インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者 作:カオスサイン
大感謝!
Sideイチカ
「ある…たった一つだけ…」
「何?…」
そうセラフィーノが口を開く。
愚兄が引き起こした惨劇の影響によって春が失ってしまった記憶を取り戻せる方法があると…。
「もしも…今でもはーくんもアレを持っていてくれているのなら…きっと…」
「アレ?」
「ちょっと待ってて…取ってくるから…」
セラフィーノが一旦病室から出て寮に戻って行ってから十分後…
「お待たせ…これ…」
「これは?…」
セラフィーノが持ってきたのは大分あちこちがほつれてはいたが可愛らしい白い猫のぬいぐるみだった。
「それが春季の記憶を取り戻せるかもしれない方法?」
「うん…はーくんもすっかり忘れているのだと思うけどあの時の事私は凄く覚えているから…」
「え?…」
「そういえば春に聞いた話以前にも彼と会った事があると言っていたな」
「ええ!?」
「ん…鈴ちゃんといーくんにも話すね…」
鈴も疑問を持つが俺は以前セラフィーノがそう言っていたことを思い出し言うと鈴は凄く驚いていた。
そして、セラフィーノは語り出そうとするが…。
「秋彦君は此方に来ていませんか!?」
山田教諭が慌てた様子で駆け込んでくる。
「あの馬鹿?…いや見ていないですけど…まさか!?…」
「その…秋彦君の姿が学園内に見当たらないんですよ!…」
鈴の予想通りに山田教諭が告げる。
「あンの糞元兄貴が!…」
事もあろうにあの馬鹿は教師達の監視の目を掻い潜り学園内から姿を消したみたいだ。
「!あの野郎まさか!?…」
「え、ちょっと!?…ああもう!音六ちゃんは急いで織斑先生を呼んできて!」
「う、うん!…」
俺は物凄く嫌な予感を感じ急いで病室を後にした。
鈴もセラフィーノに千冬姉を呼ぶ事を頼み急いで後を追っていった。
その頃、Side秋彦
「アイツ等が悪いんだ、この俺を散々コケにしやがって!…」
監視の目を掻い潜り学園からの脱走を図った秋彦は逆恨みをより一層募らせていた。
彼が向かった先は織斑家だった。
何故わざわざ学園を脱走してまで彼が実家に戻ってきたのかそれは…
「へへへ!…」
この時、千冬のものぐささが祟るとは思いも寄らなかっただろう。
そう、秋彦は実家の春季の部屋にまだある彼の私物を物色し滅茶苦茶にしてやろうと画策していたのだ。
もし白式がまだ彼の手元にあったのならハクナもこの正気の沙汰と思えぬ事態の片棒を担がされていたかもしれない。
「ははははは!…どうだあ?!コレで少なくとも春季は俺に逆らえなくなる筈だー!」
春季が努力の影の末に勝ち取った色んなコンクールの賞状やその他の物は努力など無駄だと考える秋彦にとってはゴミ同然の物でしかなかったのだ。
秋彦は一体何処に隠し持っていたのか懐からライターを取り出し部屋中にガソリンを撒き散らし火を付け始めた。
Sideイチカ
「なっ!?…」
「織斑家が燃えている!?…」
千冬姉が必死に守ろうとしていた物が、俺達の帰る家が火事に見舞われていたのだ。
俺は嫌な予感が当たってしまった事に苦虫を噛む。
追い付いてきた鈴もこの様子に絶句するしかない。
「俺があの馬鹿野郎をとっちめてくるから鈴は119を!」
「分かったわ!」
鈴に通報を頼み俺は百武装を展開し燃え盛る家に急ぎ突入した。
あの糞愚兄、そこまで外道に堕ちたというのか!…
「さてと今の内に脱出…」
「うおおおー!」
「なっ!?て、テメエ…なんで俺の居場所が分かった!?」
「…」
間一髪脱出を図ろうとしていた愚兄をなんとか取り押さえる事に成功する。
愚兄は俺が此処にいる事に驚きを隠せないといった表情を浮かべていた。
やはり目先の己だけの幸福しか考えていないな…。
「そもそも一夏、テメエや春季なんかがいなきゃ俺はこんな事にはならなかったんだよお!」
「下らんな!…」
「なんだと!?…」
「責任転嫁もふてぶてしいと言っている!
春にも散々言われていた筈だ!
他人を一括りにし、努力を嘲笑い己の才能に胡座をかくだけのお前は決して天才なんかではない…どんな凡人よりも愚か者にしか過ぎないてな…挙句の果てにここまで外道に堕ちるとはな…」
「て、テメエ!…何処まで俺の邪魔をしやがれば!…」
パチパチッと不意に燃えていた春の本棚が近くにいた愚兄に倒れかかっていた。
「チッ!…」
「ウグッ!?……」
俺は仕方無く装甲腕を振るって愚兄に腹パンを繰り出し気絶させ脱出しようとした。
「ン、コレは!…」
脱出の最中俺はある物に目がいき、どうしてもそれが必要だと判断し、それも持ち出して今度こそ愚兄を抱えながら脱出した。
消防隊の素早い尽力で愚兄が放った火は約一時間後には鎮火されていた。
だが家は無残にも見る影がなくなってしまっていた。
「こ、これは一体どういう事なんだ!?…」
ようやく駆け付けてきた千冬姉も家の惨状に茫然としていた。
俺は気絶させていた愚兄を千冬姉の前に降ろす。
「もしや秋彦が家を!?…」
「…」
俺は無言で頷く。
まさか愚兄が殺人未遂だけでなく放火事件まで起こすとは彼女には到底予想出来なかったであろう。
「…これが秋彦を止められなかった私の罪なのだという事なのか…」
「千冬さん…」
鈴も千冬姉を強く責める様な事は出来なかった。
大体、元より愚兄は千冬姉の名誉を利用していただけの虎の威を借りていただけの愚者に過ぎない。
流石の彼女でも愚兄の内面までもは制する事は不可能だった。
流石にこれ以上愚兄の擁護など出来る訳もなく彼は千冬姉からも正式に絶縁され、また束さんも完全に見捨てた事でようやく逮捕され一生を棒に振る事となった。
だがまだ何か嫌な予感が拭えないんだよなぁ…。
織斑家の再建と春季の記憶については次回。