ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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真・鉄人兵団18

 

 

 

 

 

『情報分析の結果、ヤドリには固有の波長を発する特性がある事がわかった』

 

 戦闘が終わり、破壊された量産機などの回収などの後処理を命じて一息ついていると、情報課の課長から分析したヤドリについての説明が始まった。

 隊長に工作員のハジメ、ドラ丸にリルルもその話に耳を傾ける。

 

『ヤドリは知っての通り寄生生物。 人間ロボットに関係なく寄生した対象を自在に操ることが出来る。

 特徴として寄生虫の様に体内に入り込むのではなく、体表にへばりついて自己呼吸をしている事で真空ソープが有効なんだが、それは今はいい。

 重要なのは寄生した対象を自在に操る能力が、一種の超能力だという事だ』

 

「その超能力が固有の波長というわけか?」

 

 隊長が話の流れから当たりをつけて訊ねる。

 

『そうだ。 僕らが習得した超能力を使った時に出る波長と似たようなものがヤドリから発せられていた。

 それがヤドリが対象を操る超能力の波長だろう』

 

 課長が解り易い様にヤドリと寄生した対象の絵図をモニターに表示する。

 

『ヤドリの対象を操る超能力は電気信号を自在に操る能力だ。

 その効果範囲は寄生しなければ操ることが出来ない事から非常に短く、電気ウナギのような攻撃力のある電撃を放つ様子もないから物理的な力は全く無いと言っていい。

 だが寄生するだけで人間もロボットも完全に支配下に置かれることから、おそらく微弱な電気信号に限ってはかなりの干渉能力を持っているとみていい。

 人間の脳の電気信号とロボットの電子頭脳も基本的に流れているのは微弱な電気信号だ。

 それを完全に支配下に置くことで、ヤドリは宿主の体を自在に操ることが出来る』

 

「それを防ぐ手立ては見つかったのか?」

 

『ヤドリの超能力を無効化するようなものは残念ながら用意出来ていない。

 超能力対策なんてこれまで考えたことはなかったからな。

 だが寄生されない為の対策は今技術班が準備している。

 聖地にいくのならヤドリがウヨウヨいるはずだから、寄生対策が必要なはずだ』

 

 ヤドリは小さいが個体数で数えれば、膨大な数がいる事が解っている。

 原作映画では真空ソープでバンバン円盤を打ち落としていたが、本拠地である母船には800万のヤドリがいると発覚しハジメ達は戦慄していた。

 地球に降り立てばとんでもない事になると、ハジメ達はここでヤドリを倒せねばと決意していた。

 

「助かる」

 

『それからもうひとつ重要なのが、ヤドリの寄生しているか判別する方法だ。

 知っての通り目視ではとても判別出来ないが、ヤドリ達が超能力で対象を操る事からその波長を読み取ればヤドリが憑いているかどうか判別出来る。

 簡単に判別出来るような道具の用意や、モビルソルジャーに観測機能をアップデートしないといけない』

 

「時間が掛かりそうか?」

 

 モビルソルジャーはハジメ達の主要戦力だ。

 それがヤドリに対応出来ないようでは、簡単に操られて敵に戦力をくれてやるようなものだ。

 聖地に突入しようと思っているハジメは、この戦いを早く終わらせるためにあまり待ってはいたくなかった。

 

『それを含めて一日だ。

 モビルソルジャーのアップデートも既存のセンサーでいけそうだから、設定をちょっと弄ってデータを送るだけで済む。

 …焦っているようだが、お前もさっき暴れまわってきたんだろう。

 少し休んだらどうだ』

 

「…ああ」

 

 とは言ったものの、ハジメはシルビアに託された思いが胸に燻っていた。

 焦っても仕方ないが、このように何かを託される事など初めてで、突き動かされるような思いに戸惑っていた。

 何かしないと落ち着かないという様子に、隊長と課長はコピーであれ我が事の不可思議さに困惑していた。

 

「…そちらの様子は僕らも確認していたが、シルビアというロボットに入れ込み過ぎじゃないか」

 

「それは自分でもわかってる。 地球側の人間として…いや、僕や僕らにはこれがあるからあまり誰かと深く関わっちゃいけないんだと思ってた」

 

 ハジメはゴッドガンダムのボディの腹部を手で抑える。

 その意味は課長と隊長にもすぐ分かり、ドラえもんのお腹を示す四次元ポケット、すなわち秘密道具の存在を指している。

 秘密道具はハジメ達にとって最大の長所であり、敵に知られてはならない弱点でもある。

 ドラえもんのように四次元ポケットを取られるようなことはないが、秘密道具を一つ奪われるだけでも大変な事になりかねない。

 気軽に使ってはいるが、管理には細心の注意を払っている。

 

「だけど、今の僕は理屈で動けそうにない。

 リスクが大きすぎるというなら止まらざるを得ないけど、出来るのなら僕はこの戦争をこの手で終わらせたいと思っている。

 シルビアさんの思いに出来るだけ応えたいと思うんだ」

 

「…何ともまあ」

 

『僕らしくないね』

 

 自分がこんな熱いキャラではないと隊長と課長は思っているが、それでも同じコピーなのだから役割が違えば自分も同じ選択をするのだろうという思いがある。

 気持ちの高ぶった自分に水を差すのも悪いので、全体に不利にならないようなら工作員のハジメの勝手は許すつもりだった。

 工作員のハジメもこれくらいの我儘なら許されると分かっていて、自分の気持ちをぶちまけていた。

 

「まあ、総体としての大きな不利益がないのなら、コピーの自由は認められている。

 もともとモビルソルジャーのみを送りこむ予定だったが、工作員もその機体で一緒に乗り込むことを許可する」

 

『だが準備だけは完全に終わってから行ってくれよ。

 万一でもヤドリに操られるのは悪夢でしかないからな』

 

 ヤドリは先ほど言った通り電気信号を操るが、それが出来るという事は脳細胞や電子頭脳からデータの読み取りが出来るという事だ、

 コピーのハジメが操られれば、そこから自分たちの情報であれば全て読み取られる可能性があるという事だ。

 そのような事になれば本当になりふり構わず、扱い方によっては非常に危険な秘密道具を使ってヤドリを完全消滅させる事になるだろう。

 ハジメ達も出来れば使いたくないと思う、使えば絶対に勝てる卑怯なんてものじゃない強力な秘密道具だ。

 

「無用な危険を冒すからって、自分の安全を考えてないつもりはないよ。

 身の安全は最大限確保するさ」

 

「それならいいんだが」

 

 隊長も工作員のハジメが冷静さを失っているわけじゃないと少し安心する。

 

「ねえハジメさん、その用意が済んだら聖地に向かうの?」

 

「もちろんそのつもり」

 

 ハジメ達の話し合いの様子を窺っていたリルルが、工作員のハジメに尋ねる。

 話し合っていたのは同じハジメだが、やはり僅かでも付き合いの長いゴッドガンダム姿のハジメに話しかけた。

 

「…聖地には私ももちろん行くつもりよ。

 でも聖地はやっぱりメカトピアのロボットにとって神聖な場所なの。

 ろくでもない事に利用されてるのだとしても、メカトピアの政府を無視して乗り込むのは流石にまずいと思うの」

 

 メカトピアのロボットであるリルルの言葉ではあるが、一理あるとハジメ達も一考する。

 

「まあ、それじゃあ交渉失敗での強硬策と同じことになるしな」

 

『簡略的にだったが一時停戦はしたんだ。 乗り込むのであれば一言言った方がいいな』

 

「じゃあ、工作員の僕から議員のアシミーという人に連絡を入れておいたらどうだ」

 

「そうだった、さっき通信機をアシミーさんに渡しておいたんだ。

 連絡を入れてみるか」

 

 ハジメ同士が相談し合い、自然と結論が出る。

 同じ声で同じ人物が話し合う様子に、リルルは少しばかり混乱している。

 

「人間のコードシグナルは分からないから、ハジメさんが誰か分かりづらいわ」

 

「一応同じ殿なのでござるが」

 

 またリルルに人間の新たな誤解が生まれた。

 

 

 

 

 

 事前に渡していた通信機でアシミーと連絡を取ると、もうすぐ準備を終えるとの事で改めてこちらから連絡すると返事をもらった。

 一時が過ぎて、通信機に連絡が入るとアシミーは前線に出るためにメカトピア軍の旗艦に合流したと報告された。

 その計らいでハジメ達の乗る地球側の船と、先ほどの戦闘で一時的に連絡を取り合ったメカトピア軍の旗艦で通信をつなぎ、モニター越しにこの騒動に対する会議を行なう事になった。

 

『では、ハジメ殿。 この一時停戦は聖地に起こる問題が終わるまで休戦という事で受け入れて戴けるのですな』

 

「ええ、聖地にはヤドリに奪われたゼータが逃げ込んで行きました。

 僕らとしては奪われたままというのは許すことが出来ず、またヤドリの存在は人間にとって非常に脅威と判断しています。

 その排除の為には僕らはあらゆる手段を講じるつもりです。

 場合によっては聖地ごと消滅させることも視野に入れています」

 

 聖地を壊さずにヤドリをどうにかする方法は秘密道具を使えば容易だが、ハジメはあえて聖地を傷つけるという言い方をアシミーにする。

 

『…それは流石に容認出来ん。 聖地は現在騒動の発生場所となっていますが、あそこは我々にとってとても大事な場所なのです。

 破壊を前提に行動を起こされるのであれば、我々は聖地を守るために貴方方を止めねばならない』

 

 アシミーは絶対に譲れないという固い意志で、ハジメ及び地球軍の行動に反論する。

 その後ろにいる司令官たちは、アシミーの発言に体を固くする。

 その意見に異論はないが、地球軍とまともに戦う戦力をメカトピア軍は既に残していない。

 

 メカトピア軍はなんとかジャックバグの軍勢を撃退した後、メカポリス市内に散っていったジャックバグの討伐に戦力を分散した。

 残っているのは聖地の中にある元凶を倒すために編成された戦力であり、地球軍とまともに戦える戦力ではない為に司令達は身を固くせざるを得なかった。

 交渉が決裂してそのまま戦闘になれば、あっという間に軍は崩壊すると分かっているからだ。

 

「であれば、我々の兵が聖地に入る事を許可していただこう。

 内部では確実に戦闘になるだろうが、大規模破壊を極力控えることを約束する。

 これがこちらが出せる最大の譲歩だが、返答は?」

 

『………』

 

 アシミーは考え込む様子を見せるが、返答そのものは既に決まっていて、これは一種のポーズだ。

 アシミーは僅かな付き合いでハジメに一定の信用を持っており、先ほどの無茶な要求も聖地に兵を送る要求を通すための方便だと察していた。

 そして地球軍の兵士を聖地に呼び込むことも本来なら許されざることだが、聖地を消し飛ばされる位ならという心理で、僅かであれ要求を通しやすくしようという意図を感じ取っていた。

 聖地に乗り込むと別れる時にハジメが言っていたことにアシミーは止められないと確信していたが、自身が許可を出す事になるとは思っておらず、仕方なくポーズだけでも考えていると周囲に解るようにしていた。

 止める力がないのだとしても、安易に受け入れなかったという体面が必要だった。

 

『聖地は我々の始祖が生まれ眠りについた神聖な場所。

 その安寧は必ず取り戻さねばならぬが、今の我々には戦力が圧倒的に不足している。

 メカトピアのロボットとして他星の物が聖地の入る事は受け入れがたいが、共同戦線という条件で聖地での戦いに参戦する事を私の責任で許可しよう』

 

「了解した。 共闘はするが指揮下に入らず、命令も受け付けん。

 あくまで聖地の被害が少なくなることに配慮するだけだ」

 

『…それで構わない』

 

『アシミー議員! それでよろしいのか!?』

 

 破格の対応にアシミーの後ろで控えていた司令が慌てて再確認する。

 

『仕方あるまい、我々に選択肢などあまり残っておらん。

 我々だけではジャックバグの対処にも不足するほど、メカトピア軍は疲弊している。

 ならば地球軍を味方につけてでも、聖地の異常を正してメカトピアの平和を取り戻さねばならん』

 

『ですがつい先日まで戦っていた相手なのですよ!

 いきなり共闘など出来るはずがありません!』

 

『連携など取る必要もない。

 重要なのは共闘する事で、地球軍を好き勝手させなかったという事実の証明だ。

 地球軍の目的は奪われた友軍とヤドリという寄生生物。 我々の目的はジャックバグの製造元の破壊だ。

 どちらも無視出来るものではないが、まず我々はジャックバグの対処に全力を注ごう』

 

『…わかりました、ですが兵がついてこれますか?

 これまでの戦争で地球軍と戦っていたのですよ。

 確実に混乱が起こります』

 

『だろうな。 だからこそ俺が前線に立って指揮をとる』

 

『な、え…えぇ~!?!?』

 

 司令官は副官と共に混乱している。

 ハジメ達もアシミーの言葉を聞き、僅かばかり目を見開いて驚く。

 

『聖地にはおそらくこの騒動に関わっている金族が潜んでいるはずだ。

 俺は直接会ってこの騒動の真意を聞きださねばならん』

 

『無茶を言わないでください。

 今のあなたは議員ではありませんか。

 戦場に赴くのは軍の仕事です』

 

『すっかり錆びついているがこれでも大将軍と呼ばれた身。 動けんことはない。

 確かに今は議員だが、無理を通すためにいろいろ無茶をしている。

 戦いが終われば責任を取って辞める事になるだろうが、それまでやりたい事は好き勝手やらせてもらう。

 全ての責任は俺が持ったと言っておけば問題ない』

 

『あなたという方は…。

 わかりました、軍も全力を持ってアシミー様に従います』

 

『司令、よろしいので?』

 

『諦めろ、この人は昔からこういう方だ』

 

 副司令の忠言に諦めろという司令は、昔の戦争でアシミーとの付き合いがあった。

 アシミーがこういう時に後先考えずに無理を通して結果を出すタイプだという事を知っていた。

 

『そういうわけだ、ハジメ殿。

 微力ではあるが俺も聖地に同行する事になる。

 本来なら聖地は我々だけで取り戻さねばならないが、時間も戦力も圧倒的に足りていない。

 改めて協力をよろしく頼む』

 

 そういって軽く頭を下げるアシミーと、それを見て慌てて後ろで同じように頭を下げる司令と副司令。

 芯の通った対応に、ハジメ達も誠意には誠意を見せねばと応える。

 

「アシミーさん達の言うように我々と即興で連携など取れないでしょう。

 各軍の指揮はそれぞれの指揮官がとって、連携は最低限必要な情報交換程度に留めます。

 お互いに準備が整いましたら聖地に突入しましょう」

 

『了解した』

 

 

 

 

 


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