ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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 感想、及び誤字報告ありがとうございます。
 今回は対話ばっかでちょっと難産でした。
 


真・鉄人兵団11

 

 

 

 

 

 アシミーに車に乗せてもらい、ハジメたちはメカポリスの郊外にある屋敷までつれて来てもらった。

 ここに嘗ての戦争で聖女と呼ばれたシルビアが暮らしているという。

 

「シルビア様が嘗ての戦争で人々を導いた功績は聖女の名に相応しいものだが、ご本人はそれを煩わしく思っているらしい。

 戦後、聖女と呼ばれ称賛される事に辟易していたシルビア様は、ひっそりとした場所で隠居生活を送るために郊外のこの屋敷に移り住んだのだ。

 お世話役の使用人も最低限の人数に留めている」

 

「ここにシルビア様がおられるんですね」

 

 なんだかリルルの声色が明るくなっていることに気づく。

 

「なんだかうれしそうだね、リルル」

 

「もちろんよ! シルビア様はメカトピア女性の憧れの存在なの。

 こんな時だけどシルビア様に会えるのが楽しみなの」

 

「隠居なさったシルビア様は紹介の無い面会を断られている」

 

「そうなのよ、会おうと思っても会える方じゃないの!」

 

 テンションの高いリルルの姿に少しばかり困惑するハジメ。

 こんなキャラじゃなかったよなと原作の事を思い返すが、実際目の前に存在しているのだしこういう一面もあるのだろうと納得しておく。

 

「俺は君たちを紹介したらすぐに議会に戻らねばならない」

 

「わかっています。 アシミーさんは議会で停戦交渉の進言を続けてください。

 議会への働きかけはアシミーさんにしか出来ませんから」

 

「今更ではあるが地球側の君に気遣われるのは不思議だな。

 本当に今戦争で戦ってる相手とは思えない」

 

「それは僕らに余裕があるからですよ。

 負けると思ってないからこそ、勝ち方を選ぶ余裕がある。

 もしそうでなければここには来ていません」

 

「我々には絶対勝てないと言われているのだが、ここまではっきり言われるとまるで悔しいと思えん。

 ただしそれだけの余裕の裏付けを聞くのは恐ろしいな」

 

「アシミー様、時間がないのですから早くシルビア様に会いに行きましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

 アシミーもリルルが時間を気にしているのではなく、早くシルビアに会いたい一心な事に何も言わず館の扉の前に立つ。

 呼び鈴を鳴らすと扉がすぐに開き、黒い装甲にスマートな体格のロボットが現れる。

 イメージ的に執事をしているロボットではないかとハジメは思った。

 

「ようこそ、アシミー様。 先ほど連絡があったばかりで、今回は本当に急でございますな」

 

「本当に緊急だったので申し訳ない。

 シルビア様に彼らを会わせたいのだが」

 

「既に奥様にお伝えして了解をもらっております。

 どうぞこちらへ」

 

 執事ロボットの案内ではハジメ達はアシミーに続いて屋敷の中に入っていく。

 屋敷の中は様々な装飾品や調度品が置かれており、ハジメには人間が住んでいてもおかしくない文化的適合性を感じた。

 改めてメカトピアの文化は人間と類似性が高いなと思わされる。

 絨毯の敷かれた廊下を歩いていくと、目的の部屋に付いたのか執事ロボットが立ち止まり部屋をノックする。

 

「奥様、アシミー様方をお連れいたしました」

 

「入って頂戴」

 

 部屋の中の返事を受けて、執事ロボットが扉を開けてハジメ達を迎え入れる。

 中には白と銀で装飾されたケープを纏う女性型ロボットが椅子に座って待っていた。

 

「いらっしゃいアシミー。 私に会わせたいというのはその子達かしら」

 

「はい、大変申し上げにくいのですが、あなたの力をお借りせねばならなくなりました」

 

「………そう。 セイバース、少し席を外してくれるかしら?」

 

「承知しました、奥様」

 

 事情をなんとなしに察したシルビアは、執事を下げる事で人払いをする。

 

「それで何があったのかしら? 私はその子たちに何をしてあげればいいの?」

 

「まずは彼らの事から説明します」

 

 アシミーがハジメ達の事から説明し、この戦争でメカトピアに何が起こっており、これからどうなろうとしてるのか議会場での会話でわかった事を全てシルビアに伝えた。

 ハジメにはロボット相手では表情が読めず感情が読み取りにくいかったが、アシミーの説明にたびたび驚いている様子があった。

 アシミーがわかっている事を全て伝え終えて話が一区切りになる。

 

「そう、やっぱり誰かを奴隷なんかにしようとしたから、手痛いしっぺ返しを受けたという事ね」

 

「はい。 隠居したシルビア様に頼むのは非常に申し訳ありませんがあまり猶予がないのです。

 お力を貸していただけませんか?」

 

「もちろんよ。 メカトピアの危機なんですもの。

 隠居したおばあちゃんだって使えるなら使うべきよ」

 

「…あなたには敵いませんな」

 

 気にせず使えなどと豪快な事を言うシルビアに脱帽するアシミー。

 

「申し訳ないですが、もうすぐ会議が始まります。

 終わったらまたこちらに来ますので、彼らの事はお願いします」

 

「いいえ、あなたは議員としての責務を全うしなさい。

 これからの経緯はちゃんと報告するから、議会場で金族の馬鹿どもを見張っておきなさい」

 

「しかし…」

 

「必要ならちゃんと呼ぶからしっかりおしなさい」

 

 議員の仕事に集中するようにとアシミーに説教するシルビア。

 

「…わかりました。 リルル、ハジメ殿、ドラ丸殿、あとの事はよろしくお願いします。

 シルビア様も決して無理はなさらぬよう」

 

「あなたの方こそオーロウに足を掬われるんじゃないですよ」

 

「アシミー様、いろいろありがとうございました」

 

「出来る限りの事はやりますよ。 アシミーさんもお気をつけて」

 

「武運を」

 

 それぞれに激励をもらってからアシミーは議会に戻ろうとする。

 金族とヤドリの繋がりがはっきりしている以上、金族と相対する事はヤドリと接触する危険性もある。

 

「あ、そうだ。 アシミーさん」

 

「なんだね」

 

「念の為ヤドリに効く武器を持っていてください」

 

 ハジメの言葉に察したドラ丸が前に出て真空ソープの銃を手渡す。

 

「それから出る液体がヤドリの寄生を剥がす効果があります」

 

「わかった、ありがたく受け取っておく」

 

 そしてアシミーは今度こそ屋敷を出て議会場へ戻っていった。

 アシミーがいなくなった後に、まずはシルビアから口を開いた。

 

「いろいろしなければならないことが出来ちゃったけど、まずはもう少しお話をしましょう。

 ハジメさん、だったかしら?」

 

「ええ、そうですが」

 

「その姿はロボットのフリをしているのよね。

 人間の、貴方の本来の姿を見せてもらえないかしら?」

 

「…わかりました」

 

「よろしいのですか、殿」

 

 ハジメがシルビアの頼みに了承すると、ドラ丸が心配したように声をかける。

 ゴッドガンダムの姿は偽装ではあるが、同時に身を守るための鎧でもある。

 ロボットだらけの社会では人間の体は柔すぎるのだ。

 

「姿を見せないのは不誠実だからね。 ドラ丸、スモールライトを用意して」

 

「…承知」

 

 ドラ丸がスモールライトを用意している間に、ハジメはゴッドガンダムの手のひらを胸の前に持ってくると胸部のコクピットが開いた。

 そこから中に乗っていたハジメが機体の手のひらに乗り、そこへドラ丸がスモールライトを向ける。

 

「準備OKでござる」

 

「やってくれ」

 

―カチッ―

 

 スモールライトの解除光がハジメに当たると、みるみる元々の大きさに戻った。

 その変化にリルルとシルビアも少し呆然としている。

 

「ハジメさん、小さくなって乗り込んでいたのね」

 

「あらら、人間って不思議なのね」

 

 リルルはハジメ達の道具の不思議さに疑問に思う事はないが、こんな風に乗っているとは思っていなかった。

 シルビアはそこそこ驚いているようで、平静を保つように少し声を震わせている。

 

「これでよろしいでしょうか?」

 

「ええ、そうね…」

 

 戸惑った気持ちを落ち着けながらシルビアは、ハジメの姿をしっかり確認する。

 ゆっくりとハジメに近づき、前に立って顔を向き合わせてじっと見ている。

 

「………」

 

「………」

 

「…ハジメさん、あなたに少し触れさせてもらってもいいかしら?」

 

 シルビアの頼みにドラ丸が些か警戒を強める。

 人と触れ合ったことのないロボットに、人体へ怪我をさせない配慮が出来るか心配したからだ。

 同時にまだ味方として信用出来るのかわからない相手に、主であるハジメを触れさせることは当然警戒する。

 しかしドラ丸は何も喋らず、黙ってハジメの出方を待つ。

 

「…それは構いませんが、人間はロボットほど丈夫ではないのであまり強く触れないでください」

 

「気を付けるわ。 貴方を見る限り、人間はとても丈夫そうには見えないもの」

 

 シルビアは手の平をゆっくりとハジメの頬に持っていき、そっと触れる。

 それはとても慎重に、決して傷つけないという意思を感じさせ、ドラ丸もそれ以上の警戒をしなかった。

 

「…柔らかいのね。 硬さもあるのだけど、とても脆そう。

 ロボットの私からしたら、そんな体で大丈夫なのかとても不安になるわ」

 

「………」

 

 シルビアの意図はわからないが、ハジメは動かず黙って成すが儘になっている。

 この時ハジメはシルビアの言葉に、触覚センサーもメカトピアのロボットには搭載されているのだろうかと、別の観点から様子を窺っていた。

 目を合わせながらハジメに触れていたシルビアの手が離れる。

 

「ありがとう、もういいわ。

 ごめんなさいね。 貴方という人間の事が知りたかったけど、ちょっと失礼だったかしら」

 

「いえ、大丈夫です。 人間を知らないあなた達からしたら、知っておきたいと思う事は不思議ではありませんから」

 

 礼節に欠けるならハジメも怒るところだが、シルビアは気遣いを忘れずに丁重に対応してくれた。

 それならこの程度怒る事ではないと、ハジメは気にしていない。

 

「そうね、私たちは神が見放したという人間を実際には何も知らなかったわ。

 それなのに奴隷にしようなんて攻撃して返り討ちにあって、バカな話よね。

 だけど貴方を見て少し人間を知ることが出来た。 ハジメさん自身の事をもう少し知ることが出来たわ。

 貴方は私達を敵だと思っていないのね」

 

「え?」

 

 なぜそんな風に思われたのかわからないハジメは、疑問符を浮かべる。

 

「私達を脅威に思ってないと言うのもあるのでしょうけど、それだけが理由じゃないみたい。

 唐突だけどリルルさん。 あなたはハジメさんとここまで来たけど、彼を味方だと思ってる?」

 

「それは…ハジメさんと共にここまで来たのは、それがメカトピアの為になると思ったからです。

 だから味方では無いんですけど、こうして来てくれているハジメさんを敵とも思えなくて…」

 

「そうね、それはきっとハジメさんが私達を気遣ってるからよ。

 私達に配慮してこうして戦ってる相手の領域に踏み込んで、戦いを止めようとすることに手を貸してくれている。

 ハジメさんはとても優しい方なのね」

 

 そのような事をメカトピアのロボットに言われるとは思っていなかったハジメは、目を見開いて驚く。

 

「そんなことありませんよ。 宇宙の戦場ではあなた達の同胞を数多く殺しています。

 そんな相手に優しいというのはおかしいですよ」

 

「私も嘗ての戦争の中で多くのロボットが死んでいくのを見ているわ。

 戦場で躊躇なく相手を撃つのは、何も可笑しな事ではない。

 あなたが優しいと思ったのは、人間であるあなたがこうしてロボット達の事を気遣えているからよ」

 

「そんなことは…」

 

 戦場で多くのメカトピアのロボットを倒している側であるハジメとしては、そんな風に言われることに良心を痛めるのか辛く感じた。

 

「ハジメさんは地球の人間なのに、攻め込んだメカトピアに対して怒っても嫌ってもいない様に見えるわ。

 かといって関心が無いわけじゃなく、貴方たちの星を守るためにこうして攻め込んできている。

 恨みや憎しみがないのも地球側が勝ってるからなのかもしれないけど、それでも攻め込んで来た相手にこうして気遣える事の方がおかしいと思うわ」

 

「では、シルビア様はハジメさんに何か他に目的があると」

 

「いいえ、それはわからないけど、ハジメさんが私達をちゃんと見てる事は解るわ」

 

「見ているですか?」

 

 シルビアはしっかりとハジメに向き合いながら話を続ける。

 

「人間とロボットは全然違うわ。

 嘗てはロボット同士で戦争をしていたように、同胞であってもお互いを理解し合えなければ争ってしまうものよ。

 人間が元々相手を理解しようとして争いを避ける存在なら、ハジメさんの行動にも納得がいくのだけれど、リルルさんが見た地球の人たちは私達と似たような感じだったのでしょう」

 

「はい、地球の人間は、私たちの感性とあまり変わらないように思えました」

 

「それならやっぱりハジメさん自身が私達をちゃんと見ようとしてくれているのね。

 人間が特別なわけではなく、ハジメさんがメカトピアの全てを一括りで考えず、話し合える人を選別している。

 そしてメカトピアのロボットの全てが戦争を望むわけではないと分かったからこそ、こうして戦争をやめるように働きかけてくれている。

 ハジメさん、貴方がここにいるのは間違いなく貴方の優しさよ」

 

「そう…でしょうか?」

 

 リルルへの関心から結果的にここまで来ているが、優しさと言われるには自身の行動が下心染みているように感じる。

 それゆえにシルビアの高い評価を受け入れ難かった。

 

「もちろんその優しさがメカトピアのロボット全てに向けられるとは思っていないわ。

 戦場で戦っている以上、まずは貴方たちの利益優先なのは間違っていない。

 だけどリルルや…私にその優しさが向いているのはわかります」

 

「私もですか?」

 

「ええ、むしろリルルさんがハジメさんと対話したからこそ、地球側の配慮に与れるのだと思うわ。

 ハジメさんは戦場で戦ったメカトピアのロボットを倒したことを気にしていないと思うわ。

 戦争なんだからそれは全然おかしなことではない。

 だけど先ほど私たちの同胞を殺したと言って優しさを否定した様に、ハジメさんは私たちがどう思っているか気遣ってくれたわ。

 それはメカトピアと敵対することを何とも思わなくても、私たちが悲しむ事に気遣ってくれたという事よ」

 

「そうなの、ハジメさん」

 

「そんなつもりではないんだが…」

 

 戦場で多くのメカトピアのロボットを殺していることにリルルがどう思っているのかは気にしていたが、現状どうする事も出来ないのであまり話題に出さなかったくらいだ。

 リルルも軍に所属していた以上、仲の良いロボットがいて戦場で戦っているのではないかと思うと、敵側としては訊ね辛い事であった。

 

 シルビアの指摘にそのような気遣いをされていたことを知ったリルルは、すこしだけ申し訳なく思う。

 こうしていろいろ配慮してもらっているが、最初に地球を攻めたのはメカトピア側なのだ。

 その罪悪感を今のリルルは持っており、それなのに同胞を殺されることを気遣われるのは自分が情けなく感じた。

 

「ハジメさん、私はこれまでどうしてあなたが敵対する側のメカトピアの戦争を止めるのに手を貸してくれるのかわからなかったわ。

 でもそれはとても簡単な事だった。

 私は貴方の優しさに甘えてしまっていたのね」

 

「いや、そんなきれいな理由じゃないですよ。

 僕はただ今後地球が侵略されないようにメカトピアに攻め入って、滅ぼすしか終わらせる方法がないのも嫌だから、戦争に反対する人たちに働きかけようと思っただけで!

 …あれ、なにも否定要素が出てこない」

 

 解釈が随分と高評価だが、間違ったことを言われていないのでハジメは何も否定出来なかった。

 

「ハジメさん、貴方の優しさを無駄にはしないわ。

 こうして手を貸してくれているけどあなたは地球人で、メカトピアの戦争を止めるのはメカトピアのロボット達でなければいけない。

 こんなおばあちゃんにどこまで出来るかわからないけど、メカトピアの未来は私たちの手で作って見せるわ」

 

「シルビア様、私もお手伝いをさせてください。

 必ずこの戦争を終わらせてメカトピアを救いましょう」

 

「…まあ、頑張りましょう」

 

 自身の優しさと言われてどう反応していいか分からず、そのまま話が流れたことで無難な返答だけをする。

 シルビアさん、おばあちゃんなんだとハジメは頭の片隅で思ったが、武骨なロボットじゃ年齢解らんというツッコミはタイミングを逃してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回は対話が中心でしたが、表現したい思いを文章にするのはすごく難しいです。
 いろいろ考えているとややこしくなって、何書きたかったのかわからなくなってしまいます。
 まだまだ執筆者として未熟なんでしょうね

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