ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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 投稿間に合いませんでした。
 これ以上遅くならないように頑張ります


真・鉄人兵団10

 

 

 

 

 

 メカトピア評議会会議場。

 その会場にいるアシミー議員に会うために警備範囲ギリギリの場所までハジメ達は来ていた。

 ここから先は警備に見つからないように進まなければいけないからだ。

 

「それで、どうやってアシミー様のところまでたどり着くの?

 ここから先は警備が厳重で隠れながら進むのは無理よ」

 

「大丈夫、潜入の為の準備はいろいろドラ丸に持たせてある。

 ドラ丸、【石ころぼうし】を出して」

 

「はいでござる」

 

 ドラ丸が灰色の半球状の帽子―石ころぼうし―を四次元ポケットの袴から取り出してハジメに渡す。

 ここにいるハジメはコピーなので四次元ポケットを持っておらず、小さくなってゴッドガンダムのモビルソルジャ―に乗っているので必要な秘密道具はドラ丸に持ってもらっていた。

 

「これは石ころぼうしと言って、被ると他の人からの認識が石ころのように思われて気に留められなくなるんだ。

 見てて………あれ?」

 

 石ころぼうしの効果はドラえもんにも及んだので、メカトピアのロボットにも効果があるだろうとリルルを相手に試そうとしたところで、帽子が途中で何かに引っかかりうまく被れなかった。

 

「殿、頭の角が引っ掛かってるでござる」

 

「あ、そうか」

 

 モビルソルジャー越しでも効果はあるだろうと被ろうとしたが、ガンダム系の特徴である額のV字の角が引っ掛かって石ころぼうしを被れなかった。

 

「このモビルソルジャーに乗ったままじゃ石ころぼうしは駄目だな」

 

「それじゃあどうするの」

 

「他にもいろいろ道具は用意してある。

 ドラ丸、透明になれる道具は何があった?」

 

「ええと、【片付けラッカー】に【透明マント】、【透明目薬】に【透明ペンキ】などがあるでござるが…」

 

「どれもいろいろ欠点があるが、とりあえず無難に透明マントを使う事にしよう」

 

 透明マントを受け取りそれを身に纏うと、ハジメの姿が透明になり見えなくなる。

 

「すごいわ、ハジメさん。 ちゃんとそこにいるの?」

 

「一歩も動いてないよ」

 

「本当に透明になっているのね。 それなら警備の目を掻い潜れると思うわ」

 

「ちゃんと複数用意してある。 身に纏ったら早速行こう」

 

「わかったわ………ねえ、ちょっといいかしら」

 

「ん?」

 

 透明マントを受け取ったリルルがそれを被ろうとした時に、ハジメに質問した。

 

「このマントを纏えば姿を消すことが出来るのはわかるけど、それじゃあお互いの姿が見えなくなってはぐれてしまわないかしら。

 かといって声を出しながらお互いの位置を確認するのは、警備に居場所を教えるようなものだし」

 

「それなら大丈夫。 この透明マントを纏えば同じ透明マントを使っている人の姿を視認出来るようになる」

 

「そうなの? …ほんとだわ」

 

 リルルが試しに使ってみると、自身の姿が見えなくなると同時に姿が消えていたハジメの姿が見えるようになる。

 透明マントは原作では登場毎に仕様が違ったりすることもあるが、この透明マントは纏えば多少体をはみだしても大丈夫で、同じ道具の使用者の姿が見えるようになっている。

 

「これなら大丈夫そうだけど、ドアがある場所なんかはどうするの?

 姿を消したまま扉を開けるのは不自然だし、中にはオートロックが掛かってる場所もあるはずよ。

 アシミー様のような議員の執務室は特にしっかりとしたロックが掛かってる筈よ」

 

「確かに…。 【通り抜けフープ】も確か持ってきていたはずだけど、人目に付く状態では使い辛い。

 鍵開けの道具も確かあったと思うが、ドアを開ければ出入りに気づかれるか、………そうだ」

 

 ハジメはちょうどいい道具の存在を思い出す。

 

「ドラ丸、【四次元若葉マーク】はあったっけ?」

 

「一応数はあるでござるが?」

 

「それは確か物理的に触れられなくなることで、壁なんかもすり抜けられたはずだ。

 透明マントと併用すれば、姿を消したままどこにでも入り込めるはずだ」

 

「それは名案でござるな」

 

 二つの秘密道具を併用し、ハジメ達はアシミー議員のいる議会場に侵入した。

 

 

 

 議会の会議だけでなく行政に関わる処理も行う議会場はかなり広い。

 透明マントで姿を消し、四次元若葉マークの壁抜けでアシミー議員がいると思われる執務室を探していた。

 先ほど議会場最大の会議室を確認し、現在は会議を行なっていないを確認している。

 

「こっちは違う………そっちも違う」

 

「ねえ、さっきから部屋の中を見ずに探してるけど、わかるの?」

 

「殿は透視能力を持っているでござる。

 それで壁を透視して中を確認出来るのでござるよ」

 

「人間にはそんな機能もあるのね」

 

「普通の人間には出来ない事でござる」

 

 アシミー議員を透視能力で探しているハジメの代わりに、ドラ丸が何をやっているのかリルルに説明する。

 ハジメは【E・S・P訓練ボックス】の効果で超能力を使えるようになっており、念力・透視・瞬間移動を習得している。

 ただし超能力をちゃんと使えるようになるには、その道具で三年間毎日三時間訓練する必要があったが、ハジメはコピーで一度にたくさんの経験を積むことで加速度的に習得する事に成功した。

 その後も訓練を続ける事で超能力を強化する事に成功し、より強力な念力・望遠可能な透視・自分だけでなく他の物も瞬間移動させることが出来るようになっている。

 

「誰かにアシミー議員が何処にいるか尋ねる訳にもいかないし、虱潰しに探すしかない」

 

「それしかないでござるか。 …殿、ここに入るのに【オールマイティパス】を使っては良かったのではござらんか?」

 

「ああ、それがあったか。 …いや、あれはどこへでも入る事を許してくれるものだが、入ったことは記録されるはずだ。

 ここには監視カメラなんかもあるし、記録に残らないようにやっぱり姿を隠しておくのが正解だろう」

 

「潜入するのもなかなか難しいでござるな」

 

「なんだかわからないけど、議会場に入り込むのは貴方たちには簡単な事の様ね」

 

 ぽろぽろとここに侵入する手段が出てくる二人の会話に、メカトピアを守る側のリルルとしては複雑な気分になっていた。

 秘密道具も類似する効果の物がたくさんあるので、この手の侵入手段などはたくさん思いつく。

 おそらく探せばハジメ達が使っている透明マントと四次元若葉マークの併用よりも、楽に侵入してアシミー議員に会う事の出来る秘密道具も探せばあるだろう。

 

 歩きながらいくつもの部屋を確認し続けていると、ついにハジメが目的の部屋を発見する。

 

「見つけた、あの部屋にアシミー議員がいる」

 

「どの部屋?」

 

「三つ壁を抜けた向こうの部屋だ」

 

「本当に壁の向こうが見えているのね。

 ともかく行きましょう」

 

 壁を三つすり抜けた先の部屋に、アシミー議員は机で書類仕事をこなしていた。

 執務室にいるのはアシミー議員だけでなく、秘書や補佐官などといったロボットの何人かが仕事を手伝っていた。

 ハジメ達はどうするべきか、彼らに聞こえないように小声で相談する。

 

「どうするの、アシミー様以外に何人もいるわ。

 他の補佐官の方達にも一緒に話をしておく?」

 

「いや、仮に敵側と内通する為の接触なんだ。

 側近であっても知ってる人は少ない方がいい」

 

「でもアシミー様が一人になるのはなかなか無いと思うわ。

 お忙しい方だしお仕事の関係で補佐官や護衛も普段からいるはずだもの」

 

「無理に追い出す道具もあったと思うけど、それはそれで不自然だし…

 仕方ない。 ドラ丸、【ウルトラストップウォッチ】を使ってくれ」

 

「承知。ではいくでござる」

 

―カチッ―

 

 ドラ丸が懐中時計のような丸い時計を取り出してスイッチを押すと、辺りは一瞬で静まり返った。

 仕事をこなしていたアシミー議員やほかのロボットも、突然スイッチが切れたかのように動きを止めてしまった。

 

「え? いったい何が起こったの?」

 

「時間を止めたんだ。 今動いているのは僕達だけだ」

 

「え、え、え?」

 

 これまで不思議な道具を色々見せられてきたが、今度のは極めつけでリルルは理解する事を拒否していた。

 何せ時間を止めるなどメカトピアの常識に当てはめてもあり得ない事と思っていたからだ。

 リルルが改めて周囲を確認し、本当に何もかもが止まっている事で時間が止まってることをようやく認識する。

 

「ほ、ほんとに時間が止まってるわ…」

 

「この状態ならアシミー議員とだけ話をすることが出来る」

 

「けど、肝心のアシミー様も止まっているわ」

 

「それはこのウルトラストップウォッチを使えばいいでござる。

 これを時間が止まっている者に当てれば、その者の止まっている時間が動き出すでござる」

 

「ドラ丸がアシミー議員の時間停止を解除したら、リルルからまず事情を説明してくれ」

 

「え、ええ。 いえ、ちょっと待って頂戴」

 

 未だショックを受けているリルルは正気を取り戻そうと軽く頭を振って調子を整える。

 

「…よし、大丈夫。 流石に驚いたけどあなた達なら今更よね。

 準備はいいわ。 やって頂戴」

 

「では」

 

 気持ちを落ち着けたリルルの返答を聞いて、ドラ丸は椅子に座って固まっているアシミー議員にウルトラストップウォッチを触れさせた。

 

「…ん!? なんだお前たち、どこから現れた!」

 

 動き出したアシミー議員は突然現れた三人に、椅子を蹴飛ばして立ち上がり臨戦態勢になって身構える。

 その対応力は訓練された戦士の様で、突然の事態にも驚きながらも即座に状況を確認しようと周囲を見回していた。

 

「落ち着いてくださいアシミー様。

 まず私から説明いたしますので」

 

 リルルは偽装していたノーベルガンダムの頭の外装を外して、本来の姿をアシミーに見せる。

 

「人間か!? いや、コードシグナルは同胞の物だが偽装しているのか?」

 

「いえ、私は人間に擬態していますがメカトピアのロボットです。

 私はリルル。 地球侵攻軍鉄人兵団所属、先遣隊諜報員として地球に派遣された者です」

 

「地球侵攻の先遣隊の? 確かに先遣隊の中に諜報活動のために人間に偽装するための外観改修を受けた者がいたと記憶しているが、君がそうだというのか?

 それがなぜ突然俺の目の前に現れる。 それに周りの状況は一体?」

 

「すべてご説明いたします。

 周りの状況に関しては私も驚いていますが、どうか信じてください。

 私はメカトピアを救うために彼らとアシミー様に会いに来たのです」

 

 アシミーに話を聞いてもらえなければ、ハジメ達はメカトピアを滅ぼすしかなくなるかもしれない。

 そうなれば自分も最後までメカトピアのロボットとして戦う覚悟はあるが勝算は無く、ならばこそハジメ達がメカトピアの生き残る道として示した提案をアシミーを通じて議会に認めてもらうしかない。

 その為の説明が今この瞬間であり、リルルがメカトピアを救うためにやらなければいけないと思っていた。

 その強い思いはアシミーも感じ取り、何か深い理由があるのだと察した。

 

「…わかった、まずは話を聞こう」

 

 警戒は怠らないがリルルの話を聞くべきだと直感し、説明を聞き始めた。

 

 まずはハジメ達が地球の人間とロボットである事を話し、リルルがどのような経緯で二人と共に行動するようになったか話した。

 そこで地球の人間について簡単な説明をし、様々な認識不足があったことを伝えた。

 

 続いてハジメ達の目的とリルルを連れてここに来た事情を伝えた。

 ハジメ達の目的は宣戦布告時の地球不可侵要求であり、それを叶える為の裏取引にここまで潜入してきた事。

 底の見えないハジメ達の戦力から敗戦は免れないと、リルルは苦しげにアシミーに語った。

 

 そして先の宇宙での戦いで発覚した予想外の事態。

 聖地に本来存在しない異星生物が存在しており、先の戦闘でゼータが奪われたことでハジメ達側が非常に警戒を強めていた。

 その結果、ヤドリ達の特性の危険性からメカトピア地上への侵攻を早め、その為の戦力増強。

 メカトピア側としてもヤドリが聖地にいる事を到底無視できないという事実。

 

 出来るだけ簡潔に、リルルはこれまで自分が見聞きしてきたことをアシミーに伝えた。

 アシミーは最後まで話を聞き終えると、机に肘をついて頭を抱え込んだ。

 

「………正直突然の事過ぎて、戸惑うばかりだ。

 地球の人間たちがこちらに攻め入ってきて会議では頭を悩ませるばかりだったが、それが一気に吹き飛んだよ」

 

「アシミー様、信じられないかもしれませんがすべて本当の事なんです!」

 

 メカトピアのロボットの常識では考えられない事ばかりで、簡単には信じてもらえないとリルルも思っていた。

 それでもまずは信じてもらえない事にはメカトピアは救えないと話を続けようとするが、アシミーが手に平を向けて静止させる。

 

「わかっている。 君の言っている事は本当なんだろう。

 周囲を見れば時間が止まっているという異様な光景なんだ。

 信じられなくても、目の前にある事実は否定のしようがない」

 

「そ、そうですね」

 

 時間を止めるという荒業が、リルルの話の真実味を帯びさせていた。

 

「だが納得のいった部分も多々あるのだ。

 地球軍の攻撃は毎日行われているが、我々の軍の損害が大きくなるとどんな有利な状況でも撤退を開始してその日の戦いを終わらせる。

 こちらが戦力を増員すれば、それに合わせるように前日までになかった戦力を増員して、底知れない戦力の余裕を感じさせる。

 こちらを滅ぼそうとする気は一切ないが、戦意を折ろうという気配が見え隠れしていた。

 その答えが君等の望む戦争の落としどころなのだろう」

 

 アシミーはハジメが望む戦争の決着をおおよそ理解していた。

 負けを突き付けられることであっても滅びるよりはいいだろうという物言いは、傲慢ではあっても一応の慈悲ではあるのだ。

 メカトピアの誇りを汚す事であっても真に滅びるよりはいいと、アシミーは先の会議での敗戦予想からハジメの提案は受け入れやすかった。

 

「だが、他の事があまりにも突発過ぎる。

 まもなく地球軍が我々の防衛線を強引に突っ切って地上に降りてくるだと。

 その上目的は奪われた指揮官機であり、奪ったのはロボットも人間も操る事の出来る寄生生物で、それが聖地に身を潜めている。

 公表しようものなら大混乱になる」

 

「ですが、放っておける事ではありません。

 議会に停戦交渉を行うように進言してはいただけないでしょうか。

 そして聖地にハジメさん達の言う寄生生物がいるのなら調査を行わないと」

 

「正直、議会に進言するだけではどれも難しいと言わざるを得ない。

 停戦交渉は先日までの敗退続きでそれも止む無しという雰囲気を引き出せていたが、そのヤドリに奪われたという指揮官機の暴走で戦意を盛り返した議員たちがいる。

 地球軍が戦力を整え、防衛ラインを抜いて地表に降りてくるという話が事実になれば再び停戦交渉を考え出すものもいるだろうが、それだけでは議会の意見は纏まらんだろう」

 

 アシミーは敗戦による決着を進言してはいたが、その可能性の低さにあまり期待はしていなかった。

 人間を軽視するのは、神話に描かれた神の選択が起因している。

 それ故に人間に敗北を認めるなど、メカトピアの今の在りように真っ向から反攻するようなもの。

 例え勝算が無くても徹底抗戦の構えを見せてくる可能性すらあるのだ。

 

「そして聖地にいるという寄生生物の存在を突き止めようにも、管理しているのは金族だ。

 私の権限だけでは調査する事は出来ない。

 何らかの証拠をもって議会に挙げれば調査に乗り出せるだろうが、同時にその情報は相手側の耳にも入る事になる。

 議会には金族の者達も何人かいるからな」

 

「アシミー様はやはり金族が関わっていると?」

 

「思っている。 でなければ聖地になど隠れ潜むことなど出来ない。

 金族の者達がそいつ等に操られている可能性もあるが、議会のオーロウ議長達に操られている様子はない。

 ならば金族が何らかの目的の為ために、そいつらと協力関係にあるとみてもいい。

 先の戦闘で地球軍の指揮官を操ったのも、オーロウ議長が提供した特殊武器という名義だった」

 

「地球との戦争だけでも大変なのに」

 

「そのヤドリという寄生生物はロボットより人間を操る事を望むのだったな」

 

 アシミーがヤドリの特性についてハジメに質問する。

 

「ええ、彼らも有機生物で、ロボットからでは操ると同時に生きるためのエネルギーを得られないようですから」

 

「では地球への侵攻もヤドリに関わっているかもしれん。

 人間奴隷化計画はオーロウ議員の提案から始まったのだ」

 

「そんな」

 

「一連の騒動はヤドリが糸を引いていたわけか」

 

 戦争の発端がヤドリだったことにハジメは流石に驚く。

 映画本編では歴史改変で無理矢理解決したので、地球侵攻のメカトピアの裏事情までは詳しく知らないのだ。

 国家の決める戦争なのだから様々な思惑があるのだろうが、そこに別の映画関連のヤドリが出てくるのはハジメも想像していなかった。

 

「停戦交渉を進言する事は問題ない。

 地球軍が地表まで下りてくるようなことになれば、それを再び視野に入れて協議する事は出来るはずだ。

 だが金族とそのヤドリという存在が何をしでかすのか想像も出来ない。

 おそらく私や議会では事が起こるまで対処出来ないだろう」

 

「ヤドリの存在は放っておけません。

 出来る限り待ちますが、奪われたゼータを取り戻すために聖地に侵攻する事になると思います」

 

「聖地は我らの始祖が暮らした神聖な場所だ。

 そこに侵攻するとなればメカトピア軍も全力で迎え撃つことになる」

 

「とても良くない状況ですね」

 

 ハジメ達はヤドリに攻撃を仕掛けたいが、聖地という場所がネックでメカトピアのロボットが教義からそこを守る事に必死になる。

 ヤドリはこの星で一番安全な場所に隠れているという事だ。

 

「ヤドリ達の動きは仲間が見張っていますが、そちらは後手に回るしかないです。

 まずは議会にこちら側と交渉する意思を持たせないといけません」

 

「だがこちらが押されている状況でも停戦交渉に賛同する者は半数もいかない。

 私も各議員に頼み込んでみるつもりだが、どうしても時間がかかる事になる」

 

「やはり後押しが必要ですね。

 ここに来るまでに僕たちは戦争に対する国民の反応も確認してきました。

 攻めてきている僕らが言うのもなんですが、メカトピア上空で戦闘が起こってることに不安になっている人たちがたくさんいます。

 そういう人たちから停戦交渉に賛同する署名を集めるのはどうでしょうか?」

 

「署名?」

 

「戦争に反対する人たちがこれだけいるという事を証明するために名前を書いてもらうんです。

 多くの署名が集まればそれだけ国民の声が大きいという証明になります。

 選挙とは違いますが多数の国民による意思表明ですね」

 

「そういうものがあるのか」

 

 共和制になって歴史が短いメカトピアには署名のような国民の意思表示ががまだ存在していなかった。

 

「………なるほど、投票で議員が決まる今の共和制なら国民の声は決して無視出来ない。

 停戦交渉という道を多くの国民が賛同するなら、議員達も今後の選挙の影響を考慮すれば反対する者は席を失う事になる。

 国民が多く集まればこれほどの力になるという事か。

 やはりメカトピアが共和制になったのは、民の意志をくみ取るうえでは間違いではなかったな」

 

「………」

 

 アシミーの考えに賛同するところはあるが、共和制の弊害というものがあるのをハジメは知っている。

 国民の意見を無視しないのは悪い事ではないが、時には苦渋の決断を下さなければならないときに議席を気にして下せないという事になる場合がある。

 国民の意見だからと言って正しい事ばかりではなく、結果的に悪いことになっては元も子もないからだ。

 そういう政治的問題が地球でも起こっているので、共和制も良い事ばかりとは言えないのだ。

 

「つまり国民から停戦交渉の賛同を得ればいいのね」

 

「ただの国民なら国家の勝利よりも生活の安全を優先するものだからね。

 戦場が近付いてきて不安になれば、国民が戦争に対して反対の意思を示してくると思ったから、宣戦布告はメカトピア全体に知らしめるように放送したんだ」

 

「そんな目的が…」

 

 その為にメカトピアのメディアを乗っ取ってハジメは国民にも聞こえるように宣戦布告していた。

 

「ただこの国はまだ共和制が短いからか、市民たちが自発的に運動を起こすという考えがないらしい。

 だから最初は署名活動と思ったけど、それは少し時間が掛かりすぎる」。

 

「署名とはどのように集めるのだ?」

 

「街中で道行く人に意見を聞いて、賛同してくれたら名前を書いてもらう地道な方法」

 

「一人でやっていては一日に百人も集まればいい方ではないか?」

 

「そんなところだろうね」

 

「ハジメさん、地球軍が聖地に進行するまではあとどれくらいなの?」

 

「地表に降下してからも数日は待てるが、せいぜい十日が限界じゃないかな」

 

「署名で議会を動かすのは間に合いそうもないな」

 

 署名活動などは個人レベルで政治等に対し意見を出すための時間のかかる活動だ。

 議会を動かすほどの署名になると、戦争が始まる前から集めていなければ間に合わないだろう。

 

「署名活動では間に合わない。 それならデモのような反戦活動を呼び掛けるくらいじゃないと」

 

「デモとは?」

 

「デモンストレーションの略で、大々的な演出で戦争に反対する意見を国民に呼びかけて支持を求める活動だな。

 こちらの方が直接的で人眼にも着くから影響力は大きいけど、議会の考えに真っ向から反対すると宣言するようなものだから非常に危険だ。

 一般人が無策にやれば問題行動として捕まるのがオチだろう。

 それに国民に解ってもらいやすいように意見を述べる必要があるし、大々的にやるには多数の協力者などの影響力が必要になる。

 時間のない状況で突発的に国民に呼びかけるとなると、これくらいしかない」

 

「影響力のあって国民に呼びかけられる方となるとアシミー様ですが…」

 

「俺は議員だぞ。 議会で反対の意見を出すくらいなら問題ないが、そんな国民を煽って議会に反発してはほかの議員全てを敵に回す。

 それでメカトピアを救う事が出来るなら是非もないが、失敗して議会を追い出されればそれこそ目も当てられん」

 

「これはお手上げか? ヤドリもいるし国民も巻き込んだ全面戦争になるか?」

 

「諦めないで!」

 

 ハジメも本来ならもう少し時間をかけて国民の反対運動を起こさせるつもりだったが、ヤドリの存在であまり時間をかけることが出来なくなった。

 時間を与えすぎれば足元を掬われかねないと進軍する事になったが、同時にメカトピアに敗戦を受け入れさせる猶予が無くなった。

 どうにかしてやりたいがハジメ達もゼータを奪われたという事実が余裕を奪っていた。

 

「多くの国民に呼びかける事の出来る影響力のある方か。

 申し訳ないがシルビア様のお力を借りるしかないか」

 

「シルビア様! そうだわ、シルビア様なら多くの人に呼びかけられる!」

 

「シルビアとは、確かメカトピアの戦争で聖女と呼ばれたロボットだったか?」

 

 ハジメはメカトピアの簡易的な資料に書かれていた、戦争時の記録の中で活躍したというその存在を思い出す。

 その資料にはアシミーの事も名高い武将と書かれていたので、二人を一緒に覚えていた。

 

「地球人の君も知っているのか?」

 

「集めたメカトピアの情報に貴方と一緒に出ていた」

 

「あの方とはずっと昔からの旧知だからな。

 戦争が終わって私は議員になったが、あの方は奴隷を開放し共和制を成立させた後疲れたと言って隠居なさったのだ。

 今ではメディアにもめったに出てくることはないが、国民の人気は今でも大将軍と呼ばれた私よりあると思っている。

 議員になっていたら誰の有無も言わさず議長の椅子にすわっていただろうな」

 

「シルビア様が議員にならず隠居なさったのを多くの国民が残念に思ったほどよ。

 それくらいシルビア様には顔を出さなくなっても根強い人気があるの」

 

 アシミーもリルルも聖女と呼ばれるシルビアの存在を高く評しているのがハジメにはよく分かった。

 

「なるほど、多くの国民に呼びかけるにはうってつけの人物だね」

 

「隠居なさっているシルビア様には申し訳ないが、今はあの方の力を借りるほかない。

 あの方の元に案内しよう。 そしてもう一度今回の事をシルビア様に説明してほしい。

 私は議員として行動しなければならないから、大々的に協力する事は出来ないが、できる限りの事はしよう。

 どうかメカトピアの未来を守ってくれ」

 

「もちろんです、アシミー様」

 

「攻めてきてる側の僕が言うのもなんですが、わかりました」

 

 ハジメ達は時間停止を解除して一度アシミーと別れ、外で再度合流してから聖女シルビアの元に案内されることになった。

 

 

 

 

 




 ドラ丸は護衛なので会話に参加していません。
 ちゃんといますが置物状態です。

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