ネトゲの嫁ともっとイチャイチャできないと思った?   作:Losusu

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プランB・フロム・リアルワールド

 

「ルシアン~、次はどうしましょう?」

 

 もう西村くん呼びを忘れてしまったアコが、うなだれぎみに俺を呼ばわった。

 

 ショッピングモールにやってきたものの、具体的にどこでなにがしたいという目的があったわけではないので、俺たちはただふらふらしているだけだった。お互い、ウインドウショッピングを楽しんだりするような性分じゃないし、デート自体初体験どうしなので、なにをやっていいのか考えるのも一苦労だった。

 

「そうだな……特に買うものがあるってわけじゃないし、こういうとき世のリア充カップルなら……あっ」

 

 俺は足を止め、通路の奥にあるテナントに目を留めた。

 後ろにいたアコが俺の背中にぶつかり、「きゅう」と声を上げる。

 

「どうしたんですか、ルシアン」

 

「ああ、あそことかどうかな。こういうところ、デートでよく行くんじゃないかなって」

 

 俺が指差した先のテナントは、セイレーンのロゴで有名なコーヒーチェーン店だ。すさまじいリア充空間オーラがここからでも肌にびりびりと伝わってくる。

 

 アコはしかし、すぐさま反対した。

 

「ダメです、ルシアン! あんな場所はシャレオツ気取りの腐れリア充どもが行く場所です! わたしを殺したいんですか!」

 

「そんな大げさな。まあ、入るのにちょっと抵抗があるのはたしかだけど」

 

「いいえ、ちょっとどころじゃありません! わたしとルシアンじゃ瞬殺されて、デスペナでいままでの経験値リセットですよ! だいたい、Gってジャイアントの頭文字じゃないんですか! グランデってなんなんですか! ともかく、あそこだけはダメです! 絶対に、なにがあっても!」

 

 これほど猛反対されるとは思わなかったが、言われているとだんだん、俺もあそこに入るのは危険な気がしてきた。実際、いままで行ったことのない店だ。ずっと針の(むしろ)に座らされるみたいなことになったらイヤだし、やめておくか。経験値リセットはLAでもう十分堪能してるよ。

 

「じゃあ、アコはどうしたい? お前が行きたいところに行こう」

 

「はあ、とは言ってもですね……わたしもこういう経験は初めてなので、特にいい案はないんですよねー。今日は完全にルシアンにおんぶだっこするつもりで来ましたから!」

 

「つまり、いつものパターンってやつだな。まあ、俺もことさら計画を立ててたわけじゃないから大きなことは言えないけど。どうしようかなあ」

 

「というかLAしたくないですか? なんだか指が震えてきました」

 

「さっそく禁断症状かよ! それじゃダメなんだって!」

 

 などと言い合っているうちに、少し開けた場所に出た。シネマコンプレックスだ。実際に何度か利用した覚えがある。この近辺で映画を見るとなれば、ここが一番近いからな。

 

「そうだ、ここはどうだ?」

 

「おお、映画館ですか」

 

「デートで映画。王道だろ、たぶん。デート初心者の俺たちにはぴったりじゃないか。時間も結構潰せるし」

 

「でもいまってなにか面白い映画やってるんでしょうか? わたし、そういうのに(うと)くて」

 

「俺もよく知らないけど……どれどれ」俺はホールの柱にかかっていた上映スケジュールを眺めた。「いまから近い時間なら、この『マーズシェイパーズ』ってやつか。たしか1,000万部ぐらい売れてる人気漫画が原作だったかな。俺は読んだことないけど」

 

「わたしも名前ぐらいしか知らないですねー。でも漫画の実写化って、非常に嫌な予感が……」

 

「うーん、やめとくか?」

 

 俺の問いに、アコは少し考えるようなそぶりを見せてから、

 

「あ、でも実は面白い可能性が微粒子レベルで存在するかもしれません! せっかくなので見てみましょう」

 

「珍しく積極的だな、悪くないぞ、アコ。じゃあ行ってみよう!」

 

「やってみよう!」

 

 という流れで、俺たちはシネコンの中へと吸い込まれていくのだった。

 

 

 

 

 

 ……さて、結果から言おう。ヤバかった。

 

 別に俺は原作厨ってワケじゃない。というかそもそも原作を知らない。そんな俺から見ても、ストーリーは支離滅裂、演出は調子っぱずれ、そしてなんら盛り上がらないのに爆発音だけは耳障りなクライマックス。これに1,500円払うぐらいなら、同じ金を払ってネカフェで3~4時間ほど寝ていたほうがマシだ。

 

 そしてここに、本気で寝ていたのが一人。

 

「ふわあ、おはようございます、ルシアン……」

 

 アコは目をこすり、ゆったりと伸びをした。

 

「お前……開始10分ぐらいから寝てただろ」

 

「えっ、そんなことありま――いや、ありました。ごめんなさい、思いのほか面白くなくて」

 

「まあ、たしかにそれはあるけど」

 

「ですよね? ロシアの映画みたいに素晴らしい催眠導入効果でしたよ!」

 

「それはロシアに失礼だろう、あとついでにルシアンにも。それに俺たちはそんなのに1,500円払ったんだから、安い出費じゃないな」

 

「うっ……たしかに。でもおかげで眠気はすっきりです。これでわたしはあと10年戦えますよ」

 

「俺のほうは、貧乏性でつい最後まで見ちゃったんだけどな。もう茶色い虫はしばらく見たくないよ。……いや、できればずっと見たくないか」

 

「へえ、ちなみにどういう感じの映画だったんですか? 聞かせてください」

 

「ああ、まあ酷い映画なんだけど、まずは――」

 

 お、なんか普通の恋人どうしのデートっぽい会話になってきた気がするな。これはいいことだ。

 俺は熱っぽくさっき見た映画へのダメ出しを語りながら、クソ映画を見るのも悪いことばかりではないな、と思っていた。

 これがデートムービーってヤツか。きっと違うんだろうけど。

 

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