ドラえもんのいないドラえもん ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~ 作:ルルイ
ピシア本部は混乱の極致にあった。
発信機で探り出した自由同盟本部の制圧に過剰なほどの無人戦闘艇を送り出したのにも関わらず、全機撃墜されて後詰めの制圧部隊とも連絡が取れなくなった。
それまでに制圧部隊から送られてきた戦闘データからは無人戦闘艇の攻撃をものともしない、これまで確認したことのない新型兵器が無数に映し出されていた。
全滅した無人戦闘艇の処理と新型兵器の解析でピシア本部は大騒動になっていた。
ピシア長官ドラコルルも冷や汗を流しながらギルモア将軍への報告をしていた。
ただし悪い報告によりギルモア将軍の機嫌を損ねており、顔色が非常に優れなかった。
『どう言う事なのだドラコルル!
あれほど自信を持って送り出した無人戦闘艇が全滅だと!』
「面目の次第もございません。
現在最優先で交戦記録を解析しておりますが、見たこともない新型兵器が現れたのです。
ざっと目を通したのですが、無人戦闘艇がまるで通用しないこれまで見た事のない兵器でして」
『言い訳はいらん! 儂がほしいのは自由同盟を殲滅したという報告だけだ。
明後日の儂の戴冠式までに間に合うのか?』
「現状では何とも答えられません。
無人戦闘艇がまるで歯が立たなかったのでは、今用意できる戦力では二の舞になるだけです。
情報分析が完了するまで、もうしばらくお待ちください。
終わり次第こちらから改めて連絡を入れさせていただきます」
『急げよドラコルル。 わしの気が短いのは知っていよう』
不機嫌そうな顔を隠さずにそのままモニターから消えるギルモア将軍の姿。
「無茶を言ってくださる将軍様だ。 私だってこんなこと想定していなかった。
だがなぜ自由同盟は突然こんな強力な兵器を投入してきたのだ。
隠し持っていたのだとしても、これまで影も形も出てこないのはおかしい。
開発が終わって実戦投入されたにしては数が多すぎる」
ドラコルルは自由同盟の新兵器をどのように手に入れたのか考えた。
部下にも情報を集めさせ続けるが手掛かりらしきものはまるで出てこない。
「これまで影も形も見えなかった新型兵器。
巨大なロボットのような兵器はピリカにこれまでなかった。
あんなものいったいどこから持ってきたというのだ。
…どこから?」
どこからか持ってきたという考えが、ドラコルルの直感に引っかかった。
これまでピリカ星では人型の巨大ロボットという兵器は存在しなかったのに、無人戦闘艇を壊滅させた兵器は完成度が非常に高いように思えた。
あの兵器はピリカ星で生み出されたものではなく、どこか別の星から来たのではないかとドラコルルは考えた。
だがどこの星からという考えに至ると、ドラコルル自身もつい先日まで別の星にいたことを思い出す。
その星に元大統領パピがいたことを思い出すと、繋がりがどんどん見えてきた。
「至急パピ捜索時の資料を出せ、全てだ!」
「りょ、了解!」
部下は突然のドラコルルの命令に戸惑いながらも対応した。
出された地球での資料データをドラコルルは流し見で探り続けると目的の資料を発見した。
「見つけた、これをモニターに出せ」
モニターに映し出されたのは、現在問題とされている兵器とまるでうり二つの絵だった。
それはおもちゃ屋に貼られているガンプラのポスターだったが、ドラコルルには兵器の広告にしか見えなかった
「長官、なぜパピ探索時の資料にこの兵器の絵が!」
「そんなものは決まっている! これは地球の兵器だから!
パピは我々に捕まる前に、置き土産に地球に協力者を作っていたのだ。
それが自由同盟と接触し、我々に戦いを挑んできているに違いない!」
ドラコルルの予想はほぼ的を射ていた。
わずかな情報から真実を割り出すのは、流石は情報機関の長官だけあった。
「今すぐパピを尋問する!」
「よろしいのですか?
パピはすでに裁判が行われて我々の管轄にありません」
「所詮形だけの裁判だ、構う事はない。
後で将軍に伺いを立てておけば済むことだ」
ドラコルルは足早にパピが閉じ込められている部屋に向かう。
元大統領として牢ではなく部屋を与えられているのは彼らの皮肉だろうか。
部屋の前につくとドラコルルは何の遠慮もなく中に入った。
「何の用だドラコルル」
「わかっているのだろう。 先ほど自由同盟の本部を攻撃した無人戦闘艇が未知の兵器に全滅した。
敵は地球で見かけた物に非常に酷似していた。
言え、貴様はいったい何を味方につけた!」
胸ぐらをつかんで引き起こし無理やりにでも聞き出そうという姿勢を見せるドラコルルだが、パピは慌てず落ち着いた様子でいた。
「…その様子ではよほど手ひどくやられたのだろう。
だが僕が知っていることは殆ど無い」
「構わん、別の星の人間が兵器の内容をべらべらしゃべるとも思わん」
非協力なのは承知の上だが、処刑が決まっている相手に手を出すわけにはいかないのもお互いに解っている。
ならば出来る妥協はさっさとして、時間を有効に使う方がいいとドラコルルは考えた。
将軍を待たせて機嫌を損ねるのが煩わしかった。
「まずこれだけは言っておこう、彼らの戦力を見た僕の感想だ。
彼らがその気になればギルモアのクーデターとは比べ物にならない規模の戦乱を迎えることになる。
そしてピリカは新たな支配者を迎える事になるだろう」
パピの迫真を感じさせる言葉にドラコルルは息を飲むことになる。
奇しくもその時と同じくして、自由同盟本部で本物のパピがその脅威の有無を推し量るべく、ハジメを試していたのだった。
僕は現在コンピューターを使い、コードで繋がっているどこでもドアの調整を行っていた。
原作でもよく多用されるどこでもドアだが、実際にどこでも行けるわけではなくいくつかの制限がある。
最大移動距離は10光年で、尚且つインプットされている地図の無い場所には移動できないという限界だ。
しかし学習機能もあって一度行った場所は自動で地形を記録し、地図にない場所からある場所への移動なら10光年以内なら移動可能である。
もちろんピリカ星では地図がどこでもドアにインプットされていないので、ろくに使うことが出来ない。
ならば地図をインプットしてしまえばいいと、ゲンブさん等からピリカの地図データを貰ってどこでもドアにインプット中だ。
こうすれば地下組織と連絡を取りたかった自由同盟はピシアに見つからずに接触することが出来る。
インプットされたデータの最適化も終わり、どこでもドアがピリカ星でも使えるようになった。
「これで地下組織に直接行くことが出来るはずだ」
「本当にこれでいくことが出来るのですか?」
「ゲンブ、僕もこのどこでもドアを使わせてもらった事がある。
ハジメさんが出来るというのなら出来るのだろう」
ゲンブさんはまだ使ったことが無かったので半信半疑だが、体験したことのあるパピ君が保証してくれた。
地下組織へ行く人員としてパピ君の存在を知る唯一の兵士さんが、ロコロコと共に行く準備を整えている。
「パメル、ロコロコ、準備はいいか」
「はい、大統領。 僕は問題ありません」
「僕も任務を果たすべく連絡員の役目をしっかりと頭に入れております。この任務を無事終えることが出来ればギルモアを倒すのはもう目前と言えるでしょう。辛く苦しい戦いが終わろうとしているのは感慨深いものです。すべての始まりは議会でギルモア提案を大統領が退けたことが始まりだったでしょうか。あの時からギルモアと大統領は意見が衝突するようになり次第に軍部と政府の思惑もすれ違うようになりついにはクーデターに発展してしまったのです。思えばクーデターの日僕は「ロコロコ待て」クゥーン」
兵士さんがパメルという名前だったのはさておいて、ロコロコがまたお喋りを始めたのをパピ君が止めた。
「地図は確かにインプットしたから問題なく使えるはずだ。
もし予定の場所に出なかったらすぐに戻ってきてくれ。
地下組織に向かう別の案を考える」
「わかりました、ハジメ殿。 では行ってきます」
「必ずや任務をやり遂げて見せます」
パメルさんとロコロコは敬礼をすると、どこでもドアを潜って地下組織との連絡を取るために向かった。
「無事に地下組織と接触出来ると良いのですが…」
「敵に見つからなければどちらにしろどこでもドアで戻ってこれます。
それより迎撃に出たドラ丸さんは大丈夫でしょうか?」
「先ほど連絡があって、敵の第二波を迎撃して帰還中だそうです」
一度は一方的に倒したピシアの無人戦闘艇が、時間をおいて再び自由同盟本部に向かって攻撃を仕掛けてきた。
しかし最初の攻撃よりも数は少なく、ドラ丸が再びザク部隊を連れて出撃したので余裕だろうと思っていた。
特に心配することもなく、待っていたらドラ丸が戻ってきた。
「ただいま戻ったでござる」
「お疲れ、ドラ丸」
「お疲れ様です、ドラ丸さん」
「迎撃感謝します、ドラ丸さん。
負傷者は出なかったようですが、仲間がドラ丸さんにご迷惑をおかけしませんでしたか?」
「大丈夫でござる、兵士の皆も十分な活躍をしたでござる。
流石は独裁者に抗おうと立ち上がった者達でござるな。
戦う者の気概を感じたでござる」
ピシアの攻撃の第二波には自由同盟の兵士にザクに乗ってもらって、ドラ丸と共に迎撃に出てもらった。
第二波が来ることがわかっていたので敵の到着までの間にザクの操縦を教えてぶっつけ本番の実戦参加だったので少し不安だったのだが、ザクの装甲はしっかり搭乗者を守ってくれたようだ。
「それならよかったです。 我々も役に立てるのでしたらどんどん言って頂きたい。
しかし、よろしかったのですか。 我々があなた方の兵器を使っても。
無人の自動操縦でも問題なかったのではないのですか?」
「確かにそうかもしれないですが、これはもともとあなた達の戦争です。
僕等はいくらでも協力を惜しまないつもりですが、この戦争の当事者の皆さんは出来るなら自分たちの手でギルモアを倒したいはずです。
それなら僕が戦える力を貸すことで、出来るだけ皆さんの手で戦ってもらおうと思ったんですよ。
一度目の攻撃にほぼ無傷だったザクの装甲なら負傷者もそうそうでないと思いますから」
「おお、そのような気遣いまでして頂くとは。 何から何まで本当にありがとうございます。
皆もピリカのために戦えることをとても喜んでおりました」
「それに兵器としての機密が気になるのなら大丈夫です。
パピ君から教えてもらったと思いますけど、本来の地球人とピリカの人は大きさに差がありすぎるんです。
ザクをあなた達が作れたとしても、民間人ならともかく地球の軍隊には大した脅威になりません。
何なら戦いが終わった後に何機か差し上げましょうか?
搭載されている機能をそのままと言うわけにはいかないですけど」
僕にとっては本来のサイズならザクはおもちゃも同然の代物だ。
戦闘用に改造されているが、ひみつ道具は操縦のためのサイコントローラーだけで誰かの手に渡っても困る物ではない。
ザクの大きさは地球人からすると子供くらいのサイズで、それがマシンガンを振り回せば一般人には危険かもしれないが、軍事的には大した脅威ではない筈。
いや、だけど強化プラスチックの装甲はかなり脅威かもしれない。
映画で同じ強化プラスチック装甲の戦車が大気圏に突入して耐えられる装甲だぞ。
通常の重火器どころかミサイルの衝撃にも耐えられるかも…
ちょっと早まったか?
「いえ! そこまでしていただくわけには!」
「本来関係のないハジメさん達が共に戦ってくれる上に、僕等を気遣って力そのものを貸してもらっている。
これ以上恩を受けてしまったらどうやって返したらいいのかわからなくなりますよ。
やはり大統領になりますか?」
ゲンブさんは慌てた様子で断るが、パピ君は茶目っ気を出すくらいに落ち着いた態度だ。
僕が大統領の地位など決して望んでいない、むしろ嫌がってるとわかってるからできる冗談だ。
「ならないよ。 まあ、未知の兵器なんか渡されたら騒動の元になりかねないか。
それなら終わったらすべて持って帰るから」
「そうしてください。
譲ってくれるなどと言われたら兵士の皆が遠慮なくほしがってしまいます。
あのザクという機体は我らには希望の象徴そのものですから」
あれは本当に数合わせの量産機なんだけどね、と口には出せなかった。
量産機とはいえ多くの機体のベースになるし、ガンダムと同じくらい根強い人気があるから嫌いじゃないんだけど。
そんなにほしいならやっぱり一機くらい残していこうかなと思ってしまう。
作業も戦闘も終わって一息ついていると通信が入ってゲンブさんが応答した。
「私だ、どうした………そうか、わかった。
ハジメさん、ドラ丸さん。 どうやらまたピシアの無人戦闘艇がこちらに向かっているそうです。
皆と迎撃をお願いできますか?」
「構いませんがドラ丸、ザクに乗っていた兵士の人達は大丈夫そうか?
疲れて無理そうなら自動操縦に切り替えるが…」
「大丈夫そうだったでござる。
あの後殆どの兵士たちが、訓練と言って外に出ているでござる。
あの様子であれば今度は拙者の出番がまるで無くなってしまうでござるな」
「まったく、あの者たちは…
すいませんハジメさん、ドラ丸さん、勝手なことを…」
ゲンブさんは呆れた様子で謝罪をしてくる。
どうやら本当にザクが兵士達に気に入られたらしい。
流石はザクだな。
「構いません、ピシア本部の攻撃には彼らも参加するのでしょう。
大して練習が要らないとはいえ、慣れておくことに越したことはないですから。
ドラ丸は手を貸す必要がないなら、後ろで見守るようにしてくれ」
「了解、それで行ってくるでござる」
ドラ丸は再び自分の機体で出撃するべく格納庫に向かった。
「しかしドラコルルは何を考えているんだ?
これまでの戦いであのザクという機体には、無人戦闘艇では歯が立たないと解っているはず」
「おそらくはザクの性能を確かめるための捨て駒でしょう。
勝てなくても調査するのはピシアの専門ですからな。
私であればここまで性能差を見せつけられれば匙を投げているところです」
「僕もだ。 ハジメさんが味方で本当によかったと思っているよ」
「全くです。 ドラコルルの苦悩が目に浮かびますな。
同情する気はこれっぽっちもないですが」
そして三度目の無人戦闘艇による攻撃を敢行したピシア本部では…
「どうだ、倒せた敵はいたか?」
「だめです、一機に対して集中砲火をするよう戦闘艇に命じましたが大して効果が得られません。
関節部の構造に異常をきたしたのか、腕の動きがおかしくなったように見えたのが二機ほどいたくらいで、撃破にはとても…」
集中砲火のかいがあって多少はダメージを与える事に成功したようだが、関節に異常をきたす小破程度のものだった。
ドラコルルは集中砲火で倒すことは出来ないかとわずかな期待はあったが、おそらく無理だろうという確信の元、少しでも敵の情報を引きずり出すべく無謀な特攻を繰り返していた。
三度目の攻撃で出来る事はやりつくしたが、攻撃が多少は効果はあるという事実だけで打開策に繋がる情報を得ることは出来なかった。
「くそっ! 何なのだあの化け物みたいなロボットは!
我々の兵器がまるで歯が立たないなど何の冗談だ!」
一機でも撃墜出来ればわずかでも希望が見いだせたかもしれない。
運が良ければその残骸を入手して弱点を探し出し、対処法が割り出せたかもしれない。
だが一機も倒すことが出来ず攻撃も防御も出来ないのでは、まるで打つ手を見いだせなかった。
ドラコルルの見立てではおそらく自由同盟はパピを救出するために奪還作戦を計画している。
小惑星帯に自由同盟本部の戦力だけでは無理だろうと、地下組織とタイミングを合わせて動き出すだろうと予測。
戦力は圧倒的にこちらが上で、奇襲による奪還しかないと考えていた。
だがザクの存在によって、ピシアと自由同盟のパワーバランスが完全に逆転した。
ギルモアの方針で無人兵器が大量に量産され、数の上での戦力はまだまだこちらが上だ。
だがどんなに数が多かろうと倒す事の出来ない敵が相手では、攻撃される側はどうすることも出来ない。
地下組織と連絡を取るだろうとピリカ星上空に網を張っていたが、あの戦力なら直接ピシア本部を襲撃してくる可能性は十分にある。
パピ処刑の日時は明日と大々的に発表してしまっているので、自由同盟も当然そのことを知っている。
自由同盟にとってはそれまでに動かなければ負けだったが、今となってはピシアが対策を編み出さねばザクによって蹂躙されることになる。
「自由同盟への攻撃は断続的に続けろ」
「ですが、まるで効果もなく情報もこれ以上集まるとは思えません」
「情報収集も続けるが目的は奴らをすこしでも疲弊させておくことだ。
いくら機体が高性能でも操縦するパイロットまでは不死身ではない。
時間稼ぎにしかならんが、パピの処刑までなら十分無人機も足りる。
私は将軍に直接御会いしてくる」
「わかりました」
ドラコルルは作戦室を出て、ギルモアの私室へ向かう。
ろくな対策が思い浮かばないドラコルルは悩んだ末の妥協策をギルモアに提案するため、通信で話すべきではないと判断して直接会うことにした。
報告を待っていたギルモアは、ドラコルルが来たことですぐに部屋に迎え入れた。
ろくな報告が上がってこなかったことで待っていたギルモアは非常に不機嫌だった。
わかっていたとはいえその様子にドラコルルは冷や汗を隠せなかった。
叱責は覚悟の上だが他にどうしようもなかった
「散々待たせたのだ、いい報告はもってきたのだろうな」
「申し訳ありません。 残念ながらいい報告は出来そうにありません」
「なんだと!」
ギルモアが怒って怒鳴り散らすが報告を続けない訳にはいかなかった。
ピシアは現在大きな脅威に晒されていることをギルモアに説明しなければならなかった。
怒鳴り散らされながらもドラコルルは何とか現状を伝える。
「つまり自由同盟はパピを奪還しに、明日にはここを攻撃してくるという事だな。
我々の攻撃がまるで通用しない無敵の兵器を引き連れて」
「はい、当初の予想では地下組織との連携を取った奇襲かと思いましたが、あの兵器の存在が戦況を一転させました。
あれほどの兵器があるなら直接ここを叩きに来ます」
「なんということだ。 明日は儂の戴冠式でもあるのだぞ」
ギルモアは大統領という席を廃し、皇帝としてピリカ星に君臨しようとしていた。
その節目として同時に元大統領のパピをその日に処刑しようと考えていた。
「それですが将軍、戴冠式とパピの処刑を取りやめることは出来ませんか」
「なにを言っとる! 貴様は儂の華々しき栄光に泥を塗ろうというのか!」
「ですがこのままでは自由同盟の攻撃でそれどころではなくなります!」
「それをどうにかするのが貴様らの仕事だ!」
頼み込むがギルモアは一向に考えを変える様子がない。
戴冠式どころか自分たちの命さえ危ないというのに、ギルモアはその地位への執着から一向に引く気はない。
(予想はしていたがやはり私の提案は受け入れられないか。
将軍の望みはすぐそこまで迫っていたのに、その直前で止まれと言われて聞くような方ではない。
ここでいくら無理だと言っても、明日の戴冠式は何があっても強行するに違いない)
将軍の融通の利かなさはクーデターに成功してからますますエスカレートしていた。
ずっと傍で見ていたドラコルルはこうなることを予想していたが、無駄でも戴冠式の中止を一度は提案しなければならなかった。
通らない提案を出した後に一歩引いてから妥協案を出す方が将軍も考慮してくれるという考えだ。
「ではせめてパピの処刑だけでも延期には出来ないでしょうか?」
「なぜパピの処刑を延期にせねばならん。
パピがいなくなれば奴らも戦意を失うだろう」
「恐れながら将軍。 奴らは我々が手に負えない強力な兵器を手にしたのです。
これまでの弱小戦力ならば奇襲攻撃やゲリラ作戦しか出来なかったでしょうが、今は正面から我々に戦いを挑む事の出来る状況なのです。
そんな状況で奴らの象徴であるパピを殺せば、手綱を失った暴れ馬のように我々に襲い掛かってくるでしょう」
戦力というアドバンテージがなくなった今、自由同盟に対して有効な手札はパピの身柄だ。
ドラコルルはパピを人質として使い少しでも情報を得る時間を稼ごうと考えた。
「パピがこちらの手にある内は、奴らも慎重にならざるを得ません。
処刑を中止すれば奴らも慌ててパピの身の危険を冒してまで救出しようとはしないでしょう。
明日の戴冠式に攻めてきてもパピの命をこちらが握っているとわかりやすく示せば奴らも簡単には動けません」
あの兵器が攻めてきてもパピを人質としてうまく立ち回れば、鹵獲することが出来るかもしれない
流石にそこまでうまくいったら敵の策を真っ先に疑うが、時間を作ることが出来れば対処法を見つける可能性もグンと上がる。
パピを人質として使うことはドラコルルには絶対に通さねばならない妥協策だった。
「パピを処刑出来ないのでは、わしの地位を盤石なものに出来ん」
「ですが、地球の兵器を手に入れた自由同盟は将軍の地位を脅かしうる存在になってます。
パピを処刑出来ても脅威は残り、むしろ危機的状況に陥りかねません」
「そうなる前に貴様らが奴らを片付けておればよかったのだ」
「申し訳ありません。 ですがパピの処刑はどうか御一考を」
ドラコルルは頭を下げながらがギルモアに頼み込む。
これが通らなければ、後は明日の戴冠式にはザクに手も足も出ない無人機を大量に配備するだけの張りぼての警備で対処しなくてはいけない。
ピシア自慢の無人機がここまで頼りなく感じたのは初めてだった。
「…わかった、処刑の延期を許可する。 ただし明日の戴冠式は絶対に成功させろ。
自由同盟にわしの戴冠式の邪魔を絶対にさせるな」
「もちろんです。 ピリカ星全土から可能な限りの戦力を首都ピリポリスに集結させて戴冠式の警備にあたります。
パピは人質として使うために軟禁場所を移動させますがよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわん」
ドラコルルは話を終えると、すぐに作戦室に戻り戴冠式の警備のための配備を進めた。
ギルモアに告げた通りピリカ星全土から戦力を首都ピリポリスのピシア本部に集中させ防衛に当たらせる。
その分各地の戦力は手薄になったが、将軍の警護とパピ奪還の阻止のためにピシアのほぼ全戦力が首都ピリポリスに集うことになる。
これほどの戦力の動員はピシア結成以来初めてであったが、ドラコルルはまだ出来る事はないかと翌日まで悩み続けた。
あらゆる手を尽くしても尽くし足りないという不安に、ドラコルルは苛まれ続けた。
戴冠式当日。
ドラコルルの予想では自由同盟が動く確率は、不確定要素を含みながら五分五分と考えていた。
処刑の中止はピリカ全土に広めたので、自由同盟にもこの情報は伝わっている。
パピの命の保証がされているならば双方の危険を冒してまで慌てて救出に来るはずはないと考えるが、地球の兵器(ザク)の存在が何か予想だにしない要因を勘繰らせて不安を煽り続けた。
大量の無人戦闘艇が都市中に配備されているが、想定されているザクの戦闘力と数を考えると大半を消費しても倒しきれる算段が立たなかった。
最初の攻撃から断続して今も送れるだけの無人戦闘艇を送り続けてたが、いまだに有効な攻撃を見つけることが出来なかったからだ。
そして今、十数回の攻撃を撃退された後に同盟にこれまでとは違う動きをピシアは感知した。
「将軍、小惑星帯を抜けてきた多数の信号を地表の監視網が捕らえました」
「同盟は動いたか…。 やはりこちらへ向かってきているのか?」
ピシアの作戦室にてドラコルルは戴冠式の警備をしながら同盟の動きを見張っていた。
敵の新たな動きを察知した作戦室の人員は皆緊張を高める。
まるで勝ち目のない兵器がこちらに向かって来ると知っていれば、誰でも竦んでしまうだろう。
まして彼らはその兵器が現れてから碌に休まず調査を行い、ピシア内でもっともその脅威を理解している者たちだ。
逃げ出したいと考えるモノも多数いるだろうが、ギルモアの支配下で下手な逃亡は死に繋がることを所属している彼らが一番よく分かっていた。
同盟が動いたのならまっすぐこちらに向かってくるだろうとドラコルルは考えていた。
だが告げられた報告はドラコルルが予想していた内容とはかけ離れていた。
「同盟の新兵器が各主要都市に向けて分散して降下を開始しました!」
「各主要都市だと! しまった、奴ら我々の裏を突いてきたか!
戴冠式にピリカ全土から戦力を集めている。
手薄になっている各地では、簡単に同盟に拠点を抑えられるぞ!」
ザクの存在を意識するあまり、意表を突かれたことがドラコルルには堪えた。
各都市を先に制圧することで、ピシア本部を置く首都ピリポリスに時間を掛けて圧力をかけるのが狙いだろうとドラコルルはすぐに考えた。
今更首都に集中した戦力を戻したところで間に合わず、戻したところでザクに対抗出来る可能性は低いのでどうしようもない。
各都市は諦めるしかないと考えたところで、部下からの更なる報告がドラコルルを追い込むさせる。
「そうではありません!
ここピリポリスにも敵機が向かってきているようです!」
「なに? いくら地球製の兵器が優れていても分散したのでは、各都市はともかくここを少数で攻略するのはいくらなんでも不可能だ」
小惑星帯での戦いで確認されていたのは大よそ百機程度。
各都市に分散したとの報告から、敵は各地に精々十機くらいだろうと思っていた。
「監視網で確認された敵機の数が500を超えています!
内300近くがここに向かっているとのこと!」
「なんだと!?」
あまりの数にドラコルルは愕然とする。
増援を想定していなかったわけではないがその数は想定外だった。
予備戦力は多くても倍だろうと、常識的或いは現実的な軍の運用法で考えていたが、あまりの高性能にこれ以上はないだろうと無意識に楽観視してしまっていた。
窮地に陥っていた所を後押しするように現れた想定以上の増援に、ドラコルルは敵の数のプレッシャーと疲労に眩暈を覚える。
ピリカ星の首都ピリポリス。
この日、この都市で独裁者ギルモアが皇帝になる戴冠式が予定されていたが、それは都市が本人のクーデター以来の戦場になることによって無くなる。
自由同盟はギルモアに奪われた自由を取り戻すために、この日決戦を挑んだ。
「パメルさん、この後はどうすれば」
『出来る限り市街地を傷つけたくないので、郊外や大通りで戦い無人機の数を減らしましょう。
各部隊も配置につきピリポリスを全方位から囲い込むことが出来ました。
逃亡を図るギルモアの有人艇を逃さなければ、ザクの性能で我々の勝利は間違いないでしょう』
僕等は宇宙から直接降下してピシア本部のある首都ピリポリスを包囲し、ザク部隊の指揮は軍事行動に慣れた自由同盟のパメルさんに譲って攻撃を開始した。
敵の無人兵器は各地から集めたらしく大量に配備されていたが、こちらも無人機のザクを追加投入することで敵を逃さないための包囲網を完成させた。
各地の戦力を無理に集めたのを好機と見て、ゲンブさんが各地の開放の優先を提案したのだが、僕がザクの無人機を更に増員し命令権を同盟隊員の操縦するザクに預ける事で戦力を充実させ、首都と各地に同時に一斉攻撃を仕掛けた。
パメルさんが無事に同盟本部に戻ってこれたので地下組織との連絡が密になり、敵の無人兵器を壊滅させた後に市民の一斉決起が起きる事になっている。
聞こえてくる同盟からの通信では各都市のピシア支部の強襲に成功し、各地の地下組織もそれに乗じる事でどんどん解放されてるらしい。
各都市に比べてピシア本部のあるピリポリスは敵が集結しているので、無人兵器の殲滅にまだまだ時間を要していた。
今回は僕もザクに乗って、無人機を指揮しながら敵の無人兵器を破壊して回っている。
ザクの有人機と無人機の比率が1:5で配備しているので、かなり人手不足になったのが僕も作戦に参加出来た理由だ。
同盟本部に何度も攻撃を仕掛けてきた無人戦闘艇の戦力から、ザクならやられることはないだろうとドラ丸に認めさせてようやくの参戦だ。
僕の乗るザクは赤に染めて角を付けたちょっと性能がいいだけの、いわゆるシャア専用ザクだ。
ガンダムタイプがいいと思ったのだが、実はまだビーム兵器がうまく作れず主力武器がないので実体武器が主流のザクのカスタム機で今回は我慢することにした。
ドラ丸の機体もビーム兵器は搭載させず主力武器が実体剣(刀)なので、ガンダムタイプのアストレイは採用して持ってきた。
『この戦力であれば無数の無人機であっても、そう遠くない内に殲滅が出来るでしょう。
終わりましたら後はピシア本部を制圧するだけです』
「ほかの人にはまだ知られていないけど、パピ君は実際にはこちらで確保済み。
戦力が完全に及んでない現状では既にピシアは詰んでいる」
そうなるように仕向けたのはすべて僕の策だが、殆ど力押しで済んでしまうのは味気なく感じる。
面倒臭い事態にならないのに越したことはないが、遊べるくらいの冒険もしてみたいと思うくらいには敵の無人兵器は只の動く的も同然の扱いだった。
都市を埋め尽くすように展開していた無人兵器も、ザク軍団の攻撃で目に見えて減ってきていた。
このまま全て片付けて敵の本部を制圧して終わるかと思ったが、ピシアも死に体とは言え足掻きをするくらいは余力が残っていた。
それが本当は価値がない物だと最後まで気づかないまま。
ピシア本部から公衆大型モニターを乗せた車両が都市内に広がり、戦っている自由同盟の目に映るように配置された。
『自由同盟諸君、この声が聞こえていたら直ちに停戦したまえ』
大型モニターにドラコルルが映ると同時に敵の無人兵器も、攻撃を中止してこちらの攻撃の回避行動だけをとるようになる。
こちらのザク達も攻撃に戸惑いが見えて、どうすればいいかという声が通信がいくつも聞こえてきた。
『各自一度攻撃を中止して敵機から距離を取って警戒態勢、油断はするなよ。
自由同盟隊長パメルだ、一体どういった要件だ、ドラコルル。
降伏するのであれば直ぐに無人兵器を停止させて直接出てこい』
自由同盟の対応としてパメルさんが対応に出た。
部隊を率いているのが実質パメルさんなので、ここは僕の出る幕じゃない。
そもそもの予定では僕が表に出るような機会はない。
よっぽどのことが無ければこのまま安全にザクを動かすだけで終わる筈だ。
『降伏を要求するのはこちらの方だ。 見るがいい』
モニターが移り変わるとそこには拘束されたパピ君の姿があった。
『強力な兵器を手に入れたことで調子に乗り過ぎたようだな。
パピの身柄はこちらの手の内にあり、こうすれば貴様らは碌に動くことも出来ないというのに』
再びドラコルルがモニターに現れると銃を取り出してパピ君に突き付けた。
一目で人質として扱う事がわかり、通信からはザクに乗った同盟兵士達が大統領と呼ぶ声が聞こえる。
ドラコルルの予想通り、同盟兵士達は少なからず浮足立っていた。
『私がこの引き金を引けばどうなるかは分かっているだろうが、それをするのは私も本意ではない。
その強力な兵器から全員降りて降伏しろと言いたいところだが、貴様らでもそこまで愚かではないだろう。
この場を引けば私も君らの大事な大統領を傷つけなくて済む』
ドラコルルは無茶な要求を例えてから撤回したのは、彼自身も後がないことからの同盟への妥協だった。
無茶な要求をして大統領を切り捨てるようなことになれば、ギルモア派の生命線は完全に断たれてしまう。
彼の本意はこの場を凌いで対抗策が得られるまでの時間稼ぎであり、同盟の救出対象であるパピを殺す事は自分達を殺す事も同然だったからだ。
戦場は粛然として双方の動きは止まったままだが。通信にはパメルさんにどうすればいいか命令を求める声が殺到していた。
救出対象を人質に取られて同盟兵士達はどうすればいいか分からず混乱していた。
そんな中で一機の有人機のザクとそれが率いた無人機たちが無人兵器への攻撃を再開した。
『なにをやっている! 貴様にはこれが見えていないのか!』
ドラコルルが攻撃を再開されたことに驚き、攻撃を再開したグループに近くのモニターの車両が動く。
一部の攻撃にすぐに反応出来たのは、町中に配置されたギルモアの肖像がカメラの役割をしてピシアの監視網になっているからだ。
勝手に開始された攻撃を僕もパメルさんも止めようとはせずに、これから起こることを平然と見守っていた。
その間もグループの攻撃が続き、モニター車両を除くその辺り一帯の敵の無人兵器はあっという間に全滅していた。
『何処のどいつか知らんが貴様、パピの命がどうなってもいいのか!
殺さずとも手足の一本くらい奪っても構わんのだぞ!』
激昂する一方でドラコルルは非常に焦っていた。
パピが人質として機能しないのであればピシアにもはや打つ手は残されていないのだ。
相手が何を考えているのかわからないが慎重に交渉をしなければと、相手の行動の意図を読み取ろうとさまざまな考えが交錯していた。
こちらの脅しに屈しないという意思表示か、或いは人質を本気で殺さないか探るための一当てか、はたまた単なる一部の部下の暴走か。
相手の意図が読めないがドラコルルは相手にされないのが一番困ると怒鳴らざるを得なかった。
その脅迫への返答はグループを指揮していた有人機のザクの外部スピーカーから流れてきた。
『なら奪ってみるといい。
そこから本当に僕の命が奪えるというのならな』
『な、なに………その声は、なぜ…
どういうことだ!?』
スピーカー越しに聞こえてきた声にドラコルルの混乱は限界に達しようとしていた。
聞こえてきた声の主は自分の目の前にいる筈なのだから。
『こういうことだ』
その声と同時にザクのコクピットが開き、操縦していたパイロットがコクピット前に持ってきたザクの掌の上に立った。
『なぜだ!なぜパピがそこにいる!』
ドラコルルの驚きの声がモニター越しに響き渡り、戦いに参加していた一部を除く同盟の仲間も驚愕する。
助ける筈の大統領が一緒に戦っていたのだから驚くのは当然だ。
『答えよう。 お前たちが地球で捕まえたと思っているそこにいる僕は地球の協力者に用意してもらった替え玉のロボットだ。
僕の容姿と記憶を完全にコピーしたロボットだから、完璧な受け答えで気づかないのも無理はない』
『う、嘘だ! それならばお前が本物だという証拠はどこにある!』
最後の頼みの綱が偽物にすり替えられていたことを暴露されたドラコルルは、半分錯乱した様にその事実を否定する。
聞かれることを想定していた本物のパピ君は冷静にその証拠を突きつける。
『替え玉のロボットの鼻がスイッチになっている。
それを押せばそこにいる僕はただのロボットに戻るだろう』
『………』
言っていることが本当ならばすべてが終わってしまう。
それがわかっていながらドラコルルはふらふらと銃を突きつけていたパピ君に近寄り、言われた通りに鼻のスイッチを押してしまった。
縛られていたパピ君は姿形を変えながら小さくなっていき、あっという間にのっぺらぼうの人形になってしまった。
ドラコルルはそれを呆然と見つめ、その光景を映していたモニターを見ていた者たちも驚かざるを得なかった。
そんな中で最初に動き出したのはすでに場の流れを支配していたパピ君だった。
『大統領パピはここにいる、僕はもう大丈夫だ!
後はギルモアを倒し、奴の独裁に終止符を打つだけ。
国民よ、僕に力を貸してくれ!』
パピ君の呼びかけに一拍を置いて、都市中から喝采の声が響き渡った。
一緒に戦っていた自由同盟の兵士達だけでなく、こちらの様子を窺っていた地下組織のメンバーやピシアを恐れて家屋に隠れていた市民たちの歓声もここまで響き渡っていた。
驚くほど多い人々の歓声はパピ君の支持の強さか、あるいはギルモアの独裁を嫌う不人気さによるものか。
歓声が響き渡ると進軍はすぐに開始された。
先ほどよりはるかに高まった士気により、敵の無人兵器はザクの攻撃によりどんどん撃破されていく。
それに続くようにザクの進行後から地下組織の人々が武器をもって決起し、ザクでは小さくて対処しきれなかったピシアの兵士を次々に倒していく。
ザクの軍団と地下組織の人々の進撃をピシアにはもはや止めることは出来なかった。
「うまくいったね、パピ君」
『すべてハジメさん達のおかげです。
ドラコルルもこの状況ではもはや打つ手は残されていないでしょう。
後はギルモアを見つけ出して捕らえるだけです』
『大統領、御自身の存在の公表と皆への鼓舞はもうよろしいはずです。
まだ何があるかわからないのでもうお下がりください』
パピ君の偽物と本物を大々的な公表と鼓舞で士気を高め、同時にピシアの戦意を砕く作戦は大成功に終わった。
その為にわざわざパピ君もザクに乗って戦場に出てきたわけだが、ゲンブさん達は当然大統領を戦場に出すことを快く思わなかった。
作戦の変更を何度も申し出てきたが、パピ君は前線に出る事に反対せずむしろ喜んで自らザクの操縦を学ぼうとした。
逃げるしかなかったクーデター時から抱えてきた自責の念から、今度は自分も戦うのだと決して譲らずここまでついてきた。
『ここまで来て今更下がれだと。
僕の言葉によって今まさに国民一人一人が立ち上がったんだ。
そんな僕が一人だけ後ろに下がるなど出来る訳がない』
『ではせめて我らの傍を離れないでください。
それにあの作戦で大統領がザクから降りる必要はなかったはずです。
なぜそんな危険な真似をしたのですか』
言った通りパピ君が存在を暴露するときに、別にザクから降りる必要はなかった。
モニターに映っているコピーロボットが偽物であることをはっきりさせればよかっただけなので、いくらザクが頑丈でもコクピットから出た状態では安全の保障など出来る筈がない。
今は再びザクに乗り込んでいるからいいが、あの時攻撃されていたらと思うと恐ろしくてしょうがない。
パメルさんが怒るのは当然だろう。
『僕は大統領だ。 姿を隠して国民に語り掛かける事など出来ない。
事前に周囲の敵を倒して安全を確保していたし、姿をはっきり見せねば敵も国民も信じることは出来なかった。
心配させてしまったのはすまないが、これは僕が国民に示さねばならない事だったんだ』
『……わかりました、もう何も言いません。
ですがこれからは絶対に単独で行動しないでください。
ここで大統領を再び失うわけにはいかないのです』
『ああ、だが共には戦うぞ。
情勢は決しているといっても数だけはまだまだ多い。
ギルモアを捕らえるまでは油断出来ない』
『はい』
パピ君達も再び戦線に加わり無人兵器を駆逐していく。
数は多くても圧倒的な性能差から戦線の停滞を許さず、どんどん同盟側が奥に押し込んでいく。
ピシアも必死なのだろうが、もう奴らに打つ手は残されていないだろう。
市街地も抜けてついにピシア本部が見える所まで攻め込んだ。
『大統領、あれを見てください!』
『あれは!』
パピ君達が気付いたのと同時に、僕にもその存在が目に入った。
ドラコルルが地球にやってきた時に乗っていたクジラ型の巨大戦艦。
それがピシア本部から姿を現し、宙に浮かび上がった。
『あれが動いているという事は…』
『間違いなくドラコルルがあそこにいるだろう』
あの巨大戦艦で決戦を挑んでくるのかと思ったが、牽制に無数のビームを周囲に放ちながらどんどん高く昇っていく。
『ッ! まさかドラコルルめ、逃げる気か!』
『まずい、ザクは地上では戦闘機のように素早く飛ぶことが出来ない!
逃げられる前に撃ち落とすんだ! ミサイルも使え!』
パメルさんの命令が通信で響き渡ると、一斉にすべてのザクが攻撃していた無人兵器を無視して遠距離攻撃を巨大戦艦に打ち出す。
ヒートホークとマシンガンの他にクラッカーと脚部ミサイルポットが装備されているが、後者は市街地戦の被害を抑える事と無人兵器にはマシンガンの威力で十分だったので使われていなかった。
マシンガンとミサイルが巨大戦艦に飛んでいくが、これまでの無人兵器と違い防御力がかなり高い為びくともせずに宇宙に向かって上がっていく。
周囲は焦りの声を上げるが、僕はあの船が出てくることを想定していたので策というほどではないが用意はしてある。
「ドラ丸、出番だぞ」
『承知でござる。 戦いに加わらずに待っていたかいのある大物でござるな』
戦いに加わらずに後方で待っていたドラ丸の機体が、高く飛んでいく巨大戦艦に向かってすごい速さで飛んでいく。
前にも言ったがドラ丸の機体は高速機動近接型に改造して、性能通りのザクとは違い大気圏内でも自由に空を飛びまわれるようになっている。
戦線に加わっていれば無人兵器相手の無双ゲーになっていただろうが、パピ君達を活躍させるために巨大戦艦が出るまで待機していた。
ぐんぐん空高く飛んでいくドラ丸の機体はついに巨大戦艦を捕らえると刀を振り上げる。
『チェストォォォーーーー!!』
雄叫びと共に刀を振り下ろすとなんでもカッターの機能が働き、サイズ的には一度ではとても斬れない筈の巨大戦艦を真っ二つにした。
巨大戦艦は真っ二つにされたことで推力を失ってどんどん降下して行き都市郊外の海に墜落した。
――ウオオオオオォォォォォ!!!――
ピシアの巨大戦艦を真っ二つにして撃墜したのを見届けた直後、同盟と市民が雄叫びを上げて勝利の歓声が都市中に響き渡った。
巨大戦艦はピシアの最大戦力であることはピリカ星ではだれもが知る所であり、それが墜ちたという事はピシアの敗北したことを示した。
自由同盟が勝利しギルモアの独裁が終わったのだと、誰もが理解したのだ。
歓声はしばらくやむことはなく、多くの者が涙を浮かべながら勝利の余韻をかみしめていた。
戦いが終わってもパピ君達の仕事が終わったわけではない。
むしろギルモアによって荒らされたピリカ星の復興こそが、政を担う彼ら本来の仕事だった。
墜落した巨大戦艦からはドラコルルと一緒にギルモアも発見され捕らえられる事になった。
あのままではピリカ星のどこに行っても逃げられないと、宇宙に逃げて再起を図るつもりだったようだ。
パピ君が地球の兵器を手に入れたことで形勢が逆転したのだから、同じように地球の兵器を手に入れてこようという考えもあったんだとか。
地球でも僕しか本物のようなザクは持ってないのだからどうしようもないのだが、来られて地球の人に知られては迷惑なので捕まえられてよかった。
この戦いでピシアの殆どの無人兵器が破壊されたので、残党がいてもまともに戦力が残ってないのでザクが無くても勝てるだろう。
少数によるゲリラ作戦とかもあるが、小さな争いなどは平和になっても無くなるものではないので気にしてたらキリがない。
それにこの星の大統領のパピ君ならともかく、地球人である僕が気にする事ではない。
戦後の残骸処理に少しばかり協力し、大よそ事態が落ち着いてきたら、ザクを全て回収して地球に帰る事にした。
報酬として宇宙船もパピ君の乗ってたロケットと真っ二つにしたピシアの巨大戦艦を貰い、元のサイズになってから四次元ポシェットに入れて持って帰ることにした。
パピ君のロケットはともかく巨大戦艦は軍事用なので、地球人のサイズに応用できれば今後の戦力の向上に大いに役に立ちそうだ。
帰るためのロケットの前でパピ君、ゲンブさん、パメルさんが見送りに来てくれている。
「ハジメさん、ドラ丸さん、ピリカ星を救って頂き改めて感謝の言葉を贈らせてください」
「ピリカ星国民一同、心からあなたに感謝しています」
「お二人の事は、未来永劫ピリカ星の歴史に刻まれるでしょう」
この場にはパピ君達三人しか来ていないが、僕が事前に止めていなければ国民が押しかけてきて大々的な見送りをされるところだった。
彼らにとっては偉業なんだろうが、僕等にとって大したことではないと思ってるので、出来れば未来永劫には語り継がないでほしい。
「もう少し居てもらっても構わないのですよ。
パーティーやパレードで歓待を受けてほしかったのですが…」
「もう十分ですよ。 戦いが終わってから市民の方ではずっとお祭り騒ぎが続いてるじゃないか。
これ以上もみくちゃにされたくないからそろそろ帰りたいんです」
「それは残念」
戦いが終わってから昨日までずっとお祭り騒ぎに巻き込まれて、英雄扱いで多くの人から感謝の言葉とお礼の品を山のように渡され続けた。
目まぐるしくお礼を告げに人が現れ続けて、そろそろうんざりし始めたところだった。
そこでそろそろ帰ると言い出したのだが、このままでは帰るだけでも大騒動になりそうだったので、顔見知りの三人だけに見送りは控えてもらった。
「ぜひいつでも遊びに来てください。
僕等はいつでもあなたの来訪をお待ちしております」
「まあ、縁があったらね」
劇場版での出会いは一期一会だ。
忙しいという意味では、そうそう再びピリカ星に訪れる事はないだろう。
三人に見送られて僕は宇宙船と戦争体験という収穫をもって地球に帰る。
今回の戦争の経験はザクなどの無人機を戦争でどのように運用するのか試すための試金石でもあった。
今後、宇宙に出る映画の話は戦闘になるものが多い。
戦争に良いも悪いもないが、今後の対策に大いに役立つ経験を得ることが出来たと思っている。
宇宙船の中で戦いが終わったばかりだというのに、次の事件の対策の事を考えている。
帰ったら少し休むだろうが、戦いになる事件はこれからが多いのだ。
のちにある理由でピリカに訪れる事になるのだが、その時にピリカ星のMSを見る事になる。
解放戦争と呼ばれる事になる今回の戦いで大活躍したザクを多くの人が求めて、独自に開発されたピリカ星の人型兵器が歩き回ることになっていようとは思いもよらなかった。
鉄人兵団を書いていたら、ピリカの戦後処理を少し手伝っていたと思っていたのですが、書いてなかったので僅かに修正を入れました。
映画の小宇宙戦争のエンディングで、ジャイアンが橋を架けてるイメージがそれに繋がったのだと思います。
修正前《 戦いが終わって大よそ事態が落ち着いてきたら、ザクを全て回収して地球に帰る事にした。》
修正後《 戦後の残骸処理に少しばかり協力し、大よそ事態が落ち着いてきたら、ザクを全て回収して地球に帰る事にした。》