ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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真・鉄人兵団15

 

 

 

 

 

 時は少し遡って、最高評議会、議会場。

 そこでアシミーは地球軍との交渉を決議する予定であったが、肝心の会議がまだ始まっていなかった。

 議会のまとめ役である議長のオーロウが一向に姿を見せなかったのだ。

 

「オーロウ議長は如何したのだ?

 もう一時間も会議の予定時刻を過ぎている」

 

「他にも何人か姿の見えない議員もいますが…」

 

「金族の方は全員姿が見えませんな」

 

 席についている議員たちは口々に会議が始まらない事に文句を言っているが、その中でアシミーはオーロウが現れないことに嫌な予感がしていた。

 既に何か事を起こそうと動き出しているのではないかと思い、待っていても仕方ないとオーロウを探しに行くかと席を立とうとした時に、会議場の扉から金の装飾が特徴である金族の議員の一人が入ってきた。

 

「お待たせしました、皆さん」

 

「ゼヘバ議員、何をしていたのですか」

 

「遅れるのであれば連絡を入れていただかねば」

 

「オーロウ議長もまだ来ておりません。

 何か知りませんかな」

 

 同じ金族であるゼヘバなら、議長のオーロウが何処にいるのか知っているかと議員の一人が尋ねる。

 

「オーロウ議長は大事な用事で聖地に行っております。

 私は彼の代わりにお届け物を持ってきたんですよ」

 

「なんと、オーロウ議長もまた勝手な」

 

「これから地球との交渉を決める大事な決議だというのに」

 

「そんなときに届け物とは一体何です」

 

 皆がオーロウの議長としての対応の杜撰さに文句を言っている。

 しかしゼヘバをそれを気にすることなく、両手に持った届け物だという箱の蓋に手を掛ける。

 

「最高の贈り物ですよ」

 

 ゼヘバが蓋を開けて中身を見せると、そこには紺色の特徴的な円盤が敷き詰められていた。

 

「なんですかな、それは?」

 

「どこかで見覚えが………ああ、確か議長が軍に送ったという特殊武器でしたか」

 

「確かに資料で見たものと同じものですな。

 ですが今更その特殊武器を持ってこられても…」

 

 議会は地球軍との戦争を交渉で解決しようという方向に向いている。

 そこへ先の戦闘で地球軍の主力機を暴走させた特殊武器を持ち出すのは、相手を刺激しかねないと議員達は危惧する。

 しかしその心配は無意味だった。

 

「いえいえ、これは皆さんへですよ」

 

「それはどういう…」

 

「全員ゼヘバから離れろ!」

 

 箱の中身の正体に気づいたアシミーは大声で警告を出すが、その声に驚いて議員達の殆どが警告に対応出来ていない。

 そしてゼヘバの近くにいた議員達に箱の中に入っていた物体―ヤドリの円盤―が動き出して急接近し、一筋の青色の閃光が一人一本づつ放たれた。

 四人の議員が青い光に撃たれて動きを固める。

 

「な、何をしたのですゼヘバ殿!?」

 

「だから言っているではないですか。

 最高の贈り物だと」

 

「直ぐにそいつから離れるんだ!!」

 

「アシミー議員、一体何が!?」

 

「早く!!」

 

 アシミーの剣幕にようやく議員達が動き出し、ゼヘバと光を受けて固まっている議員達から距離を取る。

 同時に箱の中から全ての円盤が動き出して周囲に浮遊する。

 

「ゼヘバ! これはどういうつもりだ!」

 

「どう、とは? これはあなた方への贈り物なのですよ」

 

「その円盤がどういうものなのか既に知っている!

 端的に言ってジャックバグと同様の物だ」

 

――ザワッ!――

 

 ジャックバグと同じ物だというアシミーの言葉に、議員達の緊張が高まる。

 それだけジャックバグはメカトピアのロボット達にとって恐ろしいものという共通意識があるからだ。

 

「それは本当ですかなアシミー殿!?」

 

「まず間違いない。 地球軍のロボットの不可解な行動はあれに操られていたからだ」

 

「ですが、オーロウ議長はジャックバグは別物だと…」

 

「その通り。 あんなおもちゃと我々を一緒にしないで頂きたい」

 

 議員の疑問に答えたのはゼヘバだった。

 ヤドリに乗っ取られた四人の議員も動き出し、ゼヘバの周りに集まる。

 ゼヘバの言葉にアシミーは一つ引っ掛かった。

 

「我々だと?」

 

「ええ、私がここに来たのはあなた方を使ってあげる為ですよ。

 ロボットに憑くのは好みませんが、議員であるあなた方を使えば事が容易に進みます。

 我々の為に役に立てるのですから、最高の贈り物でしょう」

 

「…貴様、ゼヘバではないな」

 

 その言動から、アシミーは今話している相手がゼヘバ本人でなく、ヤドリであることを看破する。

 金族と協力関係にあるのかと思ったが、体を奪われているのなら利用されていると見るべきかとアシミーは考える。

 

「ええ、ここに入ってくるのにこの体を使うのがちょうどよかったので」

 

「厄介な…」

 

 ヤドリはジャックバグと違い操られていることが外見からでは判別出来ない。

 ゼヘバが操られているなど言動でしかアシミーは見破ることが出来なかった。

 気づいたら味方が敵に操られているかもしれないなど、非常にやり辛い相手だとアシミーは思う。

 

「お話はこれくらいでいいでしょう。

 メカトピアを掌握するのにあなた達の体、有効活用してあげます。

 いきなさい!」

 

「ひ、ひぃ!」

 

 ゼヘバに憑いたヤドリの号令で、周囲の円盤がアシミーの体を乗っ取ろうと一斉に飛んでくる。

 議員たちは身を守ろうと体をこわばらせて丸まるが、アシミーはハジメに渡された真空ソープを取り出し連射してヤドリの円盤に当てた。

 ただの水鉄砲にしか見えないその攻撃が当たると、ヤドリの円盤は動きを止めて墜落した。

 

「なっ!?」

 

「俺は剣の方が得意なんだが!」

 

 そういいながらもアシミーは的確にヤドリの円盤に真空ソープを当てていき、飛びかかってきた全ての円盤が床に転がった。

 

「武器を隠し持っていたか!?」

 

「オーロウ議長の様子が前々から可笑しかったからな。

 念のため携帯していたが、大当たりだったようだ」

 

 すべての円盤を落としたアシミーは、操られているゼヘバと四人の議員にソープ銃を向ける。

 

「オーロウを疑っていたのは正解だが、気づくのが遅かったな。

 奴は既に動き出し、メカトピアの全てを支配しようとしている。

 それにこの体はお前たちの仲間の物だぞ。

 その武器で撃てるのか」

 

 ゼヘバに憑いたヤドリは挑発するように言うが、言っているほど余裕があるわけではない。

 ゼヘバの体を切り捨てる事の躊躇はないが、自身が憑りついたまま動けなくなるのはまずい。

 ヤドリは小さいが為に単体では行動できず、乗り物を破壊されればそこから動くことが出来なくなる。

 万一に攻撃で本体が巻き込まれることもあるので、攻撃を受けるのは避けたかった。

 

 そのアシミーの返答はソープ銃の更なる連射だった。

 四連射がつい先ほど操られた議員に当たり、それだけで議員達は再び体を硬直させて直後その場に崩れ落ちた

 

「なっ!?」

 

「ジャックバグに憑りつかれた者は電子頭脳が破損して助けようがなくなる。

 貴様らがジャックバグと同じなら、操られてしまったものはすでに手遅れだろう。

 ならば操られた者を攻撃する事に何の遠慮もいらない」

 

「アシミー議員、それは…」

 

 躊躇なく同じ議員の体を攻撃したアシミーに、守られていた他の議員が言葉を濁す。

 

「それにこの武器はお前ら用のものだ。 攻撃力は無いに等しい。

 ボディに損傷を負わせずお前らヤドリだけを倒せる武器だ」

 

「私たち用の武器だと。 貴様何を知っている!?」

 

「お前に語る事はもはや何もない。

 ではな」

 

 会話を切ってアシミーが真空ソープを放つと、命中したゼヘバは力尽きるように床に崩れて倒れた。

 アシミーは警戒しながら体を奪われた者達に近づく。

 

「アシミー議員、近づいては危険では?」

 

「確かにそうだか、警戒していても仕方あるまい。

 おそらく操られた者達は解放されただろうが、どういう状態にあるのかわからん。

 皆も彼らの容態を確認しながら周囲に警戒してくれ」

 

「アシミー殿、その武器は一体?」

 

「詳しい説明をしている時間はない。

 すまんが細かい事は後にしてくれ」

 

「…わかりました」

 

 ソープ銃の事はぼかし、何が起こってるのか確認するようにアシミーは指示を出す。

 体を奪われた議員達の容態を確認すると、四人の議員がすぐに意識を取り戻した。

 

「大丈夫か?」

 

「ぐぅ、何が起こったのだ。

 電子頭脳に多数のエラーが起こっている」

 

「私もだ。 リミットサーキットが動きそうだ」

 

「無理をするな。 お前たちは操られていたみたいなのだぞ」

 

「なんだと?」

 

 電子頭脳に大きな負荷がかかったようだが、何とか無事の様でアシミーは安堵する。

 そして最初から操られていたゼヘバの容態を見るが、目のレンズからは光が失われ動き出す様子がない。

 

「どう思う?」

 

「無事だった彼らを見る限り、操られていると電子頭脳に多大な負荷がかかるようですな。

 ゼヘバ殿はおそらくアシミー殿に開放されるまでに電子頭脳の負荷でリミットサーキットが起動してしまったのでしょう」

 

「操られても直ぐに開放すれば助かる可能性があるという事か」

 

「アシミー殿、ゼヘバ殿を操っていたというヤドリとは一体?」

 

「ああ、説明せねばならんな」

 

 ハジメとの接触を説明するにはまだ早いが、襲ってきた以上ヤドリの事については答えねばと思い、言葉を選んでいると、再び会議室に駆け込んできたものがいた。

 

「議員方、大変です!」

 

「なんだ! 何があった!?」

 

 たった今襲撃があったので議員達は敏感になっており、飛び込んできたものに警戒を示す。

 アシミーは狼狽えることなく何があったのか問うが、倒れている議員達を見て飛び込んできた衛士も困惑する。

 

「これは一体…」

 

「たった今襲撃があったのだ」

 

「襲撃!?」

 

 衛士である自分たちの気づかないうちに議会で襲撃があったことに驚く。

 

「それはいい、とりあえず片付いた。

 それで何があった?」

 

「は、はっ! 報告いたします。

 地球軍と相対し聖地防衛を担っていたメカトピア軍が、聖地から現れたジャックバグに襲われたとのことです!」

 

「なんだと!?」

 

「ジャックバグが聖地から現れた!?」

 

「そんな馬鹿な!」

 

 先ほどの襲撃以上に議会は混沌とした状況になる。

 アシミーは慌てることなく、軍がどのような状態にあるか確認する。

 

「軍はどう対処している」

 

「軍の一部を迎撃に回していますが、地球軍と相対しているが為に全力で対処する事も後退する事も出来ないとのこと。

 更に行方知れずになっていた地球軍の指揮官機が暴れまわる事で軍がかく乱され被害が広がっているとのこと」

 

「なんといやらしい作戦だ!」

 

 聖地を守っていた筈のメカトピア軍が、聖地の方から襲撃を受ける。

 対応しようにも前方に地球軍がいる事で警戒しなければならず全力で対応できない。

 更にメカトピア軍の任務は聖地の防衛。 例え聖地からの攻撃であっても地球軍を意識して撤退を出来なかった。

 地球軍とジャックバグに繋がりがなかったとしても、メカトピア軍にそれはわからず、事実上挟み撃ちにされているのだった。

 

 ジャックバグの突然の襲撃で一部の兵士はおそらく操られて同士討ちを始めているに違いない。

 更に操られた地球軍の指揮官機が暴れまわる事で、軍は混乱し地球軍の攻撃と思われているかもしれない。

 ただ言える事は現在メカトピア軍は非常に厳しい状態にあるという事だ。

 

「くっ………仕方ない! 軍にジャックバグの迎撃に専念するように指示を出せ」

 

「ですが地球軍への対応は?」

 

「地球軍は下手に動かんはずだ。 俺が責任を待つ!

 軍に指令を出せ!」

 

「了解しました!

 それと…もう一つご報告があります」

 

 衛士はとても言い辛そうな声で言う

 

「なんだ?」

 

「シルビア様が演説中に襲われたと連絡がありました」

 

「なに!?」

 

 シルビアが襲われたという報告に、アシミーだけでなく議員達も騒然となる。

 軍の襲撃されたという報告以上に、議員達に衝撃を与えた。

 

「シルビア様は無事なのか!?」

 

「わかりません、憲兵たちが鎮圧に向かっているという報告までです。

 ただ襲撃したのはジャックバグに操られたメカトピア兵だったとのことです」

 

「ここでもジャックバグ…すべて無関係ではないのだろうな」

 

 アシミーは思案し、自分がどう動くべきか考える。

 敵がいるのは聖地だが、戦力であるメカトピア軍が地球軍と相対していて自由に動けない。

 停戦交渉を行う直前に一斉に襲撃を受けたのは偶然ではないだろう。

 地球軍と相対していてメカトピア軍がジャックバグの対処に全力を出せないとなれば、やるべきことは一つだった。

 

「…シルビア様の元へ向かう!

 衛士たちはメカポリスで戦闘が起こる事を想定して避難誘導の準備をしろ」

 

 シルビアの元にはハジメがいる。

 たとえ裏からでも今は地球軍に接触を図り、たとえ一時的でも停戦しメカトピア軍が自由に動けるようにする必要があった。

 

「シルビア様の元へですか?

 心配なのはわかりますが今は軍の方を…」

 

「だからこそシルビア様の元へ俺がいかねばならん。

 理由は後だ!」

 

 ハジメと接触したことを今は話すわけにはいかず、この場は言葉を濁す。

 そこへ更に報告の衛士が一人やってくる

 

「報告です! シルビア様の演説会場にジャックバグの集団が現れたとの事」

 

「何………

 敵の狙いは市民にジャックバグを取りつかせるといったところか。

 シルビア様の事もある。 やはり行かねばならん」

 

「危険です! 衛士を派遣いたしますのでアシミー様はお待ちを!」

 

「悠長に待っとる場合ではないのだ!

 議員となったがまだまだ動ける!

 大将軍が伊達でないことを見せてやるわ」

 

「ああ、アシミー様!」

 

 話し合っててもらちがあかないと、アシミーは制止を振り切って走り出した。

 シルビアの心配もあるが、地球側のハジメに接触せねばメカトピア軍は壊滅し、果てはメカトピアの滅亡に繋がるとアシミーは直感していた。

 

 

 

 

 

 


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