ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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真・鉄人兵団25

 

 

 

 

 

――ギャシャアアァァァァンンン!!!――

 

 けたたましい重い金属同士の衝突音が響き渡り、ハジメ達の乗る旗艦を振動で揺らした。

 しかしそれは直接的な揺れではなく、ハジメ達の旗艦は無事であった。

 旗艦の前方で盾となった二番艦は低下していたバリアを容易に破壊されて、ロケットパンチが直撃したことで船体の半分近くが潰れていた。

 更にロケットパンチは二番艦に直撃しただけでは止まらず、そのすぐ後方にいた四番艦のバリアに追突した。

 

 それによってロケットパンチの勢いは止まったが、パンチと四番艦のバリアに挟まれた二番艦は止めとなって完全に機能を停止した。

 四番艦はバリアに負荷はかかったが無傷であり、その更に後ろにいた旗艦も無事で済んだ。

 二番艦を文字通り叩き潰したロケットパンチは、その衝突の衝撃波だけでハジメ達の旗艦を揺らす事となったのだ。

 

「まさかロケットパンチを撃ってくるとは!」

 

「奴らの事を完全に舐めていた!」

 

「メカトピアのロボット、恐るべし!」

 

「言ってる場合か!」

 

 避難してきた船長のハジメ達はどこか嬉しそうにロケットパンチに慄くが、この場を仕切っている隊長はそれなりに責任感を持って行動しているので、同じコピーであってもあまりふざける訳にはいかなかった。

 護衛艦のうちの一隻が、ダメージを受けていたとはいえ完全に撃墜されたのだ。

 あまり気持ちに余裕を持ってはいられなかった。

 

「各艦の状況は!」

 

「二番艦は完全に沈黙。 四番艦はバリアの出力を落とした以外は異常ありません」

 

「バリアを搭載したアークエンジェルが撃沈するなんて…」

 

「ちょっと侮りすぎたかな」

 

 機神ガインという巨大ロボットにそれなりに警戒していた隊長とハジメだが、ただデカいだけと実際にはそれほど脅威に感じてはいなかった。

 戦場では秘密道具をほとんど使わず、用意した戦艦とモビルソルジャー達だけで対応してきたから、そこに侮りがあったことを隊長は否定できない。

 一切に油断なく戦っていれば、巨大ロボットであっても二番艦を落とされることなく完勝出来る戦力だと思っていた。

 ならば二番艦を落とされたのは自身の失敗だと、隊長は反省していた。

 

 後悔ばかりしてはいられない。

 隊長がショックを受けている間に、二番艦をスクラップにしたロケットパンチに動きがあった。

 

「発射された敵ロボット腕部飛翔。 自立した飛行機能が搭載されているようです」

 

「なるほど。 自力で飛んでパンチを回収するのか」

 

「ロケットパンチなのにロケット噴射口がないのが不満だが、自在に飛ぶのなら再接続も楽だろうな」

 

 飛行機能を持つメカトピア兵にはモビルスーツをモデルにしているモビルソルジャーのように、跳躍及び飛行の為の背部にスラスターの類を持っていない。

 同一の飛行機能が搭載されているだろうその上腕部にも燃焼式の推進器は付いておらず、宙を360度どの方向へも自在に飛べるようだった。

 破壊した二番艦から離れ、撃った時ほどの速度はないが本体の元へ戻っていく。

 前腕部はローエングリンを受けて装甲を溶かしてはいるが、二番艦に撃ち込まれても機能に問題はないようで、かなり頑丈に出来ているらしい。

 再接続されれば再びロケットパンチを撃つことも可能だろう。

 

「二番艦を破壊されたんだぞ。 気の抜けた会話はやめてくれ」

 

「ああ、悪い隊長」

 

「あれほど巨大なロボットでロケットパンチが飛んでくるなんて、まるでアニメみたいだからな」

 

「ロケットパンチは嫌いじゃないけど、腕が完全に飛んでいく分離式は非効率に見えるんだよな。

 だからあまり作ろうと思わないんだよな、嫌いじゃないけど」

 

 隊長ではないハジメ達は責任感が少し緩いせいか、いつもの会議のような脱線しやすい気の抜けた会話になってしまう。

 ハジメが複数集まるとこうなってしまうのはなぜだろう。

 

「…悪いが邪魔にならないように船長役達は黙っていてくれ」

 

「すまん、つい口が勝手に」×9

 

「………」

 

 自身の悪癖なのはわかっているので、隊長も複雑な気持ちで納得するしかない。

 二番艦を落とされて少し不機嫌な隊長は、コピーの自分に当たっても滑稽なだけだと気持ちを切り替える。

 

「これ以上は戦いを長引かせない。

 秘密道具でさっさとケリを着ける」

 

 これまで戦場では使ってこなかったひみつ道具の使用解禁に、全員が隊長を見直す。

 

「いいのか、隊長」

 

「あの巨大ロボットに護衛艦を落とせる力があるのは事実だが、実際に落とされたのは僕の油断からだ。

 あれを含めて僕らの戦力は過剰なくらいあったのに、護衛艦を一隻落とされたんじゃ既に負けたようなもの。

 なら無駄に接戦を続ける必要はもうない」

 

 これまでメカトピアの戦場で用いてきたのは、モビルソルジャーとアークエンジェル型の護衛艦とハジメ達の乗る旗艦だけだ。

 それだけで戦争に勝てるように用意したハジメ達の自信作の戦力である。

 その活躍に期待し、ヤドリというイレギュラーもあったが期待通りの活躍を見せたが、2番艦を落とされたことでケチが付いてしまったように隊長は感じてしまった。

 

「ヤドリもあの機神ガインを操っているヤドリ天帝とその取り巻きだけで、数はほとんど残っていない。

 操られて秘密道具を奪われることはないだろう」

 

 それが一番のヤドリへの警戒要素だったが、ほぼ殲滅したことで警戒の必要性もなくなった。

 隊長は支給された四次元ポーチに手を差し込み、目的の秘密道具を取り出す。

 

「ドラ丸、これで終わらせてくれ」

 

「承知したでござる」

 

 

 

 秘密道具の使用を決意した隊長は、他の者にも指示を出し迅速に動かした。

 旗艦はこれまで通り護衛艦に守られ安全地帯に。 護衛艦は撃沈した二番艦を除いて疲弊している一・三番艦も含めてハジメ達の乗る旗艦の盾として、攻撃を行なわずにバリアの守りに集中するように指示した。

 陣形を整えるために護衛艦が動き出したところで、ロケットパンチを放った前腕部を再接続し機神ガインは元通りに戻った。

 

 

『守りを固める気か? 無駄な事を。 主砲のエネルギーも間もなく溜まる。

 どんなに強力なバリアでも、この巨体の前には耐えきるのは不可能だ。

 直接叩き破り、次の主砲で消し去ってくれる』

 

 

 今度はその巨体でパンチをハジメ達に直接叩き込むべく、浮かんだ状態から加速して前進を開始する。

 両手を握り締めて巨大な拳を作り、構えながら迫ってくる姿は相応に迫力がある。

 ヤドリ天帝の言う通り、その巨体のパンチを何度も受ければ、流石に護衛艦のバリアも大きな負荷がかかり長くは持たないだろう。

 だがそれを甘んじて受けるはずもなく、隊長の指示を受けた者達が守りに入った旗艦から飛び出してきて、迫りくる機神ガインに向かっていく。

 それを機神ガインに乗るヤドリ天帝も認識した。

 

 

『地球の指揮官のロボット共か! だが無駄だ! いかに強力なロボットであっての機神ガインには無力!

 小さいロボット如きではこのバリアを貫けん。 大人しく叩き潰されるがいい!!』

 

 

 ローエングリンによって一度は貫かれ大きな負荷がかかったバリアの発生装置は壊れておらず、エネルギーの供給によりバリアは復活していた。

 ファースト達の強化されたビームライフル、でもバリアを破る事は容易ではないだろう。

 ウイングのバスターライフルであればバリアを貫いて十分なダメージを与えられるだろうが、原作に極力沿わせて作られているので最大出力で三連射しかできない。

 機神ガインを倒しきれるかは微妙なところだ。

 しかしウイングはこの場で攻撃するつもりはなく、本命は彼らの中心にいるドラ丸だ。

 

 旗艦からはその場にいた主力機全機とドラ丸、そしてゴッドガンダムINハジメとノーベルガンダムINリルルが出てきた。

 主力機達だけでドラ丸のサポートは十分だったが、最後の戦いに二人も直接参戦した。

 

 ドラ丸を中心に六角形の各頂点に一人ずつ配置するように、7人は隊列を組んで機神ガインを恐れることなくその進路に立ち塞がった。

 このまま接近されればまとめてその巨大な拳で叩き潰されるだろうが、主力機+2の六人は中心に飛ぶドラ丸の方を向いている。

 唯一ドラ丸だけがタケコプターで飛んでいるのだが、その事に少しだけ疎外感を感じていたりする。

 ビジュアル的にドラ丸にはタケコプターで飛んでほしかったハジメの我儘だ。

 

「ドラ丸、準備はいいな」

 

「無論いつでも! 敵は目前でござるからな」

 

「全員同時にいくぞ」

 

 ハジメが息を合わせるように全員に呼びかける。

 ()人の手には古めかしい懐中電灯型の秘密道具が握られていた。

 ドラ丸のみはもう片方の手に赤い布も握っている。

 敵は目前ではあるがハジメは落ち着いて全員に合図をする。

 

「3! 2! 1!」

 

「「「「「「ビッグライト!」」」」」」

 

 声を合わせ囲っている六人は、一斉にドラ丸に向かってビックライトの光を当てた。

 光を受けたドラ丸はビッグライトの効果と一度に受けた光の量のせいか、通常より早い速度で大きくなっていく。

 

『なっ!?』

 

 立ち塞がったロボットの一人が突然大きくなりだしたことに、ヤドリ天帝も驚いて警戒し機神ガインの前進を止めてしまう。

 その間もドラ丸はビッグライトの光を受け続けて、巨大化が進んでいく。

 

 ビッグライトの効果は知っての通りだが、大きくするには光を対象の体表面積に一定以上当てなければならない。

 実験としてハジメは試してみたのだが、人間の腕だけに当てたからと言って腕だけが大きくなることはなく、光が当たらない部分があってもそこだけ小さいままという事はない。

 光を対象の体表面積の半分以上に当てれば、対象の全身が均等に大きくなると分かった。

 

 一定以上大きくなると光を当てる必要のある面積が広くなるので、一個のビッグライトでは大きくさせる事に限界があった。

 だから同時にビッグライトを複数使えば光の当たる面を増やすことが出来、一個での限界を超えて大きくすることが出来た。

 

 周りの六人はビッグライトの光をドラ丸に当て続け、目の前に相対するように機神ガインと同等の大きさまで巨大化させた。

 ドラ丸が巨大化しきれば役目は終わりで、戦いに巻き込まれないように距離を取った。

 

 

『こ、こんなバカな事があってたまるかぁ!!』

 

 

 敵が突然巨大化して同等サイズの相手となったことにヤドリ天帝は落ち着いてはいられず、発射するだけのエネルギーが溜まっていた主砲を撃つことを選んだ。

 主砲のある胸部を突き出すように構えて、砲身に光が集まっていく。

 ドラ丸は慌てることなく、手に持っていたことで共に巨大化した秘密道具を構える。

 

 

『そんなもので防げるか!!』

 

 

 気にせずヤドリ天帝は主砲を発射してドラ丸を倒そうとするが、そんなものと呼んだ秘密道具がただの道具なはずがない。

 

 

「【ヒラリマント】でござる!」

 

 

 正面にかざした赤い布のヒラリマントに主砲のエネルギーが当たると、その流れが斜め上に進路を変えて何もない空へ向かっていく。

 主砲のエネルギーはドラ丸に何の影響も与えることなく、完全に受け流されていた。

 

 

『バカな!? なぜそんな布切れで!』

 

 

 照射される主砲のエネルギーも長続きはしなかった。

 最初の主砲よりもエネルギーのチャージ時間が少なく、バリアの消耗にもエネルギーを取られていたからだ。

 高出力の動力炉でもエネルギーの供給が追い付いていなかった。

 溜められたエネルギーも尽きて主砲の照射が止まり、機神ガインはヤドリ天帝の心境を語るように呆然としたように動きを止めている。

 止まっている相手を待つことなくヒラリマントの構えを解いて、事前に持っていたもう一つの秘密道具を即座に向ける。

 

 

「【スモールライト】でござる!」

 

 

 同じく巨大化したスモールライトより強烈な光が機神ガインに照射された。

 光線兵器かとヤドリ天帝はバリアの出力を上げようとするが、秘密道具の力はそんな生易しい物ではない。

 バリアがあっても関係はなく、スモールライトの光は透過して機神ガインの巨体を照らした。

 

 ビッグライトを複数使用する必要のあったドラ丸の巨大化とは反対に、スモールライト自体がドラ丸と共に巨大化する事でその効果範囲も大きくなっていた。

 巨大なスモールライトの光は機神ガインの巨体にも十分に当たり、先ほどのドラ丸と真逆に小さくなり始めた。

 通常のスモールライトでは機神ガインを照らしきれなかったので、小さくするにはこうする必要があったのだ。

 

『なんだこれはぁ!?』

 

 機神ガインはメカトピアの通常ロボットと同等サイズまで小さくなり、ドラ丸はそこでスモールライトの照射を止めた。

 

「ドラ丸、止めだ」

 

 

「少々不憫でござるが、承知でござる」

 

 

 ハジメの指示にヒラリマントとスモールライトを手放し、ドラ丸は丸い手を開けて小さくなった機神ガインの左右に持っていく。

 

『や、やめろぉ!!』

 

 その動作に、機神ガインの中にいて同様に小さいのが更に小さくなっているだろうヤドリ天帝はなにをされるのかわかって慌てて逃げようとする。

 飛んで逃げようとするが、元々巨大だった分飛行速度も機動力も通常のロボのサイズで考えると大したことはない。

 実際に通常ロボットサイズにされてしまっては、気球のような速度でしか飛べなかった。

 そんな速度では逃げきる事など出来ず、左右をドラ丸の両手に挟まれてしまう。

 そして…

 

 

「御免」

 

 

――バァン!!――

 

 白い丸い手を叩き合わせ、蚊を潰すように機神ガインをぺしゃんこにした。

 こうしてメカトピアの最後の戦いは終わった。

 

 

 

 

 




 というわけでスモールライトで決着を着けました。
 この決着手段は当初の予定通りだったんですが、最後の巨大ロボを何とか活躍させようと思ったら、ハジメ達の戦力から手抜きではないかと言われてしまいました。
 空気を読まずに何もさせず秘密道具で倒してしまうのもありといえばありでしたが、一方的な展開過ぎると物語の躍動感がなくなる気がしましたので、少しだけ巨体の特徴を生かした暴れ方をしてもらいました。

 『こういう時こんな秘密道具を使えばいいのに』という感想は、自分も昔からドラえもんの映画を見ていると時々感じてしまう事なんですが、秘密道具を自由に使い過ぎると物語として成り立たなくて詰まらなくなってしまうんですよね。
 『最初からこうしていればいい』という最適解を実行してしまうと、そもそも事件が起こらないです。
 ですのでいわゆる舐めプになってしまうのですが、秘密道具を全力使用しないといけない相手となると同じ秘密道具使いとなり、先に使ったもの勝ちの展開になると思います。

 強力な秘密道具を調べてみると、四次元ポケットはやはり万能過ぎるんです。
 なんでも直ぐ問題が解決してしまっていたら、物語としては詰まらないだけです。
 TV版みたいに制限された状況で特定の道具を使ってのみ問題を解決するのが面白いんだ思います。
 そういう意味では映画版の道具を自由に使えるという状況は、『これを使えばいいのに』という状況ばかりでもどかしく感じる事が多いと思います。
 この作品もそんなもどかしさを感じられたのなら、ドラえもんの映画の条件を満たせたかと思います。

 鉄人兵団は次でおそらく最後となります。
 読んで頂きありがとうございます

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