ネトゲの嫁ともっとイチャイチャできないと思った? 作:Losusu
俺たちはショッピングモールを出て300メートルほどのところにある公園へとやって来た。駅からモールへ行く途中でアコが見つけていた場所で、ここで昼を食べようと提案されたのだ。
公園の敷地は思ったよりも広く、開放的だった。色とりどりの草花がモザイク状に並んでいて、まばらに植わった木々がアクセントになっている。ベンチや
公園の隅の比較的ひとけが少ない場所で、手頃なベンチと机を見つけて、俺たちは腰を下ろした。アコがバッグの中からお弁当箱を取り出す。
1つ、2つ、3つ……4つ?
「なんだこれ、多っ!」
「はい、ルシアンのために腕によりをかけて作りました! どうぞ食べてください!」
「どれどれ、うん、これはすごいな」
弁当は、量だけでなく中身も相当のものだった。
いままで何度か食べているが、アコの作る弁当はかなり美味しい。自分に好意を向けてくれている女の子が作ったものだから、という
それに今日の弁当は、初デートということもあってか普段以上に気合が入っていた。LAのモンスターに見立てて飾りつけたウインナーなんか、料理に興味がない俺でも「おぉ」と唸らされる。そして実際に口に運んでみると、うん、おいしい。
「やっぱりアコの弁当は最高だな。おかずは手作りのものを使ったのかな?」
「はい! それも、ちゃんと前日から仕込みをしました! こういうところで一手間かけられるかどうかの差が大きいんです!」
「そういえばきのう、LAにインしてくるのが遅かったな。弁当の仕込をしてくれてたのか」
「ええ、そういうところは妥協しませんから。朝も1時間以上かけたので、待ち合わせに間に合うかどうかハラハラでした」
「たしかに、朝も作業しなきゃいけないか。俺なんてグースカ寝てただけなのに、すごいな、アコは」
「でしょう? なでなでしてください!」
言って、アコはずいと頭を突き出してきた。
「あ、うーん、まあ、それぐらいなら……」
実際、アコが頑張ったのは確かだ。見てるだけでも相当の労力を使ったのがわかる。俺はアコの頭に手を置き、ゆっくりと撫でてやった。
「よしよし、よくやったな。偉いぞ」
「えへへー、ルシアンに撫でられてます~」
アコの顔はこのままとろけてしまいそうなほどに緩んでいた。やべえ、めっちゃかわいい。もういっそこのまま家まで持って帰って部屋に置いておきたいぐらいだ。まあ、さすがに俺にも理性があるのでそんなことはしない――アコのほうは喜んで転がり込んできそうな気もする――けど。
最初は食べ切れなさそうに見えた弁当は、二人の口にどんどん入っていった。そういえば朝ご飯を食べてないんだった。土日祝日は昼起きが前提だから、今日も特に用意してなかったんだよな。手作り弁当が空き腹にしみる。
「ところでルシアン、わたし、ルシアンとやってみたいことがあったんですが、いいですか?」
「ん、なんだ? できることならいいけど」
「じゃあですね……ルシアン、あーんしてください」
「えぇ!?」
アコがにこにこと笑いながら、箸にから揚げを挟んで差し出してきた。
あーんって、つまりあのあーんだよな? バカップルがよくやる? これをパクっとやるんだよな?
「イヤですか?」
「それは、その……」
瞳を潤ませるアコに、おれはたじろいだ。正直かなり恥ずかしい。でもアコの頑張りに応えてやりたいのもたしかだ。ええい、ままよ。俺は目をつぶって、から揚げにかぶりついた。
「んっ、やだ、ルシアン、そんなに大胆に……」
「ごほっ、ぐふっ……そ、そういう誤解を招きそうな表現を使うのはやめて!」
俺はむせ返りながら抗議の声を上げるが、どうせ耳には入っていないだろう。俺が食べ終わると、アコはまた、
「じゃあもう1回、目をつぶって、あーんしてください」
と言ってきた。もう一度ぐらいならいいか、と俺も、ふたたび口を開けて目をつぶる。
――ん? なにか違和感がある。妙に顔の近くに熱を感じるような。……まさか!?
俺は身の危険を感じ、すぐさま目を見開いた。
「うおぉぉぉっ!」
俺の顔のほんの数センチ前に、アコの顔があった。両目を閉じて、口にウインナーを咥えている。なんつー
「お、おい、なにやろうとしてるんだよ、お前!」
「口移しです、夫婦なら普通ですよね!?」
「それはゲームの話! あと夫婦でもたぶん普通じゃないから!」
「でも、お母さんとお父さんはたまにやってますよ?」
娘の前でなにやってるんだ、あの人たち! 俺は頭の中で、アコのお母さんと、まだ見たことのないお父さんにあきれ返った。
「ともかくそういうのはダメだ! 俺たち学生だから! 健全なお付き合いをしないといけないの、わかったな!」
「うう、わかりました……」
アコは咥えていたウインナーをちゅるんと口に入れてから、ちょっと
「はぁ……以前から思ってましたが、ルシアンって結構お堅いんですね」
「メイン盾のタンク役だからな、当然だ」
「もっとやわらかタンクでいいのに……」
「やわらかいのはお前だけで間に合ってるよ」
そう言ってから俺は、いつも抱きつかれるたびに感じるアコの体のやわらかさを思い出してしまい、「いや、頭の中がやわらかいって意味だからな!」と必死に打ち消した。
それからは二人で、他愛もない話をしながら弁当を食べた。
ああ、こういうのいいな。本当の恋人同士みたいだ。もし、アコと恋人になれたらたぶん、いまよりもずっと楽しくなるだろう。
アコは前髪さえなんとかすれば見た目もいいし、なんだかんだで女子力もある。本来なら、世の男たちが放っておかないところだ。そんな、普通なら絶対に俺には巡ってこないような超レアが、いまこうして手元にやってきている。結婚だの夫婦だのはいきなり過ぎるにしても、できればずっと俺のところにいてほしい。この気持ちは嘘偽りのないものだった。
弁当を食べ終わって、ゆったりとしながらそんなことを考えていると、アコがそわそわと声をかけてきた。
「あの……」
なんだか顔が赤い。もじもじと両手の人差し指を突き合わせ、遠慮がちにこちらを見ている。妙に
「どうしたんだ、アコ?」
「ルシアン、せつないです……」
隣に座っていたアコが、いつの間にか距離を詰めてきていた。唇が震えている。なんだなんだ? いきなりどういう状況なんだ、これは? 俺の心臓が打つ回数はどんどん増えていき、アコの顔は少しずつ近づいてきている。俺は喉を鳴らした。これは、つまり、キスとかそういうやつなのか? いや、まだリアルでは恋人にもなってないのにそんなこと……いや、しかし。
さっきは口移しをやめさせたっていうのに、俺の我慢はそろそろ限界にきていた。別に、それぐらいなら。言い訳の言葉はいくらでも後付けできた。アコに重なるように、俺も自分の顔をゆっくりと近づけた。そしてアコは――
「LAです!」
「は!?」
アコが言い放ったセリフは、随分と突拍子のないものだった。さっきまでの焦燥や興奮が、一瞬のうちにすべて収まってしまうほどに。
「LALALA! LAですよ、ルシアン! LAをやりましょう! もう辛抱たまりません!」
アコは俺の両肩を掴み、思い切り揺さぶった。脱力しきった頭と体がぶらんぶらんと揺れる。そういえば映画のときからLAをやりたいって言ってたな。
「そういうことかよ……いや、アコらしいといえばアコらしいか」
ちょっと残念だったような、安心したような。どちらかというと後者よりかな。俺は立ち上がり、アコに手を差し出した。
「じゃあLAするか。たしか、近くにネットカフェがあったはずだ」
「はいっ、リアルデートで、LAデートです!」
「それをリアルデートの範疇に含めていいのかわからないけど……行こうか」
結局こうなるんだよなー。ま、この2人だから仕方ない。
なんだかんだで今日一番わくわくしながら、俺たちは近場のネットカフェへと向かった。まったく、どうしようもないLAジャンキーだと思うよ、実際。