ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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ちょっと戦争行ってくる(宇宙小戦争)

 

 

 

 

 

「ようこそ地球へ、パピ大統領」

 

 出迎えたのはこの星の住民だった。

 

 僕の名はパピ、ピリカ星の大統領だった。

 ギルモア将軍の反乱により星を脱出することになり、宇宙を彷徨い歩いてたどり着いた惑星。

 この星は僕等よりはるかに体の大きい民族の住む惑星で、目の前に現れた人も見上げるほど大きかった。

 

 だがこの星はピリカとは何の繋がりの無い未知の惑星。

 そんな星で僕を知る者はいる筈もなく、出迎えなどありえなかった。

 既にこの星にまでギルモアの手が回って、僕を捕らえに来たのかと警戒した。

 

「あなたは何者です? なぜこの星の住人が僕の名を知っているのですか?」

 

「その質問にはちゃんと答えようと思いますが場所を変えましょう。

 あなたが来た時のために作った屋敷があるので、そちらへご案内します。

 このままだと話しづらいと思いますので、少々お待ちを…」

 

 彼は小さなカバンの中から懐中電灯のようなものを取り出して自分に光を当てる。

 すると彼の体はどんどん小さくなって僕と同じくらいの大きさになった。

 更に彼は小さなカバンの中に入るとは思えない大きなドアを取り出した。

 こんな不思議な道具はピリカでも見たことがない。

 

 素性は知れないがギルモアの手のものではないと思った。

 奴なら彼のような礼節を弁えた者を用意するはずがない。

 直感ではあるが彼は信じてもいいと思う。

 

「ではついてきてください」

 

「わかりました」

 

 取り出したドアを開けると、その扉の向こうは別の空間に繋がっていた。

 ワープ装置の一種だろうか。 そう考えながらドアを潜っていく彼の後についていく。

 困惑しながらも不安感は不思議と感じなかった。

 

 

 

 

 

 パピ君……いや、大統領なんだからパピさんがいいか。

 彼は10歳らしいがどう呼んだらいいのかちょっと扱いに困る。

 とりあえず名前の後に大統領とつければとりあえずしっくりくるし、このままでいこう。

 

 パピ大統領を連れてきた先はミニチュアサイズの豪邸。

 【インスタントミニチュア製造カメラ】で作ったもので、カメラで写したものと同じ機能を備えたミニチュアを作るひみつ道具だ。

 大きくすればそのまま本物と同じように使う事も出来るモノを生み出す道具である。

 

 今回はパピ大統領の為なのでそのままのサイズで使用しているが、豪邸だけあって使用人がいないと管理出来ない。

 とりあえずパピ大統領がいる間だけしか使う予定はないので、容姿を使用人風に取り繕ったロボットを用意して管理させた。

 

 僕は屋敷の応接室にパピ大統領を案内した。

 部屋ではロボットの使用人が既に茶菓子と紅茶を用意して、迎える準備を終わらせていた。

 

 ちなみにメイドロボットはいない。

 ロボットの使用人は体格は人型でも、顔の造形までは流石に人らしく取り繕っていない。

 完全なロボット顔のメイドなんて見るに堪えないので、執事服でもない安物のスーツで統一させている。

 余裕があったら時間を掛けて完璧なメイドロボを作りたかったが、作り出したらたぶん妥協を許さないくらいに力を入れすぎるだろうと、断腸の思いで会議で却下することになった。

 

 茶菓子が用意してある机の前にお互い座ってから話を始める。

 

「改めてようこそ地球へ。

 僕の名前は中野ハジメ。 所属とか役職なんて名乗れるものはないが、この星で起こるいくつかの問題に対処しています。

 パピ大統領の保護もその対処の一つだと思ってください」

 

「ご存知と思いますが僕の名前はパピ。

 ピリカ星の大統領をしていましたが、今はただの逃亡者です。

 公式的な訪問ではないので、僕の事はただパピと呼んでください」

 

「では………パピ君と呼んでいいですか?

 あなたが大統領とはいえ10歳という事は知っているので、パピさんという呼び方は僕に合わなくて…」

 

「いえ、それで構いません。 それに慣れてないのでしたら敬語も構いなく」

 

 僕が敬語を話す事を慣れてないのにすぐ気づいた。

 流石10歳でも大統領になるだけの事はある。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて…

 僕がパピ君を保護したのは、ある予知によって君の大体の事を知っていたからなんだ」

 

「予知ですか? 僕の星にも未来を予知する力を持った人はいますが、大した精度ではありません。

 ハジメさんはすごい能力を持っておられるのですね」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけどね」

 

 前世の知識と説明するのはかなりめんどくさいから予知で通しているが、予知能力が実際にあるわけじゃないからな。

 ピリカ星の人は超能力を持ってる人がいる。

 パピ君も劇中では催眠術やなんかの能力を使っている描写があった。

 

「ピリカ星の人は超能力を持ってる人がいるみたいですけど、この星の人間は公では使える人はいないという事になってる。

 僕も予知した未来を知ってるだけで予知能力そのものはないんだ。

 念力くらいなら多少は使えるんだけどね」

 

 僕は念力で茶菓子を浮かせて手を使わず食べる。

 茶菓子をもう一個念力で持ち上げてパピ君に差し出した。

 

 こんな能力を持っているのはひみつ道具【ESP訓練ボックス】で訓練をしたからだ。

 念力、透視、瞬間移動が使えるようになるというひみつ道具なのだが、毎日三時間三年訓練を続けないと一人前にならないという欠点がある。

 かなり忍耐強さが要求される訓練だが、タマゴコピーミラーの影分身理論で思いっきり訓練時間を短縮させることに成功した。

 そこそこ使えるレベルまで習得しているが一人前なのかはわからないので、能力向上の為に訓練をする役割のコピーを作って続けてさせている。

 どこまで能力が伸びるのか楽しみではあるが、どれもひみつ道具で代用が利く能力なので必須じゃないから優先度は低い。

 

「御一つどうぞ。 この星のお菓子です」

 

「いただきます」

 

 パピ君は念力で差し出した茶菓子を受け取って食べる。

 

「あ、おいしい」

 

「口に合ってよかった。

 話を続けるけど、予知によってわかってることはパピ君の大よその事情から敵のこれからの主な動き。

 それからパピ君が星を出た後の味方の状況と、この後でギルモアの支配を終わらせる解決への流れです」

 

「つまりピリカの民をギルモア将軍から救う事が出来るのですか。

 それが出来るのなら是非ともその方法を教えていただきたい。

 今の僕に出来る事はたいしてありませんが、国を救った暁には必ずお礼を約束します」

 

 深々と頭を下げて嘆願するパピ君。

 もともと協力するつもりの僕は是非もない。

 

「もちろん協力させてもらうよ。 そのつもりでパピ君に接触したのだから。

 じゃあ予知からわかる大よその現状と今後の事を説明します。

 予知との違いが無いかも確認するから差異があったら教えてほしい」

 

「ええ、もちろん」

 

 まず現状の確認。

 パピ君はギルモアのクーデターで味方にロケットに乗せられて星を脱出することになった。

 このあたりの描写は大した情報がないので詳しくは知らないが間違っていないことは確認出来た。

 

 続いてピリカ星の予知による現状。

 ギルモアは星を支配下に置いたがパピ君を捜索しており、そう遠くない内にドラコルル長官の率いるピシア(PCIA)の戦闘艦がこの星にやってくること。

 ピリカ星ではギルモアの圧政に対抗するためのレジスタンスや自由同盟が結成されつつあることをパピ君に教えた。

 

「皆が無事なのはうれしいが、やはりドラコルルは僕を追ってきていたか。

 奴は僕を見つけるならどんな卑劣な手段を使ってでも探し出そうとするでしょう。

 このままではこの星の方々にご迷惑をかけてしまう」

 

「ドラコルルという奴がそういう人間なのは情報にありますが、直接的な民衆への被害はそこまで考えなくてもいいと思う。

 僕等とピリカ星の人のサイズ差はそれだけで大きな戦力差だから。

 むしろ下手な騒動を起こして戦闘艦を撃墜されてしまう可能性もあるけど、それはそれで問題なんだ」

 

「確かにこの星の人たちは僕等に比べて大きいですが、そんな生易しい相手ではないのです。

 簡単に倒せるようなやつではないのですが、問題とはどういう?」

 

「僕はこの星では特殊な方で、一般には宇宙への進出技術が発展途上の段階なんだ。

 本来は宇宙人の存在が民衆には明かされてないから、宇宙人の存在が広まるだけで大騒動になる。

 大事(おおごと)になる前に対処するのが僕の役目であり目的でもある」

 

「ではまだワープ航行も確立していないのですか?」

 

「ええ、まだ有人では衛星の月までしか到達してない事になっているんです。

 ただ一部の表社会とは関わらない存在が、例外的に発達した技術を持っている事がこの星にはいくつかあります。

 僕もその一例ですね」

 

 この星の一般の技術レベルは前世とほとんど変わらない。

 ただ地底人とか海底人とか天上人とかが、一部ひみつ道具に匹敵する技術を持ってるもんだから、どこの勢力も宇宙への進出技術があっても不思議ではない。

 天上人に至っては当の昔に宇宙人の受け入れをしてるくらいだし…

 

「なるほど、あなたはこの星では裏社会の人間なんですね」

 

「裏社会ってのはちょっと適切じゃないかな。

 僕は協力者はいるけど基本的には個人レベルで動き回ってるんだ。

 予知を元に対処しているのは全てこの星で公になっていない事件ばかりで、世間どころか国の記録にも残らない。

 表社会とも裏社会とも関わらず、誰にも知られずに事態を鎮静化し解決することが目的だ。

 どの事件も現代社会とは相いれないものばかりだからね」

 

「『どの事件も』という事は、他にも何か予知で動いていることがあるんですか」

 

「まあね。 どの件も厄介で一筋縄ではいかない物ばかりだよ。

 時間があれば話してもいいけど、今はこれからの僕らの動きを話し合おう。

 作戦は既に練ってあるから問題がないか確認してほしい」

 

「わかりました。

 ですがその前に、一つだけ聞いておきたいことがあります。

 なぜ、ハジメさんはその予知を解決しようとするのです?

 あなたが特殊な事情で誰かに頼れないのはわかりましたが、あなたがしなければいけない事なのですか?」

 

「………」

 

 映画の全ての事件はドラえもん達が解決するはずの事件だ。

 ドラえもん達がいない以上、知識を元の対処出来るのは僕だけだ。

 放っておけば世界が大変なことになるのはわかりきっていること。

 

 だけど世界規模の影響の出る事件が起きたとしても、ドラえもんの事件と関わりがないのなら僕は特に手を出さないだろう。

 世界は平和であってほしいと思うが、直接手を出して平和にしようと思うほど僕は博愛主義じゃない。

 ひみつ道具の存在を世間に広めるつもりはないので、目の前で起こった事でもなければ秘密を守る事を優先する。

 

 ドラえもんの事件に関して手を出すのは僕にしか対処できないという理由もある。

 それ以上にドラえもん達の代わりが出来る事が割とうれしいと思っているみたいだ。

 光栄だと思うのとはちょっと違う気がするが、ドラえもん達の代役を出来るのは誇りに思える気がする。

 少なくとも四次元ポケットを持っていることからこれが僕の役目なんだと思うし、めんどくさい事件でもドラえもんの事件には前向きに向き合えるからだ。

 

「僕は面倒臭いことは嫌いだし、世界を左右するような事件に責任を持ちたいと思わない。

 けどこれらの予知に関する事件に関してだけは、自分の手で解決したいと思ってる。

 それが僕の役目だと思ってるし、自慢出来る代役だからかな」

 

「代役?」

 

「そう、代役」

 

 

 

 

 

 それから数日パピ君に僕が計画している作戦を説明し、用意してあるロボットによる無人兵器による戦力をみてもらった。

 実際に戦っているところを見てもらったわけじゃないが、用意した戦力は映画でドラえもん達が改造したラジコン戦車と同じように天才ヘルメットを使って製作している。

 僕等の場合はより戦闘を想定した設計の上に、無人のロボットであることに加えてフエルミラーで量産してある。

 数機の改造ラジコン戦車で軍団に戦いを挑んだドラえもん達よりずっと充実した戦力を用意した。

 

 一個作れば後はフエルミラーで数はいくらでも用意出来たので僕から見たら大したことはないのだが、パピ君を驚かすことが出来たので十分通用する戦力だと思う。

 むしろ用意した戦力が過剰過ぎたのか、少しばかりパピ君を警戒させる結果になってしまった。

 味方になるとはいえ、ピリカ星で別の星の兵器が暴れるのは大統領としてはよろしくない印象らしい。

 数では無くて性能重視の精鋭部隊を作ればよかったか。

 

 そんなちょっとした失敗もあったが、ついにピシアがパピ君を探しに地球にやってきたのを監視していた仲間が確認したと連絡があった。

 彼らには地球の人に逆に見つけられない内にさっさと帰ってもらおうと思っている。

 コピーロボットを使いパピ君に変身させて身代わりして、ワザと捕まらせることで地球からさっさとピリカ星に帰ってもらおうという作戦だ。

 

 すぐ実行に移そうとしたがパピ君から少し作戦の変更を頼まれた。

 ピシアのドラコルル長官は非常に頭の切れる男で、身代わりをすぐに捕まらせては逆に怪しまれるかもしれない。

 ある程度痕跡を残しながら時間を掛けて逃げ回り、相手が自分で気づくように誘導することでこちらの作戦を読まれないように念を入れた。

 

 それから更に数日パピ君のコピーロボットに指示を出して、痕跡を残しながら人気の少ない野山を移動させ続けた。

 街中でピシアの戦闘艦に動き回られるのも困るので、この星の住民を巻き込まないように人気の少ない場所を移動している、と思わせるように行動した。

 そうすればピシアも人目につかない場所まで追いかけてくると考えた。

 

 あまり早く捕まるのも怪しまれるかと一時的にどこでもドアでこちらに戻したりして姿をくらませたり、本物のパピ君が野山の動物を催眠術で操ってコピーロボットを載せて距離を稼がせたりした。

 流石というかピシアはそんな撹乱をものともせず、ワザと痕跡を残さなくても着実に逃走するコピーロボットを追い詰めていき、パピ君の大きさでは乗り越えられない岩壁に追い詰められた。

 

『ついに追い詰めたぞ、パピ』

 

『ドラコルル…。 どうやらここまでのようだ』

 

 タイムテレビの向こうではコピーロボットがパピ君を演じている。

 対面しているドラコルルもコピーロボットだと全然気づいてないようだ。

 しかし…

 

「流石に捕まっちゃったか」

 

「悔しいですがドラコルルに称賛の言葉を贈るしかないようです」

 

 捕まるのは当初の予定だったが、途中から僕とパピ君はどこまで逃げられるか鬼ごっこのようにコピーロボットに指示を出し続けて全力で逃走させていた。

 どこでもドアによる移動はルール違反みたいなものなので極力は控えたが、タイムテレビを多用した地形探査による逃走経路の調査に野山の動物を誘導して乗り物にする移動手段。

 その場にある物のみを使った逃走劇ではあるが、全力でコピーロボットの逃走をサポートし続けた。

 

 だがさすがは本職の軍人なだけはある。

 数ある逃走経路も予測されていたのか先回りをされ、乗り物にしていた野山の動物も早い段階で気づかれて近辺から追い立てられて入手し辛くなった。

 後は逃走経路の少ない方向へ次第に誘導されて負けてしまった。

 

 現状身の危険がないからか、僕はともかくパピ君まで遊びとして熱が入りすぎてしまった。

 後はコピーロボットが身代わりだと気づかれずに、そのままピリカ星に戻ってくれるのを祈るだけだ。

 気づかれたら僕等であの戦闘艦を落とすしかなくなる。

 今後の作戦と言っても僕等の無人兵器の力押しが主な内容なので、この場で倒す事になっても何も問題はない。

 

「どうやらドラコルルはロボットである事に気づかないようだ」

 

「記憶も容姿も完全にコピーしてるからね。

 よっぽど詳しく検査しないとわからないよ」

 

 コピーロボットのパピ君が収容されると、戦闘艦はすぐに宇宙へと飛び立っていった。

 戻ってくる様子もなく、どうやら完全に騙す事が出来たらしい。

 

「では僕等も行きましょうか」

 

「待ってください、確かロコロコが僕を追ってこの星へ来てますよね。

 迎えに行ったドラ丸さんも戻ってきていません」

 

「そういえば遅いなドラ丸」

 

「ハジメさん、見てください」

 

「ん?」

 

 ピシアの戦闘艦が飛び立った後に飛び回る小さな影がタイムテレビに映った。

 拡大をしてみると大きな耳で空を飛ぶ犬、ロコロコの姿があった。

 

『はるばる宇宙を駆けずり回りようやくたどり着いた星で大統領にお会いできると思ったのにピシアに先を越されようとは。 僕は何てノロマで愚図で落ちこぼれな犬なんだ。 これでは大統領の愛犬失格いや駄犬です。 こんなことなら朝見かけた地球の犬が食べていたドッグフードの食べかけなんかこっそり食べようとするんじゃなった。 あのおいしいドッグフードの誘惑に負けさえしなければ僕は大統領に感動の再会をすることが出来たというのに。 だけどあのドッグフードの匂いの誘惑には抗うのはとても僕には出来そうになかった。 大統領を追いかけるのに三食も抜いていたのが食欲に抗う力を奪っていたのだ。 あの時は腹ペコで何か食べなければ大統領の下までたどり着くことが出来ないと僕は考えた。 僕は悩んだが戦いは食べる事から始まるとお父さんの言葉を思い出し断腸の思いで僕はこの星のドッグフードをおいしく食べることにした。 断腸の思いで食べたドッグフードはお腹が断腸どころか爆発するほどおいしかった。この美味しさで大統領に少しでも早くお会いするのだと地球のドッグフードに誓ったのにこんなことになるなんて~!』

 

『お願いだから話を聞いてほしいでござる…』

 

 マシンガンのようなおしゃべりを泣きながら語り続けるロコロコの後から、少しぐったりとした様子のドラ丸がついてきた。

 この様子では何度か呼びかけても話を聞いてもらえずにずっと追いかけてきたといったところか。

 

「すいません、ロコロコはとてもいい愛犬なのですが、おしゃべりがちょっと…いえ少し…いえやっぱりかなり酷くて。

 話し始めるとちゃんと止めないとこちらの話を聞いてくれないほどなのです」

 

「知っていたけど、これはすごいな。 見てる分には面白いかなと思ってたんだけど…」

 

 ドラ丸の様子から相手をするのはとても大変そうだ。

 

 

 

 

 

 ドラ丸とロコロコを迎えに行った後、直ぐにピリカ星に出発した。

 ピリカ星に行く宇宙船はパピ君が乗ってきたロケットで、そっちの方が【宇宙救命ボート】よりは操作性が圧倒的に上だし、今のところハツメイカーでも宇宙船は製作していない。

 大きいだけあって時間がかかりそうなこともあったが、今後の事件には宇宙が関わる事も多い。

 そこで他の星の宇宙船の技術を学ぶことで自分でも理解出来る宇宙船を製作するつもりだった。

 今回の一件でピリカ星の宇宙船を手に入れられないかと考えている。

 

 外宇宙に出るのに○×占いでいろいろ安全確認しているが、実際に行くのは初めてなので少し緊張している。

 確認したらタイムテレビ同士ならピリカと地球の距離でも連絡が取りあえるらしい。

 宇宙に出てから後方支援の仲間と通信も試して成功している。

 

 今は宇宙船がワープ中なので超空間の揺らぎがタイムテレビの信号を遮るので流石に連絡は取りあえないが、ワープが終わったら改めて確認のために地球と連絡を取り合う予定だ。

 

 現在この宇宙船には僕とドラ丸、パピ君とロコロコが乗っている。

 あの後二人と合流したらすぐさま宇宙船に乗ってピリカ星に向かったわけだが、現在パピ君とロコロコの感動の再会をしている最中だ。

 もちろんロコロコは先ほど以上のマシンガントークを連発し続けている。

 

「大統領大統領大統領ご無事でご無事でほんとにほんとによかった~。 ロコロコはもうだめなのかと諦めかけてしまいました。 僕は愛犬失格だと深く猛省している。 ですがこの喜びをお伝えすることは愛犬失格でもやめる事の出来ないピリカの犬の(さが)なのです。 出来る事ならもっと早くこうして大統領にお会いしたかったのですがここまでの道のりはまさに苦難の連続。 襲い掛かる黒い巨鳥の猛襲甘美な香りの誘惑なんだかよくわからない青い狸の妨害。 その他にも数多の苦難が大統領への道を遮りあわやピシアに先を越されてしまったと思いきやこうして難を逃れて大統領に御会い出来たことはもはや神の思し召し。 僕はこれから三食食べる前に神に感謝の祈りを捧げようと「ロコロコ少し黙りなさい」はい」

 

「拙者狸じゃないでござる! この立派な猫耳とちょん髷が目に入らぬでござるか!」

 

 猫耳とちょん髷があってもドラえもんの容姿は一般にタヌキに見えるらしい。

 

「まあ落ち着け。 ドラ丸の事は気づいていたみたいだけど、急いでたから相手にされてなかったという事か。

 ピシアがさっさと帰ってくれたからよかったが、ロコロコと追いかけてきたドラ丸を見られなくてよかった」

 

「申し訳ありません、ロコロコが迷惑をかけてしまって」

 

「そんな! 大統領が謝ることはありません。 僕がそこの狸さんの話を聞いていればよかっただけなのです。 僕も謝罪と感謝の言葉を述べさせてください。 大統領を保護してくれた上に僕まで迎え入れてくれて感謝の言葉もありません。 感謝の言葉を言いたいのに言葉が出てこないなんて僕は何て無知な犬なんでしょう。 言葉に出来ないのならこの気持ちを体で表現するしか「ロコロコ、おすわり」ワン!」

 

 パピ君が命じるとロコロコはお座りをして喋るのをやめる。

 愛犬と言ってるだけあってパピ君にちゃんと躾けられているようだ。

 

「重ねて申し訳ありません。 ロコロコは喋り始めると延々と話し続けて止まらないんです。

 僕も躾け直そうとしたのですがこればっかりは治らなくて。

 これが無ければとても優秀なんですが…」

 

「又聞きでは面白い犬だなと思ったけど、実際聞くとうっとうしいね」

 

 率直な感想を述べる。

 面白い犬だとは思うけど、話を聞いてたらキリがないのはよくわかった。

 よく内容も脱線するみたいだし、あまりまともに相手したくない。

 

「ピリカ星についたら自由同盟の本部に向かいます。

 場所はわかってるね、ロコロコ」

 

「はい大領領。 大統領をそこへお連れするのが僕の役目でありました。 自由同盟はギルモア将軍の独裁に抗うために結成されピリカ星の地下に支部を小惑星帯に本部を置いて反撃の時を窺っていました。 戦力を整え後は大統領を待つだけとお迎えに上がったのです」

 

 自由同盟はピリカ星を現在支配している、ギルモアに対抗するために作られた組織だ。

 ロコロコの案内で僕等はパピ君の味方である自由同盟の基地に向かおうとしている。

 

「それだけど、ギルモアには僕の身代わりを捕らえさせている。

 僕が実際に捕まってない事は今後の戦いを有利に運ぶ事の出来るアドバンテージだ。

 民衆を騙す事になってしまうが、時が来るまで僕の事はギルモアに捕まっていることにしておきたい」

 

「わかりました大統領。 大統領の事はたとえ口が裂けても喋りませんとも。 かつて大統領は言いました。 僕は少しお喋りが過ぎると言われ僕はハッとなってどうするべきか考えた。 僕は口に鍵があるんだと思いこむ事でカギをかける事にしました。 

それ以来僕はとっても無口になって喋る時はいつもカギを開けてから喋る事を意識し喋らない時はいつもカギを掛けるように心がけました。 そう僕の口には頑丈なカギがかかっているんです。 ですから僕の口はとっても堅いんです。

ね安心したでしょう?」

 

 全然安心できない。

 パピ君もロコロコを見ながら苦笑いで困った顔をしている。

 

 パピ君の存在は捕まっていると思わせておいて、効果的なタイミングで自由の身である事を明らかにしようと思っている。

 なので自由同盟に行ってもパピ君の存在は一部の人間だけに知らせてあとは伏せておくつもりだ。

 

 だがこのロコロコを見ているとすぐにばれてしまいそうで心配になる。

 

「パピ君、ロコロコの事はしっかり見ておいてほしい」

 

「ロコロコはお喋りですが本当に喋ってはいけないことは喋らない筈です。

 これでも大統領の愛犬として重要機密を漏らさないようにすることは弁えています。

 関係のないことであればいろいろ喋るので尋問する側にしたら大変でしょう」

 

「確かにそれなら逆に聞き出すのに苦労しそうだ」

 

 余計なことは喋っても喋ってはいけないことは喋らないお喋りなんて、ある意味口の堅いやつより口が堅いかもしれない。

 もし僕が尋問官でもロコロコから話を聞き出すなんてやりたくないな。

 

 

 

 ワープ中の間にロコロコに今後の主な作戦を説明したが、それが終わると殆どロコロコのトークショーだった。

 ロコロコはパピ君に会えたことがうれしいのか興奮しっぱなしでずっとお喋りと続けていた。

 パピ君もこちらが話したいことが無ければ止めることはせず、ちゃんと内容を聞いているのか聞き流しているのかはわからないがロコロコのお喋りにずっと付き合っていた。

 流石は飼い主だけあると思うが、お喋りに付き合うからお喋りが治らないのではないかと思った。

 思っただけで口には出すことはなかった。

 お喋りを聞き続けるのにうんざりして僕とドラ丸はその場を早々に立ち去り、ワープを終えるまで部屋で休んでいた。

 

 ワープが終わり超空間を抜けたのがわかると船のブリッジに向かった。

 パピ君達もそこにいて、眼前に見えるピリカ星を眺めていた。

 

「ようやく戻ってこれた。 ハジメさん、あれが僕等の星ピリカ星です」

 

 戻ってこれたことに感慨を感じながら星を紹介するパピ君。

 ピリカ星は土星のように星の周りに大きな輪っかが広がっている。

 それらは小さな星の集まりで、その中に自由同盟の本拠地が隠されている。

 

 ロコロコの操縦で僕等の乗ってるロケットは自由同盟の本部のある小惑星に無事(・・)に到着した。

 

「(映画と違い敵の無人戦闘機に襲われることもなかったか)」

 

 途中で敵との戦闘を想定していたが徒労に終わったようだ。

 

 自由同盟本部に入ると最初にロコロコが前に出てもらい僕とドラ丸の紹介をしてもらう。

 パピ君はギルモアに存在を知られないために姿が見せられないので、僕の用意した透明マントで隠れている。

 

 味方であると紹介されたら自由同盟の隊員にこの本部の司令室に案内された。

 自由同盟のリーダーで結成者のゲンブ、元治安大臣でパピ君とも顔見知りだ。

 

「ようこそ自由同盟へ地球の方、そしてロコロコよく戻ったな。

 大統領のことは聞いている。 間に合わなかったようだな」

 

「え、あ、その何と申しましょうかハイ」

 

「ん、どうしたロコロコ」

 

「なんでもありません!」

 

 パピ君の事を聞かれて少しうろたえるロコロコ。

 少々怪しいが口を滑らせるほど迂闊ではないらしい。

 

「ハジメさん、ゲンブには僕の事を話します」

 

「わかった、まずは誰にも聞かれてないか確認する」

 

「お願いします」

 

 透明マントで隠れながら傍にいる僕にだけ聞こえるように小声で話してくるパピ君。

 自由同盟のリーダーならパピ君のことは伝えておいた方が話が早い。

 

「ゲンブさん、この司令室はどこかに会話が聞かれているという事はないですか?」

 

「む、それはないはずだ。

 仮にもここは自由同盟の司令室。 ここでの会話が漏れるようでは既に敵の手が伸びてきているはずだ」

 

 念の為○×占いで確認をしたいと思ったが、それでは信用してないと堂々と言っているようなものなので諦める。

 

「出来るだけ内密に伝えたいことがあるので、話を聞かれないようにしてもらえませんか?」

 

「構いませんが、この基地の人間にもですか?」

 

 ゲンブさんはここまで案内してくれた隊員の人と顔を見合わせる。

 隊員の人にも話を聞かせない方がよいのかという考えが見て取れる。

 ここで彼を追い出すのも印象が悪いのではなかと思いどうしようか少し悩んでいると、パピ君が先に行動を起こした。

 

「いずれ解ることだ、一人くらい知っていても大丈夫だろう」

 

「その声は!?」

 

 ゲンブさんが驚きに声を上げると同時に、パピ君が透明マントを脱いで姿を現す。

 

「大統領、本物ですか!?

 傍受した通信ではピシアに捕らえられてしまったと!」

 

「本物ですゲンブさん。 ピシアは大統領の策にまんまと嵌ったのです。 捕まえたのは地球人のハジメさんが用意してくれた偽物のロボットだったのです。 大統領はギルモアに捕らえられたと思わせる事で機を待ち反撃に出ようと考えたのです。 僕も初めは大統領が捕まってしまったのかと思い嘆き悲しんだのですがそこへ大統領が現れたので摩訶不思議と驚きひっくり返ってしまいました。 僕も本物なのかと最初は疑い匂いを嗅ぎ顔を舐めてあらゆる確認をして大統領だと確信したわけであります。 では連れて行かれたのはいったい誰なのかと考えて「ロコロコ伏せ」ワワン」

 

 また喋り出したロコロコをすぐに止めるパピ君。

 

「ロコロコをすぐに止められるとはまさしく大統領。

 姿を隠されていたのはギルモアに知られぬ為と機会を窺っていたのですな」

 

「その通りだゲンブ。 僕を待ってくれていた人たちには申し訳ないが、反撃の時までもう少し姿を隠していたい。

 協力してもらえないだろうか」

 

「もちろんです大統領。

 大統領が敵に気づかれずにこちらに合流したとなれば我々も動きやすい。

 基地の人間にもあまり知られない方がよろしいでしょう。

 お前もこの事は最重要機密としてだれにも話すな」

 

「りょ、了解であります!」

 

 ゲンブさんが隊員の人に命令を下す。

 隊員は身体を固くし敬礼して了解し、情報を漏らさない事を誓った

 

「大統領には時が来るまで窮屈な思いをさせてしまうかもしれません」

 

「構わない、僕も承知の上で隠れる事を選んだのだ。

 それより今の状況を詳しく知りたい。

 ハジメさん達の協力も踏まえて今後の作戦を練らなくては」

 

「了解しました大統領」

 

 ゲンブさんと話し始めてからパピ君から神がかったようなカリスマを感じ始める。

 10歳で大統領になっただけの事はある、飛びぬけた才能の一端を見せ始めていた。

 

 

 

 

 


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