいなかった。
「そ、そういう事を言ってるんじゃないわ!…私の事は思い出せなくても構わないわ…だけどせめて音六ちゃんの事だけでも!…早く思い出してよ春季!…」
「鈴ちゃん…」
只信頼されている一友人だけという私はとにかく、誰が見ても一番に春季の事をこんなにも想ってくれている音六ちゃんの事を思うと心が締めつけられてくるのだ。
私の大切な親友でもある音六ちゃんがこれ以上傷付くのなんかは見たくないという私の我儘でもあった。
「鈴ちゃん…もういいの…」
「音六ちゃん!?だけど!…」
「…」
これ以上此処でこんな事をしていても仕方無いと悟ったのか音六ちゃんは首を振り病室から出て行こうとしたので私は慌てて追いかけていった。
「音六ちゃん!良いの?…もしもこのまま春季の記憶が戻らなかったとしたら?…」
「…」
「あんた…」
最悪の事態を想定し音六ちゃんを説得しようとするも私はやっと気が付く。
彼女の眼差しはまだ希望を失っていない強い色を持っている事に…。
「まだ希望はあるのね?…」
「うん…もしもはーくんがまだアレを持っていてくれているなら…」
「その何かを探し出せれば良いのね!教えて音六ちゃん!私、皆にも頼んでくるから!」
「分かった…」
春季の記憶を呼び戻す手段があるかもしれないと聞いた私は事の詳細を聞き皆の所へ応援を頼みにいくのだった。
その頃、Side秋彦
「畜生が!なんでこの俺がこんなくだらない作業なんかやらなきゃいけないんだよ!…これというのも全部アイツ等のせいなんだ!」
ぶつぶつと明らかな逆恨み言を言いながら秋彦は強制無償奉仕作業をさせられていた最中であった。
元々生来彼の中には良心なんてものは微粒子レベルですら存在していなかったのだから。
「!…」
秋彦は現在の状況を見て口元を綻ばせていた。
事もあろうに監視の人員が臨時の集会があるとして全員場を離れてしまっていたのだ。
それというのも秋彦が作業など真面目にやる筈もなく彼の迫真の演技を見てすっかり騙され油断してしまったせいでもあるだろう。
秋彦はこのチャンスを逃す手はないと見てその場から逃走してしまったのだった。
次回、音六の提案する春季の記憶を取り戻す方法とは?
一方、監視員を撒き逃走を図った秋彦は更なる企みを目論んでいた。
「帰還、そしてそれぞれの想いと記憶PARTⅣ」