ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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 短めで終わらせるつもりだったのに、三話構成になってしまった。
 なんでこうなってしまったんだろうと後悔している上に難産だったので文章の書きかたに納得がいかない。

 長編は鉄人兵団でやりたいと思っているのです。


 この話は世界を作る過程で歴史を改竄することによる影響を考察した内容になります。
 書きたい自体を書いていたらこんなに長くなってしまいましたが、他の人には面白くない設定ばかりの話に見えるかもしれません。
 途中でつまらなくなったら飛ばしてもらっても結構です



世界を作ってしまうという事 前編(創世日記)

 

 

 

 

 

 謎のロボット達にタイムマシンごと捕らえられた僕等だが、危害を加えられる様なことはなくタイムマシンの中で待機しているように指示された。

 僕等が連れてきてしまった少年を見ていたエモドランとも合流して、少ししてから大型のタイムマシンから数人の人間とロボットが乗り移ってきて、僕達の前に現れた。

 現れた三人だが人種の違いから顔の識別がし辛いが、どう見ても同じ顔と背丈の同一人物にしか見えない人間だった。

 服装の違いくらいしか違いが見受けられないが、三つ子なのだろうか。

 

「一応こちらから自己紹介をしておこう。

 僕等は中野ハジメ、ちょっと地球の問題を解決して回ってる科学者の卵みたいなものかな。

 あまり他者との交流がない上にいろいろ事情がある立場だから、うまい自己紹介が出来なくてね。

 気になることがあったら随時質問してくれ。

 答えられるかどうかは別だけどね」

 

 軽口を叩くようにTシャツにジーンズを着た私服に腕章を付けた少年が代表の様で自己紹介をしてきた。 

 

「僕はビタノ、一応この中のリーダーを務めています。

 こっちの二人は補佐のカルロスとマンティ。

 そしてこっちがこのタイムマシンの持ち主のロボット、エモドランです」

 

「カルロスです」

 

「マンティです」

 

「僕エモドラン、どうぞよろしく」

 

 カルロスとマンティは捕らえられた手前不機嫌そうに名前だけを告げ、それに対してエモドランは誰に対しても変わらない陽気な自己紹介で答える。

 

「なるほど、大体わかってはいたが予想は間違っていなかったか」

 

「予想?」

 

「ああ。 とある事情で僕等は未来に起こる事象のいくつかを知っている。

 それがいろいろ地球で問題になるようなことが多いから、対処して回るのが僕等の仕事なんだ。

 君等の事も僕等の仕事に関係しているんだ」

 

「未来に起こる事象というと、未来を知っているという事ですか?

 確かにタイムマシンがあれば未来を確認することは可能でしょう」

 

「いや、タイムマシンで未来を確認したから知ってるわけじゃないんだが、そこの説明はまたややこしいから省こう。

 僕等が君たちを捕まえたのは、僕のコピーを君等が連れ去ったからだ」

 

 コピーを捕まえた?

 僕等が連れ去ったというと、追跡装置が示した少年だが…

 そこまで思い出して目の前の三人があの少年とよく似ていることで、一つの予想が浮かび上がる。

 

「まさかあの少年や貴方達はクローンなんですか!?」

 

 僕等の国でも技術が確立されたわけではないが、クローンという概念は既にある。

 DNAを元に生き物を複製して出来上がる生き物の事だが、命を科学的に生み出す行為は全てを生み出した神へ冒涜という考えから禁忌と思われている事でもある。

 それを実行出来る科学力があるのは驚きだが、自身のクローンを作ってしまう行為に不快感を覚える。

 

「正確には違うが似たようなものではある。

 勘違いとも言い切れないが、君が不快感を覚える理由も承知の上で僕は自分のコピーを作っている。

 それが禁忌に当たる行為だと解っているから、むやみやたらに他者をコピーする気はない。

 まあ、そんなことはどうでもいいから話を進めよう」

 

 なぜ自分のクローンを作るに至ったのかは分からないが、禁忌感を持つくらいの良識はあるらしい。

 自分のコピーを作ることを何でもない事のように話せるのが理解出来ず気掛かりだが、重要なことは確かにそれではない。

 僕等の目的はあの毛髪の持ち主から神の悪戯の正体を突きとめる事だ。

 この人があの少年のオリジナルだというのならDNAも一緒という事になり、神の悪戯に関係していることになる。

 タイムマシンを持っている事から、僕等の世界の5億年前に来ることも可笑しいことじゃない。

 

「…教えてください、あなたは僕等の世界の五億年前に一体何をしたのですか?」

 

「話の繋がりが見えないが、君の言っていることについても大体の予想はつく。

 今答えられることは、僕はまだ”何もしていない”という事だ」

 

「とぼけないでください! あなたが僕等の世界のあの時代にいたことは残っていた毛髪からわかっているんです!

 そこで起こった事を僕等は神の悪戯と呼んで、その毛髪の持ち主を捜してこの世界にやってきました。

 そして神の悪戯の真実を解き明かさなければ僕等の世界は救われないんです!」

 

 ようやく答えを知る人物にたどり着いたというのに、本人にとぼけられて僕は声を荒立てる。

 しかし怒鳴られた目の前の人物は平然とした様子で、僕が落ち着くのをじっと待っている様だった。

 微動だにしないハジメさんに僕も釣られるように落ち着きを取り戻すと、話を再開する。

 

「君が何やら焦っているのはよくわかったが、本当に僕はまだ(・・)何もしていないんだ。

 タイムマシンというものがあると、こういう事態に話がややこしくなっていけない」

 

「? どういうことですか?」 

 

 ふざけているのかと最初は思ったが、真面目に言っている様子に僕も困惑する。

 それに答えてくれたのは後ろに控えたエモドランだった。

 

「ビタノ君、この人は嘘をついてないと思うよ。

 たぶんこの人はこの後僕等の世界の五億年前に行くことになるんじゃないかな」

 

「え? どういう………あ、そうか」

 

 順番が逆になっているのか。

 僕等は彼が五億年前に訪れた後の時間に行ってその痕跡を見つけてこの世界に来たが、ここにいる彼はまだ五億年前の世界に行く前だから、何をやったのかわかる筈がない。

 

「だけどあなたは僕等の事情をある程度察しているように感じる。

 あなたがまだ僕等の世界の五億年前に行っていないなら、なぜ僕等が聞きたい事を知っているんですか?」

 

「先ほども言ったけど僕等は未来に起こる事象を知っていて、君らの世界の事情もその一つなんだ。

 未来が変わった事で差異が生まれているだろうからあまり当てにならないかもしれないが、重要な要素についてはあまり変化がないだろうから予測は出来る。

 あくまで予測で実際の状況を知っているわけじゃないから、改めて君たちの事情を詳しく聞かせてくれ。

 その上で答えられる限りの質問に答えよう」

 

「わかりました」

 

 僕は彼、ハジメさんに大学の卒業論文を考えている時にタイムマシンを手に入れた事から、この世界に来てハジメさんのコピーを強引に連れ去ってしまった時までの事を順番に話した。

 話の途中で僕等が攫ってしまった5歳のハジメさんのコピーもやってきて、彼を連れてきたエモドランにどことなく似たロボットも説明を聞くのに参加した。

 そして攫ったコピーのハジメさんから話を聞こうと思っていたところで、ハジメさんが引き連れたロボット達に捕らえられたのだと言って説明を終えた。

 

 説明を終えると、ハジメさんは悩ましげな表情で眉間を揉んだり、頭を掻いたりしてそわそわしている。

 なぜかわからないが落ち着かない様子で考え込んでいるが、こちらの事情を聴いて何か思い当たることがあったのは間違いないようだ。

 

「僕等の事情は大体話しました。

 先ほどから落ち着かないようですが、僕等の話を聞いて何に気づいたんです?」

 

「うーん………一応原因も予想はついたし解決法も大体わかる。

 だけどとてつもなく面倒というか気が重いというか、乗り気になれないんだ」

 

「そんな! 面倒なんて言わないでください!

 僕等は自分の世界の存亡がかかっているんですよ!」

 

 この人は本当に真面目に人の話を聞いてくれているのか心配になる。

 自身の世界の事ではないからって、まともに相手をする気がないんじゃないか!?

 

「わかってる。 君達にとっては死活問題なんだろうけど、僕にとっても簡単なようで簡単な事じゃないんだ。

 僕の知っていることも順番に説明するから、少し落ち着いて話を聞いてくれ。

 君等にとってはあまり穏やかでいられない世界の真実かもしれないから、ちょっと覚悟をしてくれ」

 

「……わかりました」

 

 穏やかでいられないのはこの人の態度なのだが、これから重要な内容が語られそうだから下手なことは言わない。

 カルロス、マンティ、エモドランも覚悟を決めろという前振りに、喉を鳴らし気を引き締めて話を聞く姿勢を正す。

 これからようやく神の悪戯の真実を聞けると思うと皆も真剣にならざるを得ず、僕も気を引き締め直す。

 

「まず僕が知っている未来は本来あり得たかもしれない可能性を現したものだ。

 そのあり得たかもしれない未来では現在の僕の世界に存在していない人物が、貴方達の世界に当る可能性の世界の五億年前に生物の進化を加速させる切欠を起こした。

 それをあり得たかもしれない可能性のあなた達も神の悪戯と呼び、そこのビタノ君達もタイムマシンによって調査を行うのを僕は知っていた」

 

「じゃあ、僕等のやっていることはすべて知っていたと!?」

 

 タイムマシンの使用も含めた未来予知となると…どういう事になるんだ?

 特定の事柄に限定して追跡するように時間移動先の状況も未来予知するなんて、もはや未来予知というのだろうか?

 ハジメさんが言ったように時間移動をも未来予知で観測するというのは、どういう時間的順序で説明しているのか話がややこしくなる。

 

「そういうわけじゃない。

 本来あり得たかもしれない未来はある人物たちが中心となっている未来で、僕はそれを知っているだけだ。

 だけど僕の暮らす世界にはその人物たちは存在しないから、僕の知る未来になることはありえない。

 その人物については話しても意味はないから言わないが、僕はその人達がやる筈だった事の代役を務められる力を持っていて、自らその役割を担っている。

 ある人物たちがいないことによって起きたズレが世界の違いとなっていろいろ変化しているから、全て知っているわけでもない。

 似たような歴史の流れと結末を知っているから、君達の問題も世界の違いから大よそ想像が何とか着いたんだ」

 

「え、えっと…」

 

 あり得たかもしれない世界っていわゆる平行世界ってことだよな。

 僕達の世界とハジメさんの住む世界は平行世界で、ハジメさんはあり得たかもしれない平行世界の知識を持っていて、そこと関わる世界に僕達昆虫人のいる世界があって、そこには僕達もいて…。

 ダメだ、時間移動の過去未来に続いて世界が何個も出てきて整理が追いつかない。

 他の三人も頭の中がこんがらがってきたのか首を傾げている。

 

「だからややこしいって言ったじゃないか。

 これでもまだまだ序の口で解決まではまだまだ悩ましい問題があるんだ。(しかも映画みたいにすっきりした終わり方なんて出来そうにないし)

 つまり、僕の知る可能性の世界Aとそこと繋がる昆虫人のいる可能性の世界A´、僕のいる世界Bと君達の世界B´がある。

 君達は自分達の世界B´とやってきた僕の世界Bしか知らないが、僕は自分の世界Bと類似する世界Aと、そこに関わった歴史を持つ世界A´を知っているから、予測で世界B´の状況を把握出来るってことです。

 こうやって説明すると数学の方程式みたいだ」

 

「と、とりあえず理解は及びました。

 つまりあなたの言う予知の中で僕等の行動を知っているから、解決策が解るという事ですね」

 

「まあ、そういうことだな」

 

 言ってしまえばカンニングみたいなものだが、世界の存亡が掛かっているのに些細なことは言ってられない。

 

「では教えてください、その世界では一体どのようにして世界の危機を救ったんです」

 

「いや、その世界は別に世界存亡の危機には陥ってないよ」

 

「へ?」

 

 またしても予想外の答えに肩透かしを食らい、変な声を出してしまった。

 

「その世界では地底に住む昆虫人類が地上に住む哺乳人類に地上を取り戻す奪還戦争を起こそうとしていて、それをある人物達が解決するだけだから君達の世界と同じ危機には発展していないよ」

 

「た、確かに僕等の世界でも地上侵攻の兆しを見せていましたが…

 じゃあ、僕達の世界で起こっている異変は何が原因だというのです!」

 

「鶏が先か、卵が先か」

 

「は?」

 

「最近僕がよく悩まされる議題なんだけど、ビタノ君は知っているかな?」

 

 突然また別の話をされたのかと思ったが、話の流れ的に何か意味があるんだろう。

 少し悩んだが落ち着いて真面目に答える。

 

「人間の哲学者も提唱した議題の一つですよね。

 生物の進化論にも繋がる事なので、古生物学の資料を読んでるときにも目にしたことがあります。

 文字通りの進化論的な意味なら、進化の過程で卵の段階で進化したのか成長過程で進化したのかを求める事ですね。

 循環する関係においてAが存在しなければBが成り立たず、Bが存在しなければAが成り立たない。

 ではAとBのどちらが先に生じたのかという、あらゆる事象に当て嵌められるジレンマの一つです」

 

「うん、まあ僕も哲学的意味を追求したわけじゃないんだけどね。 

 解決しようの無い問題は早々に諦めた方が賢明って悩みなんだけど、似たようなことが繰り返しよく起こるもんだから、その度に悩まされるんだよ。

 かといって安易に思考放棄していい内容じゃないのが一番悩ましくて…」

 

「はあ?」

 

 本気で悩んでいる様子に、彼の中にある真実はよほどの物らしい。

 おそらく僕等が考えているような悲壮感を漂わせるような悲劇的な物ではなく、答えは解っていても落としどころに悩むしっくりした物ではないのだろう。

 おそらく僕等の予想以上というより予想外の事実がある気がしてならない。

 だが、どんな事実であろうと自分たちの世界を救う事に戸惑う事はない。

 それだけは絶対言える事実だ。

 

「ハジメさん」

 

「ん?」

 

「あなたが何を悩んでいるのか僕等の想像も出来ない事なのでしょうが、僕等の目的は何も変わりません。

 どんな真実だったとしてどんな手段が必要なのだとしても、僕等の世界を救う事を戸惑う気はありません。

 僕等に出来るのであればどんな事でもしますので、全てを教えてください」

 

「私からもお願いします。

 故郷を救う為なら命だって投げ出す覚悟です」

 

「お、俺だって」

 

「僕だって手伝うよ!」

 

 僕の決意表明に続いてカルロス、マンティ、エモドランが続く。

 そうだ、最初から世界を救うという事に決意は揺るがない。

 自分に出来るかという不安はずっとあったが、出来る事なら何でもするくらいの気持ちはあった。

 消えゆく国の光景を思い出すと胸が張り裂けそうになり、必ず救おうという気持ちを高めていった。

 今の僕達は些細な事では揺るがない決意を持っている。

 そう自信をもって言えるだけの気持ちが僕等にはあった。

 

「…それは構わないんだけど、普通の人なら荷が重すぎる事実と責任だよ。

 気にしなければ本当に大したことない事実だけど、気にしたら人によっては自殺するくらいの重圧を受ける事になるかもしれない。

 面倒臭いけど僕が一人でも片付けられる事だから、何も知らないまま自分達の世界に戻ってくれてても問題ないよ」

 

「そうなのだとしても僕等の世界の存亡が掛かっているんです。

 誰かに任せて帰っては未来を託してくれた大統領である父さんに顔向けが出来ません」

 

「僕にとっては別世界の事だからどうでもいい真実だけど、君達にとってはとんでもない事実だから知らない方が本当にいい。

 世の中知らない方が良いこともあるって聞いたことない?」

 

「ないことはないですが、決して逃げてはいけない事もあると思います」

 

「…君達に出来る事は何でもするって言ったけど本気?

 責任を持つ覚悟は本当にある?」

 

「もちろんです!」

 

「じゃあまかせた!!」

 

「「は?」」

 

 一瞬呆然としてから、何か重要なことを押し付けられてしまったような気がした。

 

 

 

 

 

 ビタノ君達の世界に起きている危機を解決するために、彼らを連れて僕等の世界まで戻ってきた。

 鏡面世界まで案内する気はなかったので、外の世界にある無人島のセーフハウスに三人の昆虫人とエモドランを案内した。

 

 その合間にいくつかの確認事項を○×占いで課長に確認をさせた。

 ビタノ君達の世界で起こっている事象は予想だったので確認したかったのだが、大よそ予想通りと○×占いは丸の反応を連発させたらしい。

 

 ビタノ君達の世界に起こっている全てがゆっくりと消えていく事象だが、おそらく世界そのものが生まれない事で消えかかっていたのではないかと予想した。

 あの世界は映画において創世セットで作った事で生まれる世界で、創世セットを使わなければ生まれないのだからビタノ君達も本来は存在していないことになる。

 だがタイムマシンを使う事によって時間と世界の壁をすっ飛ばし、創世セットをまだ使っていない時間の僕の元に来てしまった。

 彼らが来なければ創世セットを使う事はなかったのだが、来たという事は創世セットを使ったという事になる。

 これが”鶏が先か卵が先か”の悩みどころになるのだが、気にしても本当に仕方のないことなのだ。

 

 映画では地球の未来がひっくり返るような事件は何度もあったが、ドラえもんが未来からやってきていた事で解決に繋がる。

 つまり事件によって地球の未来が無くなればドラえもんは存在しない筈なのに、ドラえもんが存在したことで地球に未来が繋がるという、”鶏が先か卵が先か”というややこしい事態は原作でもよくあった事なのだ。

 ご都合主義と言ってしまえばそれまでだが、深く考えると解決しない矛盾点がいくらでもあるから困るのだ。

 タイムマシンを使っていると良く起こる事態なので気になってしまうが、最近はさっさと考えるのをやめる事に努めている。

 

 先ほどまでビタノ君達の世界の事を考えていろいろ悩んでしまったが、種を撒く者に言われたことを思い出して深く考えるをやめた。

 彼らが責任を持って頑張ってくれるなら全部ブン投げてしまおうと、悩むのをやめるために【創世セット】の事については押し付ける事にした。

 彼らが創世セットで地球を作るという事は作る世界の被造物主が造物主として世界を作ることになるという”鶏卵”だが、素材を用意するのが別人なら問題ないだろうと思考を放棄。

 

 更に創世セットが只のシミュレーターみたいなデータ上の生物を作るなら問題無いのだが、ビタノ君達の様に外の世界まで飛び出してくるれっきとした人間と同等の知的生命体を作ってしまう事にも倫理的に悩んだ。

 だけど作らなきゃ目の前に存在するビタノ君達もおそらく消えてしまうからそういう訳にもいかない。

 そんな風に悩んでいるとビタノ君達がハキハキとやる気を見せ出したので、こっちがこんなにも悩んでるのにとちょっとした八つ当たりの気持ちも込めて押し付けてやることにした。

 実際に創世セットの存在を教えれば愕然とするだろうが、こっちもこれ以上悩みたくないので言い切った以上最後まで付き合わせるつもりだ。

 

 映画では昆虫人達が創世セットの中の作られた住人だという事実に、どうして落ち着いて受け入れられたのか不思議だったが、やはりご都合主義という奴だったんだろうか。

 この後教える創世セットの存在は彼らのアイデンティティーを揺るがしかねない物の筈だが、どういう反応を示すか少し楽しみと思っている自分の腹黒い部分に少し複雑な気分を感じている。

 今更この事実を隠す気はないが、多少困らせてやりたいという八つ当たりの気持ちと、流石に酷い事なんじゃないかという気持ちが鬩ぎ合っている。

 ショックを受けた時のフォローはするつもりはあると言ういろいろ矛盾した考えをしているが、最終的には面倒な事態にならないでほしいと祈るばかりだった。

 

 

 

 僕は彼ら4人の前に新品の創世セットを取り出す。

 4人には当然これが何なのかわからないので質問を投げかけてきた。

 

「これは何ですか?」

 

「創世セット。 途轍もなくよく出来たシミュレーターだと思ってくれればいい」

 

「シミュレーターって何のですか?」

 

「地球のだよ。 これでこれから君達の世界を作るんだ」

 

「は?」

 

 言っている意味が解らないのか疑問の声がビタノ君から漏れる。

 まあ、僕が彼らの立場でも疑問の声を漏らすだろう。

 

「だからこれで君達の世界を地球の誕生から作るんだよ。

 そうすれば君達の世界の消滅は免れる筈だ」

 

「いや、訳が分かりませんよ!

 どうしてシミュレーターで世界を作ることが、僕等の世界を救う事に繋がるんですか!」

 

「作らなきゃ存在しないことになるからだよ。

 おそらく君達の世界が消えかけているのは、世界が誕生する要因が無くなった事で存在自体が消えようとしているんだ。

 だからこの創世セットで君達の世界になるように地球を作れば消滅することはないだろう」

 

「それではまるでそのシミュレーターで出来るモノが僕達の世界だと言っている様ではありませんか」

 

「だからそうだと言っているじゃないか」

 

「「………」」

 

 再三事実を教えるとビタノ君は他の三人と共に呆然と黙り込む。

 素直に信じられるとは思えないから、この後どのような反応をするか…

 

「…ふざけないでください!!

 これまで何度も呆れさせられるようなことを言われましたが、今度ばかりは流石に信じられませんよ!」

 

「その通りです! 我々は自分たちの世界の存亡を深刻に考えているのですよ!」

 

「俺達が逆らえないからってフザケやがって!

 いつまでも大人しくしていると思ったら大間違いだぞ!」

 

 エモドランを除く三人が激昂して立ち上がり、その中でマンティが酷い剣幕で腕のカマキリの鎌を振り回そうとする。

 だがそれに先制して護衛のドラ丸が見かけからは想像も出来ない速さで、相手に悟られることなく猫又丸をマンティの首に突き付けた。

 一瞬で首に添えられた刀にマンティは体を硬直させて動きを止めるしかなかった。

 

「ウッ……ぐ!」

 

「怒るのは殿の予想の範疇でござるが、力を振るうのであれば拙者も黙っていないでござるよ。

 首のない自分の体を見てみるでござるか?」

 

 ドラ丸は暴れようとしたマンティに脅しをかけるが、猫又丸の機能は多彩でぶった切っても傷付けないことが出来るチャンバラ刀などの機能も有している。

 その機能で斬れば首を切り落としても頭も体も生きており、自分の首をもって歩き回るゾンビの真似事も出来るのだ。

 それを知らない彼らは真剣を突きつけられているように見えるから冷や汗ものだろう。

 少なくとも怒気はあっという間に冷め切ったようだ。

 

「ま、待て! そこまでする必要はないだろう!」

 

「マンティが暴れようとしたのは謝るからやめてくれ!」

 

 思った以上に脅しが聞いてビタノ君とカルロスがドラ丸を宥めようとする。

 当のマンティは刀を突きつけられている緊張から体を僅かに震わせ、顔を青くして石像を真似るように硬直している。

 

「少々脅しが効きすぎたみたいだけど、簡単に力で訴えるような真似はやめてくれ。

 その刀は鎮圧用に相手を傷つけずに倒す事の出来る機能も持っているが、普通に斬り殺す事も出来る殺傷能力も備えている事には備えている。

 文句を言いたくなる気持ちもわかるけど、僕はちゃんと真面目に答えているんだ。

 次やったら問答無用で元の世界に追い返すからね」

 

「…わかりました」

 

「それじゃドラ丸、刀を離していいよ」

 

「承知」

 

 ドラ丸が猫又丸をマンティの首から話すと、マンティは一気に硬直が解けてその場に力なく座り込む。

 

「マンティ、大丈夫か?」

 

「お、俺の首ちゃんと付いてるか?

 すごく生きた心地がしなかった…」

 

 カルロスが声をかけるとよほど脅しが効いたのか、マンティは先ほどの威勢はこれっぽっちも感じられなかった。

 

「一応ビタノ君の護衛でもあるんでしょう。

 そんなことで役割が果たせるんですか?」

 

「二人はこれでも優秀なSPの資格も持っているんですよ。

 それなのに二人が碌に反応出来ずに即座に武器を突きつけるドラ丸さんが速過ぎるんです」

 

「これでも殿の護衛を担っているロボットでござるからな。

 相応の戦闘能力を持っていなくては務まらんでござる。

 不本意ながら度々殿達に改造されるので、どんどん戦闘能力が上がってしまっているのでござるがな」

 

 ドラ丸はうまく噛み合いそうなひみつ道具が見つかったら、それを機能として追加するためにちょくちょく改造して強化を続けている。

 本人は強くなることを除けば体を弄られる改造は不本意のようだが、既に素の戦闘力で自前のモビルドールの大隊を壊滅させられるだけの戦闘力を持っている。

 見た目に反して最終兵器(リーサルウェポン)化しているが、ドラ丸の改造はちょっとした楽しみであるのでやめる気はしない。

 そろそろ拡張性を考えた大幅な改造でもしようかな。

 

「殿、また拙者の改造を考えてるでござるか?」

 

「あ、解る?」

 

「改造される予感を感じると首筋がゾクっとするのでござるよ」

 

 勘も働くとは既に普通のロボットじゃなくなってるな。

 映画のドラえもん並みに人間味があるのはとても良いことだけど。

 

「改造は後にして、とっとと創世セットで君達の世界を作るよ。

 僕等もあんまり暇じゃないから一日で終わらせるよ」

 

「やっぱり本気で言ってるんですね…」

 

「ああ、信じられなくても作ってみれば自ずと解るよ」

 

 力ずくで納得させた気がしないでもないが、ビタノ君達は渋々といった感じに製作に参加する。

 

「しかしシミュレーターとはいえ一日で地球が出来るモノなんですか?」

 

「創世セットの中の【コントロールステッキ】に時間を早める倍速ボタンがあるから、要所部分以外の時間を省けば一日で終わらせられるだろう。

 可能性の世界では過程を観察日記につけていたけど、今回はそんなことする必要はないから手間もそんなに掛からない」

 

「観察日記って……小学生の課題か何かですか?」

 

「昆虫世界の学校制度は知らないけど、たしかに可能性の世界では創世セットは小学生の夏休みの自由研究の観察日記に使われていたね」

 

「私達の世界が夏休みの自由研究…」

 

「観察日記…」

 

「…もう何でもいいです」

 

 明らかに僕の話を理解するのを諦めた三人にかまわずに、僕は【神様シート】を広げて地球を作る準備を始めた。

 

 

 

 

 




 小学生の観察日記の為に作りだされた地球。
 映画を見ている時は気にしていなかったけど、作られた側の存在からしたらこれほどひどい話はない。

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