ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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異世界世直し行脚(宇宙開拓史・ロボット王国(キングダム)

 

 

 

 

 

 時空迷宮を超えた先にあるロボット王国に向かうため、タイムマシン改造は大幅に見直された。

 ロボット王国と宇宙開拓史の舞台が同じ宇宙と○×占いが示したが、異世界というただの時間移動よりも行き来の難しい目的地なので、こちらの世界からの追加支援は困難になる。

 そこでロボット王国に派遣する人員は事件が解決したら、こちらに帰還せずに続けて宇宙開拓史の事件に対処することになった。

 

 まず改造タイムマシンを個人用から、宇宙船としても使える大型仕様に変更した。

 もともとのタイムマシンを中枢ユニットとして置き、そこから拡張するように宇宙船としての船体を作り動力を追加して出力を補い、全体の制御を行うコンピューターを搭載した。

 他にも異世界で長期に渡り活動が行えるように、必要な施設や居住区画を船内に建設した。

 かさばる物は四次元ポケットの収納機能の応用でどうにでもなるので、倉庫のような物置スペースはガラガラだが余裕は残しておいて問題ない。

 そうして出来上がったのは姿形はSFチックだが、竜の騎士で恐竜人達が使った大型タイムマシンと同じくらいの物になった。

 

 これから二つの事件を担当する僕のコピー達が、大型タイムマシンに乗り込んでいく。

 オリジナルである僕は、当然この世界に残って彼らの帰りを待つことになる。

 もしもの事があって、唯一オリジナルだけが使える四次元ポケットを失うわけにはいかないからだ。

 

 だがそれは異世界に旅立つコピーの彼らが、宇宙船に用意されたもの以外のひみつ道具が必要になっても使えないことになる。

 かなり反則気味な物から使えるかどうかわからない物まで、出来る限り複製して乗せてあるので大抵の事態に対処出来る筈だが、不安は拭えない。

 タイムテレビでも時空迷宮の先は流石に見ることは出来ないので、大型タイムマシンが出発すれば後は祈るだけになる。

 

 旅立つ実行部隊隊長を含むコピー達を見送るために、オリジナルの僕と少数のコピー、後はドラ丸だけが来ている。

 コピー全員を見送りに来させようかと思ったが、会議室に座るくらいの人数ならいいが一面に広がるほど自分と同じ顔が並ぶのは流石に不気味なので集めなかった。

 

「必要になりそうなひみつ道具は出来るだけ乗せた。

 後は頼んだぞ」

 

「わかってるよ、会長。

 楽観視は出来ないが事件を解決してちゃんと戻ってくるさ。

 うまくいけばこちらでは一日後に戻ってくる予定だしな」

 

「予定ではそうなるが、お前たちは一年以上こっちに戻ってこない予定なんだ。

 不安にならない訳がない」

 

 タイムマシンの機能によって帰還時刻を設定すれば、どんなに長く現代を離れていても時間を経過させずに戻ってこれる。

 だが今度の事件にかける時間は一年以上とこれまでで最も長くなる予定なので、その間オリジナルの四次元ポケットの支援がないというのは不安にならざるを得ない。

 

 任務の行程ではロボット王国の事件はたいして時間を掛けない予定だが、宇宙開拓史の方は一年近く掛かることを予想している。

 これは映画の描写で舞台となるコーヤコーヤ星で、のび太達の遊ぶ姿が季節の移り変わりと一緒に映されていたからだ。

 のび太達の世界とコーヤコーヤ星の時間の流れが違っていたから、わずかな期間で季節の移り変わりが映されたのだが、あちらの世界にずっといるとなると4シーズン一年としてそれだけ滞在することになると考えられる。

 それだけ長い期間戻ってこれないとなれば、同じ思考を持つ隊長達も当然心配になるだろう。

 

「戻ってこなければ第二陣を送らなきゃいけなくなる。

 そうなった時のお前たちの捜索も考えないといけないと思うと、不安で仕方ない」

 

「帰ってこれなかった時の話だろう。 もっと気楽にポジティブに考えよう。

 僕等はちょっとした旅行気分で楽しんでくるつもりでいくよ」

 

「なんで僕のコピーなのに楽観視できるんだ?」

 

「当初の目的に気づいたからかな」

 

「当初の目的?」

 

 事件の解決以外に何かあったかと考えるが思い出せない。

 

「深刻に考えすぎてたんだよ。

 僕等も少し前まで不安で一杯だったけど、うじうじしてても仕方ないから前向きに考えようと思ったんだ。

 せっかく僕等だけが異世界に行けるんだから、遊んでくる気で行って来ようってね。

 そしたらのび太達がコーヤコーヤ星でガルタイト工業相手にスーパーマンごっこやってたのを思い出したから、僕等もどういう風に弄ってやろうかと相談し始めたら、いつの間にか不安はなくなってたよ。

 僕等の当初の目的はひみつ道具の力で安全に冒険したりして楽しむことだったんだから」

 

「そういえばそうだったな」

 

 四次元ポケットを手に入れた当初はそんなことを考えていた。

 大きくなったらひみつ道具で何やろうかいろいろ考えてたけど、映画の事件が起こるのがわかってそれどころじゃなくなったんだ。

 それから急いで映画の事件の事を調べて必要な物を準備して、ハラハラしながら事件に対処して解決の報告を待ってたんだ。

 MS開発とか結構楽しんでたけど、当初の目的は劇場版のドラえもん達のように危ないのは嫌だけど冒険をして楽しみたかったんだ。

 

「向こうの人達には言ったら悪いけど、今回の事件は直接地球が危機に陥るような事件じゃない。

 多少の失敗でも挽回出来るだろうし、最悪逃げ帰ってきても問題ないんだ。

 そうなるのは後味悪いから気をつけるけど、僕等がそれほど気負う必要はないんだ」

 

「うん………まあそうだな」

 

 隊長に言われると、それほど不安になる要素はないことに気づく。

 長期に渡っての任務というのが、予想以上に不安を駆り立てていたらしい。

 

「本当に何かあったらすぐ戻って来いよ。

 大型タイムマシンに何があった時のために、小型の改造タイムマシンをそれぞれ渡してあるんだから」

 

「わかってる、面白い土産話を用意してくるから安心してくれ。

 それじゃあ行ってくる」

 

 隊長達が大型タイムマシン、時空宇宙船のハッチから乗り込む。

 入り口のハッチが閉まると時空宇宙船から駆動音が鳴り響き動力炉が動き出したのを感じる。

 飛行装置により巨大な時空宇宙船が僅かに浮かび上がると、時空間に入る時の独特な音が鳴り響いて、時空宇宙船は超空間に入り異世界の宇宙に旅立っていった。

 

 帰還は一日後の予定だが長旅になるだろう。

 旅立つ前に一度は不安は拭えたが、旅立った後に残されてみると物寂しいものを感じてしまう。

 旅立ったのも残されたのも同じ中野ハジメだというのに。

 

「殿、そんなに心配することはないでござるよ。

 先ほども言ったとおり、大して難しい事件ではないでござる」

 

 思い浸っていると隣にいたドラ丸に声を掛けられた。

 

「そうなんだけど、誰かの旅立ちを見送るってのは感慨深いものがあってな」

 

「しかし、会長の殿はいつも見送る側では?」

 

「大抵タイムテレビで通信が出来る範囲だったからな。

 流石に異世界となるとタイムテレビでも通信が届かない。

 完全に結果を待つだけなのがもどかしいんだ」

 

 こんなことなら一日後じゃなくて一時間後位に帰還するように予定しておくべきだったかと思うが、それも少々せっかちすぎるかと自分を落ち着かせる。

 自分がこんなに待つのが苦手だったのかと思いながら、ドラ丸に自分の感じているもどかしさを伝える。

 

「そうでござるか。拙者も今回は留守番なので少し退屈でござるよ」

 

 今回は会議の結果、ドラ丸は残していくことになった。

 ドラ丸は僕の護衛のために作ったのだが、僕等と違いコピーを作ってはいない。

 もしもの事があった時にリカバリーが効かないので、初めての異世界旅行の護衛は遠慮してもらった。

 

 護衛対象ではなく護衛の心配をするのは本末転倒な気がするが、ドラ丸のコピーは作りたくなかったのでこの意見を通した。

 僕等自身はポンポンコピーを作っているが、僕は心がある存在を人だろうがロボットだろうがコピーすることを心に対する冒涜だと考えている。

 

 人の意識のコピーや生物的なクローンの話はよく聞くが、コピーされた側は大抵が自分の存在に疑問をもって苦悩するものだ。

 オリジナルの方にしたって許可してコピーを作ったのでない限り、自分と同じ存在を受け入れるのは難しい。

 どちらが本物かなんて対立もよく耳にするが、偽物だったほうの苦悩は計り知れないだろう。

 

 そんな事態にならないようにドラ丸のコピーは作らないし、僕自身も僕のコピーに対してはその存在を尊重している。

 自分のコピーを作っているのは自分自身ならいいやと思ってるのと、自分がコピーだった時どのような扱いまで許せるかと考えて、僕の思考をコピーしたのならその考えも受け継がれるからだ。

 最大の要因は一人に統合出来るという取り返しがつくことだけどな。

 

「しかしほんとに同行しなくてよかったのでござるか?」

 

「長旅の不安はあるけど、戦力自体は十分だろう。

 あの様子なら逆に遊び過ぎてアニマルプラネットの時みたいにならなきゃいいけど…」

 

 MS兵や原寸MSの戦力も当然時空宇宙船に積んである。

 最近はバリアーも搭載した機体も制作して、近くにいる人を内側に入れる事で守ることも出来るようにしてある。

 護衛としてもしっかり機能するので身の危険についても問題ない。

 

 やれることはやり切った。

 後は本当に待つだけだが、どうにも落ち着けない一日になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待つことに少しばかり疲れを感じた一日後。

 隊長達の乗った時空宇宙船が無事に僕等の元に戻ってきた。

 時空宇宙船から降りてきた隊長達を出迎えたが、コピーが一人減っていたことに気づく。

 コピーとはいえ、初めての犠牲者が出てしまったのではないかと危惧してしまう。

 

「おかえり隊長、事件は無事に終わったのか?

 出発した時より一人減ってる気がするが…」

 

「ただいま会長。

 一人は、シローはコーヤコーヤ星に自分の意思で残ったよ」

 

「シロー? 名前を決めたのか。

 けどなんで残ったんだ?」

 

 長期の活動ならコピー達が各々を識別するために名前を付けても可笑しくない。

 だけどなぜコーヤコーヤ星に自分の意思で残ったのだろう。

 

「それが何というか……シローはあっちの星で結婚した。

 そのまま向こうで永住して骨を埋める気らしい」

 

「「はあぁぁ!?」」

 

 予想外の答えに僕を含む出迎えていた全員が驚愕して声を上げる。

 

 なぜ結婚しているのか、どうしてそうなったのか、何を考えてこっちに戻ってこなかったのかと疑問がいくつもが浮かび上がる。

 結婚云々はともかく、残ることを許した隊長の考えも気になる。

 僕等はひみつ道具という表社会に広めたらまずい技術を持っている存在だ。

 四次元ポケットを持っているオリジナルの僕ほどではないとはいえ、コピー達も恩恵を受けるために四次元ポシェットにひみつ道具を入れて配っている。

 そんな存在を一人で自由にさせたら危険なのは隊長だってわかっているはずだ。

 

「結婚!? どうしてそうなった!」

 

「僕が結婚してる!? いや、僕じゃないのだろうけどコピーの一人が結婚してるってなんか複雑」

 

「抜け駆けなのか? 僕ら恋人だって持ったことないのに…」

 

「そもそも僕等って何歳だっけ? 肉体年齢は15歳くらいに調整してるけど」

 

「現在の表世界で存在している僕は今頃2歳くらいか?」

 

「どっちも当てにならんだろ。 精神年齢が基準になるんじゃないか?」

 

「なおのこと僕等の年齢がわからなくなるぞ。 コピーの統合をしたら総合経験年数がとんでもないことになる」

 

「15歳でいいんじゃないか。 外見年齢基準で」

 

「そうだな、タイム風呂敷があれば年齢なんて関係ない」

 

「ところで15歳なら結婚できるのか?」

 

「コーヤコーヤ星の様な異星なら出来るんじゃないの? 結婚出来る成人年齢は文化ごとに違うんだし」

 

 結婚という単語に触発されて、コピー達がワタワタと議論を始める。

 自分と同じ存在であるコピーが結婚したというのは僕も相当ショックだったし、同じコピー達も同じくらい混乱している。

 事件がどうなったかも気になるが、結婚したコピーの事を先に聞きださねば。

 

「落ち着け、僕のコピー達! 今は何があったのか聞き出すべきだ。

 隊長、いったい何があったんだ? それにどうしてコピーが残ることを認めたんだ。 そいつが持ってるひみつ道具は大丈夫なのか?」

 

「会長も落ち着いてくれ。 シローが持ってたひみつ道具はちゃんと回収してある。 本人がひみつ道具を手放してでもコーヤコーヤ星に残るって言ったんだ。 それで結婚に関しても本気だと悟って残ることを許したんだ」

 

 結婚したコピー、シローは自らひみつ道具の力を手放したらしい。

 同じ存在である僕としては、正直信じられない話だ。

 厄介ごとがたくさん付いてきたがほぼどんな事でも出来るひみつ道具に頼りっぱなしの僕が敢て力を手放すとは思えなかった。

 

「もっと詳しい話を聞かせてくれ。 事件の報告は後回しで構わない」

 

「まあ、そうだよな。 どうしてこうなったのか問い詰められるだろうと思ってたし。

 とりあえず会議室で説明するよ。 報告書についてもまとめてさ」

 

 隊長も少し困った様子で説明を渋っている。

 彼にとっても結婚は予想外だったし、説明しづらいものがあるのだろう。

 同じハジメなのだから。

 

 

 

 

 

 会議室にて、隊長と各部署の代表が集まって報告を聞く体制が整った。

 順番的にはロボット王国の事件が先だが、まずコーヤコーヤ星に残ったコピーについて聞くために宇宙開拓史の報告を聞く事になった。

 

「当初の予定通り僕達はロボット王国の事件が終わった後に、宇宙開拓史の舞台のコーヤコーヤ星に向かった。

 ロボット王国での事件は作戦通りに解決させたので、後から報告書を見てくれ。

 宇宙開拓史も予定通りガルタイト工業に襲われて超空間に遭難していたロップル君を助け出した後、コーヤコーヤ星に行ってそこでガルタイト工業から住民を守る用心棒を一年ほどやっていた」

 

 映画における宇宙開拓史の話はのび太の部屋の畳と、コーヤコーヤ星の少年ロップルの持つ宇宙船の倉庫の扉が、事故と故障で繋がった事から始まる。

 事故の原因はコーヤコーヤ星の住民を追い出そうと地上げ屋のような真似をするガルタイト工業が、ロップルを宇宙で追い回して危険なワープをさせられたことが原因だ。

 ドラえもん達は故障した宇宙船をタイム風呂敷で直したが、扉は地球と繋がったままで地球とコーヤコーヤ星の交流は続いた。

 そんな間にもコーヤコーヤ星の住民へのガルタイト工業の嫌がらせは続き、ドラえもん達は正義感から住民を守るために立ち上がる。

 コーヤコーヤ星では地球人は重力が弱い御蔭ですごい力を発揮し、スーパーマンとしてのび太達は活躍することが出来た。

 最後にガルタイト工業のコーヤコーヤ星破壊を阻止することで平和になるのが映画の流れだ。

 

 隊長は映画の情報からの作戦で、ドラえもん達のようにコーヤコーヤ星の住民を守るためにガルタイト工業の嫌がらせを撃退し続けた。

 当初の予定では隊長だけが表に出て住民と対話する予定だったが、他のコピー達が難色を示した。

 他のコピー達はバックアップの予定だったが、のび太達でも容易に撃退できたガルタイト工業があまりに弱かったので、手持無沙汰になってしまった。

 やることがないコピー達は一年近く引き籠る事に耐えきれないと相談して、ひみつ道具を駆使して年齢や顔を少し変える事で、隊長とは別人の家族や親戚として動くことになった。

 それぞれ名乗る名前として数字に因んだ日本語名にしていたので、話題のコピーは四朗からシローと名乗ったようだ。

 

 コピー全員が表に出るようになって更に手は広がり、ガルタイト工業の嫌がらせは即座に撃退されて住民の安全は守られた。

 映画では出なかったような住民への嫌がらせもあり、ひみつ道具を駆使して事前に察知しすぐに対応し続けた。

 隊長達はそれぞれ散らばって何処ででも嫌がらせを行う敵を撃退していた時に、人質になった女性を一人のコピーが助けるという展開が起こった。

 それを聞いた会議室にいる隊長以外の僕等は後の展開に察しがついた。

 

 想像通り助けられた女性が助けたコピー、名乗った名前がシローに惚れてアプローチを始めた。

 コーヤコーヤ星の住民の用心棒として活躍していた隊長達は、殆どの住民に好感を持たれていて若い女性達にも人気があった。

 隊長達もそう簡単になびく様なことはなかったが、助けられた女性はシローにのみアプローチを続けたことで押し込まれてしまったらしい。

 何があったのかと邪推するのも野暮な話だと、隊長達がいうくらいにシローと女性の関係は深まってしまい、事件解決後には結婚と同時にコーヤコーヤ星に残ることを決めてしまったそうだ。

 

「なんてテンプレな展開で、恋は盲目というべきか。

 それが自分のコピーが体験すると思うと複雑な気分になる」

 

「目の前でそういう関係に至るのを、直接見ていた僕等だって目を疑ったよ。

 見ていてほんとに自分なのかと思うくらい彼女に夢中になって幸せそうだったんだ。

 諦めて帰るように説得もしたけど、ひみつ道具を返して星に残ると即答する始末だし、同一人物だからか共感も覚えて、その幸せを壊したくないと思ったから無理強い出来なかった」

 

 隊長の感性は一年別行動をしていたとはいえ僕自身とそう変わらない。

 そんな隊長が認めてしまったのなら、僕も同じように認めたのだろうと納得出来た。

 ひみつ道具も拡散しないように回収してきたのならいいが、残ったコピーの今後が気になる。

 

「コピー、いやシローはコーヤコーヤ星に残った後どうするつもりだったんだ?

 ひみつ道具なしの僕等なんて大したことは出来ないだろう」

 

「最初は僕もそう思ってひみつ道具に関係ない道具をいくつかおいてきたんだが、事件対策に鍛えた技術が向こうでも結構役に立ったんだ。

 向こうの宇宙船のワープ機能は僕等が手に入れた物より性能が悪いみたいで改良の余地があった。

 それ以外にもロボット技術が十分通用したから、それで飯食っていけるみたい。

 それでコーヤコーヤ星に研究所作って、そこで技術を売って暮らしていくらしい」

 

 なるほど、僕等が事件のために培ってきた技術が向こうでの生活の基盤になったのか。

 ひみつ道具に比べたら大したことのない技術なのだが、今の地球でも一世紀は経たないと追いつけない技術だろう。

 それがあればひみつ道具が無くても自立していけるという事か。

 

「なるほど、シローがひみつ道具なしで生きて行けるか不安だったけど問題ないわけか。

 というかコピーでも僕にそんなアグレッシブな行動が出来るとは思わなかったよ」

 

「そうそう、なんというか兄弟の一人が一足先に大人になったって感じ?

 或いは独り立ちした子供を思う親の心境?」

 

「自分と同じ存在なのにどうしてそんな過保護な親みたいな気持ちになるんだか」

 

「自分ではうまくやれるかどうかわからないからこそ、心配になるし不安になるんだ。

 ひみつ道具を抜きにしたら僕等なんて大したことはないだろ?」

 

「ドラえもんもポケットがないと安物の中古ロボットだって自称してたしな」

 

「四次元ポケット無かったら僕ら、何も出来ずに映画の事件で地球の滅亡と一緒に死んでただろうな」

 

 もしそうだったら地球は核の炎に包まれて大洪水が起こり鉄人兵団が人間を攫い恐怖の大王が舞い降りてきただろう。

 映画の事件で対処出来なければ起こる地球への被害を考えるとこんなことになる。

 ひみつ道具があるとはいえ、自分でもよく対処しようなんて考えたものだ。

 自分では思っている以上にアグレッシブな性格だったのかもしれない。

 

「事件の敵のガルタイト工業に関しては、作戦通り惑星コア破壊装置を押さえる事で、それを証拠に警察に捕らえてもらった。

 可能ならガルタイト工業の使ってた牛の角が付いた宇宙船を奪取しようとしたけど、技術的に得られるものが少なかったから、敵対した時にさっさと破壊した。

 後は地球にはないガルタイト鉱石を可能な限り回収してきた。

 映画通り面白い特性だから、ちょっとした技術の発展に繋がるかもね」

 

 コーヤコーヤ星での利益はこんなところだ。

 

 隊長のコーヤコーヤ星での事件の報告は終わった。

 コピーの一人が戻って来ないという予想外の事態もあったが無事に解決して戻ってきたのはよかった。

 異世界の宇宙という特殊な場所での活動だったので不安だったのだが、コピーの一人が結婚するというインパクトにすっかり吹き飛んでしまった。

 続いてロボット王国の報告になるが、宇宙開拓史の前に片付けている事件なので安心して話は聞けそうだ。

 

「ロボット王国では何も問題なかったか」

 

「ああ、予定通りに解決したよ。

 デスターの対処は容易だったけど、ジャンヌの説得は一番ややこしい結果になった」

 

「やっぱり僕等で説得は無理だったか」

 

「ああ、だけど御蔭で僕等もいろいろ考えさせられる事になった」

 

 

 

 映画でのロボット王国(キングダム)はのび太達の世界に時空間を漂流して流れ着いたロボットの少年ポコを元の世界に送り返す事から始まる。

 送り返すためにのび太達が来た世界の国、キングダムでは君主制の元に人間とロボットが共に暮らしていたが、王女ジャンヌの命令でロボットから感情を抜き取るロボット改造計画で、国のロボット達は危機に陥っていた。

 そんな国の混乱に巻き込まれたドラえもん達は、ポコに協力して友達だったジャンヌを説得しようとするが、政策を押し進めるように仕向けた黒幕のデスターがジャンヌを亡き者にしようと謀略をめぐらせる。 追い込まれたジャンヌを助けたポコとドラえもん達は説得に成功し、国を意思の無いロボットによって支配しようとしていたデスターと戦うことになる。

 

 その後の展開はデスターを倒し国に平和が戻ってめでたしなのだが、僕等にドラえもん達のような人徳はなくポコと協力して説得を試みたが、デスターの妨害を押しのけても意固地になっているジャンヌは話を取り合うことはなかった。

 

 王女ジャンヌがロボットの感情を抜き取る改造命令をデスターに唆されたとはいえ実行したのは、父親であるエイトム国王がロボットを庇って事故で死んでしまったことにある。

 エイトムは自分の意思でロボットを庇ったが、父親の死を目の前で目撃してしまったジャンヌは理解は出来ても感情では納得出来ずにロボットを恨むようになり、デスターの謀略に乗せられることになった。

 幼い頃からの付き合い故に情があったポコとその母親である自身の養育係でもあったマリアには改造を実行に移せなかったが、その情を断ち切ろうとデスターに襲われた事でポコはこちらの世界に流れ着いた。

 

 デスターの排除はMS兵を使えば力ずくで片付くので何も問題なかったが、ロボットへの恨みに捕らわれているジャンヌの説得が僕等では出来なかった。

 説得の失敗は僕等では力不足だと予想はしていたので、別の手段も用意はしていた。

 幼い頃からの友達だったポコが説得すれば諫められるかと思ったが、出来なかった以上用意していた最も有効であろう手段を使った。

 ジャンヌを説得しうる人物、死んでしまっている父親であるエイトム国王を連れてきた。

 

 無論死んでいなかったとかいうわけではなく、タイムマシンで生きていた頃から事情を説明してついてきてもらった。

 エイトム国王は人とロボットが共存する王国を推進していたので、現状のジャンヌの政策には賛同するはずがなかった。

 ジャンヌも死んでしまった父親の言葉なら聞かざるを得ないだろうと説得役に連れてきたのだ。

 

 当然最初は死んだ父親を前にすれば困惑して偽物だろうと疑ってかかったが、過去から連れてきたと説明すれば実の父親を偽物と間違える筈もなく、ジャンヌはあり得ぬ再会に涙を流して父親に縋りついた。

 ジャンヌの嗚咽が収まれば、エイトム国王はロボット改造命令を取りやめるように説得する。

 父親の死に捕らわれていたジャンヌも本人の説得には素直に従い、政策の撤回を了承した。

 

 これで事件は解決したのだが、死んだ人間を未来に連れてきて説得させたことによる弊害があり、先に言ったややこしい結果のことだ。

 この時点では実害はないのだが、死ぬ運命の人間がそれを望まない人間と本来あり得ない形で再会したのなら望むことは予想はつく。

 死んでしまった父親にはまた一緒にいてほしいと思うのは当然だし、自身が死ぬ未来を知ってしまえばそれに抗おうとするだろう。

 だがここで過去を変えてしまえば今の騒動自体が無かった事になるが、それでは連れてきた意味自体が無くなってしまう。

 そうなればタイムパラドックスの発生に繋がるので、不本意であってもエイトム国王にはそのまま過去に帰ってもらわねばならないのだ。

 

 ジャンヌは当然のように父の死の運命を変えようとするが、エイトム国王は素直に過去に帰ることを了承していた。

 話が拗れるのは予想していた事態なので、エイトム国王には説得が終わったらそのまま過去に戻り、未来の情報を忘れてもらうことを条件に来てもらっていた。

 過去で事情を説明した時に受け入れない可能性も十分あると思っていたので、国王のコピーロボットを代理で連れて行くか、それでもダメなら相手に行動を強要するタイプのひみつ道具で無理矢理説得するしかなかっただろう。

 だが自分の望む国の在り方と正反対の事を未来の娘がやっていると伝えれば条件に同意してくれるかもしれないと思い伝えると、エイトム国王は困惑しながらも応じてくれた。

 こうして過去を変えようと望むのはジャンヌだけになったが、エイトム国王が優しく説得することで現在を受け入れた。

 

 説得が終われば死んだ人間がいる事が発覚しない内に、エイトム国王を過去に送り返すようにタイムマシンに乗せた。

 ジャンヌと共に世話になっていた事のあるポコは名残惜しみ、エイトム国王は国の未来を思いながら二人に激励して別れの言葉を告げた。

 エイトム国王を連れて過去に戻ったら【ワスレンボー】を使って、僕が頼みに来てからの記憶をすべて消そうとした。

 約束通り拒むことなく記憶の消去を受けようとしたが、その前に僕はエイトム国王に尋ねた。

 

『自分が死ぬ事を知っても約束だからとはいえ、なぜ素直に記憶を消すことを受け入れられるのか?

 記憶を消さなければもしかしたら死ぬ未来を回避出来るかもしれないのに』

 

 歴史通りになってくれなきゃ困るのだが、国王がなぜ素直に未来の死を受け入れられるのかどうしても気になった。

 エイトム国王の答えは僕には理解出来ない物だった。

 

『この星は私たちがこの手で開拓を始め、そこに人間とロボットが手を取り合って作り広げてきた国なのです

 本来国というものは時間を掛けて作る物で、おそらく私の代では国を強固なものとして安定させるのは無理だと考えていました。

 そこで私は人間とロボットの共存を広める事で、私が死んでもその願いが未来永劫続くように皆に広めていました。

 そう遠くない未来に事故で死ぬ事になるとは流石に予想もしていませんでしたが、自身の死後の国の事はすでに考えていたのですよ。

 だからこの願いを受け継いでくれる者がいるのなら、いつでも王座を譲ることも死ぬ事も受け入れられたのです。

 私の死後のジャンヌとポコに会う事になるとは思いませんでしたが、未来の二人に私の意思をしっかり伝えられたのは幸運とすら思っています』

 

 エイトム国王はまるで悔いのない表情で、この出来事を幸運とすら言い切った。

 諦めて達観しているのとは違い、死ぬ運命だと知ってもなお未来に希望を見出している。

 そんな目をしながらジャンヌとポコの存在を思い浮かべている姿に、僕は尊敬の念を抱いた。

 

 死ぬとしても自身の意思を受け継いでくれる存在がいるだけで安心出来る、それは立派な大人或いは親の姿だと思った。

 人は一人では大したことは出来ず、多くの人間が力を合わせる事によって文明を作り上げ、その子孫がさらに発展させて現代まで様々な技術を積み重ねてきた。

 言ってしまえば当たり前のことで誰もが解っていることだが、大抵の人間は先達から学んだ物を自らが発展させて得た物の全てを簡単に誰かに受け継がせようとはしない。

 

 自分が苦労して生み出し大事に育てた物なら、地位や技術でも簡単に手放すことが出来ずに後生大事に持っているものだ。

 死後にそれが広まって偉大な先人と呼ばれるようになるのだとしても、生前から死後の事を考えて後継者に譲ってしまうのは死期を悟った者くらいだ。

 エイトム国王はまだまだ働き盛りで、事故が無ければ半世紀は生きられただろう。

 それでも既に自分の後の事を考えて、それを心の底から受け入れられていることに、僕はただすごいとしか思えなかった。

 

 自分より国の未来を考える王様としては立派な考えだが、人間というものは一つの役職だけに生きているわけじゃない。

 大抵の人なら他にもやりたい事があるだろうし、それをするために長生きもしたいと思うはずだ。

 王の役目を譲ったのならそれ以外の事に尽くすことが出来る筈なのに、死ぬとしても役目を受け継ぐ者がいるだけで安心感に満たされるなら、どれほど王の役目に全てを掛けているのか想像も出来ない。

 

 その心の在り方に尊敬出来るが、僕は真似しようとは思わないし出来ないだろう。

 命をかけてまでやりたいことはないし、ひみつ道具のお陰でやろうと思えば出来ない事を見つけるのが難しい。

 いろんな道具の開発に今は凝っているがあくまで趣味の範囲で、自身の生涯をかけてやり遂げようという気概のあるものではない。

 簡単に寿命で死ぬ気もないのでタイム風呂敷で若さを維持するつもりだし、事故や病気などで死ぬ気もないので反則級のひみつ道具で対策も既にとっている。

 ひみつ道具があるからどんな難しいことでも簡単に達成出来そうなので、自分の全てを掛けようという気概にはそうそうなれないだろう。

 

 自分には到底出来ない事だからこそ、僕はエイトム国王を尊敬した。

 正に生涯をかけて国を育み、自身の子とはいえ道を外しかけていた者に安心して全てを預けて死を受け入れられるほどの度量。

 真似したいとは思わなくても、僅かな間に一人の人間の生涯を語られたようなそんな重みと感動を覚えた。

 比喩するなら人の命の輝きを見せられたってところか。

 

「事件とはかなり話がそれたけど、エイトム国王と最後に話した後に記憶は消して元の時代に戻ってからジャンヌ達とデスターの反乱を鎮圧して事件は解決した。

 回収してきた技術の中でロボットのAIが一番発達してたロボット王国だったけど、一番の収穫はエイトム国王との対話だったと僕は思うよ」

 

「それは良い経験が出来たと喜ぶべきなのかな。

 死ぬ筈の人間を過去から連れてくるから説得に余計に苦労するか、ひみつ道具で意思を無理矢理捻じ曲げなきゃいけなくなったと思ったんだが」

 

「幸いにもそんなことにならずにすんだよ。

 そうなったら事件が解決しても後味が悪いだけだからな」

 

 ひみつ道具を使う中で一番やりたくないのが時間移動による歴史改変、次いで人の心を操作してしまう道具だ。

 もともとドラえもんの使う道具だから玩具みたいに効果が冗談で済むものが多いが、応用することで凶悪な効果になってしまうものが多数ある。

 相手に頼みごとをするような道具も多数あるが、言い方を変えれば限定的な洗脳の道具に聞こえる。

 悪用する気はないがあまり使いたくない分類の道具ではある。

 

「エイトム国王には結果的にいろいろ考えさせられた。

 ひみつ道具のお陰で何でも出来るけど、本当にやりたいことを見つけるのが難しい。

 今はいいけどいつか全力で成し遂げたいと思う事を探したいと思った」

 

「聞いた感じ物語の主人公か重要なキーキャラクターみたいだな。

 僕等にも考えさせられるきっかけを与えるなんて」

 

「確かに映画での重要人物ではあったしな」

 

 結局亡くなってしまうのを僕等には止められないが、あの時既にエイトム国王は立派な偉人だったのだろう。

 誰かに自分の思想を継がせようとする姿勢が常に誰かに影響を与えているようで、少し話しただけで僕等もいろいろ学ばせられることになった。

 あんな風になることは出来ないだろうが、頭の片隅にでもあの姿勢を見習ってみようと思う。

 

 

 

 

 




 この話は別に自身の結婚願望を閉めた訳ではありませんよ。
 ただ思い付いたネタをを描き切った結果です。

 国王も独自の設定ですので、どんな人物か劇中では出ていない筈です。

 ドラえもんの道具は強力ですが、物語に一番重要なのは主人公側の人徳だと思いました

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