ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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続編の要素の予告編的なものです


おまけ:もしもボックスと魔法世界

 

 

 

 

 

 雲の王国事件を終えて、問題が起こりうる全ての事件は解決した。

 干渉しなかった事件は、原作ではのび太達自身が事件の原因だったり、この時間軸には存在しない時間犯罪者が原因だったりと、影響のない事件ばかりだ。

 そんな中で一つだけ手を出さなくても問題ないが興味のある事件を、実験の意味もあって雲の王国事件後に解決させた。

 

 

 

 魔界大冒険。

 原作でのび太が魔法があればいいのにという願いを、ドラえもんが【もしもボックス】を使って世界を科学の世界から魔法の世界に書き換えた。

 無論魔法の世界になったからといって何もかもがうまくいく訳でもなく、科学が魔法に置き換わってものび太が駄目であることに変わりなく、少しだけ魔法を頑張ってからもしもボックスで元の世界に戻そうとした。

 だがのび太のママにもしもボックスを捨てられてしまうという事態に元の世界に戻せなくなり、更に魔法の世界に危機が迫りのび太達が巻き込まれていくといういつもの展開で冒険が始まる。

 

 もしもボックスが魔法の世界の事件に関わる切欠だけあって、使わなければ何も問題は起こらないが、ストーリーの中で一部気になるシーンがあり、それを確かめるためにハジメも原作と同じように世界を魔法の世界に変えた。

 無論魔法の世界の危機も発生したが解決方法が雲の王国ほどややこしくなく、敵もはっきりしているので即座に解決させ、本来の目的の確認を始めた。

 

 その確認とは、のび太達がタイムマシンを使いもしもボックスを使った後の魔法の世界から、使う前の時間の科学の世界に戻った時の事だ。

 魔法世界の危機に立ち行かなくなり、過去に戻りもしもボックスの使用その物を止めようとタイムマシンを使ったのだ。

 使用を止めようとするわけだから当然使用前の科学の世界に時間移動した訳だが、敵の追手が過去まで着いてきてもしもボックスの使用を止めることは敵わなかった。

 その際にのび太が過去の科学の世界で、魔法の世界で使える様になった魔法を使う事に成功していた。

 

 つまりのび太は時間移動によって科学の世界に戻っても魔法が使えた訳だ。

 これはもしもボックスによって世界の法則が変わっただけでなく、世界を改変した際に使用者ののび太達も体質を書き換えられて、魔法が使用できる体になっていたと考えられる。

 そのお陰で過去の世界とはいえ科学がルールの世界に行っても、体質が魔法の世界のままだから魔法が使用出来た訳だ。

 

 つまりもしもボックスとタイムマシンを併用すれば、魔法の世界の体質を残したまま科学の世界に戻りそのまま魔法を使用出来る状態を維持出来るという事だ。

 それだけでなく、もしもボックスは”もしも”というどんな未確定の要素でも当て嵌めて世界を改編出来る訳だから、実質どんな可能性の世界にも変えられて、どんな可能性の要素をも自身に取り込むことが出来る。

 もしもボックスに願える、すなわち使用者が想像し得るあらゆる可能性の自分を形にする事の出来るという、破格の効果を実現出来るのだ。

 

 しかし魔法の世界にするだけで悪魔が襲来するという危機が起こったので、より強い力を使える世界にすれば、その反動で脅威の敵が現れる可能性があるから無暗に使えるという訳ではない。

 だが本来出来ない事が出来る様になるだけでも、すさまじい可能性がある。

 魔法の世界の魔法は科学が置き換わった物なので、日常生活における科学で出来る事が魔法になっただけなので、物語のように凄い魔法がそこら中にあるわけではなかった。

 それでも科学の世界で魔法の使える様になることに意味があると、実験を始めた。

 

 

 魔法の世界で可能な限りの資料を集め、魔法体質と一緒に科学の世界に持ち帰るためにコピー数人とタイムマシンで数分後の未来に送り出し、資料を持ったコピー達が時空間にいる間にもしもボックスで元の科学の世界に戻す。

 科学の世界に戻った後、数分前に送り出したコピーと資料は辿り着き、無事にもしもボックスの改編を受けずに魔法世界の資料と魔法の使えるままのコピー達が科学の世界に降り立った。

 

 そこから更にさまざまな実験をした。

 こちらの科学世界での魔法の使用だが、コピー数人では効率が悪いのでタマゴコピーミラーによる分裂と統合で魔法使用者を増やせないかの実験を行った。

 実験は成功し魔法の使用出来るコピーと使用出来ないコピーを統合しても、魔法が使用出来るままのコピーに統合出来た。

 検証が済むと一度全員をオリジナルに統合し再度コピーで増えれば、全員が魔法を使う資質を持ったままでいる事に成功した。

 

 魔法の実践はコピー達が手分けして学べば済むので、魔法その物とは関係なく魔法と科学の世界を切り替えるもしもボックスの特性を更に調査した。

 もしもボックスは世界自体を書き換える物だが、映画においてのび太達を助けに来たドラミちゃんが自分のもしもボックスで元の世界に戻そうとしたとき、のび太が魔法世界で起こっている事件がどうなるのか尋ねると、魔法世界と科学世界は別々となりパラレルワールドになると言っていた。

 これをどう解釈するかもしもボックスの機能が理解出来なければわからないが、もしもボックス使用終了後はそれぞれ別の世界に独立していると考えられた。

 元々別の世界でもしもボックスによって科学世界に魔法世界を上書きか使用者だけ入れ替えたのか、あるいは科学世界を魔法世界に書き換えて元に戻すときにパラレルワールドに派生させたのかという可能性が考えられたが、もしもボックスの機能が飛びぬけているので現在の技術では調査しきれそうにない。

 ただドラミちゃんの言葉が正しければ、科学の世界に戻っても魔法世界はパラレルワールドとして存在しており、存在しているのであれば何らかの方法で移動が可能かもしれないという事だ。

 

 平行世界への移動の可能性を目的に、科学の世界に戻した後に時空間の調査を行った。

 魔法世界に発信機を置いて、科学世界から発信機を見つけることが出来れば分離した魔法世界と科学世界を行き来出来るかと考えた。

 科学世界に戻す際に発信機も一緒に科学世界に戻る可能性を懸念して、もしもボックスから距離を置いた宇宙空間に発信機を置いてきたのだが、改変の際に科学世界の物と判断されたのか一緒に戻ってきてしまっていた。

 発信機によるもしもボックスを使わない科学世界から魔法世界への探索は失敗だった。

 

 そこでもう一つの手として、以前僕の所にやってきた昆虫人類のビタノ君達が使ったDNA追跡機による時空探査を行った。

 ひみつ道具にも似たような時空を超えて持ち主や出身地を探す方法がある。

 それで魔法世界の出身者であり、魔法世界の危機に映画でも関わった満月美夜子さんのDNAデータを貰って目印にさせてもらった。

 毛髪を貰って道標にしようと思ったが、物質では発信機と同じになるかもしれないのでデータだけを装置に記憶させることにした。

 今度は調査は成功して魔法世界を見つけ、時空間による科学世界と魔法世界の移動を可能にした。

 

 魔法世界ではあらゆる科学が魔法に置き換わっているので、宇宙空間に空気が無いという事が無く月にウサギがいたりなど迷信が真実になっているややこしい世界になっている。

 魔法世界の人物のDNAと言われても使えるのかどうかわからなかったが、ひみつ道具の性能を超えるほど魔法世界は出鱈目ではなかったらしい。

 行き来が可能になった魔法世界には、コピー達が手分けして学習している魔法の資料集めに時々向かうくらいだ。

 平行世界という時間移動や異世界とはまた別の特殊空間移動法が見つかった事の方が重要であり、今後も平行世界移動についての調査を進めていくつもりだ。

 

 

 

 

 

「”チンカラホイ”」

 

 気の抜けた呪文を唱えると、目の前に置かれた教本が浮かび上がる。

 コピー一同が集まり魔法世界の資料を読んで魔法の勉強をしている。

 こうして時々唱えて魔法を実践しているが、基本的に一般で使われる呪文は全て同じで効果はイメージ次第で別々という理論立ったものではない。

 一般で使われる魔法は殆どこの呪文で統一されており、高度な魔法はまた別の理論が必要らしい。

 

「簡単な魔法は全部この呪文というのは、解り易いというかアバウトと言うべきか…」

 

「アバウトだろう。 もともとドラえもんの映画で子供向けだし、世界観も迷信が現実になって月にウサギがいるくらいだ」

 

「だけどもうちょっと呪文にバリエーションがあってもいいんじゃないか?」

 

「高度な魔法になれば呪文も複雑になったり訓練が必要になるが、省略する事も出来るらしい」

 

「一般使用の魔法を試し終えたら、高位魔法について調べ始めるか」

 

 一般魔法は基本的に誰でも訓練すれば出来る物らしく、僕達もコピーが総出で訓練というほど練習しなくても時間を掛けずに一通り使う事が出来た。

 本命は高度な技術を必要とする美夜子さん達が使っていたような一般的でない高位魔法だが、正直何処まで習得に努めようか悩んでいた。

 

 魔法世界の魔法は科学が置き換わった物で、現代科学で出来る事の限界がこの魔法の限界という事になる。

 つまりひみつ道具に比べて大したことが出来る訳でなく、精々便利というレベルにしかならないのが魔法世界の魔法が限度だろう。

 敵の悪魔達が使った強い魔法もあるらしいが人間用の魔法でない以上、魔法世界の人間の体質を得ただけの僕では使えない筈だ。

 

「高位魔法もある程度修得したら切り上げよう。

 ひみつ道具でもないと出来ないような魔法があれば別だけど、魔法世界の技術にそこまで時間を掛けてもリターンが少ない。

 やっぱりもしもボックスの改造案を優先した方が良い」

 

「まあ現代科学を置き換えた魔法じゃ大して期待出来ないですからね、会長」

 

「もしもボックスの可能性こそ、僕等の新たな目的の第一歩に繋がる」

 

 今回魔法のある平行世界を生み出す、或いは繋げるに至ったもしもボックスには無限の可能性がある。

 ただ現代科学が置き換わっただけの魔法世界にするのではなく、ドラえもんとは別の物語が舞台の現代科学より飛びぬけた技術・異能のある世界にもしもボックスで変えれば得られる物が多い。

 元々の物語という事前知識も持っていられるし、その世界にもしもボックスの機能で行けばその世界特有の異能も得られるだろう。

 

 物語の世界といってもいろいろあり、地球に準ずる世界であればパラレルワールドの一種と見ることが出来るが、完全に地球と呼ばれない異世界が舞台の物語となれば流石に”もしも”の範囲から外れて、もしもボックスの機能が及ばないかもしれない。

 だからもしもボックスをベースに改良して、あらゆる物語の世界に行けるようにした新たなひみつ道具を製作予定だ。

 

 全ての事件が終わって何の懸念も無くなったからこそのひみつ道具の使用法であり、あらゆる世界で技術や技能を収集し、あらゆる世界を冒険したり遊んだりするのが僕の現在の目的だ。

 まずはどのような世界に行ってもある程度対応出来る個人の能力を得る為の修行が出来る世界に行くつもりだ。

 ひみつ道具は万能に近いが、僕自身は無敵ではないし不死でもない。

 そうなる事の出来るひみつ道具もないことはないが、僕自身が手も足も出ないというのは悔しいし修行して強くなるというのも憧れる物だ。

 

「いきなり新しい世界に旅に出るのも危ないから、まずは対応力を鍛えるために修行出来る世界に行こうと思うが、何処がいいと思う?」

 

「ドラゴンボールだな」

 

「ドラゴンボールだね」

 

「ドラゴンボールだろ」

 

「おおう、流石は僕……。 まったく意見が分かれない」

 

 前々から考えていたことだし、単純に身体能力を鍛える上ではドラゴンボールの世界が一番わかりやすく鍛えやすい。

 そこで十分鍛えてからなら、少し危険な世界に行ってもひみつ道具を使わずに大抵の身の危機を乗り越えられるだろう。

 今の僕はひみつ道具が無ければ、超能力を使えるくらいしか個人としての能力はない。

 これだけでも十分にすごいんだけどね。

 

 ドラゴンボールの世界はパワーインフレが激しく、一個人で惑星を破壊出来るほどのエネルギー波を放てたりするが、それだけで他の世界に通用すると思えるほど甘く考えてはいない。

 最強を目指すというのも憧れない事はないが、あらゆる物語の世界に行けるようにするという事は、同時あらゆる世界が存在する事を証明するようなものだ。

 あらゆる世界、つまり想像し得る物語の世界は無数に存在し、その中でドラえもんのひみつ道具やドラゴンボールの戦闘力など強力に見えても上には上があり、常識外れとも法則が吹っ飛んでいるとも言える、無茶苦茶な力が許容される世界などいくらでも存在している。

 そんな世界には当然とんでもない存在がキャラクターとして存在し、”あらゆる攻撃が効かない”、”どのような手段でも死なない”、”死んでも即復活する”、”世界の法則その物を書き換える”etc……など、僕の想像を超えた物語を書く人間が想像しうるトンデモ能力を持った存在が当然いる。

 万能に近いひみつ道具でもそんな世界に行って通用すると思うほど馬鹿ではないし、そんな世界に行きたいとも思わない。

 

 ひみつ道具の手に負えない世界に流石に行く気はないが、ひみつ道具が通用する世界でも今の僕は一般人に超能力が使えるだけで、油断すれば窮地に陥る事がある。

 そういうひみつ道具を使っている暇がない時の対処能力を、まずは得ようと考えているわけだ。

 

「まあ、前々から考えていた事だし意見が分かれないのは当然だけど、次の会議にでも他の訓練候補世界を考えよう」

 

「けどまずは世界移動するもしもボックス改(仮名)を作らないと」

 

「ハツメイカーと○×占いで検討して、完成まで一か月は掛かる計算になった」

 

「これまでに比べればかなり時間が掛かるけど、そんなとんでもマシン作るのに一か月掛からないとか、やっぱり技術チート」

 

「最近は理論が簡単なひみつ道具なら改造出来るようになってきたしな」

 

「【転ばし屋】とか【ショックガン】のような玩具とか武器紛いの物ばかりだけどな」

 

 ひみつ道具はもしもボックスの様な世界法則をひっくり返すようなとんでもなものもあるが、玩具みたいな便利道具の延長にあるようなものが圧倒的に多い。

 そういうものでも時々吹っ飛んだ性能の物もあるが、少しずつ技術を理解して簡単な改造がひみつ道具任せでなく自力で出来る様になってきていた。

 タイムマシンも宇宙船に機能を組み込んだりワープ機構を弄ったりしていたので仕組みに詳しくなり、自作PCのように手軽に組み立てる事も今は容易になった。

 

「今後、別の世界に行けばその世界の技術も収集する事になるだろうから、また忙しくなるぞ」

 

「いちいち人手不足の解消にタマゴコピーミラーで増えるのも面倒だから、NARUTOの影分身も覚えておきたい」

 

「同じ自分だけで話し合うのも意見が分かれないから、ドラ丸以外にも助手になる信用出来る助手的存在がほしい」

 

「了解。 その辺りも今後の議題について相談していこう」

 

 全ての事件の解決を節目に、僕と僕のコピーとドラ丸だけしかいないとはいえこの組織も一種の転換期を迎えている。

 今後様々な世界に探索に出るために、コピーだけで運営する方式を変えてもいい時期だろう。

 そうやって今後の相談をしながら、とりあえずは目の前にため込んだ魔法の資料を一通り目を通し切る事にしよう。

 終わったら実践を他のコピーに任せて、僕はもしもボックスの改良準備に移る事にする。

 

 そう考えて残りの資料に目を通していた時、ドラ丸が資料室に客を連れてやってきた。

 

「殿、美夜子殿が参られたでござるよ」

 

「こんにちわぁ、ってハジメさんがホントにたくさん!」

 

 魔法世界の満月美夜子さんだ。

 実験による時空間を超えた世界移動が可能になった事で、試しに現在この場所と美夜子さんのいる魔法世界を一時的に繋ぐ空間接続装置を開発した。

 仕組みは外観がどこでもドアで、タイムホールのように時空を超えて繋がることが出来、更に出入り口で一対の道具にすることで汎用性を失う代わりに遠い世界であっても時間の流れを同調させて自由に行き来出来るようにした。

 平行世界に繋ぐことに成功したので魔法世界に行く理由はもう余り無いのだが、協力してくれた美夜子さんが科学の世界に興味があったので、お礼にと接続を維持する実験を兼ねて継続する事にした。

 

 彼女との交流の始まりは当然事件が切欠で、彼女の家に悪魔が襲撃したところをMS軍団で助けに入り面識を持った。

 そこで彼女たちが持っている物語の重要ファクターである魔界歴程の解読に【翻訳こんにゃく】を渡して、悪魔の倒し方を教えてさっさと事件を解決させた。

 その際に自分が科学の世界からやってきたことを伝え、世界が違うから短い付き合いだろうとコピーも見せていたので、その存在も知っている。

 二つの世界間の時空間移動実験で協力してもらい付き合いが長くなるとはその時は思っておらず、空間の接続が成功した際に科学の世界を案内する約束をすることになった。

 世界同士を何時まで繋げているかは彼女次第だろう。

 

「会長、案内する約束だったんだろ」

 

「こっちは続けておくので行ってくれ」

 

「わかった、後は任せる」

 

 コピー達の後押しに残りは任せ、資料の確認を切り上げて出入り口で待っている美夜子さんの元に向かう。

 

「ドラ丸、お迎えご苦労。 美夜子さんの案内は引き継ぐから、資料の整理を手伝っておいて」

 

「承知でござる」

 

「それじゃあ美夜子さん。 これから科学の世界の方に案内します」

 

 ドラ丸は入れ替わり資料室に入り、僕は美夜子さんを連れて施設内のどこでもドアタイプの空間移動装置がある部屋に向かう。

 美夜子さんには二度手間になるが、魔法の世界に繋がるドアもそこにある。

 

 僕は先導しながら廊下を歩き、彼女は窓から見える外の景色を見ながら後ろについてきていた。

 

「前にあった時は数人だったけど、さっきの部屋には何十人もあなたのコピーがいたわね。

 あんなに沢山いてケンカになったりはしないの?」

 

「確かに同じ自分がケンカを始めれば大変なことになるのは予想出来ますが、同じ記憶を持っていますから全員ケンカを控えるように意識してますし、細かいルールを決めてそうならない様に気をつけています。

 元々人手不足を解消する目的でコピーを作ったんですが、学習の際に身体が複数あれば効率も上がって、後で統合した時に記憶も統合出来るから便利なんですよ」

 

「正に体がたくさんあれば便利ってことなのね。

 初めてみた時は禁忌のホムンクルスかと思ったけど、分裂して統合出来るなんて科学はすごいのね」

 

「いえ、僕等が特殊なだけで科学の世界は文化レベル的には魔法の世界とそう変わりませんよ」

 

「そうなの?」

 

「ええ、僕等と貴方達の世界は科学と魔法が置き換わっているだけですから」

 

 ひみつ道具を現代科学の基準にされてはかなわない。

 彼女の言った禁忌のホムンクルスとは魔法世界の錬金術の技術の事で、この世界のクローン技術に当たるものらしい。

 現代社会では人間のクローンなど実際には聞かないが、当然非人道的な物なので禁止されて当たり前の物だ。

 その考えは魔法世界の錬金術のホムンクルスという形で、非人道的なものと考えられているらしい。

 

「ところでこの世界が科学の世界なの?

 外の景色を見ると緑ばっかりで建物が見当たらないから、科学って感じがしないのよ」

 

「そんなに科学の世界に期待を持たないでくださいよ。

 科学の世界と魔法の世界は元々平行世界だから、技術が違うだけで見た目的にはそんなに変わりません。

 此処はバードピアという最近僕等が越してきた拠点で、科学の世界に隣接する異世界です」

 

「え、ここってまた別の異世界なの?」

 

 雲の王国事件が終わり、僕等は鏡面世界に置いていた拠点を映画翼の勇者たちの舞台となったバードピアに移転させた。

 翼の勇者たちは映画では未来の鳥類学者が時空間で遭難し、辿り着いた異世界で鳥たちを鳥人に進化させて作った世界がバードピアと呼ばれていた。

 バードピアは本来の世界と隣接する異世界で、渡り鳥達だけが認識出来るバードウェイという超空間の穴を抜けた先に存在している。

 時空間についてはいろいろ研究しており、とうの昔にバードウェイを使わずにタイムマシンの類を使って辿り着けるようになっている。

 

 この世界では未来人が存在しないので鳥類学者も来ておらず、渡り鳥達だけが辿り着けるだけの普通の鳥たちの楽園だ。

 ただし映画でも大暴れしたフェニキアと呼ばれるドラゴンみたいな生物も生息していたが、【桃太郎印のきびだんご】でおとなしくさせているので問題ない。

 映画ではなぜきびだんごを使わなかったのかが謎だ。

 

「うん。 前は科学の世界の鏡面世界に拠点を置いていたんだけど、必要が無くなって維持する理由もないからこっちに本拠地を移転させたんだ。

 科学の世界にもまだ秘密の拠点をいくつかおいているけど、あっちの世界ではやることもほとんどなくなったから研究なんかはここで続けているんだ」

 

「科学の世界の鏡面世界って鏡の中の世界ってこと?」

 

「そうなるね」

 

「科学の世界に鏡面世界に隣接するバードピアに魔法世界…。

 一体いくつの世界があるの?」

 

「数えてもしょうがないよ。 探し出したら世界なんて無限にある。

 自分達の世界の宇宙の果てだってそうそう把握しきれないのに、未知の場所が多すぎるよ」

 

 世界をいくつも紹介したせいで美夜子さんが混乱している。

 今言ったとおり、隣接する世界に関わりのまるでない異世界に平行世界と、分類に違いはあるが世界というものは超空間を隔てて無数にあるのは、時空間を調査した時点ではっきりわかっている。

 認識の仕方次第で世界を隔てる壁も無数に存在し、その先にそれぞれ別の分類に分けられる世界が広がっている。

 自身の世界に広がる宇宙だって把握しきれないというのだから、人間のちっぽけさが改めて解るというものだ。

 

 鏡面世界からバードピアへの移転は前々から考えていたことで、どちらが表の世界に近いかという問題で、事件が終わるまで鏡面世界を拠点に置いていた。

 バードピアは超空間に関する知識が深まった現在では鏡面世界を出入りするのと大差ない手間で済むが、以前では移動にいろいろ手間が掛かっていて、【逆世界入り込みオイル】で大きな出入り口が作れる鏡面世界の方が移動しやすかった。

 しかも鏡面世界は生き物がいないことを除けば表世界と真逆の世界で、入り込んだ人間が鏡面世界を弄っても表世界に影響が出ないので誰にも文句を言われずに拠点を作ることが出来た。

 

 だが維持をするのに定期的に人間が入らないといけないという欠点があった。

 本来鏡の中は表の世界と左右対称でなければおかしく、それ故に一定期間鏡面世界に誰も入らず変化が起きない状態が続くと、表世界の左右対称の形に戻りだして変化していた物や異物が消えてしまうという維持についての問題があったのだ。

 

 誰かが常に中に居ればいいという些細な問題なのだが、全ての事件が解決したのを契機に、維持を気にする必要のない誰もいないバードピアに拠点を移住させる事にした。

 表世界への移動も現時点での超空間移動技術なら容易なので、鏡面世界に建てていた建物ごとバードピアに移住し、そこの生活環境を整えながら時折表世界の様子を確認したりして暮らしている。

 表世界への移動装置も魔法世界への移動装置と一緒に空間移動装置を纏めた部屋に置かれている。

 そこから空間移動を経て表世界の科学世界に美夜子さんを案内しに行くのだ。

 

「今回案内するのは科学世界なんで、別の世界の事なんて気にしなくていいですよ。

 バードピアは今はたくさんの鳥がいるだけの世界で、鏡面世界は鏡に映った真逆なだけの世界ですから」

 

「仮にも別の世界を”だけ”って言葉で終わらせてはいけないと思うわ?」

 

「今後はもっと異世界の探求を進めていくので、いちいち近くの世界に気を取られていてもしょうがないんですよ」

 

 何せこれまで昆虫世界やらロボットが人間と共存する世界など、奇妙な世界の存在をいくつも肌で感じている。

 今後の研究目的は更に別の世界を求める事なのだから、僕にとって異世界とは今更なのだ。

 

「ふーん、よくわからないけど、科学の世界から来たんだもの。 不思議な事があっても可笑しくないわね」

 

「何度も言うけど、僕が特殊なだけですからね。 科学の世界だからってなんでもありという訳じゃありません」

 

「どちらでもいいわ、私にとって科学の世界は未知の世界だもの。 いろいろ堪能してみたいわ。

 やっぱり自動車はあるの? 雷を操って使う事の出来る電化製品にも興味あるわ。

 それに銃っていう武器もあるんでしょ、撃ってみたいわ」

 

 魔法世界から見た科学世界の知識はあながち間違っていないようだが、美夜子さんの期待感を見る限り少なからず幻想を持っているように感じる。

 実物を見て落胆しないといいんだが…

 

「今美夜子さんの言ったものは全てありますけど、自動車に乗るには免許が要ります」

 

「免許か~、魔法の絨毯の免許じゃダメかしら?」

 

「ダメに決まっています。 それに銃は日本では銃刀法がありますから使えませんよ」

 

「銃刀法? 私の世界の攻撃魔法杖の事かしら?」

 

 科学と魔法が置き換わっているので、それらに関わる事全てが置き換わる形で何かしらの類似性を見せているのが面白い。

 美夜子さんの科学世界観光は、似たような物でも科学と魔法の違いから面白さを見出しそこそこ楽しいものとなった。

 

 

 

 

 




 美夜子さんの繋がりが出来たけど、続編で登場するか未定。

 おまけもこれだけで、残念ながらこのお話はここで完結です。
 新しい作品はこの話の続編としてまた別に投稿しますので、少々お待ちください。
 連続更新出来る様に一区切りできるところまで書き上げたら投稿します。

 ご拝読ありがとうございました

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