ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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 感想、及び誤字報告ありがとうございます。

 今回で鉄人兵団編、完結となります。

 伝えたい事を書こうと思って頭を捻っていたら、いつもの二倍の文章量になって更新が遅れてしまいました。
 戦闘はなく会話回となり喋らせたいセリフに繋げるために、いささか駄文が多いかもしれません。

 今回までお読みいただきありがとうございました。




真・鉄人兵団26

 

 

 

 

 

 ヤドリ天帝は機神ガインの中にいたことで、巨大化したドラ丸に共に叩き潰されたが、隊長はある可能性を考えて○×占いで確認をした。

 その結果、ヤドリ天帝はまだ生きており、潰れた機神ガインの中で身動きが取れない状態にあるらしい。

 ぺしゃんこに潰れているが元々機神ガインは大きく、ヤドリと乗る円盤は非常に小さい。

 潰れてもわずかな隙間があれば生き残ってるのではないかと隊長は考え、その勘は当たっていた。

 

 ヤドリの全滅確認をしなければいけなかったので天帝たちの生存確認をしたが、存外にしぶとかった。

 ヤドリ天帝たちはただでさえ小さいのに、現在は微生物サイズまで小さくなっている。

 ここまで小さくなってしまえば直接攻撃することが出来ず、逆に倒すのが難しいくらいだ。

 微生物サイズで逃げられたら捕らえる事などとても不可能で、ヤドリ達に止めを刺すには密閉されている機神から出さないようにしなければならなかった。

 

「溶鉱炉にでも叩き落せばいいんじゃないか?」

 

「確かにまとめて焼き尽くせば、中のヤドリ達も死ぬだろうしな」

 

「問題はどこに溶鉱炉なんてあるかだ」

 

「地球に持っていくのも危険だし、この場で処分したいんだよな」

 

「近くの恒星に捨ててしまうか?」

 

「それもちょっと遠いな。 活火山を探してマグマの中に叩き落すとか」

 

「それが一番近いかな」

 

 工作員だったハジメに隊長、そして各船長のハジメ達と相談して、ヤドリ達をきっちり始末をつける手段を考えていた。

 ちなみに潰れた機神ガインは中のヤドリ達を逃がさないように、巨大化したドラ丸が未だに外で両手でしっかり押さえている状態だ。

 相手が小さいというのは制しやすいが、それが過ぎれば扱いにくい。

 

「あの船の主砲で焼き払うのはどうかしら」

 

 相談するハジメ達の様子を窺っていたリルルが提案をする。

 

「「「それだ!」」」×多数

 

「きゃっ!」

 

 一斉にハジメ達が提案を支持したことで、リルルも驚いて声を上げてしまう。

 

 リルルの提案により、機神ガインは中にいるヤドリ達ごとローエングリンで一気に焼き払った。

 小さくなった機神ガインであれば、陽電子砲に焼かれて蒸発するのも一瞬だった。

 再度隊長が○×占いで生き残りがいないか調べ、メカトピアに隠れ潜んでいたヤドリ達が全滅したことを確認した。

 

 宇宙の何処かには別のヤドリが生存しているようだが、接触する事がないのであればハジメ達もいちいち探して殺すつもりはなかった。

 メカトピアや地球の周辺にはいない事は確認したので、自分たちの脅威にはならないと判断した。

 

 ヤドリも全滅し、オーロウが率いて王制を復活させようとしていた金族も、操られて戦いの中で全滅していた。

 戦いに関わらずに逃れ生き残った者もいたが、残りわずかであり金族は事実上滅んだ。

 休戦したメカトピア軍と再び戦いが始まる事はなく、戦争は終結となった。

 

 

 

 

 

 戦いが終わり、残ったのは始末だ。

 今回の戦争の発端となったのは、金族とその裏で糸を引いていたヤドリであることは、この戦いの中で明らかになっている。

 その元凶たちはこの戦いで倒されてしまったので、残った者達が後始末をしなければならない。

 事実上敗戦しているのはメカトピアなので、ハジメ達が特に失うモノは何もなく、勝った側として要求を突きつけるだけだ。

 

 今後を決める会談が地球側の代表とメカトピア側の代表で行なわれた。

 地球側の代表は当然ハジメ。 一応工作員として動いていたハジメが本来の姿で表に出て、ドラ丸を筆頭にした主力機が護衛として後ろの控えている。

 メカトピア側の代表はアシミーが引き受ける事となった。

 

 ジャックバグが発端となった金族とヤドリの乱で、議員の権限を乱用し無理矢理指揮を執っていたことでアシミー本人も解任される覚悟だったがそうはならなかった。

 直接の参戦を多くの兵士が見ており嘗ての功績と相まって英雄の名が再燃しており、オーロウを筆頭にした金族がいなくなったことで議会も混乱しており、今辞めれば更なる混乱になると容易に解任に出来なかったのだ。

 

「といった状況だ」

 

「指揮を纏めるのに無理なさっていたみたいですからね。

 責任を取らされなくてよかったじゃないですか」

 

「代わりにいろいろ仕事を押し付けられているよ。

 君らとの戦闘を含めた戦いの後始末もあるが、オーロウが死んだことで議会もだいぶ混乱している。

 お陰で次の議長の席を押し付けられそうだ」

 

 現在は事実上アシミーが臨時のトップとなって、混乱の収拾の指揮を執っている。

 再び名声を得てしまったアシミーには、他の議員からは国民の支持という意味では二歩も三歩も有利だ

 

「それはおめでとうございますと言っておくべきですか」

 

「勘弁してほしい。 私は議長どころか議員にすら向いていないんだ。

 今回の戦いでよくわかったよ。

 たとえ危険でも戦場で暴れまわる方が俺には性に合ってた」

 

「ですが、それがわかっていて国の為に議員になったのでは?

 王と違って議員はやめようと思えばやめれる役職です。

 アシミーさんはやめないのでしょう?」

 

 国の為に動いていたアシミーをハジメは知っている。

 それならば向いていないと言ってもやめるとはハジメも思わなかった。

 

「…まあ、その通りだ。 こんな俺にどこまで出来るか分からないが、逃げる事は出来ん。

 シルビア様を頼って、引き摺り出して死なせてしまったんだ。

 俺も死ぬまで国の為に戦うつもりだ」

 

 アシミーはシルビアの名前を出し、その負い目から自分の命も国の為に最後まで使うと心に決めていた。

 それがシルビアへの贖罪であり、自身の責務だと思っていた。

 

 ハジメもシルビアの名前を出されると、神妙な顔つきになって彼女の事を思い返す。

 僅かな付き合いだったが、ハジメにとってシルビアはとても尊敬する人だった。

 気持ちにキリは付いているが、彼女の死を許してしまったことにハジメは後悔がある

 秘密道具を貸して彼女を守っても良かったし、壊れた彼女をタイムふろしきで治す事も出来た。

 

 しかしそれは全て蛇足であり、例えやり直す事が出来るからと言ってやり直していい訳じゃない。

 彼女の生き様は尊い物だった。 それをハジメは自身の都合で、こうしていれば生きていたとかタイムふろしきを使えば取り返しが付くとか、そんなことはシルビアへの冒涜だと思い出来なかった。

 だから後悔だけが残る。 この辛い思いすらシルビアにもらった尊い物だと、ハジメは決して目を逸らす事もなかったことにもしたくなかった。

 

 メカトピアとの戦争もヤドリとの戦いも、シルビアに教わったものに比べれば全てが霞む。

 ハジメは生まれて初めて尊い出会いというものを実感していた。

 

「…シルビアさんには僕もお世話になりました。

 メカトピアには僕は迷惑をかけた側ですが、あの人に会えたことがこの星に来て一番の価値だと思っています。

 出来れば僕もあの人に報いて何かしたいですが、そういうわけにもいきませんからね」

 

「…すまないが、それは流石にな。

 今の君らを公に歩かせれば余計な混乱を生む」

 

 戦争は終わったがハジメ達地球側は先に攻撃をされたとしても、メカトピアに最も脅威を与えた敵側だ。

 ジャックバグの騒動で休戦後共闘しているが、メカトピアのロボット達にとってハジメ達は敵であることに変わりない。

 ピリカの様に戦後復興に協力しても、どこかで衝突を起こして関係をこじらせる可能性の方が高い。

 

「僕らのやるべきことは果たしました。

 要求した事を守り通してくれれば、僕らから再びメカトピアに干渉する事はありません。

 しっかり周知してください」

 

「それはもちろんだ。

 しかし、本当にあれだけでいいのか?」

 

「何かを要求しようにも、欲しい物がありませんからね。

 正式な外交官でも政治家でもないのに、国家間交渉を地球の代表気取りでやる気はありません」

 

 ハジメ達が要求したことは当初から言っていた通り、地球への不可侵だ。

 ただしそこへ期限を決めて、500年間の地球への干渉する事をメカトピアに禁じさせた。

 

 現代のメカトピアと地球では、武力も科学力も圧倒的に差がありすぎる。

 それ故に戦争が起こった訳だが、ハジメの独断で永遠にメカトピアと地球が関わりを持つことを禁じる訳にはいかなかった。

 はるか未来に地球が宇宙へ進出した時代に至っても、その約束が正式な地球との外交の妨げになるのはまずいと考えた。

 故に五百年、メカトピアの科学力に追いつくために、地球が発展するための時間の猶予とした。

 

 その時までに発展し切らず、メカトピアが改めて戦争を仕掛けて来るなら、それもまた仕方ないだろうとハジメは考えた。

 宇宙には文明がたくさんあるのは分かってるのだ。 銀河漂流船団の原点の様に滅んでしまった星もある。

 今はともかく500年後の地球の面倒までは、ハジメもみたいとは思わない。

 時間の猶予を作っただけでも十分だろうと、500年後の事はその時の地球人に任せる事にした。

 

「しかし君たちが唯の一組織で地球を守っており、メカトピアを圧倒したとは…」

 

「地球の勢力図はいろいろ複雑なんですよ。

 表向きにはメカトピアよりも科学力が劣っていますが、一部は別の星と交流を持っていたり、飛びぬけた科学力を持っていたりします。

 僕らはその両方に当たるわけですけど」

 

「君ら以外にもそんな者達が地球にいるというわけか。

 やはり調査不足だったわけか」

 

「すべて表に出ていない存在なので、地球本来の科学力は調査通りですよ。

 僕らが止めなければメカトピアの、オーロウやヤドリの計画通りになっていたでしょうね」

 

「そういう意味ではやはり我々は君達に助けられたことになるな。

 だがなぜ君達は、その地球の表に出ないのだ?

 君たちが俺達との戦いを示せば、高く評価されるだろう」

 

「地球の文化的問題や抱えている事情もありますが、一番の理由は大きな(しがらみ)をもつのが面倒だって事ですよ。

 自分の責任くらいは自分で持ちますけど、国なんて大きなものは僕には背負えません。

 まあ政治家なんてややこしいだけですから、成りたいとは思いませんけど」

 

「気持ちはわかるが、その政治家の前で言わないでくれるか」

 

 アシミーも信条的にはハジメの考え寄りだが、メカトピアという国を愛している。

 国のために努めるつもりだが、ハジメの様に言い切るのが何処かうらやましそうだ。

 

「締約した内容をメカトピア中に公表して、それを国民全員が聞き届けたのを確認したら僕らは直ぐにでも地球に戻ります。

 後はアシミーさんの頑張りで、今後五百年この約束を守り通させるだけです」

 

「500年は俺も生き続けるのは無理だが、多くの国民が君たちの力を知った。

 この戦いを後世に伝え、守り通すように皆は言うだろう。

 俺の死後は俺達の意志を継いだ者達がメカトピアの平和を守ってくれる」

 

 メカトピアのロボットの寿命は電子頭脳の寿命だ。

 状態によっては500年間稼働し続けるのも不可能ではないかもしれないが、過酷な経験を積んでいるアシミーはそれだけ生きるのは無理だと考えた。

 だがメカトピアのロボットは形式として子孫を残すことが出来、アシミーもまたいずれ自身の思いを託す日が来るだろうと思った。

 その時メカトピアがどのようにあるかは、死んでいる自身にはわからないが平和であってほしいとアシミーは願った。

 

「後を誰かに託す。 それも素敵な事ですね。

 シルビアさんが亡くなった時も、誰か後を任せられると言ったあの人は嬉しそうでした」

 

「そうか、ならば俺も頑張らなければな」

 

 すべての映画の事件が終われば、ハジメはタイムふろしきを使って若い姿のまま長生きするつもりだった。

 そんな自分が誰かに自身の何かを託す日が来るとは思えないが、そんな風に笑える彼らには憧憬をハジメは感じた。

 

 

 

 アシミーとハジメが交わした約束は、つつがなくメカトピアの全国民に伝えられた。

 地球との戦いにメカトピア軍が劣勢だったのはおおよそ知られており、最後の戦いでドラ丸が巨大化して機神ガインを微小化したのを多くのロボット達が目撃していた。

 あの巨体故に隠し通す事など無理な話だったが、そのインパクトの大きさからハジメとの約束を破って再び開戦する事を恐れた。

 半ば予想はしていた結果ではあったが、国民に周知されたのを確認してハジメはまもなく地球に帰る。

 その最後に一番の付き合いとなったリルルと会う事になった。

 

「時間を作ってくれてありがとう。

 最後にハジメさんにお礼を言っておきたかったから。

 それとこれを返さないといけないと思って」

 

 その手にはノーベルガンダムの兜があり、傍にある箱には外装一式が整理して詰められている。

 今のリルルはロボットには見えない人間の少女の姿をさらしている。

 ノーベルガンダムの姿にだいぶ慣れていたから、久しぶりのリルルの姿にハジメは新鮮さを感じてしまった。

 

「僕もリルルには最後の挨拶をしておきたいと思っていたから気にしないで。

 …色々思うところもあるし、立場的にこんなこと言うのは変なんだけど、君と一緒に行動した時間は退屈しなかった。

 お互いに価値観が違うし噛み合わないことも多々あったけど、それでも楽しい物があったと思っている」

 

 リルルに対する思い入れや敵対関係である後ろめたさもあったが、それらをひっくるめて彼女と共に行動した時間を、ハジメは素直に楽しかったと言いたかった。

 偶像のリルルではなくちゃんとした本人と正面から向き合い、お互いの主張や思いなどを語り合って少しずつ理解し合えた。

 どんなに取り繕っても敵同士であることに変わりなかったが、リルルと仲良くなれたとハジメは思えた。

 

「だから僕もお礼を言っておきたい。 あの時、僕の手を取ってくれてありがとう」

 

「それなら私もこういうしかないわ。 あの時、私達に手を差し伸べてくれてありがとう」

 

 リルルの返しにお互いに笑い合い、自然と握手を交わした。

 お互いの為に協力すると交わした最初の契約の握手に対し、今度はお互いの感謝を交わした別れの握手。

 二人とも感慨深い面持ちで、これで終わったんだと最後の対話であることを惜しんだ。

 

「そのノーベルガンダムの外装はリルルにあげるよ。

 結構気に入っていたみたいだし、今回の記念だ」

 

「え! でもいいの? これってあなた達の指揮官と同じ性能の装甲なんでしょう。

 残してしまってはメカトピアに技術を明かす事になるわ」

 

「確かに主力機達はそれなりに強いけど、切り札というわけじゃない。

 それに外装だけだから、内蔵機能を明かすわけじゃないし大したことじゃないよ」

 

「私達にとってはこの頑丈な装甲だけでも十分すごい物なのよ」

 

「それだけ解析されたところで僕らがどうにかなるわけじゃないさ。

 それを使って新たにロボットを組むのも、なんだかリルルがいるような感じになっちゃうと思うから、再利用しにくいんだ。

 処分するのももったいないし、リルルがもらってくれない?」

 

 リルルが着た後のノーベルガンダムというフレーズに、ハジメは精神的に扱いづらいと素直に思った。

 ただの装甲と鎧のような物なのでナニをドウ扱えというのだが、女性とみているリルルの着た物を再利用するのは気が引けたのだ。

 そんなことを気にしているとは、ハジメとしては非常に言いづらい。

 

「わかった、これは記念にもらっておくわ。

 たぶん研究されることになると思うけど、あなたが私に渡したものだと言えば所有権は主張できると思う」

 

「どうするかはリルルの好きにしていいよ。

 ところでリルルは地球に潜入するために、人間の姿に偽装する改造を受けたんだったよね」

 

「ええ、あまり役に立ったとは言い難いけど」

 

 地球の都市を見回ったときに役に立ったくらいで、メカトピアでは逆にその姿を隠さねばならなかったくらいだ。

 意味がなかったと言われても仕方がない。

 

「メカトピアで暮らしていくならその姿はおかしいだろうし、普通のロボットの姿に再度改造する事になるんだろ」

 

「ええ、人間の姿を真似る為とはいえ、この体の体表はメカトピアのロボットにとって脆過ぎるわ。

 人間はこれ以上に脆いんだから、よく壊れずに何十年も生きられると感心するわね」

 

 映画でもリルルが負傷した時に、内部構造を顕わにした破れた外被は非常に薄かった。

 通常のロボットの強度を考えたら、内部構造に布でも被せているだけみたいなもの。

 ロボットなら脆弱過ぎると言い切るのはおかしくない。

 

「人間ならそれが当たり前だからね。

 ポンポン体の部品を簡単に取り換えられる方が、生き物からしたら可笑しいと思うよ。

 それをお互いに理解はしても共感するのは難しいだろうね。

 僕が帰った後になるから見る事は無いのだろうけど、リルルのその姿が無くなってしまうのは少し残念に思うよ」

 

「どうしてかしら?」

 

「人間の僕から見たら、その姿はかわいい女の子だからね。

 元の生活に戻るためとはいえ、リルルがその姿でなくなってしまうのを残念に思うのは可笑しくないだろ」

 

「そ、そうだったの…」

 

 映画の時から美少女の印象が変わらないリルルの姿が、ビフォーアフターでガッチンゴッチンのメカメカしい女性ロボットになってしまうのを想像するだけで、ハジメはとても残念な気持ちになる。

 ノーベルガンダムの外装を着ていた時は?

 それはいい、中身がリルルのままだったのだから。

 

「モデルとなったのはランダムに収集された地球の女性のデータだったのだけれど、人間にとっては優れた外観だったのね」

 

「人間の姿になる前のリルルがどんな姿だったのか知らないけれど、その姿じゃなかったら対話の声を掛けなかったかもしれないね」

 

「人間もロボットも、男って上っ面の外見ばっかりで判断するのね」

 

 いささか呆れた様子でリルルはハジメを白い目で見る。

 ハジメも冗談で言ったことでありそう言った返しが来るとは思っていたが、リルルのその目は思った以上に堪えていたりする。

 

「ハハハハ…メカトピアのロボットもそこまで外見を意識するとは思わなかったよ。

 リルルはどうなんだ? 僕の乗ってたゴッドガンダムの外見なんかが人気があるって言ってたけど」

 

 街中を散策していた時も、二人の姿は別の意味で目立っていた。

 

「…結構イケてると思うわ」

 

「………ああ、うん、そう」

 

 少し恥ずかしそうに言うリルルは満更でもない様子といった感じなのだが、ハジメとしてはゴッドガンダムの容姿についてそのような反応で語られるのは珍妙な気分にしかならなかった。

 地球とメカトピアの異文化交流は難しいかもしれない。

 

「そんなことはどうでもいいわ。 重要なのは中身だもの。

 少なくともメカトピアのロボットも地球の人間も、中身はそんなに変わらないってハジメさんに出会って分かった。

 シルビア様が言った様に、お互いを知ろうとすれば解り合えない事は無い。

 ロボット同士でも人間同士でも争い合う事はあるけど、ロボットと人間でもお互いに歩み寄れば話がちゃんとできると証明できた。

 これはとても素敵な事だと思う。 ハジメさんはそうは思わない?」

 

「そうだね。 メカトピアとは戦ったけど、リルルにシルビアさん、アシミーさんとは対話することが出来た。

 後は殆どの人に恐れられただろうけど、3人だけでも対話出来た事には意味があったと思う」

 

「だからこそハジメさんに聞いておきたいの。

 ハジメさんはメカトピアに地球に干渉する事を禁じたわ。

 だけどちゃんと話し合う事で、ロボットと人間でも分かり合えることは証明できた。

 関わり合いを禁じないで、メカトピアと地球がちゃんと対話できる道を選ぶことは出来ないかしら?」

 

 リルルはメカトピアが地球に干渉することなく、繋がりを断ってしまう事に反対の様だった。

 ハジメと分かり合えたように、地球とも同じように出来ないかと尋ねる

 

「今の時代では難しい、いや無理だ。 対話する事は決しては無理ではないだろうけど、様々な問題で必ずどこかで拗れる。

 分かり合う事も出来るだろうけど、争い合う事になるのは確実だ。

 今の地球とメカトピアを接触させても絶対ろくなことにならない」

 

 今の地球は科学力的にメカトピアに全く追いついていない。

 文明的に多国家で地球を統一し切れていないのに、メカトピアが直接接触したら拗れに拗れて世界大戦が勃発するかもしれない。

 流石にそれはハジメも止める。

 

「地球はまだ星としていろいろな問題を抱えている。

 今メカトピアに侵略でなくても、接触をされたら大きな混乱になる事は間違いない。

 だからこそメカトピアからの接触を地球がもう少し発展するまで禁じたんだ」

 

「それがハジメさんの考えなのね」

 

「ああ、地球がメカトピアと対話をするにはまだ早すぎる」

 

「ハジメさんがそう言うなら、きっとそうなんでしょうね。

 残念だわ…」

 

 リルルは本当に残念そうに顔を俯かせた。

 

「500年はメカトピアのロボットにとっても長いわ。

 私もきっと電子頭脳の寿命が尽きてる。

 少しだけハジメさんと分かり合えたと思ったのに、これでお別れなんて悲しかったの。

 出来るなら僅かでも繋がりを残せればと思ったのだけれど。

 ごめんなさい、無理を言ってしまったわ」

 

「あーうん…、僕との連絡手段位だったら残してもいいよ」

 

「え?」

 

 とても悲しそうな表情で別れを惜しむリルルに、ハジメは言い辛そうに連絡手段を残す事を提示した。

 その言葉にリルルは目を丸くする。

 

「いいの!? でもどうして?」

 

「僕らは地球の代表でないように、地球の本筋からは外れている。

 地球への干渉を禁じたからと言って、僕らへの干渉を禁じたら約束をちゃんと果たすか確認出来ないじゃないか。

 それに…友人との連絡手段を渋るつもりはないよ」

 

 リルルの事を友人と呼ぶのを、ハジメは少し躊躇いながら気恥ずかし気に言った。

 

「改めて、リルルの事を友人と思ってもいいかな」

 

「…ええ、もちろん。 でなければ、別れを惜しんだりはしない。

 遠い星の人間のお友達。 貴方とまた会える日を楽しみにしてるわ」

 

「ああ、その時はメカトピアの面白いところをまた案内してくれ」

 

「ええ、きっとよ」

 

 もう一度だけリルルと握手を交わし、再会を約束して別れの時を迎えた。

 

 

 

 

 

 宇宙船に乗り込み、ハジメはメカトピアを発った。

 見送りはリルルや代表のアシミーとその護衛だけで、ピリカの時のように国民が見送るという事は無い。

 そういう意味では、いつの日か地球との交流が始まったなら、自身たちの行いが大きな爪痕になって足かせになってしまうだろうとハジメは思った。

 仕方なかったとはいえ、メカトピアをだいぶ荒らしてしまった自覚はハジメにはあった。

 

「友達か…」

 

「期待は少しあったけど、僕がそう呼べる関係になれるとは思わなかったな。

 実際にはメカトピアに大きな被害を与えた側なんだが」

 

「だから僕もリルルに友人と言うのは気が引けたし、認めて貰えたのは嬉しかった」

 

「再会の約束までしちゃったけど、何か考えがあるのか?」

 

 特にもう用の無いメカトピアに関わる事は一切ないだろう。

 別の惑星であるメカトピアは遠いし、リルルに会う為だけに宇宙船を飛ばすというのも夢があるが、非常に手間でもある。

 簡単には会いづらい、遥か彼方の友人だ。

 

「いや、再会を約束したのはその場の勢いで、つい」

 

「だろうなあ」

 

 ハジメは自身が付き合いが良い訳ではないのは分かっている。

 でなければコピーだらけの仲間しかいない訳がない。

 

「けど約束を交わしただけで、きっと十分なんだ。

 たとえ会えなくても友達になれただけで意味がある。

 次に会う時がどんな時になるか分からないが、さも当然のように『久しぶり』とお互いに笑顔で言えるなら」

 

「…なんかお前、映画ののび太みたいだぞ」

 

「少し感傷に浸ってるんだ。 茶化すな」

 

 客観的に見てリルルと素敵な別れが出来たと思ったハジメは、ちょっとだけ物語の主人公気分を味わいたがっていた。

 リルルとの再会の予定を考えるよりも、今この時の喜びを大事にしたかった。

 

「やっぱりリルルと行動するのが当たりだったな。

 隊長として艦隊指揮も面白かったが、工作員の方がかなりドラマチックだったじゃないか」

 

「統合すればどっちも記憶として受け継げるんだから、意味の無い事言うなよ」

 

 コピー達はオリジナルに統合されることで、全ての経験を自身の記憶として継承することが出来る。

 艦隊指揮をした隊長の経験も、リルルと共に過ごした工作員の経験も、一人のハジメの実体験として完全に継承される。

 密度に違いはあっても、自身の経験として実感を持ってオリジナルに受け継がれるのだ。

 今はバラバラでも統合されれば意味の無い事だ。

 

「そうだな。 …なあ、メカトピアには500年の地球への不干渉を約束させた。

 その約束が今から五百年間守られ続けると思うか?」

 

「………」

 

「メカトピアのロボットは地球の人間の在りように良くも悪くも似ている。

 目先に利益がぶら下がっていれば、禁止されていても手を伸ばしてしまう者が必ず一人はいるのが人間だ。

 メカトピアのロボットにもそんな所がきっとある」

 

「だろうな」

 

 オーロウなど、典型的な我欲に押し流されて過ちを犯す典型的な人間像だ。

 そんなロボットが新たに現れるのは不思議でもなんでもない

 

 

「メカトピアには大きな傷を与えて弱らせたが、同時に恨みを買ってしまったと言える。

 僕らの見せた脅威を風化させてしまった頃に、今回の戦いの復讐として約束を破って襲ってくるかもしれない。

 そうしたらどうする」

 

 恐怖を忘れる頃になっても、恨みつらみなどはなかなか忘れないのもまた人間性だ。

 隊長は約束を破られることは不思議ではないという。

 

「僕らが戦う事になるだろうな。

 500年経ったのであれば手を出す事は無いけど、それまでにメカトピアが動けば契約違反として報復するのが僕らの義務だ」

 

「その時はメカトピアも今以上の戦力を揃えているだろうから、今回以上の大きな戦いになるだろうな。

 それも報復戦になる以上、しっかりと攻撃をしなければならないだろうから、今回みたいな手抜きじゃなく徹底的にやる事になる。

 軍相手だけじゃなくて都市部への攻撃も必要になるだろうな」

 

「そんなことになったらリルルが悲しむだろうな」

 

 つい先ほど友達として約束を交わしたハジメとしては、あってほしくない未来だ。

 

「今回の戦いを直接見た世代が生きている内は、おそらく忘れていないだろうから当分は大丈夫だと思う。

 リルルが寿命を迎えるまでは大丈夫かもしれないが、その後はやっぱりわからないな。

 500年は人間なら記録には残っていても、その時感じた事は確実に忘れられているだろうし」

 

「メカトピアのロボットだったらどうなるかは、僕らも分からない」

 

 人間と同じなら忘れて過ちを犯してしまうのはきっと仕方ないが、ロボットなら500年後まで忘れないかどうかはハジメにも予想は付かなかった。

 それを明確に確かめる方法として、隊長は四次元ポーチから道具を取り出す。

 

「○×占い。 使ってみるか?」

 

「ついさっきリルルと良い別れ方をして、メカトピアを出発したばかりなんだけどな」

 

「だけどハッキリさせておかないといけない事だしな。

 500年後まで判断する為に、僕らが生きてまってるなんて真っ平御免だろう」

 

「確かにそれはない」

 

 タイムふろしきで年齢を操作すれば、いくらでも長生き出来る事は解っている。

 メカトピアの為に500年間監視する予定を入れるなど冗談ではない。

 タイムマシンがあるのだから、直接その時代に行くだけだ。

 

「どうするかはまた会議で決めるだろうが、確認くらいは先にやっても問題ないだろ」

 

「そうだな」

 

 隊長はその未来を確認する為に、○×占いを床に設置する。

 

「行くぞ。 メカトピアは将来僕らとの約束を破ってしまうか?」

 

 

――○ ピンポーン――

 

 

 

 

 

 




 以上でメカトピアでの戦いは終わりとなります。
 あえてスッキリしない終わり方で締めたのは、読んでくれた方の想像を掻き立てられその方が面白いと思い、このような形で終わらせました。

 リルルはヒロインとして十分な個性を持っているのですが、ハジメの在りようから恋愛感情を仕立て上げるのは無理があると思い、ドラえもん達のような友人関係を結ぶのが妥当な流れとして、このような別れ方にしました。
 ドラえもん映画のような友達との別れに出来たと思うのですが、再会を約束してお別れが、書いている側として神妙な思いを感じました。

 映画のお話で、友達になったキャラとまた会おうと別れを迎えるのは定番の最後ですが、再会するような映像を全く見ないので、永遠の別れになる気しかしませんでした。
 リルルの好感度がもっとあって恋愛感情まで発展していれば、再会の為にハジメが動くのも不思議ではない気がしますが、友達レベルでは時々連絡を取っていると設定を付け足すのが精々ですね。
 メカトピアとの戦争では期間が短すぎるので恋愛感情まで発展するのは不自然ですし、逆にハジメがリルルに惚れこむのも無理があるなというイメージから、このような関係の結末となりました。
 もっと絡みのあるもお話内の時間があれば、リルルとのロマンスもあったかもしれませんが、自身の執筆力不足で申し訳ありません。

 こういうキャラ立ちになってしまいましたので、今後の続編で登場させるのは可能性が低いです。
 あのリルルがハジメに会う為にやってくる。 ………原作映画のラストシーンを思い出してちょっと書いてみたくなりましたが、ハジメへの入れ込み具合が低いので頑張っても少しお話に絡ませてちょっとだけの登場と死か、今の自分にはイメージしきれません。
 このリルルはハジメとの繋がりは大事にしても、メカトピアの為に生きると思うのでハジメと地球で暮らすという感じがしないのが、レギュラー化の難しい理由ですね。




 というわけで、続編を同時刻に投稿しました!!!


 何年も前に書き溜めしていたのですが、なかなか更新の踏ん切りがつかずに肥やしになっていました。
 書き方がちょっと違ったり、相変わらず誤字が多いと思いますがよろしくお願いします。
 新作として投稿していますので、今作を評価して頂いた方も新たな評価をよろしくお願いします。


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