ネトゲの嫁ともっとイチャイチャできないと思った?   作:Losusu

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原作2巻およびアニメ5話終了後の時系列になります。
ただし特に本編のネタバレはありません。


リアルのあの子とはデートできないと思った?
プロローグ


 

「……そうだ、デートだ。デートをしよう!」

 

 金曜の夕方、ネトゲ部の部室内で、俺は思い切って言った。

 PCをシャットダウンし、帰宅の準備をしていた瀬川やマスター、アコの視線がいっぺんにこちらへと集中する。

 

「は? いきなりなに言ってんだよ……じゃなかった、言ってんのよ」

 

 とシュヴァインのキャラが抜けきっていない瀬川。

 

「ふむ、どういうことかなルシアン」

 

 マスターは顎に手をやって、考えるそぶりを見せた。

 

「え、デート……?」

 

 そしてアコはと言えば、きょとんとして、大きな目をパチパチさせながら俺を眺めている。

 

「あー、知らないのか、みんな。出餌屠(でえと)っていうのは、古代の中国で――」

 

「もうそのネタはいいから」

 

 ついボケようとした俺に、瞬時にして瀬川のツッコミが襲い掛かった。ネトゲ部での付き合いが始まって以来、どんどん切れ味が上がっているな。あなどれない。

 

「わかったよ。その、思ったんだけどさ、俺とアコがリアルでデートをしてみたらどうかな、って」

 

「なに? ツッコミどころしかないんだけど」

 

「ほう……」

 

「わたしとルシアンとでデートですかー」

 

 3人がほぼいっせいに口を開いた。うーむ、少し言葉足らずだったか。

 

「いや、あれだよ。最近ただみんなでネトゲを楽しんでるばっかりで忘れつつあるような気がするけど、この部活の目的って本来はアコにリアルとゲームの違いを教えて更正させることだったよな」

 

「そういえばそうだったわね、フツーに忘れてたけど」

 

「うむ、ただの仲良しネトゲ同好会と化しつつあるのは否定できない事実だ」

 

 瀬川とマスターは揃って同意を示したが、アコのほうは、

 

「えー。たいした問題じゃないのでは?」

 

 と他人事のようだ。

 

「問題しかねえよ。なかば無理を通して立ち上げたのに、いったいなんのための部活かわからなくなるだろ。そこで、リアルでのデートってわけだ」

 

「うーん、でもデートならLAでもよくやってますよね?」

 

「デートというか、ただのペア狩りだろ、それ」

 

「デートと違わないと思いますけど……」

 

「違うんです、玉置(たまき)さん。そういうのは違うんです」

 

 という俺たちのやり取りをジト目で眺めていた瀬川が、たまりかねたとばかりに横槍を入れてくる。

 

「あのさ、あんたとアコがデートすることのなにがどうなってこの部の目的に絡んでくるの?」

 

「そこだよ、シュー。アコやマスターもよく聞いてくれ」

 

「はーい」

 

「いいだろう、心得た」

 

 俺は一呼吸置き、大げさに両手を開いてから言った。

 

「思うに、アコにリアルとゲームの違いを教えるっていままで言ってきたけど、いまの俺とアコの距離感、リアルとゲームであんまり違ってないんじゃないだろうか」

 

「はい、わたしはそのつもりです!」

 

「だからそれがいけないんだって、アコ。いまさら言うようだけど、お弁当を作ってきたり、手を組んだり、抱きついてきたり……どう見てもただの同級生じゃない。というか恋人って段階を一足飛びにして、もう夫婦だろこれ。人生におけるエンドコンテンツだぞ。ガチ勢の最後の楽しみ方だよ」

 

「とはいっても、わたしたちは実際に夫婦ですからね!」

 

「――というふうに、我らがアコさんはこの調子だ。ここまではいいかな、2人とも?」

 

「まあ、いままでの流れからも明らかなことではあるな」

 

「……いやいや、アンタたちぶっちゃけもう相思相愛よね? 実質夫婦みたいなもんよね? なに言ってんの、いまさら? ノロケ? ノロケなの? 見せつけてんの? ……おーい、もしもーし?」

 

 素直なマスターとうってかわって瀬川が無限にクエスチョンマークをバラ撒きながらなにかブツブツと言っているが、それはおいといて。

 

「よし、OKだな。そこで、リアルでデートをするってわけだ。いままでは単に一緒にゲームをしてただけだけど、思えば手ぬるかった。俺という男がいかにルシアンと比べて情けないか、いかにリアルとゲームとで違いがあるかを、デートっていうより綿密なスキンシップによって見せつけるべきだったんだ。そして、リアルで俺とアコに相応しい立ち居地を理解してもらう!」

 

「なるほど。年頃の男女として適切な距離感を認識してもらうのは、悪くない試みだ。もっとも――場合によってはあとに引けなくなるかもしれないぞ?」

 

 マスターは悪戯(いたずら)そうな微笑を浮かべた。この人がこういう思わせぶりな態度を取ると、先の展開をすべて見通されているような気がして肝が冷える。

 

「でも、やってやるさ! いつやるの? いまでしょ! ってヤツだ!」

 

 なかばヤケクソぎみにゴリ押しする。もう決めたんだ、このデート大作戦によって、アコの目を覚まさせると! なせばなる、なさねばならぬなにごとも。

 

「――ならぬは人のなさぬなりけり、か。やらないほうがいいこともあるかもしれないがな」

 

 俺の内心を引き取ってマスターが言う。やっぱり怖いよ、この人。

 

「はあ。ルシアンがそう言うならリアルのデートも全然OK、むしろばっちこい! ですが、わたしに相応しい立ち位置って、ルシアンと完全密着状態以外にありえないと思います」

 

 当のアコは、俺渾身のデート大作戦を前にしても微動だにもしていない。スーパーアーマーでも持ってるのか。やはり俺にとってのボスキャラはコイツだ。

 

「面白い、望むところだ。お前に本当の絶望ってものを見せてやる。デートはあさって、日曜の朝8時から! 集合場所は駅前でいいな?」

 

「はい、わかりました。腕によりをかけてお弁当作っていきますから、 覚悟しておいてください!」

 

「いくぞ地雷ヒーラー! 食料の貯蔵は十分か?」

 

 などと互いに宣戦布告しあう俺とアコの向こう側で、マスターは口を押さえて笑いを隠し、瀬川はいまだにブツブツと言い続けていた。

 

 こうして、俺のデート大作戦は幕を開けた。相手は強敵だが、負ける気はない。今度こそ、2人の適切な関係というものをアコに教えてやる!

 

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