遊戯王の二次創作にもかかわらずデュエルのない回ではございますが、ご勘弁ください。それでは、26話、お楽しみください!
午後3時30分。真夏にも関わらず学ランを着続けるのは、特別なこだわりが遊士にあったからだ。ハートランド中央公園ではまだまだ太陽が眩しく地面を照らし続けている。青空の下、鳴き続ける蝉の声を聞くのは、遊士にとっては酷だった。
「あちぃな…。」
遊士はスマートフォンで時間を確認したが、思えば不思議だった。次元が違えば、スマートフォンなど使い物にならないのかと思っていた。しかし、次元が違っても同じ国家が存在し、同じ時間が存在する。そして、スマートフォンの充電器の規格も同じ。電波も受信する。
次元が分かれているとは言っても、元々は一つの次元だったのではないか、そんな仮説が、遊士の頭の中で浮かんでいた。しかしそんな時間も、ある少年の自分の名前を呼ぶ声が、終わりを告げた。
「おーい!!遊士!!」
「遊馬!!」
ロクな挨拶もなしに、本題に入ろうとする遊馬と遊士のやり取りは、まだ子どものそれというより他なかった。
「また、ナンバーズが見つかったのか!?」
「ちげえよ。俺は別にナンバーズハンターじゃねえ。遊馬、お前、ヘヴンからの放送?みたいな奴、見たんだろ?」
「あぁ、この前の!ゼンゼンフッコクだろ?見た見た!!遊士も見たのか?」
突然、皇の鍵から現れたアストラルが遊馬に耳打ちをした。
「遊馬。それを言うなら宣戦布告だ。」
「うっるせえ!話の骨を折るなよ!」
「それは話の腰を折る…だ。どうやら君は、もう少し日本語の勉強を…」
「だーかーら!ちょっと黙ってろって!」
「ハハハ…。あぁそう、宣戦布告ね。俺も見たぜ。んで、お前らどうするのかなって。」
「俺か。そりゃ、あいつらにここを滅茶苦茶にされちゃたまんねえからな。戦うぜ!」
「だが遊馬、彼らもそうだが、大きな危機は別のところからも迫っている。」
「バリアン。」
「彼らはこの人間世界を、カオス化させることを目論んでいる。バリアン七皇からは宣戦布告のようなものはないが、我々の知る限り、バリアン七皇は、ドルベ、アリト、ギラグ、ミザエル、ベクター、そして2人。」
「お前ら、バリアン七皇を全員知ってるんじゃねえのか?」
「まだ覚醒していない…と聞いているが、その2人には会っていないのだ。」
「1人はナッシュっていう奴だった。」
「ナッシュ。そういや、その名前、どっかで。」
遊士が顎に手をあてて考えたのは、ある疑問であった。バリアン七皇同士で戦いあっているということ。
「だけど、おかしいのは、バリアン七皇は、仲間同士で潰し合っていたぜ。」
「え?どういうことだよ!?」
「ベクターがドルベを吸収したんだ。そしてそれをナッシュが知って、ナッシュがベクターを倒そうとしたんだ。あいつら…仲間じゃねえのかな。」
「ベクターが?」
彼にとっては紛れもなく衝撃的な出来事であっただろう、彼の裏切り。真月という人物が、バリアン七皇の一人、ベクターであったということ。遊馬はしばらく言葉を失った。それ故か、アストラルが口を開いた。
「遊馬、遊士。それは我々にとっては恐ろしいことかもしれない。」
「どうしてだよアストラル。仲間同士で潰し合ってくれれば好都合だろ。これで倒さなきゃいけない七皇が6人になったんだぜ?」
「いや、ベクターがなぜ裏切ったかを考えると、そう浮かれてもいられない。彼が他の七皇の力を手に入れようとするのは…おそらく。バリアンの神、ドン・サウザンドの力を得るため!!」
「ドン・サウザンド?」
「それって、アストラルが昔戦ったっていう?」
「そうだ。」
すると、3人の男子と2人の女子がこちらに走ってくるのがわかった。そのうち1人の女子が「遊馬」の名を呼んでいるので、明らかに遊馬の知り合いであることはわかった。
「遊馬!探したぞ!」
「とどのつまり、勝手に行っちゃうんですから!」
「疲れたウラ。」
「もうこれ以上、キャットべにゃ~い!」
「遊馬。もう、何で黙って行っちゃうの!?」
「みんな!!わりぃ。今日は、先約が…」
「え?」
先約と言われると、そこにいた5人の遊馬の同級生らしき人物は揃って学ランを来たガタイの良い高校生を凝視した。
「だ…誰ウラ!?」
「遊馬の友達か?俺、草薙遊士って言うんだ。」
「草薙さん?そんな名前の知り合い、いたか、遊馬?」
少し出た腹が気になる少年、武田鉄男が遊馬に話しかけた。遊馬とは小学校の頃からの腐れ縁、知らない間に、どちらかの知り合いも、2人の知り合いになることがしばしば。
「ああ!そっか。ナンバーズクラブのみんなは、初めてか。会うの。」
すると、遊士が自己紹介をしたためか、ナンバーズクラブと呼ばれた5人の生徒は、先ほどの鉄男から順番に自己紹介を始めた。
「あっ、俺、武田鉄男って言います!」
「僕はとどのつまり、等々力孝です!委員長やってるので、委員長って呼んでください!」
「俺は、表裏徳之助ウラ!あっ、これは口癖ウラ!」
「あたし、ナンバーズクラブのマスコットガール、キャッシーよ!キャットちゃんって、呼んでにゃ!」
「私、観月小鳥です。遊馬とは幼馴染です!よろしくお願いします。ってか、遊馬!あんた、年上の人には敬語使いなさい!!」
「気にすんなよ。別に俺は尊敬される程偉い人じゃねえ。俺がそういうことを言うのは、冗談で言う場合しかねえぜ。……っと、みんな、よろしくな!」
知り合いの輪が大きくなることは、遊士にとっては切望していた訳ではなかったが、喜ばしいことではあった。だが…
「あれ…?急に雲が…」
「今日は雨は降らない予定ウラ。」
何かが空から降ってきた。明らかに雨ではない。もっとゆっくり、まるで木の葉が舞うかのように、デュエルモンスターズのカードの大きさのものがゆっくりと落ちてきた。
上空にある時は、光の反射によるものか、それがカードであることはわからなかったが、ジャンプすれば届く程の高さまで落ちて来ると、それが緑色のカード、つまり魔法カードであることがわかった。
「ん?カード?」
小鳥がそのカードに興味を示し、取ろうとしたその瞬間、アストラルの鋭い声が響き渡った。
「取ってはいけない!!!」
「えっ!?」
咄嗟に手を引いた小鳥は、そのカードを取ることはなかったが、地面に落ちたカードを見ると、《RUM-バリアンズ・フォース》であることがわかった。
「バリアンズ・フォースだと?これって、バリアンが持っている。何でこんなにあるんだ!?」
「おそらくこのバリアンズ・フォースは、人間の力を奪い取るものだ!バリアンが用意したに違いない!一旦ここから離れるぞ、遊馬!」
「おう!みんな!あの屋根の下まで走るんだ!!」
徳之助は一番最後に走り出した。アストラルはバリアンズ・フォースと言っていたが、彼の目に映ったのは、それだけではなかった気がする。黒いカード、エクシーズモンスターもなかったであろうか。
「これって…」
「徳之助君!!早く行きますよ!」
「あっ、も、もちろんウラ。」
徳之助は手に持っていた「それ」を自身のズボンのポケットに入れ、走り出した。
公園の管理棟の屋根の下で5分ほどじっとしていると、バリアンズ・フォースの雨は降り止んだ。その間、空の色がどうなったかなどは関心事ではなかったが、遊士が雨が止んだのを確認し、屋根の下から顔を出すと、
真夏の3時だというのにもかかわらず、夕焼けが広がっていた…と遊士は思ったが、それは残念ながら夕焼けではない。妙にピンク色であるなとは思っていたが。
「これは…バリアンの侵攻が…」
「どういうことだ、アストラル!?」
「バリアンは、そのこの人間の世界をカオス化させるために、この世界に侵攻する。それが始まったのか、遂に。全てのナンバーズなど、集まらなかった!!くっ!」
アストラルが眉間に皺を寄せ、握り拳を作っていると、遊馬が彼に声をかけるよりも前に、何者かの低い声がその場に響き渡った。
『アストラル。そして九十九遊馬。』
どこから声がかけられたのか、方角が全くわからなかった。2人はキョロキョロと周りを見渡してみるものの、彼らの視界に映るのは、ナンバーズクラブの面々のキョトンとした表情のみ。
「え…?」
「どうしたの、遊馬?」
「小鳥、聞こえなかったのか?」
「この声はみんなには聞こえてないぞ、遊馬。」
「えっ、本当か!?」
「おそらくこの声の持ち主は…」
『久しぶりだな、アストラル。』
「貴様は…ドン・サウザンド!!」
「えっ、ドン・サウザンド!?」
小鳥、鉄男、委員長、徳之助、キャッシーの頭上には「?」マークが浮かんでいる。同時に彼らは首を傾けたのだ。
「誰ウラ?」
『アストラル。九十九遊馬。今は実体を移す依り代もお前たちの目の前にはいないからな、声だけが聞こえると思うが、心配するな、今日はほんの挨拶代わりだ。』
「お前か!!バリアンズ・フォースをばら撒いたのは!!」
『もちろんだ。我が力を使い、欲のある人間どもを、こちらの世界に招待してやったのだ。』
「欲のある人間を招待?」
『我は人間の世界をカオス化させることが必要。だが、人間は生まれながらにしてカオスの力を持っている。誰にでも、良き心、悪しき心、双方がある。違うか?』
「確かに、人間はそうかもしれねえ!!けど、どんな奴とだって、向き合えば、お互い分かり合えるんだ!」
『青いな、九十九遊馬。だが、その青さが、命取りになるのだ。』
「何だと!?」
『間もなくだ。間もなく、人間の世界は…カオスの世界となる。そして…フフフ…』
その声が一旦止んだかと思うと、ドン・サウザンドは急に耳元で叫ぶようにして言う。
『そしてお前だ!!草薙遊士。』
「お…俺?俺はてめえなんて知らねえよ!」
『やはりお前にも聞こえているのだな、我の声が。ヘヴンズ・チルドレンと言いお前と言い、我の計画には意図しない者が出て来たようだが、どうということはない。それを我が力をもって、わからせてくれようぞ。楽しみにしている。』
ドン・サウザンドが別れの挨拶のような雰囲気を出し始めたので、アストラルが慌てて彼を止めようとする。
「待て!ドン・サウザンド!!」
『我よりも、お前たちは仲間の心配をした方が良さそうだぞ?』
「あれ…徳之助?」
遊馬とアストラルの後ろからその鉄男の声が聞こえると、徳之助が真紅色のオーラをまとっているのがわかった。それが空の紅さと妙に合っていることに遊馬が気づくと同時に、徳之助は床に両膝をついて崩れ落ち、ぼろぼろと涙を出して泣き始めた。
「うっうっうっ…」
「徳之助君!どうしたんですか!?」
「いきなり泣いてどうしたの…?それに…このオーラは?」
「徳之助!!お前、ナンバーズを拾っただろ!!捨てるんだ!!」
徳之助が泣きながら袖に隠れて見えなくなっていたエクシーズモンスター、《No.10 黒輝士イルミネーター》というカードを見せるや否や、誰も訳を聞いてもいないのに、「だって。だって!!」と咽んだ。
「徳之助君!これ…どこで?」
「空から降ってきて、それで…それで…!!うっ、うわああああぁぁぁぁぁぁ!!」
ナンバーズを離さなかったことが、紅き世界から承認を得たということなのだろうか、徳之助はその場で白い光の粒となって、遥か彼方へと去っていった。
「徳之助!!!」
「くそっ!!許さねえぞ、ドン・サウザンド!!」
もはやドン・サウザンドの声は聞こえなくなっていたが、遊馬は先ほどの徳之助のようにその場に膝をつき、両手の拳で地面を何度も叩いた。その目には大粒の涙が浮かんでいた。
(ドン・サウザンド…さっきの声は…一体?)
「さっきのドン・サウザンドのことと、今の状況、話した方が良いのではないか、遊馬。」
「…」
その突然の出来事に、彼らはしばらくの間沈黙を続けているより他なかった。
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ハートランドシティの港湾部に潜水艦があるのは、数日前より入っている情報であった。もはやこの異常事態に、町側から何かを言われることもないだろうが…
「こいつは一体、どういうことだ!?」
「Ⅳ兄様、Ⅴ兄様!大量のバリアンズ・フォースと、ナンバーズが降り注いだようです!」
「何!?この世界を急速にカオス化させるつもりなのか!」
「だとすると、のんびりもしていられまい!」
その潜水艦内部は研究室のようになっており、トロンの息子たちであるⅢ、Ⅳ、
「バリアン七皇を倒せば良いんだろ?」
「落ち着けⅣ!奴らがどこにいるのか、わからないのだ!いつまたバリアンズ・フォースの雨が降ってくるのかわからないんだぞ!今はまだ動いては…」
Ⅴが声を荒げてそう言っているのを前に、カイトは元々彼の弟のハルトの面倒を見るために作ったオービタル7を引き連れて、潜水艦を出て行こうとしている。
「聞け、カイト!!」
「ナンバーズの情報が入った!!受け取りに行く!」
「受け取るって…相手はナンバーズに取りつかれた奴かもしれないのだぞ!」
「いや、相手は信頼できる奴だ。…いくぞ、オービタル!!行先はイタリア、デュエル・コロッセウムだ!」
「あそこは今やデュエルレスラーばかりいる場所…ですが、カイト様?」
「いいから黙って俺を連れて行けば良い!いくぞ!」
「か…カシコマリッ!!」
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雲の上に聳え立つオフィス。その言い方が適切だろうか。その透き通った空間の一室で、2人の男性と、1人の女性が話している。といっても、1人の女性は後ろに下がって、2人のやり取りを見ているだけだが。
「ヘヴン。」
「おお、クラウダー。それに…ホワイト。聞いたよ。覚醒したんだとね。おめでとう。」
「あ…ありがとうございます。」
「それで、何の用かな、ヘヴン?」
「いえ、確認です。我々は、もう本気のデッキで戦って良いということですよね?」
「もちろんだよ。あの宣言がバリアンと遊馬たち、それに遊士たちに届いたのを聞いただろう?君は言っていたじゃないか。彼らにチャンスを与えるべきではない、と。それにも関わらず、そんなことを言うのは、おかしくはないかね?」
「え…ええ。確かに私はそう言いました。人ならざる力を持つ者に、チャンスを与えるべきではない…と。」
「ようやく私の考えが理解できたのかな?私の…悩みが。正直悩んでいるのだよ。人ならざる力を持つ者たちを…簡単に排除してしまって良いのか。彼らが未来を救うことが…できないか。」
「だからあなたは不思議な力を持つデュエルモンスターズを使って、彼らをテストしている。彼らが、我々が与える試練、ヘヴンズ・チルドレンとヘヴンズ・サードとの戦いに勝利できるか…と。」
「わかっているじゃないか、クラウダー。ならば君は当然、本気で戦わなければいけない。」
クラウダーが不意にドアの方を見ると、もはや制服もパーカーも着ていないホワイトと目が合った。彼女はリクルートスーツのようなものに身を包んでいる。人間でいえば16歳の彼女にそれは少し大人びたものにはなっていた。彼女の幼さの残る顔には、その服装はマッチしていない。しかし彼女はその服装を自ら選んだのだ。その理由は、どこかで着たことがある気がするからだそうだ。
ホワイトはきょとんとした顔でこちらを見ている。話している内容は、聞こえているのだろうか。
クラウダーが顔を正面に向けてヘヴンを捉えると、クラウダーはヘヴンがフードの中からわずかに覗かせた納得の表情が見えた。
「なるほど。君が言いたいことがわかったよ。…彼女だね?」
「あ、はい。そうです。少し…残酷ではないでしょうか。」
「残酷。それは違う。彼女は早く己の運命を知ることができた。むしろ良かったと思うべきだ。時間が経てば、己の使命も理解していく。最初は辛いかもしれないが…」
「私が!!私が申し上げたいのは、彼女が…」
「草薙遊士の知り合いだということだろう?そんなことはわかっている。だが、我が子であれば必ず、いつかはかつての知り合いと戦わなければならなくなったりする。」
クラウダーは思わずこめかみに手をあてた。ヘヴンのその言葉は、クラウダーにある出来事を思い出させる。しかしそれも束の間、後方からのホワイトの呟きで、目を覚ます。
「草薙…遊士。」
「それで…結論は何かね、クラウダー?」
「結論は…人事異動の提案です!ヘヴンズ・サードの中から1人をヘヴンズ・チルドレンとし、ホワイトを人間の世界に戻す!!」
「君、管理職に人事異動を提案する部下ほど扱いにくいものは…」
「ヘヴンズ・サードの中から、彼女はいかがでしょう?」
クラウダーはヘヴンの反対を無視するように、彼の部屋にあるスクリーンにデータ化された履歴書のようなものを映し出した。他者の意見に反対であると言うだけでは子ども。修正案を出すことが必須だと考えたクラウダーの対応自体は悪くなかったが、ヘヴンにとっては具合が悪かったのだろう。
「もういい!!少し頭を冷やしたまえ。ホワイトもあそこで待っている。」
「はい。申し訳ありません。」
怒鳴ることなどない。クラウダーのヘヴンに対する印象は、冷静そのものだった。彼にとって今の出来事は、ただ怒鳴られただけではなかったのだ。
クラウダーは「失礼しました」と言い、ホワイトと共にヘヴンの部屋を出た。
(クラウダー。そんなことは、私が一番わかっている。残酷だということは。しかし…ユニバース・アセンション計画。つまりはUA計画。これを成功させるには…私の見立てでは、彼の力が必要なのだ。草薙遊士の。)
彼らはそのままエレベーターで下の階に降りると、ブリーフィングルームに向かった。人間の世界に降りる前に打ち合わせをする部屋とでも言おうか。ここは人間に降りることが許可された者しか使用できない。周囲を見渡すと、白い雲が窓に張り付いているようであり、ヘヴンの部屋が雲の上なら、ここは雲の中にある部屋である。
「クラウダーさんは…何を飲まれますか。」
「あぁ、すまない。アイスコーヒーをお願いする。」
無料の紙コップ式自動販売機で、アイスコーヒーのボタンを押す。取り出し口にまず紙コップが置かれ、氷がボトボトと落ち、コーヒーが注がれる。コーヒーが注がれている時に、彼はスタンドから彼女に声をかけた。
「気が利くな。」
「いや、そんなことないですよ。」
彼女は知らない、いや、思い出せていない。彼女の気が利くのは、ダンス部の頃に上下関係を徹底的に先輩と顧問の教員に叩き込まれた賜物だということを。
アイスコーヒーの紙コップを手に取り、そのままホワイトは自分の分を選ぶこととなった。炭酸飲料を選びそうになったがその指を、隣にある烏龍茶のボタンに移した。
両手で紙コップを持ち、アイスコーヒーをクラウダーに手渡し、烏龍茶を少しだけすすった。
「ジュースとかではないのか?」
「本当は、ジュースを飲もうかと思ったんですけど…何となく、烏龍茶の方が。」
「あぁ、そうか。」
クラウダーはその場から逃げ出してしまいたかった。何を口にすれば良いのか。当たり障りのない会話が、彼女の人間界への思いに火をつけるのではないだろうか。何か断片的に思い起こさせるきっかけになってしまうのではないか。
と思って黙ってコーヒーを眺めていた。しかし、何も言わなければ、ホワイトが核心を突いたことを言い始めるのではないか、気がかりで仕方がない。焦って時計を見る、出撃まであと20分もある。20分何を話す?
そうだ。気になっていたことが一つあった!!クラウダーはその気になっていたことを彼女に聞き始めた。
「そういえば、この前のベクターたちとのデュエル。覚えているか?」
「え?あ…はい。」
「マスカレードマジシャン・アンブラルの効果で破壊された伏せカード。あれは…《バトル・ストッパー》だったな?」
《バトル・ストッパー》
通常罠
このカードが相手ターン中に墓地に送られた場合、そのターンのバトルフェイズをスキップする。このカードがバトルフェイズ中に墓地に送られた場合、バトルフェイズを終了する。
「はい。」
「この効果を使えば、バトルフェイズをスキップすることができたはずだ。なぜ使わなかった?まだデュエルはわからなかった。《破数王-ヌメロン・バスター》以外にも、ヘヴンからいただいたカードがあっただろう?」
「でも、それを引くかどうかはわかりませんよ。」
「デュエルを途中で諦めたのか?いや、そんなようには見えなかったな。」
決めつける訳でないのは、優しいなとホワイトは少し思い、口を開いた。
「デュエルを諦めた訳じゃないんですけど、私のデッキであのカオスオーバーハンドレッドナンバーズを倒せるのは、ヌメロン・バスターしかいないかなって。でも、ヌメロン・バスターを召喚すると、また…気持ち悪い感じに襲われるのが嫌で。」
「あぁ…なるほど。」
「私にはあのカードは使えませんよ。クラウダーさん…使いますか?」
「私のデッキであの召喚条件を整えるのは難しい。」
「だったら、《エクシーズ・ピクシー》とセットで。」
「いやいや…」
クラウダーは目を閉じながら首を横に振った。ヌメロン・バスターのカード名を聞くと、それを渡したヘヴンの顔が浮かぶ。クラウダーは「気持ち悪い感じに襲われるのが嫌」というホワイトのセリフを聞いても、彼女の顔を見ることはできなかった。
「でも…私って…一体何なんでしょうね。」
「…」
「前にも言ったかもしれませんけど、私は、自分のことがわからない。わからないんです。記憶が…ないんです。本当にヘヴンズ・チルドレンなのかも、わからない。」
突然俯き始めたホワイトの耳元で、クラウダーは囁いた。
「君は…夢を見ていたんだ。長い眠りから覚めたんだ。」
詩的な言い方ではあったが、今のホワイトにはその説明で合点がいく。
「ゆ…め…?」
「そう。多くの場合夢は、その日には忘れてしまう。君も同じだ。今覚えていないことが多くあるのは…夢を見ていたからだ。」
「けど、クラウダーさんは全然忘れていない!」
「いいや、そんなことはない。私も多くのことを忘れてきた。忘れたんだ。」
自分で言いながらクラウダーは、夢とは言い得て妙だなと思っていた。今までホワイトは夢を見ていた。人間界で夢を。
「無理に夢の内容を知ろうとしなくて良いのではないか。辛いのだろう?」
「え…あ、はい。」
「我々には果たさなければならないことがある。夢の内容を知ろうとしている間も、やるべきことがあるのだ。残酷だが、時間だけはどうにもならない。無限ではないんだ。」
「今までのは…全部夢だったんですか?」
「そうだよ。夢だったんだ。」
ホワイトは心の中で何か引っかかるものがあることを感じていた。しかしそれでも、クラウダーの言う通り、ヘヴンズ・チルドレンとしての使命がある。ホワイトは、引っかかるものがあろうと、前に進む決意を固めている。
首をわずかに縦に振っているホワイトを見て、クラウダーはこの上ない後悔の念に襲われた。
(なぜこんなことを言ってしまったのだ。私がヘヴンズ・チルドレンに成りたての時に言ってもらいたかったことか。誰かに、安心させることを言われたことを思い出して、彼女と重ねてしまったからか!!だが私は先ほどヘヴンに何と言った!!彼女をヘヴンズ・チルドレンから降ろし、人間界に帰せと……!!何という矛盾なのか。私はもはや人間ではないのに…なぜこうも未熟なのだ。)
クラウダーはホワイトの飲み終わった紙コップも重ねてゴミ箱に捨てると同時に、あることを決意した。これからは、ホワイトを完全に目覚めさせることに全力を注ぐ…と。
彼女にあんなことを言ってしまった以上、後に引けぬ思いであったのは、言うまでもない。
(次回に続く)
<今日の最強カード>
《バトル・ストッパー》
通常罠
このカードが相手ターン中に墓地に送られた場合、そのターンのバトルフェイズをスキップする。このカードがバトルフェイズ中に墓地に送られた場合、バトルフェイズを終了する。
<次回の最強カード>
《フィールド・パワー・マネージャー》
効果モンスター
レベル4/地属性/魔法使い族/攻撃力1900/守備力2000
通常召喚したこのカードは攻撃することはできない。特殊召喚したこのカードは以下の効果を得る。
●このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いに攻撃力2000未満のレベル4以下のモンスターを召喚することはできない。