ネトゲの嫁ともっとイチャイチャできないと思った? 作:Losusu
歩きながら、ひととおりアコに話し終わったところで、次に目についたのはゲームセンターだった。
ゲームセンターといえば、動物園だの海猿だの、教育上よろしくないマナーの悪い連中が巣食っていて、とても俺たちのような木っ端オタクじゃ出入りできないイメージがあるが、こういうショッピングモール内のものなら比較的平和だろうか。
「ここ、入ってみるか?」
「はい、ルシアン!」
アコもふたつ返事だ。中はそろそろ昼が近い時間ということもあって、結構人が入っている。大体は小学生から中高生ぐらいの年齢だが、中には大人のカップルや家族連れもいた。
ゲームセンターといえばまずはクレーンゲームだろう。俺は入り口から比較的近い場所にあった
「待ってください、ルシアン! これは狡猾な罠です!」
「は?」
「聞いてください。わたしが前にクレーンゲームをやったとき、すごくかわいいぬいぐるみがあったから、どうしても欲しくて、なけなしのお小遣いを握り締めて挑戦したんです。でも5,000円も使ったのに、ぬいぐるみは取れそうで取れませんでした。不当な収奪です! 持たざる者からの搾取です! いつか必ず訴えてやります!」
とアコは謎にヒートアップしてしまった。まあ、騒ぎ出したときからそんなところだろうとは予想できてたけど。俺はやれやれと頭をかいた。
「お、おう……それはまあ、大変だったな。でも5,000円も使ったんなら、店員さんに言えば取りやすい位置に動かしてくれるなり、いっそ取ってくれるなりしたんじゃないかな」
そのとき、一瞬ラグでも起きたのかと錯覚しかねないようにアコが固まった。大丈夫かー? と声をかけようとしたが、その直前に、少し震えた声で、
「……は? ルシアン、いまなんと?」
「え、だから、店員さんがアシストしてくれるんじゃないかなー、って。いや、どこの店でもそうとは限らないけど、5,000円も突っ込んだんなら、そういうことしてくれる店も結構あるんだよ」
アコはなんとか動き出したものの、まだカクカクとぎこちない。処理落ちしてますよ、アコさん。
「な、そんな、いやしかし、それってチートみたいなもんでしょう……正しき光のゲーマーとして! そういう行為を自分に許すわけには……」
と酸っぱいブドウ的な理論を組み立て始める。
「そうです、そんなことは許されません! BANですよ、通報しちゃいますよ!」
アコの態度は大げさだが、俺もまあ、こういうときにアシストしてもらうっていうのは好きじゃない。あくまで個人の思想だと断った上で言わせてもらうなら、自力で取れなかったものを店員に助けてもらって――そりゃ相当のコストをかけているんだし、調整なしじゃ端から取らせる気がないような設定になっていることもあるらしいけど――取らせてもらう、というのは、ゲーマーとして少し屈辱を覚えてしまう。
「でも、いつものアコなら『あれ欲しいです~』で誰かに取ってもらっても平気そうなもんだけど」
「それとこれとは別ですよ、たぶん。それに、いつもそんなこと言ってましたっけ?」
「無自覚だったのか……。お前、本当にNBKだな」
「はい? どういう意味です?」
「ナチュラル・ボーン・クレクレ姫の略だ」
「なんだろう、すごく馬鹿にされてるような気がしますが、ルシアンだから許せます」
結局、どうしてもやりたいというほどでもなかったのでクレーンゲームはプレイを見送った。
他のゲームはといえば、スロットやら、ワニを叩くゲームやら、対戦格闘ゲームやらがあったが、いまひとつ食指が動かない。アコも特にこれをやりたいと主張してこなかったので、どうしたものかとうろうろしていると、ひとつの筐体の前でアコの足が止まった。
「どうした、こういうのやりたいのか?」
「ちょっと興味があるかも、です」
アコが興味ありげに覗き込んでいるおどろおどろしく装飾された筐体には、2つのガン・コントローラーがそなえつけられていて、デモ画面では、主観視点で次々と襲い掛かるゾンビたちを撃ち殺していく様子が流れている。「レジデンス・オブ・ザ・デッド」という、未プレイの俺でもタイトルを知っているぐらいには有名な、ゾンビ物ガンシューティングだ。
ふと、以前FPSをプレイしていたときのアコの姿が脳裏に浮かんだが、他に当てもない状況で興味を持っているんだから、やめろというのも酷だろう。
「じゃあやってみるか。うん、1Pが男キャラで2Pが女キャラだから、俺が1Pでアコが2Pでいいか?」
「はい、構いません! 派手にやりましょう!」
そうして、俺たちはプレイを開始した。
操作方法は直感的で、さほど難しくはないが、普段プレイしているLAのようなゲームと、ガンコンを用いるガンシューとでは勝手がまるで違う。ステージ1のなかばにして俺はすでに2回ほど死ぬハメになった。
ところがアコはといえば、まさかのノーミス。俺を遥かに凌ぐキル・レシオでゾンビたちを次々と血溜まりに変えていく。
「たいしたことないですね!」
「アコってこういうゲーム得意だったんだな……意外だ」
「得意というほどでもないですが、この手のゲームの敵キャラってLAみたいなほんわかふわふわ系じゃなくて、ゾンビや怪物とかじゃないですか。全然かわいくないですから、だんだんとわたしの嫌いなタイプの人たちと被ってくるんですよね。そう考えてると、内にたぎるリア充どもへの恨み辛みが引き金を軽くしてくれるんです。いまなら何百匹でも撃ち殺せそうな気分ですよ」
「やめてくれ、お前が言うとしゃれにならない」
ふんす、ふんすと鼻息荒くしているアコをたしなめる。
結局、ステージ4でお互いのクレジットが尽きてしまったところで終了したが、アコはまだまだやり足りなさそうだった。
「もっとです、もっと殺したいんです!」
「まあまあ、もう昼だしこれぐらいにしよう、な」
これ以上やらせるとまたリアルによくない影響を及ぼしそうだったので、なんとか俺はアコを筐体から引き剥がした。それに実際、もう12時を回っている。そろそろ昼食を取る時間だろう。
「わかりましたよぅ……あ、ちょっと待ってください。最後にこれを」
「お、プリクラか」
プリクラ――これぞまさしくリア充のためのものだ。禁忌とすべき非人道大量殺戮兵器だ。大体、男性だけでの撮影はお断りって男女差別じゃないのか。世のフェミニストたちはなにをやってるんだ、厳重に抗議すべきだろう。
とはいっても、デートでゲームセンターとくればプリクラを一緒に撮るっていうのは、俺レベルでも納得できる発想だ。いままで気づかなかったけど。
「せっかくなので二人で撮りましょう、ルシアンとわたしが混ざり合い最強に見えるはずです」
「なんだかちょっと卑猥な表現だが、いいだろ、撮るか」
これもまた初めての体験だったので、互いに勝手がわからなかったけれど、証明写真みたいなものだろ、と思いつつ二人してカーテンをくぐった。操作方法は画面と音声でガイダンスをしてくれるようなので、間違うことはなさそうだ。
「盛りとか落書きとかありますけど、なんなんでしょう?」
「うーん。俺たちは初心者だし、普通に撮る感じでいいんじゃないかな」
「そうですね、変なことして、変な顔になっちゃったらイヤですし。でも文字は入れたいかも。ルシアン・アコ・ラブ・エタニティって」
「冗談はPCのパスワードだけにしといてくれ。じゃあいくぞ」
俺は画面をタッチ操作して、通常モードでの撮影を実行した。
「はーい、笑ってー!」
とガイダンスの音声が要求してくる。
うっ、なにもないのに笑うなんて難しい注文だな。俺はなんとか笑いのような表情を顔に貼り付けたが、これでいいんだろうか?
そんなことを考えているうちに撮影は終わってしまった。画面にプレビューが出てきて、これでOKかどうかを音声がたずねてきた。やっぱり俺の顔はしかめっ面のように見える。けれど――
「どうしました?」
「あ、いや、なんでもない。……これでいいかな? 俺はいいけど」
「はい、大丈夫です!」
プレビュー画面で俺の隣に写るアコは、とてもとても楽しそうに笑っていた。
ああ、アコは嬉しいとき、こんなふうに笑うんだな。いままで何度か見てきたはずだけど、こういう形で改めて突きつけられると、なおさらそれが尊いものに思えた。もっともっとこの子の笑顔を見たい。心の奥底から湧き上がってくるこの気持ちは、たぶんすごく大切なものなんだろう。俺にとっても、アコにとっても。
「……じゃあ、行くか。腹減っちゃったよ」
「はい、ルシアン!」
撮影を終え、二人で分けたプリクラの片割れに映し出された彼女の笑顔をもう一度眺めてから、俺はそっとアコの手を取った。お互いの体温が、指先から指先へと伝わりあう。アコの顔を見ると、そこには手元の写真よりも、もっと魅力的な笑顔が花開いていた。