ドラえもんのいないドラえもん ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~ 作:ルルイ
光線の雨に晒されていたハジメ達は旗艦に退避し、隊長のいるブリッジまで戻ってきた。
外にいた主力機たちも、船のバリアならまだ耐えられると、作戦会議の為に一緒にブリッジまできていた。
「お疲れさん、見ていたがしっかりゼータを取り戻せたな」
「大破させるしかなかったがな。 ちゃんと回収は出来たか?」
地下施設で撃破したゼータは、ハジメ達はリルルに合流しなければならなかったので持ち運ぶことが出来なかった。
ヤドリの寄生対策に秘密道具関連をハジメは持っていなかったので、四次元ポケットなどに入れるような運搬方法もなかった。
なので隊長に連絡して、【取り寄せバッグ】で大破しているゼータのボディを遠くから回収してもらったのだ。
「回収した。 一応ヤドリの寄生を確認してから、ドラ丸が【復元光線】で修復している。
ほら、そこにいる」
隊長が示した先には、ドラ丸の横に立つ完全な状態のゼータがいた。
ヤドリの確認は念の為だ。 復元光線は生物には効果が無いが、修復の可能性を考えヤドリの復活を警戒し確認を取っている。
タイムふろしきでは生物も復活させられるので、それを使ったゼータの修復は行わなかった。
「ご迷惑をおかけしました、マイスター。
敵に操られてしまうとは…」
「気にするな、僕らの注意が足りなかっただけだ。
ヤドリの存在を事前に確認していればこうなる事はなかった」
事実、ハジメ達はメカトピアに対してそれほど警戒をしていなかった。
作り出したモビルソルジャーも、メカトピアのロボットの戦闘能力の水準を大きく上回っていることから、大した警戒はいらないと情報収集を必要以上に行わず、黒幕のヤドリの存在を見逃していた。
その事からハジメ達に油断があったのだと自覚をしている。
「それでこれからどうする。 僕はあのロボットに侵入して内部破壊をアシミーさんに提示したけど」
「僕もそれは考えたがこの攻撃の中じゃ、侵入は量産機には難しいな。
内部にたどり着く前に集中砲火で破壊されかねん」
「いけるとなると攻撃に耐えられそうな主力機か。
ヤドリも残り少ないはずだから、彼らを向かわせるのも悪くはないか」
「ねえ、ちょっといいかしら」
提案があるといった様子で片手を上げて話しかけてくるリルル。
「どうかしたリルル?」
「あなた達の戦艦の砲撃であのロボットを攻撃できないの?
前に見た宇宙船を一撃で落とすほどの威力ならあの巨大なロボットを倒す事は出来ない?」
その提案にハジメと隊長もハッとなる。
戦艦による砲撃などすっかり忘れていたからだ。
「その手があったな。 メカトピアに来てから戦艦の砲撃なんてやってなかったから」
「宇宙での戦いでは、メカトピア軍の損害を調整しないといけなかったから、戦艦の主砲なんてなかなか使えなかった。
使ってたらあっという間にメカトピア軍が壊滅していただろうし」
「モビルソルジャーが暴れるだけで十分だったからな」
メカトピア軍に損傷を与えても滅ぼすわけにはいかなかったハジメ達には、戦艦の砲撃はオーバキルで使用する事が頭から消え去っていた。
リルルは脅威と見なされていなかったメカトピア軍を、仕方ないとはいえ同胞として少しばかり不憫に思ってしまう。
「よし、各艦の隊列を整えるぞ。
前列の艦はバリアにエネルギーを集中させて後方の艦を守れ。
後方七番八番艦はローエングリン発射準備に入れ。
準備が出来次第、前列の艦の退避後に発射だ」
ローエングリンはアークエンジェルの最大の威力を誇る左右の艦首に搭載された陽電子砲だ。
9隻あるアークエンジェル型の戦艦にバリアによる守備役と、ローエングリンを放つ攻撃役に分けた。
ほとんどモビルソルジャーの運搬役でしかなかった戦艦が活躍するときが来たのたが、オペレータから新たな報告が入る。
「マイスター。 敵に新たな動きがあります」
「なに?」
機神ガインと呼ばれた巨大ロボットは、ついに全容を地下から現し、巨大な両足は地面を離れて浮かび上がっている。
反重力エンジンのような飛行機能が機神ガインを浮かび上がらせ、鈍重な巨体に機動力を与えようとしているのだ。
戦闘を行なえるメカトピア兵が自在に飛び回れることから、機神ガインにも空を飛ぶ機能があってもおかしくはない。
全身を現し浮かび上がった機神ガインは両腕による無数に光線攻撃を一時停止し、両腕を左右に開き胸部を晒す。
胸部の装甲が変形を開始し、内部から巨大な砲身が見え始めた時には、ハジメ達もなにをしようとしているのか察しがついた。
『バリアで耐えようとも無駄だ!! それが脆弱な守りだと知れ!!』
胸部にエネルギーが集中し始めるのを、ハジメ達の船が検知してモニターに表示する。
その表示を見ることなく、隊長はすぐさま防御態勢を取るべく指示を出す。
「前列一番二番三番艦、バリア最大出力!
全エネルギーを集中させ、三隻のバリアを同期させろ!
四番五番六番艦、一番二番三番の後ろに着いてΔ陣形でバリアを展開し第二防壁として旗艦の盾に成れ!
急げ!」
胸部より姿を現した巨大な砲門に危機感を覚えた隊長が、アークエンジェルの艦隊による二重の防壁を作ろうと指示を出す。
「そうだ!? 各艦の船長を務めるコピーは、後をモビルソルジャーに任せて旗艦に退避だ!」
船長を務めているコピーの事を思い出し、隊長は旗艦に退避するようにも指示を出す。
各艦の船長を務めていたコピー達も危機的な状況にすぐに退避を始め、隊長のいるブリッジにどこでもドアを使って一斉に逃げ込んできた。
一気に10人同じ姿の人間が揃う事になったので(ゴッドガンダムINハジメは除く)、急な状況ではあってもリルルが困惑してしまうのは仕方なかった。
ほとんど飾りであった船長のハジメがいなくなっても、全てのアークエンジェルは問題なく動く。
モビルソルジャーによって動かされる戦艦は、機械であるがゆえに迅速に隊長の指示した陣形となって防御態勢を整え、敵の攻撃に間に合った。
『消えてなくなれぇ!!』
ヤドリ天帝の叫びが轟くと、機神ガインの胸部のエネルギーが一瞬発光し、次の瞬間溜め込まれた全てのエネルギーが解放された。
――ギュォオオオオォォォォォンンン!!!!――
エネルギー砲は前列に並んだ戦艦三隻のバリアに阻まれた。
一隻さえかなりの強度を誇るバリアを、三隻同期させて強度と出力を高めたことで、並大抵の攻撃ではビクともしないものとなっている。
しかし機神ガインの巨体故に搭載できた大出力の動力炉から供給されたエネルギー砲は、ハジメ達の警戒した通り並大抵の攻撃ではなかった。
持続して放たれ続けるエネルギー砲の奔流に、三隻の艦のバリアには大きな負荷がかかり、バリア発生装置とエネルギーを生み出す動力炉が出力限界に達してショートし始めていた。
三隻のバリアが壊れる寸前になったところで、機神ガインのエネルギー放出の方も限界を迎えて攻撃が止んだ。
バリアも戦艦自体も無事だったが、多大な負荷により各所から煙を上げていた。
「バリアで受け止めた三艦の状態は?」
「バリア出力合計23%まで低下。 動力炉も過負荷により異常が発生しています。
次の攻撃には耐えられません」
「1・2・3番艦を後退。 後続で陣形を整えていた4・5・6番艦を旗艦の守りとして前に出せ」
「了解。 7・8番艦のローエングリンの発射準備が整っています」
「そうか! 7・8番艦の前を開けろ!
態勢が整い次第、即時発射だ」
オペレーターの報告に攻撃準備をしていたことを思い出す隊長。
隊列変更の指示を出して、7・8番艦の射線から他の艦を移動させる。
1・2・3番艦は出力の低下で船速が遅くなっていたが、無人艦の対応速度はそれでも迅速な方だった。
「7・8番艦の射線開きました。 敵ロボット、こちらの砲撃に気づいている模様」
陽電子砲の巨大な砲身を現したことで7・8番艦が砲撃態勢である事にヤドリ天帝は気づき、機神ガインに腕を交差させるように前に出して身構えさせているようにも見えた。
「かまわない! 7・8番艦、ローエングリン同時発射だ!」
「了解、発射命令発信。 ローエングリン発射します」
――ギュオオオォォォォォォォンン!!!――
オペレータの発進した発射命令に7・8番艦から二対計四条の陽電子砲が発射された。
アークエンジェル艦の最大火力の攻撃に機神ガインの胴体を一撃でぶち抜くとハジメ達は思ったが、直撃する前に見えない壁に阻まれて陽電子砲が拡散される。
「向こうもバリア!?」
「バリア何てこれまでメカトピアで見たことないぞ!」
自分達と同じようにこちらの最大火力の攻撃をバリアで防がれたことに隊長は驚く。
ハジメもこれまでの戦いからバリアを使われたことなど一度もなかったので、メカトピアにはバリア技術はない物だと思っていた。
何か知らないかとハジメはリルルに目を向けると、リルルもそれを察して答える。
「バリア技術が開発されたという話を、私もごく最近だけど耳にしたことはあるわ。
だけど装置の小型化がまだ不完全で、戦艦の運用にもまだ試験段階だったらしいわ」
「あの巨体なら多少大型の装置でも投入できるか…」
メカトピアで開発されたばかりのバリア発生装置を、オーロウたち金族は即座に機神ガインに搭載していたらしい。
小型化が出来ていなくても装置が大きいのであればその分大出力のバリアを発生させられるとも言い切れる。
事実、二艦の放つローエングリンをそのバリアは容易に破られることなく、衝突によりエネルギーを拡散させて耐えていた。
それでも開発されて間もない未熟な技術。
機神ガインの大出力の動力炉があっても、一度に発生させられるバリアの出力に限界はあった。
先ほどの攻防が逆転したかのような状況となり、機神ガインのバリアは限界を迎えて消失し、バリアの先にあった胴体を守る両腕に当たった。
陽電子砲の照射もそこまでが限界で、胴体を守る両腕の装甲を融解させるに止まった。
「耐えられたか。 これなら9番艦も攻撃に参加させておけばよかったか」
念のために余力を残そうと9番艦は待機させていたのが裏目に出たと、隊長は判断ミスを悔いる。
だが逆に言えばハジメ達側にはまだ余力は十分あるという事だ。
1・2・3番艦は攻撃に耐えてダメージを受けている。
4・5・6番艦は新たな防壁として役割を果たすために万全の状態にある。
7・8番艦は陽電子砲を連射出来ないが他の攻撃手段に問題はなく、9番艦に至っては完全にフリーだ。
隊長は慌てることなく次の攻撃を命じようとするが、機神ガインもまた黙っているわけではなった。
両腕の装甲の多くが溶けた事で、先ほどの無数の光線は使用不可能になったと思われるが、腕としての機能はまだ健在だった
前に出して胴体を守っていた腕を、巨体であるが故にゆっくりに見える動きで後ろへ振りかぶっていく。
「何をする気だ?」
「振りかぶって殴ろうとする体勢に見えるが…」
「あの巨体でもこの距離じゃ…」
ハジメ達の艦隊と機神ガインまでは何キロもの距離が離れている。
先ほどの様に大出力の遠距離武器であれば、お互いに大打撃を与える有効射程だが、あの巨体であっても直接打撃を与えるには文字通り手が届かない。
だが相手もそんな意味のない事はしないはずと、ならばなぜとハジメ達は少しばかり嫌な予感を感じる。
「何かする気だ。 警戒しろ!」
警戒を指示を出すが、次の瞬間にはハジメ達の誰も予想していなかった攻撃が来た。
『これでも食らうがいい!!!』
正面に振りぬかれた瞬間に肘から先の上腕部が分離され、その勢いのままにハジメ達の旗艦目指して凄い速度で飛び出してきた。
上腕部だけであっても数百メートルの戦艦並みの質量があり、そこに振りぬかれた勢いで加速してくればとんでもない威力になる。
「「「何いいぃぃぃぃぃ!!!」」」
いわゆるロケットパンチである。
ハジメ達地球組はその事実に驚き、リルルはあまりの予想外の出来事に呆けるしかなかった。
だが、とんでもない手段の攻撃であってもとんでもない威力の攻撃が向かってきていることに、驚いている場合でないことにハジメ達も気づく。
「防御体制を取れ!」
「隊列が整うまで僅かに時間が掛かります。 間に合いません」
「なら回避だ! どれでもいいから護衛艦を盾にするように後ろに回れ!」
自分たちの乗る旗艦は絶対に守らねばと、隊長も好ましいと思わないが護衛艦を盾にするように命令を下す。
ロケットパンチは加速はとんでもないが純粋な砲撃ほどの速度はない。
武装はないがバリアによる耐久力と機動性を重視している旗艦は、素早い平行移動で護衛艦の陰に隠れるように移動できた。
しかしロケットパンチは旗艦の移動に合わせて、軌道を修正すらして見せた、
「敵攻撃、軌道を修正。 真っ直ぐ旗艦を狙っています」
「全艦バリア最大! 耐えさせろ!」
最大の光学兵器によるエネルギー攻撃に続いて、最大の質量攻撃がハジメ達を襲う。