ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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感想、及び誤字報告ありがとうございます。


真・鉄人兵団4

 

 

 

 

 

「ここが地球の人間の都市…」

 

 リルルはハジメに勧められるまま、地球の人々が多く住む都市部に送られた。

 服装も都市の人間の女の子として不自然でないようなものを【着せ替えカメラ】を使ってコーディネイトした。

 ぼんやりと周囲を見渡しているが、その容姿は周囲に溶け込んでおり誰の目にもリルルが普通の人間に見えているだろう。

 

「町の喧騒、往来する無数の人間、立ち並ぶ大きな建物」

 

 初めて来た場所でロボットなど一人もおらず、人間ばかりが歩き回っている環境はリルルの心に僅かな孤独感を感じさせた。

 しかし初めて来た場所なのにリルルは既視感も同時に感じていた。

 建物が立ち並び往来する人がすれ違い時々ぶつかりそうになるほどの人口密度が集中している。

 それはメカトピアの都市部でも感じた、多くのロボットが行きかう喧騒の中に酷似していることをリルルはわかっていた。

 

「ロボットと人間、建物も様式が違うけどどれも高い。

 それにせかせかと走り回っているのかと思うような人口密度。

 まるで初めてメカポリスで買い物に出かけたときみたい」

 

 リルルはもう認めていた。

 メカトピアのロボットと地球の人間の生き方が、文化の違いはあってもまるで同じと言ってもいいくらいに似通っていると。

 まだ都市の人々を見ただけだが、それでももう答えは出ていると確信しながら人々の間を抜けていく。

 ここで見聞きしたことがハジメの言う様に、いずれメカトピアの為になる人間達の情報だと信じて歩み始めた。

 

 

 

 

 

「リルルの様子はどうだって?」

 

「特に不審な様子を見せることなく街を歩き回って人間観察をしてる。

 とりあえず下手な真似をするような感じではない」

 

「それはよかった。 地球の一般の人に危害を加えようとしたら、流石に擁護出来ないから処理を検討しないといけない。

 せっかくの仲介役プランが台無しだ」

 

「映画のキャラだからね。 もともと敵だけど敵のままで終わらせたくないからな。

 何とか味方に引き込みたい」

 

「まあそれも今後のメカトピアの動き次第だ。

 向こうに人間相手でも対話しようという意思がなければ、停戦協定を議題に挙げさせることも出来ない。

 その為には人間の事を理解する仲介役と、勝算が低いと思わせる圧倒的な戦力を相手に理解させる必要がある。

 まもなく来る鉄人兵団は圧倒的戦力で一切の容赦もなく全滅させる」

 

「戦力差を見せつけるために、リルルにも戦闘の様子を見せておこうか?」

 

 観戦の提案をしたハジメにオリジナルのハジメは少し考え込んで答える。

 

「流石にそれはやめておこう。

 ジュドの件でわかったが、彼らの倫理観もおおよそ人間と同じものとみて間違いないはずだ。

 戦場でロボット達が壊れていく様は、人間に置き換えて血飛沫が舞う凄惨な光景に映ってるんじゃないかな?」

 

「理解し難いが、人種の差による価値観の違いって奴だろうな。

 まして相手はロボットなんだし、人間に酷似した精神性を持っていても決して相容れない価値観があってもおかしくない」

 

「そういうところも、和平交渉が始まれば問題になるかもしれないな」

 

「やっぱり僕らに政治的対応なんて無理がある。

 なんだかんだ言って、結局力ずくで相手に要求を飲ませるやり方にしかなりそうにない」

 

「仕方ない。 こればっかりは誰か悪い奴を倒せば全て解決する物語じゃないんだ。

 僕たちが勝つという結果で、メカトピアは負けを認めて従うか受け入れず全滅させられるかのどちらかしかない。

 表の地球への襲撃を許すわけには絶対にいかないからな」

 

「勝算があるから言えることだが、救いようのない話だ」

 

 原作ですらメカトピアの歴史を塗り替えるという、ある意味全滅させる以上の方法でしか解決出来なかったこの戦い。

 いくら力があったとしても、国家的な集まりでないハジメ達に穏便な解決方法は存在しなかった。

 いや、おそらく国家であっても地道な対話でなければ、平和的解決は望めない問題だ。

 それは争いをこれまで幾度も繰り返してきた、人の解決しない永遠の議題なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 メカトピア軍、人類奴隷化計画実行部隊、鉄人兵団。

 地球侵攻の10の輸送艦からなる艦隊が、地球へ向けて長時間のワープ航行を行なっていた。

 艦隊及び鉄人兵団司令であるズォーターは、自分の席に座りながら地球への到着を待っていた。

 

「あとどれくらいで地球に到着する」

 

「一時間ほどでワープ航行を終えて、地球のある太陽系に到着いたします、司令」

 

 副官である将軍プラタが到着までの予定時間を報告する。

 

「フフフ、ようやく私が金族としての権威を取り戻す時がやってきたのだな」

 

「ええ、その通りですね司令」

 

 自身の野望を口に漏らして喜びを顕わにするズォーターに、プラタは呆れた様子を見せながら適当に相槌をしてこたえる。

 ズォーターは議会の人類奴隷化計画の実行部隊を担う事で、その功績で自身の権力を高めようとしていた。

 

 先の戦争でメカトピアは王制から共和制に変わり、国の首脳陣が国民の投票によって選ばれる議員制になったことで、元王族である金族のズォーターは権力を大きく減らしていた。

 条約によって金族には一定数の議員の議席が恒久的に約束されているが、その席に座れるのは金族の中でも上位の有能な者達だけで、ズォーターにそこまでの能力はなく議員になるには通常枠で国民に認められるしかなかった。

 しかし傲慢で尊大な旧来の代表的な金族の性格をしているズォーターが国民に認められることなく、議員に立候補しても当然席に座る事など出来なかった。

 

「全く面倒な世の中になったものだ。

 私のような金族の偉大さを国民に知らしめるのに、このような雑務をこなさなければならんとは。

 私が議員になった暁には、金族の偉大さを愚民共に知らしめる教育を強化せねばならんな」

 

「ええ、その通りですね」

 

 共和制に全く馴染めていないズォーターは、このような旧来の価値観を持つ限りとても議員になれないのだが、それでも金族としての力は僅かに残っており、実績を得るために自分をこの侵略作戦の司令の座にねじ込んだ。

 司令になる事を許したが上層部である議員たちもバカではなく、旧来の価値観でしか行動出来ないズォーターに司令が務まるはずがないと、副官に有能なプラタを据えて実質的な司令官を担わせた。

 実質的な指令を任され、更にはズォーターの妄言を聞いて相手をしなければならないプラタは間違いなく災難だ。

 航行中何度もこのようなズォーターの実の無い野望を聞かされて、プラタはとりあえず力のない相槌を返すだけの機械となっていた。

 

 そんな時にズォーター達が乗る艦隊の旗艦、および追従するすべての艦隊が大きな衝撃に襲われる。

 

「ぬぉ! なんだ、地震か!」

 

「ハッ、何が起こった? それと司令、ここは宇宙空間ですので地震はありえません」

 

「わ、わかっておるわ!」

 

 その衝撃にズォーターは椅子から転げ落ち、プラタは本来の意識を回復させる。

 

「今の衝撃の原因を報告せよ!

 …いや、超空間を抜けているだと?」

 

「何が起こったのか、私に説明せよ!」

 

 プラタが部下に今の衝撃の原因を突き止めるように命令するが、艦橋から見える外の風景が通常の宇宙空間になっていることで、船がワープを終えていること気づく。

 混乱しているズォーターの事は相手にしていない。

 

「どういうことだ、なぜワープアウトしている。

 太陽系の到着まであと30分以上はあったはずだ」

 

「わかりません。 旗艦を含めた全艦が通常空間にワープアウトしている模様」

 

「他の艦も近くにいるのか。 艦隊が離散しなかったのは救いか」

 

「プラタ副司令! 前方の宇宙空間に所属不明の宇宙船がいます。

 数は四!」

 

「なんだと、全艦に警戒するように伝達!

 不用意に動くな。 突然のワープアウトの原因と何らかの関係があると見て間違いない」

 

「了解しました」

 

「司令は私だ! 私に報告せよ!」

 

 急な事態にプラタはすぐに対応し、目の前の宇宙船に対して警戒を味方に呼びかける。

 そこへ目の前の宇宙船からオープンチャンネルで通信が発信された。

 

『メカトピアのロボットたちに告げる。 この声が聞こえているだろうか。

 我々は地球への脅威を未然に防ぐ独立組織シークレットツールズである。

 貴様らが地球に侵攻しようとしてることはすべて把握している。

 警告は一度である。 速やかに侵略行為を中止し、母星に帰還する事をお勧めする。

 従わない場合、貴様らを殲滅する事もやむを得ないと判断している』

 

「人間どもめ、我々の侵攻に気づいていたか!

 先遣隊が見つかったのか知らんが、嘗めおって!

 全艦砲門を開け! 主砲を発射し奴らを破壊するのだ!」

 

「お待ちください司令! この不測の事態に不用意な攻撃は危険です。

 それにこの艦隊は派兵を目的とした輸送艦ばかりで、武装は隕石を破壊するレーザーくらいしかありません」

 

「そ、そうなのか!? だ、だが構わん攻撃を開始しろ!

 敵を攻撃するのに何を躊躇する必要がある!」

 

「敵はおそらく地球の人間ですが、予想されていた戦力がまるで違います。

 地球人は宇宙での戦闘が出来る戦力を持っていないという調査報告を受けているのですよ。

 敵戦力が情報と違い実情がわからなくなった以上、うかつに開戦するのは危険です!

 侵略作戦そのものの見直しも考えられます」

 

「なんだとそれはいかん!」

 

 プラタの忠告にズォーターも流石に戸惑う。

 

「侵略計画は私が議員になり、栄光を取り戻すための大事な計画なのだぞ!

 それが中止になるなど認める訳にはいかん!」

 

「こんな時まで何を言ってるんですか、あなたは!

 それどころじゃないでしょう!」

 

「ええいだまれ!」

 

―バシューン!―

 

 作戦を中止される訳にはいかないと興奮したズォーターは、フィンガーレーザーでプラタの頭部を躊躇なく撃ってしまう。

 頭部にある電子頭脳を破壊されて、プラタは一瞬で機能を停止させられた。

 

「私に逆らう貴様など反逆罪で処刑だ!

 全艦攻撃を開始しろ! 兵団も出撃させ逆らう人間どもを殲滅しろ!」

 

「し、しかし!」

 

「早くしろ! 貴様も処刑されたいか!」

 

「は、はい! 攻撃開始!」

 

 ズォーターの剣幕に部下は逆らえず攻撃の指示が出され、戦闘開始のレーザーが各艦から発射された。

 隕石破壊目的の武装だが決して威力が無いわけではなく、同じメカトピアの船が直撃を受ければ十分な損傷を受ける代物だった。

 

 だが…

 

「バリアだと!?」

 

 目の前に立ち塞がる宇宙船は球体のバリアーで守られ、レーザーが宇宙船本体に届くことはなかった。

 その攻撃に触発されて、宇宙船から自分たちと同程度の大きさの武装したロボットが次々に出てきた。

 

「人間がロボットを使うだと! ふざけおって!

 鉄人兵団全機出撃! 人間に従う愚かなロボットに我々の力を見せつけるのだ!」

 

「全兵団出撃せよ!」

 

 こうして宇宙空間におけるメカトピアのロボットの軍勢と、地球を守るハジメの作ったモビルソルジャーたちの最初の戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

 

 時は少し遡って、ハジメ達は宇宙船で地球から数万光年離れた宙域にいた。

 

「敵の到着予想時刻まで後どれくらいだ?」

 

「既に五分を切っております、マイスター」

 

 オペレーターを担っている人間サイズのジム型モビルソルジャーが、ハジメの質問に答える。

 

「超空間キャプチャーネット、うまく作動してくれるといいんだが…」

 

『シミュレーションと動作実験はすべてうまくいっているが、本番で失敗するという事はあるからな』

 

『予備作戦として鏡面世界への誘導も用意してあるから失敗しても問題ないが、せっかくの僕たちの力作だ。

 この日の為に用意したのに無駄にはしたくないな』

 

 モニターの向こうから宇宙船の様子を見守っているハジメ達が、作戦の成功を祈っている。

 

 ハジメ達が用意した超空間キャプチャーネットとは、超空間に入りワープ中の宇宙船が特定区域に入ったときに強制的に通常空間にワープアウトさせる、いわば超空間の落とし穴だ。

 これを使い地球に向かっている鉄人兵団の船団をハジメ達が望む宙域に呼び込み、ここで迎撃する事で太陽系での戦闘を回避しようというのだ。

 表の地球の技術でも太陽系内の宇宙空間で戦闘が起これば、十分観測される可能性がありうる。

 地球人に鉄人兵団との戦いを見られないように、何光年も離れた宇宙空間で戦う事にしたのだ。

 

 更にこの超空間キャプチャーネットは、ハジメ達が培ってきた時空間技術を総動員して極力秘密道具を使わず作り上げる事に成功した力作である。

 この罠はワープの理論を応用したトラップで、時空間技術が突出して高まったからこそ思いついたシロモノだ。

 

 ワープとは簡単に言うと、宇宙という広大な空間を移動するのに超空間というトンネルに入る事で近道する技術である。

 ここで重要なのはワープとは瞬間移動のような空間転移ではなく、距離が短くなるだけである程度移動する必要がある事に変わりない。

 例えるなら10km歩かなければならない距離を圧縮して、1mにすることで歩く距離を圧倒的に減らすのだが、この際に超空間の距離1mが通常空間10kmと同じという事になる。

 通常空間10kmの範囲に落とし穴を一つ仕掛けても、歩く道次第で引っかかる可能性は限りなく低い。

 だが超空間1mの範囲になら丸々落とし穴にする事すら容易であり、後は落ちた先を通常空間への出口にしておけば、自然に敵を自分たちの望む場所へ誘い込めるというわけだ。

 

『ですが殿、敵を罠に嵌めてからが本番でござるよ。

 手段に拘って目的を忘れてしまっては本末転倒でござる』

 

『わかってるよドラ丸。 ただ僕達の渾身の作品が無駄になるのが嫌なだけさ』

 

『鉄人兵団を迎撃するのはまだ初戦だ。 後の事を考えると今の内に気を引き締めておかないといけないな』

 

『わかっているのであればよいでござる』

 

 ドラ丸の忠告に従い気を引き締め直していると、オペレーターから新たな情報の報告が上がる

 

「超空間の振動を検知。 超空間キャプチャーネットの動作を確認。

 敵船団の強制ワープアウトと思われます」

 

『『「来たか!」』』

 

 待望の瞬間が訪れ、実行部隊隊長とモニターの向こうのハジメが自然と席から立ち上がる。

 超空間の振動を検知した眼前の宇宙空間を凝視し、次の瞬間に情報通りのメカトピア鉄人兵団の輸送船団10隻がワープアウトしてきた。

 

『『「ぃよっしゃああああぁぁぁぁぁ!!!」』』

 

 勝利の瞬間を目撃したかのような喝采をハジメ達全員が挙げて、お互いの健闘を称えあう。

 この場にいない作業員のハジメ達も全員様子を見守っていたので、自分たちの最高の作品の結果に雄たけびを上げていた。

 これまで解決してきたどの事件の結果よりも、ハジメは心の底から喜んでいた。

 例え鉄人兵団の事件が解決してもここまで喜ばないだろう。

 

『殿、喜ぶの良いでござるが目的を忘れたらいけないと言ったばかりでござるよ!』

 

『そうだった! 隊長、予定通りの警告を敵船団に通告してくれ』

 

「おっと、了解した。 オペレーター、音声の発信を用意」

 

「了解。 …音声通信の準備完了。

 どうぞ、マイスター」

 

「…メカトピアのロボットたちに告げる。 この声が聞こえているだろうか。

 我々は地球への脅威を未然に防ぐ独立組織シークレットツールズである。

 貴様らが地球に侵攻しようとしてることはすべて把握している。

 警告は一度である。 速やかに侵略行為を中止し、母星に帰還する事をお勧めする。

 従わない場合、貴様らを殲滅する事もやむを得ないと判断している。

 …通信終了。 さて、どう出てくるかな」

 

 警告を送った隊長は相手の出方を窺う。

 

『あっさり引き返すという事は流石にないだろうが、警戒して戦闘以外のアクションを取られる可能性もあるんだったな』

 

『戦闘以外の解決方法があるなら越したことはないが、交渉と言う手段が僕らは一番苦手だ』

 

『警告文を考えるだけでも悩んだくらいだしな』

 

『ところで組織名、秘密道具の直訳でシークレットツールズじゃなくて、秘密道具使いってことでシークレットツーラーの方が正しかったんじゃないか?』

 

「今更言うなよ。 もう宣言しちゃったから、後で変更なんて恥ずかしい真似出来ないぞ」

 

『まあ、今回の一件以外名乗る予定なんて無いんだし、別にいいんじゃないか?』

 

『僕一人だけなのに組織っていうのなんかあれだから、名前決まらないんだよね』

 

『殿、もう少し気を引き締めるでござるよ』

 

 相手の出方を窺っている間に、モニターで通信が繋がっているから役職持ちのハジメ達同士で駄弁ってしまう。

 ドラ丸がそれを注意したところで、敵の船からレーザーが発射されバリアに当たるが船体への衝撃は一切なかった。

 

「攻撃してきたか。 ダメージは?」

 

「船体に異常なし。 バリア出力96%に低下しましたが、すぐに回復いたします」

 

「守りも問題なさそうだな。

 よし、攻撃をしてきた。 ならもう反撃に出ても問題ないな。

 ファースト隊、ゼータ隊、ダブルゼータ隊を出撃!

 圧倒的な力の差を見せつけて殲滅しろ!」

 

 のちの作戦の為、一方的な戦いにするべくハジメは無慈悲な命令を下した。

 

 

 

 

 

 


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