インフィニット・ハンドレッド~武芸の果てに視る者 作:カオスサイン
Sideイチカ
「いーくん、それは!…ちょっとの間借して!…」
「やはりか!…勿論だ!」
学園から脱走を図り挙句に織斑の家に放火した愚兄を取り押さえた後、俺は急いで病室に戻った。
セラフィーノが俺が春の部屋から持ってきた物に気が付き手に取って春の傍へ駆け寄っていった。
それは彼女が持っていた猫のぬいぐるみとカラーバリエーションが違うぬいぐるみだった。
ちなみに茶猫だ。
少し火事の影響ですすけてはいるが…疑問は何故春がこのぬいぐるみを持っていたかだ。
まあ、すぐに判明する事か。
Side春季
「はーくん、コレ!…」
「?…」
えっと…せ、せ…セラフィーノさんだっけ?
どうして彼女はこんなにも僕に対して親しそうに接してきてくれているのだろうか?
訳が分からなかった。
そんな彼女は僕にとても可愛らしい茶猫のぬいぐるみを差し出してきた。
もう一体の色違いのぬいぐるみを抱えながら微笑んでいる。
あ、あれ?…少し前にも似た様な事があったような気が…
「ウッ!?…」
僕は一瞬頭痛に襲われ頭を抑える。
「はーくん!?…」
セラフィーノさんに物凄く心配される。
「ううっ!…」
そ、そうだ!…ようやく思い出した!…
それは…
~十年前~
「はあー…」
秋彦兄さんと箒姉さん、彼等に纏わりつくしか能の無い腰巾着達に散々邪魔をされ僕は休日は家にいるのが凄く嫌で明確な目的等もなく只街中をぶらついていた。
「ン?…」
そんな僕の目にとある光景が入ってくる。
「ニャニャー♪」
「ニャ!♪」
「ふーにゃー~ん~…」
「…」
女の子が二匹の野良であろう仔猫と道隅で戯れていた。
「ウニャ!」
「あ…」
だけど遊び疲れたのかどうなのかは知らないけれど内一匹が何処かへ行ってしまう。
だがそこで…
「不味い!…」
その仔猫がすぐ近くの歩道に飛び出してしまったのだ。
「フギャッ!?…」
キキーッ!と大型トラックがブレーキをかけるが結局仔猫を轢いてしまった。
「あ!?…」
だが事もあろうにそのトラック運転手は仔猫の心配など全くせずにそのまま走り去って行ってしまったのだ。
「ああ!?…」
女の子もこの悲劇に悲鳴を上げていた。
あの運転手!…だがその前に轢かれてしまった仔猫を早く助けないと!…
「ぼ、僕に任せてくれないか?!」
「え?…あ、うんお願い!…」
「分かった!君は此処で待っていてくれ!」
女の子は一瞬ポカンとなり僕を見るがすぐに気を持ち直し頼んできた。
僕は急いで仔猫を抱えて動物病院に向かい獣医の先生に預けた。
そしてすぐに待たせていた女の子の所に戻った。
「あ!…あの子は助かるの?!…」
女の子は仔猫の容態を凄く心配して聞いてくる。
「分からないけど…」
正直あの速度で轢かれてしまったしな。
処置も早いとは言い難いし後は獣医さんの腕次第という事になるな。
「きっと大丈夫な筈だよ」
「そう…」
それを聞いて安心した表情に女の子。
後は…あの明らかに法定速度違反の運転手を通報しなきゃな。
「おう?千冬さんとこの弟君じゃないか!
おやその子は?…ははーん!」
「?…」
「そんなんじゃないですって!…って今はそれ所じゃないんです!」
偶然、八百屋のおじさんに遭遇し女の子と居た事を茶化される。
女の子は意味が良く分からないらしく頭に?を浮かべていたが僕は思わず気恥しくなる。
がすぐに気を取り直して説明する。
「はは、悪い悪い。
それで何かあったのか坊主?」
「先程大型トラックに仔猫が轢かれました。
ですがその運転手は助ける事もせずにそのまま走り去って行ってしまいました。
無論猫は偶然付近にいた僕が病院に連れていきましたので…しかしあれは明らかなスピード違反でしたよ…」
「むう、それは酷いな…ここの所、女尊男卑のせいでお先真っ暗って所もあるが…」
おじさんの言う通りだ。
いくらそうだとしても無関係の者を巻き込んで自暴自棄になられては更にお先が真っ暗になるだけだ。
「とりあえず車番は撮ってありますけど…」
「どれ…む!この車番は…」
僕が控えていた車番をおじさんに見せると険しい表情になる。
「この番号はうちの弟の息子の奴のだ…本当にすまない…」
「ええ!?…」
まさかおじさんの知り合いに犯人がいたとは予想外であった。
僕とおじさんの証言のおかげでスピード違反の上仔猫を轢いた犯人は捕まった。
スピード違反についてはやはり女尊男卑の影響で仕事が減ってしまった事による暴走だった。
猫については余裕が持てなかったみたいだな。
あの女の子とは翌日も会う約束をした。
そして翌日、入院させていた子猫の状態を知る為に彼女を連れて病院を訪れた。
「傷が酷い状態でしたのでもう少しだけでも処置が遅ければ危険でしたがもう大丈夫ですよ!
ですが安静にはさせておいて下さいね」
「そうですか!」
「!♪…」
獣医さんから無事を聞いて僕と女の子は安心していた。
彼女は仔猫を頭に乗せてとても上機嫌だった。
「…」
「ン?…」
そして彼女が僕に眩しい笑顔を向けてくる。
「!///~…」
僕は恥ずかしさが我慢出来なくなり目を背けてしまう。
「?…」
女の子は不思議そうな顔をして覗き込んでくる。
そうだ!
「ちょっと待ってて!」
「??…」
僕は良い事を思い付き付近のゲーセンへと足を運んだ。
そして取った景品を彼女にプレゼントした。
大きめの猫のぬいぐるみだ。
「これ!…」
「これしか思いつかなくてさ…君にもあげるよ!」
「ありがとう…!」
女の子は一瞬ポカンとした表情をするがすぐに嬉しそうな表情になり礼を言ってきた。
僕ももう一体のぬいぐるみを抱え家に帰った。
だが秋彦兄さんに見つかれば何を言われるか分かったものではない。
僕はそのぬいぐるみをずっと分からないようにテープで机の下に固定したままにしてしまっていたままだった。
それから自己紹介もしなかった事もあったしその女の子と出会う事はなかった。
あの時、再び巡り逢えた日が来るまでは…
「そうだ、だから…」
「は、はーくん!?…」
すっかり忘れ去ってしまっていた記憶が呼び起こされ俺は泣き出しそうになる。
それを見た音六が驚く。
そんな彼女は名前を知らなかった俺の事を…ずっと覚えていてくれたんだ!…
「全部思い出せたよ!…ありがとう音六!」
「はーくん!…」
俺はその場の勢いと嬉しさのあまり彼女を抱き締めていた。
恥ずかしさなどとうに吹き飛んでしまっている。
後は…
「イチカ兄さん、鈴心配かけちゃってゴメン!…」
「そうか、お前本当に記憶が戻ったんだな!…」
「ホントによかったよ~!…」
イチカ兄さんと鈴に記憶が戻った事を伝えると二人とも安心した表情を見せていた。
俺はイチカ兄さんに記憶が戻っていない間の事を聞いた。
「そんな事が…」
俺は秋彦兄さんが学園を逃げ出し家に放火し逮捕された事を聞いた。
結局アイツは俺の言葉を理解せずに変わる所か悪化の一途を辿っていっただけか…まあ完全な犯罪者になったのならば尚更金輪際関わる事はないだろうが…。
「ああ、だが一番大切な物は守れただろう?」
「ああ!…」
イチカ兄さんが偶然見つけてくれたこのぬいぐるみがなければ俺は音六との本当の初めての出会いもこれまでの記憶も取り戻せなかったかもしれない。
織斑の家はこの事件の事を聞いたタイセイさんが援助してくれたおかげで再建させる事が出来た。
その頃、?Side
「くっそー!…なんで俺がこんな所に入れられなきゃならないんだよー!」
警察署の留置場で騒いでいたのは織斑家に放火した罪で逮捕・投獄された秋彦だった。
彼は一向に反省の色など見せなかった。
いや己の行いが罪だと全く認めていないのだ。
神は正に天武の才を与えた者を誤ったのであろうか。
尚、束が流した彼の一夏や春季、美月に行っていた過去の虐めの数々の証拠、その他ブリュンヒルデの名を利用して腰巾着と一緒に万引きや恐喝紛いの事を行っていた等の余罪等も含めて更に重い刑が執行されるのを只黙って待つしかなかった。
だが…
「ふふふ…」
そんな彼を利用し易いと目を付けた者がいた。