ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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※感想を書いてくださった方、誤字報告をしてくれた方々、ありがとうございます。
 書き込んでくれた感想はちゃんと読んでいますが、自分は執筆が遅いので返信をしていると時間が掛かり過ぎてしまって、本編の執筆や更新前の誤字確認の時間が無くなってしまっています。
 もう少し早く書けたらいいのですが、余裕が無いので感想の返信は控えさせてもらいます。

 読んでくださった皆様の感想は励みになっていますので、今後も出来る限り頑張っていこうと思います。

 それでは本編どうぞ



自由同盟防衛線(宇宙小戦争)

 

 

 

 

 

 パピ君とゲンブさんの会話は長々と続いた。

 大統領と治安大臣だけあって内容は高度で、同席している一般人の僕とドラ丸に平隊員の一人には話についていくのが難しかった。

 時折平然とロコロコが会話に参加してたのに驚きだが、喋りすぎて脱線したころにパピ君に止められるのがご愛敬だった。

 

 大よその現状をゲンブさんが教えてくれた所に、机の上の通信機に連絡が入った。

 

「基地内通信が入ったようです、少々お待ちください。

 どうした、何かあった?

 ………そうか、無事に戻ったのなら何も言うことはない。

 ご苦労だった」

 

「何があった、ゲンブ」

 

 深刻そうな顔をするゲンブさんにパピ君が尋ねる。

 

「地下組織と連絡を取ろうと出発した連絡員が戻ったのです。

 現在ピリカ星上空には敵のレーダによる監視網が張られて、地下組織との連絡がなかなか取れない状況なのです。

 どこかに抜け道はないか試しに連絡員を飛ばしたのですが、哨戒中の無人戦闘艇に見つかってしまったそうです。

 何とか撃退したようですが、それを察知して無数の敵機が集まってきて、任務どころではなくなってしまったそうです。

 無事にやり過ごして戻ってこれたのは運がよかったのでしょう」

 

「無人戦闘艇を撃退! 破壊してしまったのか?」

 

「? そのようですが大統領、何か問題でも?」

 

 パピ君には映画での情報を出来る限り既に話してある。

 無人戦闘艇に仕掛けられた発信機の事も僕は伝えていた。

 

「ハジメさん、無人戦闘艇には確か…」

 

「予知通りならたぶんそうだろう」

 

「ゲンブ、今すぐ戻ってきた船を調べてくれ!」

 

 パピ君がゲンブさんをせかすように命令する。

 

「構いませんが、いったいどういう事です?」

 

「僕らの知る情報が正しければ、無人戦闘艇には破壊されると周囲に飛び散る発信機が大量に搭載されているはずだ」

 

「なんと、では戻ってきた船に! すぐ調べさせます!」

 

 ゲンブさんも状況を理解したようで通信機で命令を出す。

 

「ハジメさん、僕等は本当に勝てるのでしょうか?」

 

「戦力は十二分に用意したつもりだ。

 シミュレーションだけなら9割勝てるとは出ているから、後は戦ってみるしかない」

 

 不安を隠せない様子のパピ君に僕は事実だけを答える

 映画での戦力が実際の戦力とは限らないから戦ってみないとわからないが、何度もあらゆる方向から○×占いで戦力分析を試みた。

 勝率9割も不測の事態を考慮したうえでの計算で、戦えば確実に勝てる戦力と○×占いは答えている。

 

 戦場に出るという不安は僕にもあるが、それこそが不測の事態の要因だ。

 戦力は十分、負ける要素はどこにもない。

 後は僕等が致命的なミスをしなければ勝てる戦いだと、拳を握って戦場への不安を抑え込んだ。

 

 

 

 

 

『あったぞ、発信機だ!』

 

『すぐに壊せ!こっちの場所を傍受される!』

 

 ブツゥ!

 

 悲鳴のような慌てる声の後に入った雑音を最後に通信は完全に途絶えた。

 だがピシアは音声が途絶える前に目的はすべて果たしていた。

 

「残念だがすでに手遅れだよ自由同盟諸君。 電波発信源は特定出来たな」

 

「はっ! 長官、短時間でしたが既に特定を終えております」

 

「将軍に通信を繋げ」

 

「了解」

 

 ピシア長官ドラコルルは部下の報告に満足し、ギルモア将軍に連絡を取るべく命令した。

 すぐに通信が繋がり目の前の大きなモニターに上司ギルモア将軍が姿を見せた。

 

『どうしたドラコルルよ』

 

「お喜びください将軍。

 ついに自由同盟本部の位置を発見いたしました」

 

『なに、でかしたぞ。

 パピの捕獲に続いていい報告ばかりじゃないか』

 

 モニターのギルモアは嬉しそうにドラコルルを称える。

 

「ありがとうございます。

 ですが向こうにも位置を知らせる発信機の存在を知られてしまいました。

 逃げられる前に至急攻撃の許可を頂きたく」

 

『よかろう、わしの戴冠式の前に邪魔するものは皆排除せよ。

 地下組織の方はどうなのだ?』

 

「発信機には盗聴機能もありましたが、気づかれていなければその情報も聞けたかもしれません。

 すぐに気付かれてしまったのはやむをえませんので、自由同盟本部を襲撃後に捕らえた者から聞き出せばよろしいかと」

 

『わかった、より良い報告を期待しているぞ』

 

 ギルモア将軍との通信が途切れる。

 

「無人戦闘艇を全機出撃させろ。

 奴らには大した戦力はほとんど残ってない筈だ。

 少ない敵戦力を全滅させたら同盟本部を包囲して逃げられなくしろ。

 そうすれば後は煮るなり焼くなり自由だ」

 

「了解!」

 

 ドラコルルは同盟の殲滅を確信しながら部下に命令を下す。

 この時負けるとは微塵も思っていなかった。

 

 

 

 

 

 発信機はやはり戻ってきた連絡艇から見つかった。

 すぐさま破壊したが、本部の位置を割り出された可能性が高いと考えた。

 発信機発見の一時間もしない内に、ピシアの基地から無数の無人戦闘艇が発進したのを確認された。

 

「すまないゲンブ、この情報をもっと早く伝えていれば…」

 

「いえ、油断していた我々の失態です。 しかし敵の到着まではまだ時間があります。

 大統領方は今すぐここをお発ちください」

 

「また僕に逃げろというのか! 僕は戦うために帰ってきたんだぞ!」

 

 一度逃げ出すことになったパピ君は逃げろという言葉に激昂する。

 

「しかしこちらに向かっているのは敵は千機近い無人戦闘艇。

 我々の本部にある戦闘機は非武装のものを数えても二十もない。

 戦って勝ち目はありません」

 

「いや、勝機はあるぞ。 ハジメさん!」

 

 僕の名を呼ぶと同時に激高を嘘だったように沈めて向き直る。

 

「やはりあなた方の力を借りなければいけないようです。

 改めて自由同盟を、ギルモアの支配を受けるピリカの民を救ってほしい」

 

 深々と頭を下げて嘆願するパピ君。

 その真剣さは10歳の子供とは思えない、大統領としての責任と重みを感じさせる姿勢を感じさせた。

 気後れして僕は一瞬飲まれてしまうが、慌てて返事を返す。

 

「も、もちろんだ、その為にいろいろ準備してきたんだし。

 無駄になるに越したことはないんだろうが、活躍の機会を得られてうれしいよ。

 早速準備をしたいから格納庫に行こう」

 

「よろしくお願いします」

 

 戦力を出すには格納庫くらい広くないとだめだ。

 

「大統領、どうするのです?」

 

「ハジメさんに任せようゲンブ。 僕はそれだけの力を彼らに見た」

 

 ゲンブさんは訝しんでる様子だったが時間がないのでさっさと格納庫に向かった。

 

 

 

 

 

 ピシアの基地から発進した無人戦闘艇の後を、自由同盟本部を制圧するための制圧部隊が乗った輸送艇が付いてきていた。

 彼らの作戦は無人戦闘艇で自由同盟の戦力を壊滅させた後、制圧部隊が自由同盟を制圧し地下組織の情報を聞き出すことにあった。

 自由同盟の戦力は無人戦闘艇より圧倒的に少ないと見られているので、戦力を壊滅させるまでは暇だろうと制圧部隊の面々は余裕の表情を浮かべていた。

 

「これで自由同盟も終わりか。 少ない戦力でよく持ったもんだ」

 

「少ないから逃げやすかったんだろう。

 クーデターの時でも無人兵器の数の差が圧倒的だったんだ。

 自由同盟を組織出来たのも、リーダーのゲンブがそれほど優秀だったってことだ」

 

「人望は圧倒的に向こうが高いのにな」

 

「口を慎め! 将軍を貶める発言は極刑モノだぞ。

 もし上に伝わったら同じ部隊にいる我々まで巻き込まれかねん。

 どこで聞かれているのかわからんのだからな!」

 

「すいません隊長!」

 

 制圧部隊の隊長の言葉で気を引き締め直す。

 ギルモア将軍の存在は敵対している自由同盟側だけでなく、味方のピシア末端でも恐れられていた。

 ピシアの中に反抗勢力が紛れ込んでいないか探すために、配下の行動にも目を光らされていた。

 それによってスパイ活動をしている自由同盟派が発見されることもあったが、将軍への不満を言っただけで捕らえられて見せしめに処刑されることが圧倒的に多かった。

 ピシアの末端にとっては、敵よりも上層部の監視に隙を見せる事の方が死に繋がる可能性が高かった。

 

「まもなく無人戦闘艇が自由同盟本部のある小惑星帯に到着する。

 逃げ出していなければ戦闘になるだろうが長くはもたんだろう。

 抵抗が無くなればすぐに本部制圧にかかる。

 ゆっくりしてる時間はないだろうから、気を引き締めておけ。」

 

「了解です隊長」

 

 隊長が言葉を絞めて隊員が了解すると、しばらくして輸送艇の前で宇宙に光が走った。

 戦闘の攻撃による爆発の閃光だ。

 

「無人戦闘艇、交戦に入ったようです」

 

「抗うことを選んだか、あるいは味方を逃がす時間稼ぎか。

 敵機の存在は無視して自由同盟本部を囲い込むように戦闘艇を展開しろ。

 敵機の殲滅は逃げ道をふさいでからで構わん!」

 

 命令を下すと無人戦闘機が陣形を大きく広げて、自由同盟本部があると思われる小惑星を全方位から囲い込むために動き出した。

 それに伴い戦線を示す攻撃や爆発の光が拡散するように小惑星帯に広がっていった。

 どんどん広がっていく戦闘の光に隊長は訝しみ始めた。

 

「おかしい、想定していた敵戦力では広範囲に広がった無人戦闘艇には対応出来ない筈…」

 

「大変です隊長、無人戦闘艇の信号がすごい勢いでロストしていきます!

 既に100機もの戦闘艇の信号がありません!」

 

「なに!?戦闘が始まってまだ5分も経っていないんだぞ!

 いくら量産性を重視した脆弱な無人戦闘艇とはいえ、撃破されるのが早すぎる!

 何が起こっているのかすぐに調べろ!」

 

 隊長の指示で戦線の状況を知るために前線で戦っている無人戦闘艇のカメラに通信を繋げた。

 映し出されたモニターには無人戦闘艇が戦っている相手の姿が映った。

 鎧のような緑の装甲の人型ロボットが巨大なマシンガンと斧で無人戦闘機を次々落としていく光景だった。

 

「何なのでしょうあの敵は!?」

 

「私が知るものか! あんなロボット兵器は聞いたこともない。

 おそらく自由同盟が開発した新しい戦闘兵器なのだろうが、そうだとしてもあれほどの数をどこに隠し持っていたというのだ…」

 

 緑色の装甲のロボット達は大きく展開した千近かった無人戦闘艇に対抗するように広範囲に展開し、無人戦闘艇を通さないよう防衛線を張っていた。

 数は無人戦闘艇に比べて少ないが、単機で複数の敵を相手にして物ともしていない。

 何機もの無人戦闘艇の攻撃を食らっても何事もなかったかのように動き続け、近い敵は斧で叩き切り距離のある敵にはマシンガンで撃墜していく。

 一目で解る性能差が無人戦闘艇と緑のロボットにあった。

 

「これはまずい! 敵の戦闘データを可能な限りかき集めろ!

 無人戦闘艇にも戦闘データを直接本部に送るように指示をだせ」

 

「隊長、我々は!?」

 

 戦闘の様子は制圧部隊全員が伺っていた。

 数こそまだ勝っているが無人戦闘艇に勝ち目があるようには誰にも見えなかった。

 

「情報を集めながら後退する。 我々はあくまで制圧目的で、白兵戦闘を想定した武装しか持ってきていない。

 何もしないまま戻っては、ドラコルル長官にどんな目に遭わされるか分かったものではないが、現状我々に出来る事は情報収集しか無い。

 可能な限り情報を集めたら、すぐさま撤退だ!

 本部にも収集した情報をダイレクトに送り続けろ。 武装の少ないこの輸送艇では、逃げ遅れれば無事ではすまない」

 

 最低限任務を果たさねばという責任感から隊長は撤退を遅らせたが、それが判断ミスだったかどうかはわからない。

 事態はすでに手遅れだったのかもしれないから。

 

「無人戦闘艇の戦隊を突き抜けてくる敵影があります!

 数は一機ですが、ものすごいスピードで戦闘艇を撃破しながらこちらに向かってきます!」

 

「ッ! 無人戦闘艇の目標をそいつに集中させろ!

 時間を稼がせて我々は撤退だ!」

 

「だめです! 戦闘艇が追いつけず包囲を抜けてきます!

 もう目の前に!」

 

「なに!?」

 

 皆がモニターではなく強化ガラスの外の宇宙空間を見ると、緑でなく青のロボットが輸送艦の前を通り過ぎた。

 それと同時に船全体に衝撃が走り、乗っていた全員が体勢を崩して周囲の物に捕まることで体を支えた。

 

「ぐっ…何が起こった。船の状況は?」

 

「わ、わかりません!

 船体に異常はないと出ているのですが、ブースターが反応を示しません」

 

「敵にやられたという事か…」

 

 隊長は自分達が敵に無力化されたことを知って諦めを見せる。

 動かない船の中では制圧部隊の戦力ではどうすることも出来ないと、直に悟ったのだ。

 隊長の様子に誰もが負けたのだと理解し通信が入った。

 自由同盟からの降伏勧告であり、無人戦闘艇の戦線の情勢も既に決しようとしていた

 

「どうします隊長?」

 

「もはやどうすることも出来ない。 降伏を受け入れると返事しておけ。

 本部へ送ってるデータもここまでにしておけ。 相手に気づかれたら面倒だ。

 得られたデータだけでもドラコルル長官には十分だろう」

 

 この予想外の敵戦力を長官でもどうにか出来るとは思えないが、と隊長は思ったが口にしなかった。

 千近い無人戦闘艇を三十分もしない内に撃退してしまう戦力に、ギルモア将軍派の勝機を一切刈り取られてしまったように隊長は感じた。

 

 

 

 

 

 自由同盟本部の格納庫では、同盟員の殆どが集まって勝利の喝采を上げて戻ってきた緑のロボット達を称えていた。

 ゲンブさんと戦力の存在を知っていたパピ君も、勝利の結果に驚きを隠せずに戦いを見届けていた。

 

「まさかここまでの大戦果を上げるとは…

 大統領も驚かれていますが、彼らの力をご存じだったのではないのですか?」

 

「とても頼もしい戦力だとは確信していたが、ここまで一方的なものになるとは思わなかった。

 味方としてはとてもありがたいが、もし敵に回ってしまったらと思うのは間違っているのだろうか」

 

「いえ大統領として国を思うのであれば間違っていないかと。

 私も元治安大臣として、彼らの星との交流を慎重にせねばと考えさせられます」

 

 二人は距離を置いて何かを相談しているが、僕は戻ってきた機体ザクを【壁紙格納庫】に誘導して戻っていくのを確認していた。

 強化プラスチックで出来た装甲で、戦闘に十分耐えられるほど強化されているが、元はプラモデルを改造したものだ。

 後でしっかりチェックするが、一目見て大きな損傷がないか確認していた。

 

 映画では戦車を改造して戦力にしていたが、僕はガンプラのMSザクを戦闘用ロボットとして改造し複製することで軍団を作った。

 サイズは市販のプラモではなく【プラモ化カメラ】でベースのザクを人間サイズで作り、それに作業用ロボットの製作で鍛えた技術で戦闘に堪える本物と同じMSに仕立て上げた。

 殆どが命令すれば自動で動くロボットだが、ピリカ星人が乗り込むとちょうどいいサイズのコクピットも作ってある。

 操縦も本物のように出来るが、ロボットをイメージだけで操作出来る【サイコントローラー】も搭載している。

 説明する時間があれば同盟の人に乗ってもらおうと思ったが、今回は全機AIの制御で無人戦闘艇と戦った。

 

 本当は僕も操縦して戦ってみたかったのだが、ドラ丸に全力で止められて同盟本部からザク達に命令を出すだけだった。

 強化プラスチックの装甲で敵の攻撃は効かずこっちの攻撃ばかりが通るので、相手の数が多くても絶対負けない一方的な展開。

 あまりに簡単に終わってしまったので大喜びの同盟の人達と違って、僕は不完全燃焼で不謹慎だが詰まらないとすら思ってしまった。

 彼らにとっては生死を分ける戦いでも、僕にとってはせっかく作ったザクの活躍を見れる機会というのが、空気の違いを感じさせていた。

 

 最後のザク達の後に、ピシアの人間を載せた輸送船を連れた青い機体が戻ってきた。

 青い機体はドラ丸用に作ったMSアストレイレッドドラゴンの改造機で、これをドラ丸用に選んだのはもともと刀を使っていることに限る。

 外見は色がドラ丸と同じ青を中心にしている事を除けば変化がないが、近づいて斬るをコンセプトに高速機動近接型になっている。

 装備された剣の類はすべてドラ丸の愛刀猫又丸と同じひみつ道具機能を付与しており、基本何でも斬れる剣が複数装備された機体だ。

 

 無人戦闘艇の包囲の向こうでピシアの人間が乗っている小型船を見つけた時にドラ丸が捕縛に向かい、改造ひみつ道具の効果で船のブースターだけを切り離して動けなくした。

 後は降伏勧告を出したら彼らはそれに従い、ドラ丸が船を引っ張って戻ってきたわけだ。

 船から降りてきたピシアの隊員は同盟の人達に連れられて行く。

 

「ただいま戻ってきたでござるよ、殿」

 

「お帰り。 だけどずるいぞドラ丸。

 自分だけ戦闘に出るなんて」

 

「拙者の役割は殿を守ることでござるよ。

 殿に危険があるのであれば避けねばいかんでござるよ」

 

 自分の役割を改めて宣言するドラ丸の言い分は間違ってない。

 だが…

 

「MSの乗り心地はどうだった?」

 

「サイコーだったでござるよ。

 強いし早いし思い通りに動く、敵をバッサバッサ斬れたのは爽快だったでござる」

 

「だからズルいっていうんだ。

 一応僕も自分用のMS作ってきたから戦場で乗り回したかったんだよ」

 

 八つ当たり気味にドラ丸のちょん髷を掴んで引っ張り上げる。

 ただの飾りなので大して機能はないが、簡単に取れるようには出来ていない。

 

「や、やめるでござる殿! ちょん髷は武士の誉れでござる。

 引っ張ってはいけないのでござる!」

 

「やかましい、こっちはいろいろ不完全燃焼なんだ

 引っ張りやすいそれで八つ当たりさせろ」

 

「そんなご無体な~」

 

 ちょん髷をぐいぐい引っ張るとドラ丸は面白い様に反応してワタワタと抵抗する。

 別に弱点としての機能はないはずなのだが、面白いので引っ張って遊び続ける。

 そこへ基地に来た時に最初に案内してくれた兵士がやってきた。

 

「ハジメさん、ドラ丸さん!

 自由同盟を救っていただきありがとうございます」

 

 ドラ丸を弄っている最中だったので気づかなかった。

 兵士さんに気を向けた瞬間にドラ丸が頭を動かして逃げたので、掴んでいたちょん髷を手放してしまった。

 もう少し弄ってやろうと思っていたが残念だ。

 

 ふと思いついたが、今度ドラ丸のちょん髷が伸び縮みする改造を施してやろうか?

 そんな悪戯を考えているとドラ丸は感づいたのか体を震わせて僕から距離を取る。

 

「な、何か殿から嫌な予感を感じたでござる。

 何を考えたでござるか!?」

 

「ちょっと面白いこと、だけど感づくか…

 嫌な予感とはいえ勘を働かせるようになるなんてロボット離れしてきたな」

 

 勘が働く機能なんてどこにも無かったはずなのにどうなっているんだろうか。

 製作者じゃなければ構造を調べてみたいと思うところだ。

 

「ますます悪寒を感じるのでござる!

 変なことを考えるより殿、兵士殿を待たせているでござるよ」

 

「ああ、そうだった。

 すいません、ちょっとドラ丸が気がかりなことを言いまして」

 

「拙者のせいでござる!?」

 

 ドラ丸が何か言ってるか無視する。

 兵士の人ば僕のやり取りに唖然としているが、意識が向いたことでハッとなり改めて対応される。

 

「い、いえ、お邪魔だったのではないかと…」

 

「そんなことないですよ、それで何かありました?」

 

「司令と大…いえ、司令室で二人がお待ちのようです」

 

 パピ君の存在は秘密なことを思い出して、言いかけたことを訂正する兵士さん。

 

「わかりました、機体も回収が終わったのでこれから戻ります。

 ドラ丸は機体の損傷チェックを任せた」

 

「了解でござる」

 

 ドラ丸の後を任せて再び司令室へ向かう。

 戦闘後の処理がいろいろあるが僕に聞きたいこともあるのだろう。

 

 

 

 司令室に入るとパピ君とゲンブさんが待ち構えるように出迎えてくれた

 

「ハジメさん、この度は本当にありがとうございました」

 

「私も基地の代表として改めてお礼を申し上げます」

 

「いや、僕等にとっては大したことじゃないですよ。

 捕まえた奴らはもういいんですか?」

 

「ええ、武器も押さえましたので後は部下に任せて構いません。

 しかしすさまじい戦いぶりでしたな。 人型の巨大ロボットが宇宙であれほどの動きを見せるとは。

 地球では巨大ロボットが主力兵器なのですかな?」

 

 ゲンブさんが勘違いしてMSが地球の基準だと思われる。

 

「いや、あくまで僕達が特殊なだけですよ」

 

「そうですか、できればあの兵器についていろいろ教えていただきたい。

 緑のロボットは無人だったようですが青のロボットはドラ丸さんが乗っておられましたな。

 ドラ丸さんはロボットのようですが、あれらの兵器は人が乗ることも想定しているのですかな?」

 

 MSが気になるようでいろいろな質問がゲンブさんから飛んでくる。

 ザク自体にひみつ道具の機能はないので話しても問題なかったが、ドラ丸の機体の武器だけはひみつ道具の機能があるのでぼかして答える事にする。

 いくつかの質問に答えるとパピ君が止めた。

 

「ゲンブ、彼らの兵器についてはこれくらいにしよう。

 ハジメさん、改めて助力感謝します」

 

「お礼はもういいよパピ君。 それにまだ終わったわけじゃないだろう」

 

「はい。 ですがハジメさん達の力を借りられるならギルモアを倒すことはそう難しくないと思ってしまうのです。

 ハジメさん達の兵器は敵の無人戦闘艇をものともせず完勝しました。

 ギルモアの戦力は大半が無人機で、先ほどのものとそう変わらない性能ばかりです」

 

 確かに僕も戦えば初めから負けるとは思ってなかった。

 強化プラスチックの装甲を貫けないなら、敵がどんなにいても負けないだろう。

 数に関しても全てフエルミラーで増やしたので、その気になればいくらでも用意できる。

 

「ですから終わった後のお礼の事を話したい」

 

「ん? 別にそういうのは後でいいんだけど」

 

「いえ、この場で聞いておかなければいけない事なのです」

 

 遠慮してもパピ君は引き下がる様子はなく僕に聞きたいようだ。

 ただ事ではないような雰囲気なので真面目に話に応じる。

 

「…わかった。 と言ってもほしいのは前に話した宇宙船くらいだよ。

 僕の持ってる宇宙船は大したことないから、新しい宇宙船の制作の参考にしたいんだ」

 

 【宇宙救命ボート】は目的の星の品物をインプットすれば自動でその星に連れて行ってくれるという機能があるが、広さが二畳くらいしかないのが欠点だ。

 その上ボタン一つしかない全自動なので操作性がまるでないし、一応ひみつ道具なので機能を完全に解析出来ない。

 なので技術的に解析出来そうな別の宇宙船がほしいと、パピ君に伝えていた。

 あの時は特に問題なさそうに了承してくれたが、何か問題でも出来たのだろうか。

 

「ええ、それは何も問題ありません。

 ですがハジメさんの功績はその程度で収まるようなものではないと思っています。

 功績を讃えてピリカ星での地位を約束することだって出来ます」

 

「地位?」

 

「はい、ギルモアの独裁はピリカ国民の殆どが受け入れていません。

 ハジメさんがその力でギルモアの独裁を打ち破れば、英雄としてピリカ国民に受け入れられるでしょう。

 望むのであれば次期大統領だって夢ではない筈です」

 

「えぇ~?」

 

 パピ君何言ってるの?

 

「大統領! 何を言っておられるのです!?」

 

「ゲンブ、僕はギルモアの反乱を止める事の出来なかった無能だ。

 たとえギルモアの独裁が終わっても、再び大統領の地位に戻るのは間違っている」

 

「そんなことはありません。 我らは皆大統領の帰りを待っていたのです!

 大統領がピリカの希望であればこそ、ここまで頑張ってこれたのです」

 

「うん、僕も大統領としての務めを最後まで果たすつもりだ。

 だが後を託すものがいるなら僕は全力で支援しようと思っている」

 

「まさか僕がそうだと?」

 

 自分で自分を指さしながら聞き返す。

 

「はい、ピリカ星を救った英雄であれば皆も納得するでしょう。

 大丈夫、ピリカ星の出身じゃないなど大した問題ではありません。

 皆に選ばれることが重要なのです」

 

「大統領…」

 

「どうでしょうハジメさん。ピリカ星の大統領になってみませんか」

 

 本気で言っているのだとわかったゲンブさんは諦めてしまったのか項垂れる。

 パピ君は何がうれしいのか笑顔を浮かべて返答を待っている。

 何かとても期待されてしまっている気がするが、僕が今思っていることは一つだけ。

 

「勘弁してください」

 

 そう言いながら頭を下げて謝るように断るのだった。

 

「なぜですか? ピリカ星最高の地位が手に入るのですよ。

 ギルモアがクーデターを起こしてまでほしがったものです」

 

 断られた理由を不思議そうに聞くパピ君。

 

「僕はいろいろ忙しいんだ。

 ピリカ星の大統領が大事な仕事なのはわかるけど、僕にとっては重要な事じゃない。

 たとえ地球の大統領の話だったとしても、僕にとっては忙しいのに余計な仕事を寄こさないでほしいって思うよ。

 もしピリカ星を救うと大統領になってしまうと言うのなら、今すぐ僕は帰るよ本気で」

 

 半分脅しのように心底迷惑だという気持ちが伝わるように言い切った。

 パピ君が何を考えてこんな提案をしたのかわからないが、押し付けられるなら本気で逃げ出すつもりだ。

 もしかしたらパピ君も大統領であることに嫌気がさしていたのかもしれないが、押し付けるならほかの奴にしてくれ。

 

 はっきり言い切るとパピ君は少しショックを受けたような顔をするが、少し悔やんだ表情をしながら笑顔も見せて頭を下げてきた。

 

「すいませんでした、ハジメさん」

 

「え、いや、いいんだけど。 その話は無かった事にしてくれ」

 

 突然雰囲気が変わって謝られたので、調子が狂い戸惑ってしまう。

 帰るという脅しは言い過ぎだったか?

 

「もちろんです、ですが僕が謝りたいのはハジメさんを試したことです」

 

「試した?」

 

「どう言う事なのです大統領」

 

 ゲンブさんもわかってない様でパピ君に尋ねる。

 試されるような理由に心当たりがない。

 

「ハジメさん達の兵器はとても強力です。

 その気になればピリカを単独で征服してしまえるほどのものだと。

 それが力ずくともなればギルモアのクーデターの比ではなくなるでしょう。

 だからハジメさんがピリカの支配を望むかどうか試したかったのです」

 

「大統領、そこまでお考えを…」

 

 つまりザク軍団はパピ君達に衝撃を与え過ぎたという事か。

 今のザクはピリカ星の人に合わせて地球では人間サイズだが、実物大サイズでも作ることは十分可能だ。

 それをフエルミラーなどで数を増やせば、地球でも征服出来る戦力になるだろう。

 そんな存在がいたら当事者でなかったら僕も脅威を覚える。

 乗りたいって先に思いそうだが、政治家としては脅威への対処法が優先されるだろう。

 

「ですので、ハジメさんが僕の誘いを断るのでしたらそれでよし。

 誘いに乗るようでしたら、全力で次期大統領になるのをサポートするつもりでした」

 

「「え”?」」

 

 マジデ?

 

「ほ、本気だったんですか大統領」

 

「ええ、ハジメさんがその気なら従うにしろ抗うにしろ、止めることは不可能です。

 でしたら少しでも混乱を抑えるために協力して、事態を軟着陸させることに努めたほうがいいと判断しました。

 少なくともギルモアよりはずっと良心的な方ですから、今よりはずっとましになります。

 それにハジメさんがその力を振るってくれるなら、ピリカの発展に繋がると思いましたので」

 

 場合によっては本気で僕を大統領にしようと計画してたことに愕然とした。

 その気はなかったが、冗談でなると言ってたら危なかったかもしれない。

 誘った時の雰囲気だって本気で言っているようにしか感じられなかった。

 

「…ゲンブさん」

 

「…なんですかな、ハジメさん」

 

「流石は大統領なんですね」

 

「ええ、だからこそ大統領なのです」

 

 パピ君はいわゆる頭脳チートだと最終的に納得した。

 

 

 

 

 




これ書いた頃、ガンダムビルドファイターズ見てました

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