ドラえもんのいないドラえもん ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~ 作:ルルイ
・クンタック(ペコ)
のび太に拾われた野良犬。 その正体は国を追われた犬人族の王子で、のび太にペコと名付けられる。 赤い宝石のペンダントを持っており、巨神像の幻を投影したりそこから電撃を放つことが出来、実物の巨神像のコントローラーでもある。 これを使ってドラえもん達と共に国を乗っ取った大臣ダブランダーを倒した。
・ブルスス
王国の騎士。 クンタックが国を追い出された後に城に捉えられていたが、ドラえもん達に助け出されて加勢する。 兵士相手に棒きれだけで無双して最後まで生き残る。 のちにクンタックが王になると親衛隊長になった。
・ダブランダー
クンタックの父である国王を暗殺して、クンタックを国から追いやった悪役の大臣。 古代兵器である空飛ぶ船や火を噴く車を復活させて国外に侵略を目論んでいる。
・サベール隊長
ダブランダーの部下、やられ役。
(僕はこれからどうなるんだろう)
故郷を追いやられ、海を渡って流れ着いた異国の地。
その街中を僕は当てもなく彷徨い続けていた。
誰かに頼ろうにも、この国では僕は異邦人。
それも明らかに人種の違う僕では、この国の人々に知られてしまうと騒ぎになって捕らえられてしまうかもしれない。
幸いこの国には僕達の種族に似た動物がたくさんいて、その動物の振りをする事でこの国の社会に溶け込むことが出来た。
しかし僕に似た動物は人と共にいるのが普通らしく、一人彷徨っている僕を捕らえようと追ってくる人たちもいた。
そんな人達に見つからないように、今日も隠れ場所を転々としながら彷徨っていた。
見るモノすべてが真新しくて、好奇心に心を動かされていたのも最初の内だけ。
身寄りとなる物のない今の僕は食べ物も満足に得られず、夜風を凌ぐ宿もまともに得られないまま疲労だけが蓄積されていった。
彷徨っている内にこの国の言葉を覚えることは出来たけど、通りすがりの人たちの会話だけでは自分がどこにいるのかすらわからない。
それでも僕は帰る方法を探して彷徨い続ける。
故郷に帰らなければならない理由が僕にはある。
僕を故郷から追いやった奴らは、僕がいなくなったことで好き勝手をして国を荒らしているに違いない。
そんな国に残してきた仲間を、友を、愛する人を守るために僕は必ず帰らなければならない。
心にそう深く誓っているが、何日も溜まった疲れは関係無しに僕の心を削っていく。
空腹と疲労が相まって僕の体は限界に差し掛かっていた。
安心して体を休める場所を見つけなければと歩き回るが、足に力が入らずふらついてその場に倒れこむ。
故郷を思い出すことで気持ちを奮い立たせるが、先の見えない旅路に心も折れそうになっていた。
これからどうなってしまうのか。
そんなことばかりが頭に過ぎり、故郷に帰ることもだんだん考えられなくなっていく。
僕には先の事より今を乗り越える事すら出来ないのではないかと諦めかけていた。
そんな時だった。
「――――――」
疲労でぼやけて見える僕の目の前に人影が現れた。
何かを僕に喋りかけているが意識が朦朧としている僕の耳にはとても遠く感じる。
「―――コ、じゃなくてクンタック王―――」
ぼんやりと聞こえる会話の中に、僕の名前がかすかに聞こえた気がした。
なんで僕の名前を…と問おうとしたのだと思う。
だけど一人になってから誰も呼ぶことのなかった僕の名前を聞いて、一瞬気の緩みが出てしまう。
その気の緩みの隙をついて、溜まった疲労が僕の意識をすべて奪い去っていった。
目の前に倒れている灰色の犬。
正しくは白い犬なんだろうが、薄汚れてしまって灰色になってしまっているのか。
その人物?は今回の一件の主要人物で探し回ってようやく見つけたのだが、ひどく衰弱していて近づいても動かずに横になったままだった。
意識はあったようなので確認のために名前を呼んでみたのだが、その直後に目を閉じて反応を示さなくなった。
さすがに心配になって生きているか確認をしたが、幸い意識を失っただけだったようで安心した。
とはいえ医学知識のない素人の確認なので、命に別状がないかまではわからない。
本人確認は取れなかったが現地拠点まで連れ帰って、会長に【お医者ごっこかばん】を出してもらわないと。
手持ちの四次元ポーチには入ってないから、健康状態を確認することも出来ない。
原作では日本を無事に彷徨ってたんだし、途中で野垂れ死ぬなんてことないよな。
現在僕は大魔境編の攻略をするべく、犬人族のペコことクンタック王子の探索を行っていた。
のび太にはペコと名付けられていたからその名で呼ぶことはないだろうが、彼は犬人族の住むバウワンコという国の王子だ。
ダブランダーという大臣に国を追われて国外に放り出されたが、原作通り日本に流れ着いて彷徨っているのを発見した。
すぐに接触して確認をしようとしたところでこの状態だ。
健康状態を確認するために【お医者ごっこかばん】を出したいところなのだが、僕はタマゴコピーミラーのコピー通称:実行部隊隊長なので四次元ポケットその物を持っていない。
それでも活動に必要なひみつ道具を持ち歩くために、四次元ポケットと同じ収納能力を持つひみつ道具【四次元ポーチ】を支給されている。
ただし四次元ポケットのように中身まではないので、必要な道具は事前に入れておかなきゃいけない。
おおよそ必要なものは入れていたと思っていたが、病人等を見るためのお医者ごっこかばんなどの衛生用品は入っていなかった。
これらも戻ったら支給しなきゃな。
僕は四次元ポーチからどこでもドアを出して、クンタックくんを連れて扉をくぐった。
行先は人のいない小さな孤島、そこを今回の一件が片付くまでの仮拠点として使っている。
少々時間の行き来がややこしくなるが、大魔境の一件に対する準備が整ったので最初にいた時間の十年前から、事件が起こる時間にタイムマシンで来たのだ。
十年前から自然な時間の流れで事件発生の時間まで待つと、連続で事件が起こった時の時間的余裕が結局無くなってしまう。
なので準備が出来た案件から事件発生の時間に飛んで、その時間軸で拠点をそれぞれ作って行動を行うことにした。
同じ時間軸に同時に僕達が存在することになるかもしれないが、時間の余裕が無いよりはいいとそれぞれの時間に飛んで作戦を行うことにした。
同じ時間軸に僕達が複数存在すると、過去と未来の僕達同士が接触する可能性も出てくる。
そうなった時に起こりかねないタイムパラドックスが僕らにどんな影響を与えるのか想像も出来ないので、接触しないように活動時間と活動範囲の両方を事前に決めて、今後の活動での行動範囲と時間が被らないように調整しないといけない。
つまり事件ごとに拠点はいちいち新しい場所に作らないといけないということだ。
それに僕達はコピーをいくつも作っているので、過去か未来の僕達に接触したらその時のコピー達の数も合わさって余計にややこしい光景に見えるだろう。
ちゃんと人数管理をしていれば問題ないだろうが、過去現在未来の自分達がごちゃ混ぜになるなんて想像もしたくない。
とにかく時間移動によるタイムパラドックスの発生はややこしいのだ。
起こさないように十分に気をつけないといけない。
拠点の無人島に戻ってきたわけだが、ここには僕以外のコピーもオリジナルの会長もいない。
今回必要な物も四次元ポーチに大体入っているから、拠点にあるのは住宅代わりの【キャンピングカプセル】が建っているだけだ。
キャンピングカプセルの家の中につないだどこでもドアから出るとドラ丸が待機していた。
今回の一件に実行部隊隊長の僕の護衛として一緒に行動することになっている。
「おかえりでござる、殿。
目的は達成出来た様でござるがその者は大丈夫でござるか?
何やら意識がない様子…」
「ああ、ただいまドラ丸。
どうも衰弱しているみたいなんだが詳しい容体がわからない。
ドラ丸には病人を診察する機能とかついてなかったか?」
「拙者、これでも戦闘を想定して作られているので、敵の状態を見抜く機能があるでござる。
ですが医学知識はないので、拙者の目にはその者が弱っていることくらいしかわからんでござる」
「まあ、そんなところだろうな」
大して期待していなかったドラ丸の診断でも、衰弱していることくらいしかわからなかった。
そういう機能はコンセプトと離れているので期待していなかったが、この後クンタック君の国バウワンコに行くことになった時には護衛として大いに役立つことになるだろう。
予定ではクンタック君と話してからすぐにバウワンコに向かう予定だったが、彼が元気になるまで待たないといけないな。
俺はタイムテレビを出して、過去の時代に残っている会長達にと連絡を取る。
こっちの状況を向こうもリアルタイムで見ているはずだ。
「(いや、未来の状況をリアルタイムで見ているってのは何か言い方がおかしいか?
リアルタイムってのは現在の生の映像って意味だから…
過去から見たらこれから起こる状況ってことだけど、見ている方の時間の流れと見られてる方の時間の流れは一緒なんだからライブ中継とは言える?
あれ、ライブって生って意味だったからリアルタイムで合ってる?
まずい、だんだん考えがこんがらがってきた)」
「殿、どうしたのでござる?
何やら難しい顔をして」
「…ん? ああ、いやなんでもない。
実際どうでもいいことを考えていただけ」
「ふむ? よくわからんでござるが、殿も戻ってきたので拙者は次の作戦に取り掛かるでござる」
「ああ、こっちは大丈夫だからよろしく頼む」
「では」
次の作戦の為にドラ丸は自身のどこでもドアを取り出して潜りどこかへ行く。
予定は知っているので何をやりに行くのかは解っているから今のやり取りだけで十分だ。
僕はお医者ごっこかばんを受け取るために、さっさとタイムテレビで過去の僕達と通信を繋ぐ。
こっちの状況を向こうも確認していたからか、通信はすぐに繋がった。
『お疲れさま、隊長
こっちは今そちらに送る道具の準備をしてる』
「会長、副隊長が見てたんじゃないのか?」
こっちの様子は一応僕の部下に当たる副隊長が確認をしていた筈だ。
同じ顔なのに違いが判るのは、それぞれの役職を示す腕章をつけているからだ。
『ちょうど僕が来てたところだったからね。
副隊長は今【タイムホール】でそちらに荷物を送る準備をしているよ』
タイムホールは穴の先を指定した時間につなげる道具だ。
人が行き来するような道具ではないが、モノを向こうから取り出したりするのがメインらしいが、送り出すことも出来たので、時間を越えた荷物のやり取りはこれを使うことになった。
「それだったら話は大体伝わっているな。
バウワンコへ向かうのはクンタック君が体調を取り戻してからだ。
それまで少々時間がかかると思う」
『わかってる。
説明もいろいろあるだろうし、そっちの準備が出来てからこっちに通信してくれ。
それからはこっちもモニターしながら緊急時の時の補佐に回る。
何かあったらまた連絡してくれ』
「了解、あとは予定通りに」
そういって通信をきる。
それから間もなくタイムホールに繋がる時空の穴が開いて、そこからお医者ごっこかばんと必要になりそうな衛生用品になるひみつ道具が出てきた。
早速お医者ごっこかばんを使ってクンタック君の診察にかかる。
『栄養失調ト疲労ノ蓄積ニヨル衰弱デス。栄養剤ヲ注射シテクダサイ』
機械音声での診断が出ると一緒に注射器が飛び出してきた。
注射器の正しい使い方なんて知らないが、これはお医者ごっこかばんが出したもの。
先っぽに針のないおもちゃの注射器とほぼ同じだが機能だけは本物。
適当にクンタック君の体に当てて押し込むだけで栄養剤を注射出来た。
『コレデ問題アリマセン。ジキニ目ヲ覚マシマス』
これで問題ないようなのでしばらく待つことにする。
疲れ切っている彼を無理に起こすわけにはいかないし、別行動に出ているドラ丸も戻ってこない事には始まらない。
どちらが先かと思ってしばらく待っていたが、ドラ丸のどこでもドアは再び現れて扉が開く。
ドラ丸が戻ってくるのが先だったようだ。
「ただいまでござる。 しかと任を果たしてきたでござるよ」
「おかえり」
そう出迎えると、ドラ丸の後ろから一人の犬人族が現れる。
どこでもドアを潜った事で景色が変わったことに訝しんでいる様子だ。
彼が辺りを窺っていると横になっているクンタック君に気づいた。
「王子様! クンタック王子様ではありませんか!」
慌てた様子で駆け寄ってきた犬人族の彼はブルスス。
クンタック王子の国の元親衛隊長で今まで捕まっていたが、原作ではドラえもん達に助けられて協力していた。
なので僕等も協力してもらおうと、ドラ丸にバウワンコまで助け出しに行かせていた。
ブルススさんに呼びかけられて栄養剤も効いてきてたのか、クンタック君は身震いをして目を覚ました。
「ん、ここは? ………ブルスス? なんでブルススがここに!?
夢じゃないのか?」
「夢ではありません! 王子様、よくぞ御無事で…」
クンタック君は状況が見えないらしく困惑し、ブルススさんは感激のあまり涙を浮かべて彼を抱きしめている。
感動の再会に水を差すのは悪いと思い、様子を見ながらドラ丸にバウワンコでの首尾を確認する。
「ドラ丸、バウワンコでの様子は実際に見てどうだった?」
「おおよそ物語通りの様子でござったな。
民衆はダブランダーとやらの支配のせいで落ち着かない様子で、まさに悪代官のようでござった」
「悪大臣だけどな。 それで作戦場所の確認は?」
「上々でござる。
しっかりと場所の確認は済ませて、あとは彼らの準備を待つだけでござる」
ドラ丸には作戦決行場所の事前確認も隠密に済ませてもらってきた。
タイムテレビでおおよその地理の確認は済ませているが、念のためにブルススさんを助け出すついでに頼んでおいた。
「ブルススさんに事情は?」
「クンタック王子の所在のみを話しただけでござる。
それだけで大慌てだったのでそのまま連れてきたでござるよ」
「あの様子ならな~…」
大変だったのは知識では知っているが、それは当人たちにしかわからない感情だからな。
そうしてると二人とも漸く落ち着いてきたらしく、こちらを認識して事情を聞きたそうにしていた。
「よく状況がわかりませんが、助けて頂きありがとうございます。
知っているかもしれませんが、僕の名前はクンタック。
彼はブルススです」
「ブルススです。 王子様を助けて頂いた上、私までも…
どうかお礼をさせてください」
見慣れない犬人族なので見た目が当てにならないが、二人とも喋り方や仕草に品の高さを感じる。
さすが王子様と国の親衛隊長といったところだ。
「気にしないでください、こちらもいろいろ事情があっての事ですから。
僕は中野ハジメでこっちがドラ丸。
大よその事情は分かってますが、それぞれ確認をしながらこれからの事を話しましょう。
食事をしながらでも…」
そう言って、僕は先ほど送られてきた荷物の中から丸めた絨毯のようなものを広げる。
言えばどんな料理でも出てくる【グルメテーブルかけ】だ。