ドラえもんのいないドラえもん ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~ 作:ルルイ
更新速度が落ちてる…気合を入れなおさないと
『本日は私の呼びかけに集まって戴き有難うございます。
私の名はシルビア。 嘗ての戦争で聖女などと呼ばれたことのあったロボットです。
皆さんもご存知の通り、現在メカトピアは人間の暮らす地球という星と戦争状態にあります。
先日の地球からの布告で、地球の軍はメカトピアに降り立ち聖地を最初の攻撃目標にしています。
そして布告通りであれば、聖地での戦いが始まればメカトピア全土を飲みこむ戦乱が広がる事でしょう。
私はそれをなんとしても止めたいと思い、こうして皆さんへの呼びかけを行う事にしたのです。
皆さんに地球軍と戦ってほしいのではありません。
皆さんはメカトピアの一般国民の方々。 戦うべき兵士ではなく民であり、戦うべき者達ではありません。
ですが今のメカトピアでは国民一人一人でも国を動かす小さな力があります。
現在のメカトピアは共和制により議員が国民より選出され、最高評議会によって国政を行なっています。
地球との戦争の切っ掛けは、人間を新たな労働力とする人類奴隷化計画による地球への侵略でした。
それを決行したのは当然最高評議会ですが、その結果この戦争になってしまったことに私は議会を非難する事は出来ません。
それはなぜかとお思いだと思いますが、議会を動かす議員は一部を除いて国民の選挙投票によって決まる信任制度です。
国民の皆さんがどのような方を議員にするのか選び、その方を信じて任せるのが現在のメカトピアの政治なのです。
地球に侵略戦争を仕掛けたのは議会の過ちだと思っていますが、議会を運営する議員の選出に私も一国民として投票しています。
是非はどうあれ、議会の決定は議員達の選択であり、議員達を信任したのは我々一人一人の国民だという事です。
今のメカトピアは国民一人一人が政治に関わる力を僅かながら持っていますが、それは同時に僅かながら責任もあるという事です。
故に議員や議会にばかり非難をするのは間違いなのではないでしょうか。
そして責任を追及する事が過ちを正す事ではありません。
誰かが過ちを犯したら助け合う事が仲間というものではないでしょうか。
メカトピア全体の危機であるからこそ、皆さんが助け合う必要があるのです。
私は戦争を終わらせるために地球軍と交渉するべきだと議会に伝えたいと思っています。
先日の布告で地球軍の要求は地球への不可侵と同胞の返還だと言っていました。
その要求を受け入れるだけで戦争が終わるとは限りませんが、対話による解決を図る事は決して悪い事ではないはずです。
それを議会に呼びかけたいのですが、今の私は一国民であり聖女の名を使って議会に直接干渉してはいけないのです。
故に国民の皆さんの中で私の意見に賛同してくださる方に、私と共に議会に対して声を上げてほしいのです。
国民一人一人の声は小さいけれど、集まれば議会を動かす大きな声となるのです。
そしてこれは私からの呼びかけのお願いであり、私の意見に賛同するかは皆さんがご自身で決めてください。
先ほど申しあげた通り、皆さんにも政治に対して僅かながらの責任があるからです。
たとえ僅かであっても今のメカトピア国民であるならそれを忘れてはいけません。
私は戦争も人間を奴隷にする事も望んではいません。
嘗ても奴隷の悲惨さから解放戦争が始まり、多大な犠牲によって戦争は終結しました。
此度の戦争も奴隷という切っ掛けから始まり、多くの犠牲が出るのでは同じことの繰り返しです。
我々が成長したというのなら、此度の戦争で多くの犠牲を再び出してはなりません。
どうか私の意見に賛同してくださる方は、声を議会に届けてください。
私と同じ声が一人でも多くの方と共になり大きな声になる事を願っています』
シルビアの演説の記録が議会の会議場で再生され議員たちが知る事となった。
「………い、今すぐ、シルビアを捕らえよ!
これはメカトピア最高評議会への反逆だ!」
「オーロウ議長、そんなことをしたらどうなるかわかっているのですか。
間違いなく国民が激怒し、内乱状態になりますぞ」
「だが、このような暴挙を許すわけにはいかん」
「暴挙と言いますが、彼女の演説はあくまで国民に対する呼びかけです。
内容も議会を非難するものではなく逆に擁護するものでしたし、戦争を終わらせるために議会に交渉してほしいという意見の賛同者を募るものでした」
「まあ、問題はそれを行なったのが聖女シルビアという事ですな」
聖女シルビアの名はメカトピア中に轟いており、その影響力は計り知れない。
シルビア自身が自ら隠居したことでその影響はどこにも出ていなかったが、この演説によってとてつもない影響が出る事は間違いない。
まして議会に関わる演説である以上、議員は自分達がどれほどの影響を受けるか想像も出来なかった。
「それで、この演説によるこちらへの影響は…」
「議会の受付や連絡口にシルビア様と同じ訴えをする国民が津波のように押し寄せていますよ。
既に対応しきれず封鎖状態になっています」
「だろうな」
「わかってはいましたが、シルビア様の人気はすさまじいですな」
「隠居なさってなければ確実に議員になっていたでしょうな」
議員の中にもシルビアのシンパは何人もいる。
少なくとも議員の半数以上がシルビアの行動に対して心証を悪くしていない。
それだけでシルビアの影響力が強すぎて自ら隠居した理由がわかるというものだ。
「さて、シルビア様は…いやシルビア様の呼びかけによって多くの国民の意見が議会に寄せられている。
その意見の賛同者数をおおよそで判断してから、議会としてその意見の決議を取ろう」
「それは無意味ではないのか、アシミー議員。
シルビア様の演説によってすでに多くの国民の賛同を得ている。
議会として悠長に判断してる場合ではないのだぞ」
「だからこそだ。
シルビア様は自身の意見を国民一人の意見として扱えと言っている。
多くの者が賛同するだろうが、それがどれほどの国民数の意見であるかで議会は判断しなければならない。
シルビア様の意見だからという理由で議会は動いてはならないのだ」
「なるほど、確かにその通りですな」
アシミーの言葉に納得がいったと、シルビアの意見というだけで賛成的だった議員たちは気を引き締める。
「大変だろうが地球との交渉に賛同する者たちの人数を計測してくれ。
おおよその人数だけでも記録しておかなければ、どれほどの賛同者がいたからこそ議会はその意見を協議したのだという体裁にしなければならない。
シルビア様も議会を混乱させたいわけではないのだ」
「なるほど、ではさっそく賛同者の人数を確認しておくように指示を出します」
「対応する専用の窓口を用意した方がいいかもしれません」
「シルビア様の演説で混乱が起きてしまっている場所もある。
まずはその対処を終わらせ、意見の判断については次の会議の議題としましょう。
よろしいですかな、議長」
「…そうだな。 本日の会議は解散とする」
議員たちは忙しくなった各々の仕事を片付けるための足早に会議室を退出していった。
オーロウも重い足取りで会議室を後にしていく。
「…ヤドリはいるか」
「なんだ」
自身の執務室に戻ってきたオーロウが呼びかけると、物陰から連絡役のヤドリの円盤が現れて答える。
「一刻の猶予も無くなった。
計画を実行の移すと天帝に伝えろ」
「いいのか? まだアレの生産台数は予定数に達していないぞ」
「計画実行後も製造を続けさせればいい。
今動かなければ議会の調査で発覚するか、地球軍に聖地を荒らされ計画どころではなくなる。
お前たちにも手を貸してもらうぞ」
「私の判断だけでは決めかねる」
「聖地を探られればお前たちも隠れ場所を失う事になるぞ!」
焦った様子のオーロウは連絡役のヤドリに当たり散らすように怒鳴る。
「…ふう、仕方あるまい。 天帝様にお伝えしてこよう」
「時間がない、早くいけ!」
「………」
オーロウの姿にあきれた様子で話した連絡役ヤドリは。窓から出て空に消えていった。
残ったオーロウは苛立たし気に椅子に座り込み、計画成功の後の世界を妄想する。
「何が地球軍だ、何が議会だ、何が聖女だ…。
計画を実行すればすべてが私にひれ伏す事になるのだ。
フフフフフ…」
オーロウは計画の成功を疑っていなかった。
演説を終えたハジメ達はシルビアの屋敷に戻ってきており、アシミーも会議を終えて合流していた。
「ありがとうございました、シルビア様。
あなたの演説のお陰で議会も地球軍との交渉に前向きになっています」
「いいのよ、これはメカトピア全体の問題だもの。
これくらいの事なら大したことないわ。
それにこの案はハジメさんに提供されたものだもの」
「そうでしたな。 ハジメ殿にも感謝しております」
「地球軍側の僕にそういわれても困るんですが…」
立場的にあまり感謝されるのはむず痒いハジメだった。
「正直言うと、シルビアさんの影響力を舐めていました。
初日の二回の演説で議会にそこまで影響が出るとは思っていませんでしたよ」
「シルビア様は先の内戦で奴隷だった地金族や鍍金族を解放したわ。
今はみんな平民の鍍金族となっているけど、当時奴隷だったロボットは今のメカトピア国民の3割を超えていると言われる。
そんな彼らの殆どは大恩あるシルビア様に感謝しているんだもの。
国民の三割以上がシルビア様の為に動いても不思議ではないわ」
「それはまた…」
それだけ影響力があるなら、この結果も不思議ではないと納得するハジメ。
「そこまで影響力があるのだったら、今日だけでも十分だったかもしれないな」
「なに、まだ演説をやるのか?」
今日だけでも議会は混乱に陥ったのに、それが続くようなら議会が完全に停止してしまうのではないかとアシミーは心配する。
「僕の予想していた演説活動は何日かかけて呼びかける物だったんですけど、シルビアさんの予想以上の影響力でもう十分なんですよね」
「けれど二・三日を予定していたから場所取りの関係で、予定していた場所に人が集まってくると思うのよ。
だから予定を入れておいた場所での演説は予定通り行うつもりよ」
「…集まった人々の整理誘導に憲兵を派遣するべきか」
人が一か所に集まれば揉め事も起こるだろうと、先に手を打っておくかとアシミーは思案する。
「ともあれ、議会は交渉に前向きになった。
地球軍の指定した猶予までには、このままいけばギリギリ議会として返答出来るだろう」
「僕ら側としてもこれ以上猶予を作れませんでしたから、議会が動くのが間に合いそうでよかったです」
ハジメ達としてももう少し議会側に考慮する猶予を与えたかったが、メカトピアに侵攻する立場として自分たちが不利になるほど配慮をするわけにはいかず、短い時間しか猶予を与えられなかった。
この場のハジメの予測としては、シルビアが演説の準備期間と演説の効果が出るのに出した猶予ギリギリになると踏んでいた。
初日で効果が現れたことで、これでも予想より早い方なのだ。
「それでハジメさん。 この後はどうする予定なの?」
「議会が正式に交渉の意志を船にいる仲間に伝えたら、停戦交渉を行なうための準備を始める事になる。
だけど僕らの考えとしてはヤドリ達の動きが気になる。
聖地への侵攻が止まっても、アシミーさんが議会に聖地の調査を呼び掛けたことで尻に火が着いているはずだ。
このまま大人しくしているとも思えない」
「ジャックバグのような奴らって言ってたけど、そんなに危険な奴らなの?」
やはりヤドリの存在がハジメは気がかりだった。
ゼータを奪われたこともそうだが、味方がそのまま敵になってしまうかもしれないというのは相当な恐怖だ。
ヤドリの存在をハジメは知っていたが、実際に相対する事になったことでその危険性を再認識していた。
何せ人間だろうがロボットだろうが操ることが出来、寄生されても小さすぎて見えないという厄介さ。
寄生に気づかなければ、感染するようにどんどん内側に侵入してくる可能性もあるのだ。
必要以上であっても警戒をする事に越したことはない。
「奴らの本体は目に見えないほど小さくて、誰かが寄生されていても気づくのが難しいんだ。
いつの間にか仲間に憑りついて。こちらの懐まで入り込まれていたりしたら致命的な事になる。
こちらが動きを把握している内に決着を着けておきたい」
「味方がいつの間にか敵に操られてるなんてぞっとするわね」
「ジャックバグならかつての戦争を生きた我々がよくわかっている。
恐ろしい兵器だったが操られた者はジャックバグが頭部に取り付いていたから一目瞭然だった。
そういう意味ではそのヤドリというのはジャックバグ以上に恐ろしい存在かもしれん」
ジャックバグとヤドリの特性を考えて、アシミーは確かに危険な存在だと危惧する。
「先日の戦いでヤドリがゼータを奪ったように、強い存在を操った方が有利です。
金族を通じて僕ら側の強い機体をまた狙ってくるかもしれませんが、メカトピアの首脳部であるアシミーさん達を狙う可能性もあります。
シルビア様もそうですが、十分に警戒してください」
「その金族ですが、アシミー様。
何かわかりましたでしょうか?」
金族の動きも気になり、リルルはアシミーに尋ねる。
「オーロウ議長が何か隠している様子ははっきりしているが、証拠と呼べるものがないから大した追及は出来ておらん。
だが聖地の調査をすると言ったら、顔色を変えておった。
間違いなくヤドリとやらの事を知ったうえで隠しておるのだろう」
「金族ね。 いったい何をしようとしているのかしら」
「まず間違いなくろくでもない事でしょう。
奴らは評議会の議席の一定数保持する事を条件に共和制を受け入れたが、殆どの金族は納得しておらん。
機があればかつての王制に戻そうとしても、なにもおかしくはない」
議会でこそ議長であるオーロウに議員として対応しているが、はるか昔から金族の横暴さを知っているアシミーは共和制を認めていないその本心を見抜いていた。
「交渉が始まれば僕らの要求から聖地にゼータがある事を確認する事になります。
そうなればヤドリが見つかる事になり、金族もただでは済まないでしょう。
そうなる前に何らかの動きを見せるはずです。
仲間が聖地を監視していますので、何か動きがありましたらお知らせします」
「俺もオーロウ議長達の動きに注意しておくが、すまないがよろしく頼む。
そろそろ議会に戻らねば…」
「アシミーも無理するんじゃないですよ。 貴方だって若くないんですから」
「メカトピアの未来の為に、まだまだ俺はゆっくり出来ませんよ」
そういってアシミーは再び議会に戻っていった。
こうしてハジメ達に演説の結果を確認するために、忙しい仕事の中に無理矢理時間を作ってこちらに来ていたのだ。
議会に戻れば恐ろしい仕事の山が待っているだろうと、アシミーは少し及び腰になっていた。