ドラえもんのいないドラえもん ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~ 作:ルルイ
残念ながら自分の執筆力では伝えたい事がうまく文に出来ていない気がします。
かなり読みづらいかもしれませんので、面倒なら飛ばして呼んでください
神様シートを敷いてコントロールステッキで突くと、シートの中に宇宙となる空間が広がった。
三人は諦めた様子ながらも不思議な現象に、多少は興味をもって神様シートの中を覗き込んだ。
「この中が地球を作る宇宙空間になる」
「ですがなにもありませんよ?」
「宇宙その物から作るからまだ何もないんだ。
この【宇宙の元】をその中に広がるようにばら撒いて」
創世セットの中から宇宙の元の”レプトン””クォーク””ゲージ粒子”と書かれた瓶を一つずつ三人に渡す。
三人は渋々といった様子だが、言われた通りにシートの中の宇宙空間に三種類の瓶の中身をばら撒いた。
「これでいいですか?」
「じゃあ次はこのコントロールステッキで中をかき混ぜて」
ステッキをビタノ君に渡すと指示に従ってシートの中に先っぽを突っ込んでぐるぐるとかき混ぜる。
それは料理にも似ていて、とても世界を作る為の作業に思えなかった。
「(僕は何をやっているんだろう…
こんなことをしていて本当に世界を救う事に繋がるのか)」
素直に従ってはいるが、先ほど何でもするといった真剣な様子からは想像もつかないくらい、不満一杯な様子だ。
仕方ないが創世セットで作る地球が完成すれば納得せざるを得ないだろう。
そろそろかな、と思い僕はシートから少し距離を取る。
その直後に…
―――チュドーーーン!!!―――
「「うわぁ!!」」
シート内の宇宙で爆発が起こり、かき混ぜていたビタノ君と覗き込んでいた二人とエモドランが漏れてきた衝撃に吹き飛ばされた。
宇宙誕生のビックバンが中で起こったのだが、漏れてきたのは衝撃だけなので大したケガにはならない。
吹き飛ばされた四人もすぐに起き上がる。
「な、なにが起こったんです?」
「ビックバンが起きて宇宙が誕生したところだね」
「今のがビックバン…
本当に地球を作ろうとしてるんですか?」
「出来るまで信じなくてもいいから、作業を続けるよ」
シートの中では生まれたばかりの宇宙で、ガスや塵が渦を巻いている。
「ここから次の作業に移るまで時間を早めるよ」
ビタノ君が持つコントロールステッキを操作して時間を早める。
シートの中は時間が加速した事によって、どんどん宇宙が形を変化させていく。
中心に太陽が出来、その周囲に平べったく無数の小惑星が広がった所で時間の加速を止める。
「これが太陽系が出来る頃の46億年前の段階だ」
「これが46億年前の太陽系…」
太陽の周りをまわっている小惑星がぶつかり合っては砕け、また集まって大きな星を形成していっている。
ビタノ君達はその光景を食い入る様に見ており、半信半疑ながらも目が離せないといった様子だ。
そんな彼らに次の命令を出す。
「これから地球を含む太陽系を形成するから、またコントロールステッキでシートの中をかき回して。
だけど今度は混ぜるんじゃなくて太陽の周囲を公転しながら惑星が形成されるようにゆっくり回すんだ。
大きくズレると太陽系がしっかりと形成されないらしいから気をつけて」
「太陽系の惑星が出来る様に宇宙をかき回すって、それはどれくらいの速度でかき回せばいいんですか!」
聞く方にとっては想像も出来ないようなスケールの作業に、ビタノ君は叫ばずにはいられなかった。
大体の作業は映画で知っているが、創世セットに説明書も付いていたので読んでみる。
「えっと、太陽熱で焦げ目が付かない様に熱せられる所が満遍なく広がる様に混ぜるといいって。
後は速すぎると小惑星が粉々に砕けて駄目になってしまうので優しくやりましょう、って説明書に書いてある」
「料理ですか!」
シチューの混ぜ方に似てるね。
混ぜすぎるとジャガイモが煮崩れしちゃうから。
まあのび太でも出来たのだから適当にやっても問題ないだろうと、ビタノ君にやるように指示を出す。
加減のわからないビタノ君はおっかなびっくりで中の小惑星を粉々にしないように、尚且つ太陽に引き寄せられ過ぎず離れすぎないように回る力を加えて、小惑星が太陽の周りを回り続けるようにコントロールステッキで回転を加え続ける。
その作業を数十分も続けていると太陽系の惑星が揃いだし、原初の地球もようやく形を成した。
「で、出来たんですか?」
「太陽からの距離も問題ないみたいだから、生物が誕生しうる環境にはなるだろう。
これで作業の山場は過ぎたから、また時間を早めて様子を見る」
再びコントロールステッキの倍速ボタンでシートの中の宇宙の時間を早める。
外から見た地球は遠目でもわかるほど色が変わって環境が変化していく。
だんだんと大気が形成され地球が雲で覆われてむき出しだった地表がまるで見えなくなる。
おそらく雨が降り出したのだろうと推察し、時間を早めていても雲は中々晴れずに長期に渡って降り続けているのが解る。
それでも時間が経てば再び変化して、地球はまさに青い星にふさわしい青一色の球体になっていた。
地表に水が溜まって地球全体が海になったのだ。
「長期間雨が降り積もって海が出来た所だ」
「あれ全部が海ですか。 青一色で陸地が見当たりませんが」
「地殻変動でそのうち陸地が出来るよ。 それより次の作業だ。
原始的な有機生命体が誕生する条件が整ったからきっかけを与える。
コントロールステッキの先を地球に向けて」
「わかりました」
指示に従いシートの中の地球にビタノ君がコントロールステッキを向ける。
「そしたら頭の赤いボタンを二回連続で押し続けて」
二回連続で押すと、コントロールステッキの先から青い稲妻が発射されて地球を覆う。
コントロールステッキから稲妻が出続けているからちゃんと押して続けているが、ビタノ君達はこの光景に再び驚いている。
「こ、これは何をやっているのですか?」
「原始の海の有機物質に反応を起こさせてるんだ。
これで生命の起源となる原始生命体が誕生するはず。
そろそろボタンから手を離していいよ」
「は、はい」
ビタノ君がボタンから手を離すと稲妻の照射が止まる。
「一度中を確認しよう。
この【UFOカメラ】を中に飛ばして、その様子をこのモニターで確認できる」
変化した地球環境を確認するために【UFOカメラ】とモニターを取り出して、シートの中の地球に向けて飛ばす。
地球に降りていく様子がモニターに映し出される。
「そういえば、さっきの行為って種を撒く者と同じ事をやったんだよな。
本人が言っていたけど、確かに大したことないと言えば大したことないのか…」
「どうしたんですか?」
以前会った種を撒く者は先ほどのように生命の誕生のきっかけを作って、生命の誕生を見守ったのだ。
彼のやったことを一日も経たずやっていると思うと、また妙にやるせない気分になる。
これでもこの星の生命を誕生させた種を撒く者には敬意を持っているのだが、同じことを夏休みの宿題感覚でやっていると思うと、非常に申し訳ない気持ちになるのだ。
ふともらした種を撒く者の事にビタノ君が反応する。
「ついこの間、今やったみたいにこの星の生物誕生のきっかけを作った種を撒く者と名乗る特殊な存在にあったんだ。
特徴は普通の生物に当てはまらないとだけ言っておくけど、種を撒く者は自分のやっている事が大したことじゃないように言ってて、僕はそうは思わなかったけど今やった事が彼のやっている事と同じ事だったから確かにと共感しちゃってね。
この星の生命にとっては神みたいな存在だから敬意を持ってるんだけど、同じ偉大なことを簡単にやってのけたのが申し訳ない気分になってね」
「そうですか………って、は?」
相槌を打って少しの間を置いてから疑問符を浮かべるビタノ君。
まあ、可笑しな話のように聞こえるよな。
この星の生命を作った存在に会っただなんて。
今作ってる地球に生まれる彼ら昆虫人類を作るのが僕らなのが皮肉な所だが…
「…また変な冗談と言いたいところですけど、それも本気で言ってるんですよね。
この創世セットと同じものを持っている誰かとかじゃなくて」
「ああ、間違いなくこの世界のこの地球の生命の開拓者だよ。
種を撒く者は火星と木星の間の小惑星帯に、植物の為の楽園になる星を作ってたんだけど、移民先を求めて宇宙を漂流する銀河漂流船団ってのがいて、彼らの中の強硬派が地球を強引に侵略しようとしていたから、そいつらを懲らしめるついでに移民先に種を撒く者が育てた星を紹介出来ないか聞きに行った時に顔を合わせてね。
その時幾つか世間話をしたりしたんだよ。
たとえば地球と同じ時期に火星にも生命が誕生するようにきっかけを与えたけど、隕石の衝突でうまく育たなかったんだってさ」
「………この人、さらっと自分の世界を誕生させた神様に会ったとか言ってるよ」
「ビタノさん。 もしこの人が言ってることが本当だったら、今作ってる世界が我々の世界という事になるのですよ」
「そうなったらこの人が我々の神という事になり、制作に協力している我々も神に準ずる存在になってしまいます」
「僕等の世界を作ったというのがハジメさんになって、ハジメさんの世界を作った存在が種を撒く者という存在。
では種を撒く者は神様の神様という事?」
「あまり考えすぎても、ややこしくて頭を痛めるだけだよ」
僕がよく苦悩している人の身に余るスケールの話に混乱しているビタノ君。
同じような悩みに頭を悩ませるのを見て、少しばかり留飲を下げる。
若干八つ当たり染みているが、こっちも困らせられている身なので文句は言わせない。
話している間にモニターに映る映像がどんどん地表の海に近づいていく。
宇宙から近づいていく映像はまるでスカイダイビングの様で迫力を感じさせる。
「雲を抜けていく映像が凄いですけど、もしかして中に入れるんですか?」
「入れるけどまだ地球環境が整ってないから、生身では入らない方がいい。
何度も言うようだけど、中の地球は外の世界の地球と同じように出来ているんだ。
意図的に変化させなければ外と同じ地球の歴史を辿る」
UFOカメラからの映像が水中に入った。 地表に辿り着き海に潜ったのだ。
カメラをミクロズームで原始生命の細胞生物を探す。
ちょっと探したらミクロの世界で水玉が集まったような原始生命を発見した。
時々見る事のある顕微鏡で見た細菌の活動のように、アメーバのような球体がくっついたり分裂したりして活発に動いている。
「どうやら生物の誕生に成功したようだ。 これから生物の進化が活発になる。」
「もう最初の生命が出来上がったんですか?」
「時間を加速しているから、思いっきり時間を省けばあっという間に現代までたどり着くよ」
作業を開始して三時間ほどだが、神様シートの中では数十億年が経過しているのだから生物の一つや二つが出来て当然だ。
だがそれが小学生の夏休みの宿題で作る物だと、アニメとはいえひみつ道具の設定には呆れさせられる。
コントロールステッキの倍速ボタンを操作しながらモニターで観察していると、細菌サイズだった生物がどんどん進化して多種多様な生物が海の中に広がっていく。
そして魚類の古代生物がちらほら出てきたところで倍速ボタンを止めて立ち上がる。
「それじゃそろそろ中に入るよ」
「どうするんです?」
「決まってるだろ。 君達の言う神の悪戯を行うんだ。
それが無きゃ君達の祖先が昆虫人類に進化しない」
「「あ!」」
地球誕生の歴史をドラマチックに見ながら作ってきたが、当初の目的は彼らの誕生要因を作る為にこの創世セットを使っている。
現在の神様シートの中はおよそ五億年前の地球だ。
のび太達もこの頃に進化を促進させるために地上に降りて【進化退化放射線源】で海の生物に進化を促している。
その時通りかかった虫が進化退化放射線源の光を浴びた事で、昆虫人類が創世セットの中の地球で誕生することになったのだ。
この頃に同じことをやれば、おそらくビタノ君達の世界になるのだろう。
創世セットから神様雲を出して神様シートの中に入る準備をしていると、ビタノ君の補佐のカルロスが口を挟んできた。
「待ってください。 モニターで見てみましたが海の外の陸地は、植物と昆虫類が住む我々の祖先が地上を支配していた時代です。
神の悪戯が無ければそのまま私たちの祖先が進化していた筈だと、考古学者たちは言っていました。
もしこの世界が我々の世界になるのだというのなら、神の悪戯などするべきではないのではないですか?」
彼か昆虫人類の世界では神の悪戯が人類を進化させて、昆虫達が地下に追いやられたと考えられている。
地上を取り戻したいという風潮のある昆虫人達が、神の悪戯が無ければと考えるのは自然な事か。
「確かに。 この地球が俺達の世界になるなんていまだ信じられないが、せっかく出来上がった昆虫達の楽園を壊されるのはいい気はしないな」
「二人とも、ハジメさんの前で…」
カルロスの意見にマンティも賛同して、ビタノ君は哺乳人類である僕の前であることを気に掛ける。
だが彼らの説が間違ってるのを知っている僕としては、少々呆れるだけで特に思う事はない。
ただ間違いを証明するだけだ。
「なら、このまま何もせず進化を見守ってみるといい。
間違いなく君達の予想する未来にはならないだろう」
「なに?」
「こんなに地上に昆虫が栄えているんだぞ!
後から地上に這い上がってくる両生類より進化が遅れるものか!」
二人はこのまま昆虫達が先に知的生命体に進化するという学説を信じているが、ビタノ君だけは訝しんだ様子で考え込んでいる。
「ビタノ君は彼らの考えに賛同しないのかい?」
「どうしたんですかビタノさん」
「?」
二人もビタノ君の様子に気づいて少し冷静になる。
「…カルロス、マンティ。 僕等の世界では神の悪戯でその時代の海の生き物に劇的な変化が起こったとされている。
僕が論文で提出したかったのは神の悪戯が古代昆虫の進化にも影響を与えたのではないかという可能性だ。
今となってはそんな事はどうでもよくなっているけど、それが正しいなら何もしなければ僕等の祖先も進化しないんじゃないかと思うんだ」
「それは…」
「心配し過ぎですよ。 だってこんなに昆虫達だけが地上に繁栄しているんです。
神の悪戯が無きゃ俺達昆虫人類が地上に繁栄してますってば」
カルロスはビタノ君が考えていた学説を頭ごなしには否定できないと思っていたが、マンティは楽観的に考えている様子だった。
「改めて言うけど確認してみたら?
コントロールステッキで時間を操作すればこの地球の生物の進化を手早く確認出来る。
もともとこれは地球の変化を観察するための道具なんだから」
「ビタノさん、ハジメさんの言う通りにやってみましょう。
我々の祖先の進化を見ることは新しい発見に繋がります」
「俺達が正しいって証明してやりましょう」
「…そうだね、二人とも。
どちらにしろこの地球の行く末は最後まで見てみたい」
ビタノ君の決心がついたところで、僕は再びコントロールステッキを渡す。
「僕はこの後の進化にあまり興味ないから勝手にやって。
だいたい一千万年ずつ様子を見れば、過程がわかりやすいんじゃないかな」
「わかりました」
杖を受け取り三人は倍速ボタンで時間を飛ばしてモニターで地球の生物の様子を見続けた。
僕も結果は解っているので大して興味はないが、後ろの方からモニターを覗いている。
映画の中ではのび太が我儘で生物の進化をひみつ道具で早めたが、何もしなくても本来の地球のように全ての生物は時間を掛けて進化を果たす。
しかし本来の地球に昆虫人類が存在しない事から、古代の昆虫がそのまま彼らのような昆虫人類に進化することはあり得ないのだ。
モニターにはその様子がはっきりと映し出されることになる。
指示通りに時間を飛ばしながら三人は地上の様子をモニターで随時確認している。
古代昆虫達は一瞬で飛ばされる時間の中で多様な進化を遂げて、時間が飛んで約四億年前の時代になっても地上に他の種族は存在せずに、正に昆虫達の楽園だった。
「ほらやっぱり! 昆虫がどんどん種族を増やしてる」
「神の悪戯が無ければこうして昆虫達は多種多様に進化していたのか」
「ビタノ君、君等の世界に両生類が出現したのって何時頃って言われてるの?」
「両生類の出現が神の悪戯と言われているので5億年前です」
「ふぅん」
本来であれば4億年前でも両生類は地上にいなかったという事か。
この神様シートの中の地球に僕等は余計な手を加えていないので、本来の歴史通りに流れる。
生物の進化の歴史に詳しいわけではないので知らないが、両生類の上陸はもっと先か。
そのまま三人は昆虫が多種多様に進化してく様子を眺めていたが、三億五千万年前に差し掛かったところで驚きで目を見開く。
モニターに映る地上に両生類が出現し、水辺に近い古代昆虫を対象に捕食をしていたからだ。
「馬鹿な! なんで両生類が地上に出現してる!」
「神の悪戯が起こったというのか!」
「ハジメさん、あなたは何かしたのですか?」
三人は目を疑ってモニターの様子に叫んでいるが、僕は平然とビタノ君の質問に答える。
「なにもしていないよ、ずっと後ろにいたんだから。
これが神の悪戯の無かった本来の進化の歴史ってことだよ。
地上ばかり見ていたから気にしてなかったんだろうけど、海の中でだって進化は盛んに行われていたはずだ。
両生類が出現することは君達の世界に比べて遅れるだけで自然な事なんだ」
「確かに昆虫達が多種多様に進化したように、魚が両生類に進化していないなど言いきれない事ですね」
「ですが、昆虫達は両生類に比べて遥かに進化を繰り返しています。
このまま我々昆虫人類の祖が先に生まれるのは明白です」
「カルロスの言う通りです」
二人は昆虫の進化を疑っていないが、どこか自分を信じさせるために言っているように聞こえる。
「このまま様子を見ればいずれにしろ結果は解る。
ビタノ君、時間を進めてくれ」
「…わかりました」
どこか不安な様子を見せ始めたビタノ君だが、素直に従ってコントロールステッキを操作する。
時代はどんどん移り変わり、地上ではこれまで昆虫の進化よりも体の大きな両生類の進化が目立つようになってくる。
そして完全に地上で暮らすようになった爬虫類が現れて、巨大な恐竜が地上を支配するようになった。
「…これじゃ俺達の世界と同じじゃないか」
「恐竜が地上を支配し、昆虫が小さく草陰に隠れて暮らしている。
時代がズレている様だがまるで同じような歴史だ。
やはりこの世界でも神の悪戯が起こったんじゃないですか」
「ハジメさん、どうなんです?」
三人は僕を責める様に見てくるが自然な進化なので言いがかりだ。
「何度も言うが僕は何もしていないし、これは自然な進化だ。
もし神の悪戯が起こったのならこの世界の中に別の要因が外から入ってきたってことだろう。
どうしても納得出来ないなら後で確認すればいい」
「確認って、どうするんです?
この中に入ってタイムマシンで三億五千万年前頃を調べればいいんですか」
「コントロールステッキには巻き戻しボタンもあるからそんなまどろっこしいことをしなくてもいい」
「巻き戻しまでできるんですか…」
呆れた様子を見せているが、この歴史の確認を終わったら改めて5億年前に戻して神の悪戯をしなきゃいけないのだ。
時間を戻さずに新しく別の地球を作る気はないので、これから出来る未来の世界は消す事になる。
中に生きる人がいるのにそれを無かった事にして消すというのは思うところがあるが、もう一度新しく作るのも嫌なので仕方ない。
「とりあえずこの歴史がどうなるか最後まで見ればいい。
神の悪戯が起こらなかった世界の歴史は、この世界とあまり変わらない物になる。
昆虫人類は間違いなく誕生しない」
「そんなの信じられるか!」
「この先を見ればわかることだ、何度も言わせるな。
ビタノ君、さっさと時間を進めて」
「………」
ビタノ君は不安な表情を隠さないままコントロールステッキを操作した。
時代が進み恐竜も多種多様に進化して彼らの天下だったが、小惑星の地上の衝突により地球の環境が劇的に変化して絶滅する。
恐竜達が絶滅した後にも生き残った生物たちが進化して、哺乳類が地上で頭角を現し始めた。
その辺りでふと気づいたことをビタノ君に訊ねる。
「ところで君達が人類として進化したのは何時頃と言われているの」
「僕達ホモ・ハチビリスの祖先の蜂が二本足で歩き始めたのが三千万年前と言われています。
その頃には既に地底世界で暮らし始めていたそうです」
「じゃあその頃になれば昆虫人類の有無がはっきりするわけだ」
「………」
僕の問いにビタノ君は黙ってモニターを眺める。
そしてついに三千万年前に差し掛かかると、地上に人類の祖先と思われる類人猿のようなサルが地上を歩いているのが見えた。
全身毛むくじゃらでサルにしか見えないが時折二本足で歩く様子が見られるのが、人類の祖先と察する事の出来る点だった。
「霊長類の祖先らしきものが出てきたけど、昆虫人類は見つかったかな」
「今探している!」
「マンティ、南極の大穴を探せ!
この時代なら地底世界に繋がる入り口の原型が出来てるはずだ!」
「わかった!」
昆虫人類の形跡が見つからずに焦った様子の二人は怒鳴り合うように指示を出す。
UFOカメラの機能は多彩で地面の空洞を探す事の出来る透視機能で地底の大空洞に繋がる洞窟を見つけ出す。 暗視機能も充実していて真っ暗な洞窟も明かりがあるかのようにはっきり映し出しながら洞窟を潜り抜けていく。
そしてとても広い大空洞に出たが、中は真っ暗で住み着いている生物も暗闇に対応して進化しただけの普通の虫がコケ類を食べてわずかに暮らしているだけだった。
当然のごとく昆虫人類と呼べるような種は存在しない。
「なにもない…だと」
「この時代にはすでに多くの昆虫人類の祖先がここで暮らしていたはず!」
カルロスとマンティは目の前の事実に愕然として座り込む。
杖で一気に三千万年前から現代まで時間を進めてみるが空洞の中は大した変化はなく、この時代まで閉鎖された環境として残ることになったのだろう。
「やはりハジメさんの言う通り、神の悪戯が僕等の進化を決定づけたのですね」
「ああ、残念ながら昆虫は切欠が無ければこの星では知的生命体に進化しえなかった。
これも最初に言った知らない方が良い真実だが納得出来た?」
「ええ、納得出来たと言い難いですが理解はしました」
ビタノ君は創世セットの地球の歴史を最後まで見て信じる気になったが、他の二人はまだ納得してはいなかった。
「待ってください、ビタノさん!
これが我々の世界と同じだとは限らないでしょう。
この中の地球は外のこの世界が基準になった複製の筈です!
昆虫達が進化しなかったのは認めますが、それはあくまでこの世界の話で我々の世界とは限りません!」
「そうですよ!
大体この中の世界がこの世界と同じだっていうなら可笑しいでしょう。
この世界の地底には俺達昆虫人類はいなかったけど、恐竜達が暮らしてたじゃないですか。
確かにこの中の世界はよく出来てましたけど、外の地球とまるで同じとは言えません!」
「あ、確かにこの世界の地底には恐竜と恐竜が進化した人類がいました」
何?と彼らの会話に紛れた情報にちょっと驚く。
「君等、この世界の地底の恐竜人類を見てきたの?」
「ええ、この世界の僕等がどう過ごしているのか気になって見に行ったのですが、まるで別の種族が繁栄していて驚きました。
ハジメさんも彼らの事は知っていたのですか?
僕等と同じように地上とは交流が無いようでしたが…」
「知ってるも何も、君等と非常に似通った誕生の歴史を持っている人達だよ。
地底で暮らしている事も、地上の人類以外で進化した事も、自分達の起源を知るために過去を調べようとした事も、起源の発祥の切欠も一緒と、似通い過ぎていて笑えるくらいだよ」
思い返してみると恐竜人類と昆虫人類の発祥は、映画でもまるで一緒だ。
どちらも結果的に見れば誕生はドラえもん達が原因だし、タイムマシンで過去に行って真実を調べるのも一緒。
恐竜人類は環境を用意したという切欠だけで進化を促進したわけじゃないが、地上への憧れとかもまるで一緒なので配役を入れ変えたとしてもなにも違和感がない。
「確かに地底世界に住んで進化したというという点は一緒ですが…」
「いや、それだけじゃなくて誕生の切欠が僕になってしまうという点が同じなの」
「え、それって…」
「僕が過去に行って、恐竜が地上で絶滅する前に地底で暮らせる環境を整えて、そっちに移住させたんだ」
「「はあぁぁぁぁ!?」」
今度も僕以外の全員が驚きに声を上げる。
此処で恐竜人の話題が出るとは思わなかった。
「なんでそんなことしたんですか!」
「そこがまた君達と一緒でね。
彼らも地上への憧れから地底世界に恐竜が移り住んだ真実を知るために、タイムマシンを作って過去に行ったんだよ。
そこで恐竜絶滅の原因である隕石の衝突を知るんだけど、そのままだと恐竜が絶滅して現代の恐竜人が存在しない事になるから、地底世界に生き残りの恐竜を移住させなきゃいけなくなってね」
「あれ、でもそれって恐竜人が存在していたからやる事になった事ですよね。
でも恐竜は初めから絶滅していれば恐竜人は存在しないはずで…」
「そう、誕生が確定していない存在が未来から来て誕生の要因を作る。
まさに今の君達と同じような状況なんだ。
頭痛くなるだろ?」
「はい、ややこしいです…」
やっぱりこの手の悩みは思い出すだけで頭痛くなる。
「ちなみに恐竜人の事も君達と同じ可能性の世界で誕生するきっかけをある人達が作らなきゃいけなかった事だから、僕が代行した。
まだやっていない事を未来や過去で確定しているから、後でやらなきゃいけないというジレンマにだいぶ悩まされたよ。
現在進行形で君達もそうなんだけどね」
「す、すいません…」
僕の苛立ちと事情から恐縮して謝るビタノ君。
無理を言っている自覚が少しはあったのだろうが、他の二人は納得していないのか不満顔でこっちを見ている。
「そっちの二人はこの結果に納得していないようだけど、どちらにしろ終わった事だから本来の目的に戻るよ。
五億年前に戻して神の悪戯をやって君等の世界になるように調整する。
巻き戻しボタンを使うからコントロールステッキを返して」
「わかりました」
「…ちょっと待ってくれ」
杖を受け取ろうとしたところで再びマンティから横やりを入れられる。
「今度は何?
この世界が君等の世界になるかどうかの議論は、神の悪戯をしてからの結果を見てからにしてくれ。
これ以上詰まらない口論で時間を無駄になんてしたくないんだから」
「わ、わるい。 だが神の悪戯を実行する前に教えてほしいんだ」
少々苛立ってきていた僕の様子を見て、すぐさま謝るマンティ。
とりあえず聞きたい事があるなら答えようと頷いて肯定の意を伝える。
「ありがとう。
俺達もまだ納得しきれたわけじゃないが、神の悪戯が無ければ昆虫人類が生まれない可能性があるのは理解した。
だけど初めから聞きたかったんだが、あんたが知ってる神の悪戯ってどういうものなんだ?
俺達も神の悪戯が生物の進化に影響を起こしたのは知っているが、何をしたのかまでは解らないんだ」
「それは僕も気になっていました。
ハジメさんは五億年前でどうやって生物を進化させようというんです」
「それは私も知りたいです」
僕が神の悪戯と呼ばれる行いが出来ると言ったが、具体的に何をするのかはまだ話していなかった。
僕はポケットからひみつ道具を取り出してそれを見せる。
「こいつは【進化退化放射線源】と言って、文字通り生物を進化させたり退化させたり出来る光線を放つ。
これを五億年前の地球で可能性の世界のある人物達が古代魚のユーステノプテロンに当てた事で進化が加速した。
その時偶然通りがかった羽虫がこの光線に当たった事で昆虫の進化も加速し、結果的に昆虫人類が地底世界に繁栄することになる。
それと同じことをすればおそらく君等の世界になるというのが僕の推察だ」
進化退化放射線源は作品の中で結構見かける事があるが、名前が多少変化していたり創世日記では効果が少し違っていた。
本来はすぐに効果が表れて、当てた物の進化した姿や退化した姿に変化するのだが、創世日記ではわずかに進化を加速させて歴史上の進化の速度を速めたのだろう。
それだけで歴史の変化には十分だったのだ。
おそらく効果を最小限に抑えて使用するのではないかと、調整して使用する準備をしていた。
「つまり僕等が生まれたのは意図的でなくただの偶然だったと…」
「偶然とは言うが、実際の生物の進化なんて一体どれだけの偶然が重なって出来た事だか…
それに今のは可能性の世界の話で、君等の世界はこれから出来るんだからどちらかと言うと必然に出来るモノだ」
「確かに、これから出来るのならそうですね」
いまだ自分たちの世界を作るというのが信じられないのか、僅かに曖昧な回答をするビタノ君。
「つまり五億年前にユーステノプテロンと羽虫にその光線を当てればいいわけか。
じゃあその虫だけにその進化の光を当てればどうなるんだ?
もしかして昆虫だけが進化して昆虫人類が繁栄することが出来るんじゃないか?」
「んー、その可能性はあるね」
虫にのみ光を当てれば先に進化して地上を支配するかもしれない。
だが人類は進化退化放射線源を使わなくても結局進化するのだから、進化時期が重なれば結局昆虫人類が地底で暮らす可能性もある。
「それなら虫だけにその進化の光を当てたらだめか?
もしその世界が俺達の世界になるってんなら、出来るだけもっといい世界にしたい」
「マンティ!」
マンティの要望にそれは言い過ぎだと言いたげにカルロスが声を荒立てる。
「なんだよカルロス」
「流石にそれは無茶を言い過ぎだ。
彼は我々の世界の人間ではないとはいえ哺乳人類なのだぞ。
それはつまり彼らの種族を滅ぼすことに他ならない」
「そうです、マンティ。
それはいくらなんでも傲慢が過ぎると思います」
二人は流石に遠慮した様子でマンティの考えに反対だが、神様シートの中の世界は僕にとって架空の世界で別世界の話だ。
彼らに責任はすべて押し付けたつもりなので、彼らが納得するならどのような結果になってもどうでもいい。
そういうわけだから…
「別にいいんじゃない。 君達が納得するなら」
「「ええ!?」」
「よっしゃ、言ってみるもんだな」
マンティだけが喜び、二人は驚く。
「ほんとにいいんですか?」
「僕自身の世界の事なら問題だけど、この世界がどうなろうと僕の世界に大きな影響がある訳じゃないし、この世界を作る事は君等に責任を押し付けている。
好きにすればいいさ」
「じゃあ、さっそく五億年前に戻してくれ」
コントロールステッキを渡されて、僕は巻き戻しボタンで神様シートの中を五億年前まで巻き戻す。
「最終的にどうするか決めるのはあなた達だ。
仮に望んだ結果になっても受け入れられるかどうかはわからないけど」
僕はそれだけ言って後は様子を見守るだけにした。
タイムパラドックスはややこしい