情けない自分にサヨナラバイバイとばかりにハナの下を去った俺は行く場所に困っていた。
夜には行かなければならないところがあるが、今はまだ昼を過ぎたばかり。
約束の時間まではまだまだ長い時間があるわけだし……
「……カナ姉のところにでも行くかぁ」
図らずも現在カナ姉以外の幼馴染全員と会った、または会える状態なのだし、折角だからカナ姉に会いに行くのも悪くはない。
とはいっても、彼女にはつい昨日会ったばかりではあるんだが……
「んー、昼ご飯は流石にどっかでとるかぁ」
――まずは会いに行く前にお昼を済ませなければならない。
だがどうしよう。ここから歩いて食べるものが売っているのは……
「……カナ姉ん家でお世話になるしか……ないか」
ハナに引き続きカナ姉にまで恥ずかしいところを見せるとなっては腹をくくるしかない。
というよりもカナ姉相手には昔っから恥ずかしいところみせっぱしな気もするし、今更ではあるか。
そんなわけで今からそっちへ向かうこと、そして昼食を作らせてほしいことをメールする。
――すぐに返信がきた。
『全く、カイトってばいきなりの癖に抜けてるんだから。いいよ、お爺ちゃんには私から言っておくからね』
やはり持つ者は出来る幼馴染だ。
流石に手ぶらでいくのも申し訳ないが、結局ここらへんで買っていけるものはないし、今回は許してもらうしかないか……
――と、考えた瞬間、歩道を歩いていた俺の横を黒い高級車が走って行った。
ちらりと見えた窓からは、なぜだか一人の少女がはっきりと、俺の視界に入っていた。
「……今の人……綺麗だったな……」
高級車に乗っているということはお金持ちだろうか。
カナ姉の家がある方面のダイビングスポットや、めっちゃ高いホテルがある【淡島】とか、ここらへんはお金持ちの娯楽になるような場所もあるし、いるにはいるんだろう。
ただ、少しそれとは違う感じというか、なんか前にも見たことがあるような感じというか……忘れっぽいからあんまよく覚えてないなぁ。
「……まぁいいか、カナ姉の家に行こう」
少しだけ見上げた空は、少しだけ日が低くて、ちょっと目が痛かった。
***
「やぁやぁカイト、いいところに来てくれたよね」
「カナ姉、その手に持った店員用の制服と顔に浮かべているイイ笑顔はなんだい?」
カナ姉の家である【松浦ダイビングセンター】に着いた途端、出迎えてくれたのはそのカナ姉こと
笑顔の彼女はその手に従業員――カナ姉とその御爺さんとついでに俺――の制服を持っている。
あまりにも浮かべているのがイイ笑顔で、そんな笑顔を見せられてしまうと何やら悪寒が走ってくるのでとても回れ右をしたくなってしまう。
「まーまー、そんな怯えないでさ、食べ終わったら少しだけ店番手伝ってよ。お爺ちゃんがちょっと町内会の用事で出かけちゃってね」
「なるほどね、わかったよ。そういやカナ姉はもう昼食べたの?」
「んー、食べる前にカイトから連絡来たし、どうせなら作ってもらおうかなって」
「あー、希望はある?」
「んー、ガッツリしたものを食べたいとは思うけど、店番をしながらじゃなきゃいけないから軽いものがいいかなぁって」
悪戯っぽく笑うカナ姉は制服をカウンターに仕舞う。
店番をしながら食べるものを求められているということは――無難にサンドイッチ系にした方がよさそうか。
おにぎりでもいいかもしれないが、何を隠そうカナ姉はおにぎりの定番かつ口直し担当である梅干しが大嫌いなため、必然的に同じものばかり作ることになってしまうのだ。
つい最近おにぎり飽きたと言った旨のことを伝えられてしまったので、しばらくおにぎりを作らないようにしなくてはならない。
「んじゃあ、よろしくねー。あ、お爺ちゃん帰ってきたら一緒に潜ろっか?」
「あー、遠慮する、この後チカんとこで手伝いに行くからさ」
「なるほどねー、それじゃあ仕方ないかぁ」
***
夕暮れの内浦。カナ姉の家から俺はある場所へ向かっていた。
【高海屋】、幼馴染の一人
高海家は現在チカを末っ子に据えた三人姉妹と、女将さんと料理人である親父さんと五人で主に運営している。
男手不足だということで、幼馴染である俺が忙しい日には夕方位から運搬、掃除などの主に力仕事方面のサポートに入るのだ。
「女将さん、浜野海翔ただいま入りました」
「あら海翔くん、ちょうどいい頃ね、夕食はもう食べてる?」
「モチです。親父さんの料理を手伝いますか?」
「いいえ、今日は私たちのほうを手伝って。千歌が春休みの宿題を終わらせていなくて……」
「なんとなく察しました、任せてください」
女将さんはげんなりとした顔で俺に指示を出す。
視線の先では既にあわただしく動いている千歌のお姉さんたちがバタバタと音を立てていて、あまり悠長に話をしている様子がないと見た。
急いで自身の更衣室まで向かい、着替え、手伝いに向かうことにしよう。
***
ラッシュ時間とも呼べる夕食時間が終わり、俺は女将さんの願いにより宿題に追われているチカの様子を見に行くことになった。
明日は早くから手伝ってほしいらしいし、家に電話をかけて高海家で世話になるということも伝えておいた。
そんなわけで夜食として親父さんが作ってくれた二人分のまかないをもって、チカの部屋の前へ行く。
チカが寝ている可能性を視野に入れて、少し強めに、ドンドンとドアをノックする。
「チカ、俺だ、夜食を持ってきた」
「カイト君!? ごっ、ごめんちょっとまってぇ!」
どったんばったんと暴れるように聞こえる部屋の音。
これはもしかすると、もしかしなくてもアイツは寝ていたのかもしれない。
――おそらく五分ほど、だろうか。気付けば部屋の音は止んでいた。
瞬間――バン!という音とともに彼女の部屋は勢いよく扉を開けた。
なんとなく予測していた俺は夜食のお盆を予め下に置いて身軽になっていたので、ドアとの接触は簡単に躱せるのだ。
「――グフッ」
「あぁっ、カイト君ごめぇん!」
……だが、ドアの奥から出てきたオレンジ髪の少女――チカのことは翻せず、自分の腹で受け止める羽目になってしまった。
***
「ごめんね……カイト君……」
「チカ」
「ピィッ!?」
「そんな怯えるなって。怒ってないから」
「ホント……?」
すったもんだと色々あった後、千歌の部屋に通された俺はひたすらにチカに謝られていた。
元々三姉妹の末っ子と言うだけあって甘やかされがちに育ったチカ、一人っ子の俺や曜やカナ姉からも姉妹のように扱われているからか、怒られることに未だ怯えが残っている。
だからなのか、さっきからちょいちょいとこっちを見て目をそらして、目をそらしてはこっちを見てと視線の運動が激しいのだろう。
――まぁ、チカがやらかしただったら確かに起こるべきなんだが、今回は俺もちょっと気が緩んでたんだし不可抗力なんだから怒るはずもないんだけどさ。
「さっきのことは俺も悪かったし、お互いさまなんだよ」
「でもね……カイト君がドアの前に居たの、ちゃんと考えたらわかったんだよ? それなのに焦ってドアを開けたチカが――」
「チカに謝られても困る。だってチカは悪くないじゃないか」
「でもでも、カイト君だって悪くないよ!」
「じゃあ両方とも悪くない! それでいいじゃないか。な?」
チカの肩を掴んで、説得するように声をかける。
出来るだけ落ち着かせるように、そっと呼びかけるように、はっきりと彼女の目を見て。
俺はチカを責めたいわけじゃあないし、こんな話はもう終わらせて、幼馴染と楽しい時間を過ごしたいのだ。
そんな俺の思いが届いたのか、チカの首が弱弱しく縦にうなずく。
「よかった。それじゃあ親父さんが用意してくれた夜食でも一緒に食おうぜ。ついでに宿題も少しだけ手伝ってやるから」
「……やったぁ! あ、じゃあカイト君にお願いしたいところがあるんだ」
「構わんが、曜を見習って出来るだけ自分でやるんだぞ。俺は教えたりするくらいだからな?」
「うぇぇん……ケチー!」
すっかり元気になったチカを見て安堵する。
この調子だったらきっと宿題も終わらせることができるだろうなと思いながら、俺は一晩をチカの部屋で越すのであった。
――まぁ、チカが寝落ちしたので宿題は終わらなかったし翌日に持ち越しになったのだが。
***
こんな生活が、当たり前のような日常が、ずっと続いて、いつかは俺のやりたいことも見つかるんだろうなって思っていた。
だけど、そんな俺の日常はある日、チカによって崩れ去っていくとともに、新しい道を作ろうとしていたんだ。
「ねぇねぇカイト君」
「どうした、チカ?」
「私ね、スクールアイドルをやろうと思うんだ!」
「……はぁ?」
スクールアイドルという新しい可能性へと生きる幼馴染達。
俺は――俺は、どんな可能性があるんだろうか。
これは、そんな可能性を求める俺が、幼馴染達のスクールアイドル活動に協力していく、そんなストーリーである。
・松浦果南
海翔の幼馴染3、彼のお姉さん的存在。
ダイビングショップである松浦ダイビングセンターを営む祖父の手伝いをしているが、時々一人だったり海翔を連れて海に潜っている。
アニメ版の自宅になるであろう場所と違い、この作品では本土側に家がある設定である。
・高海千歌
幼馴染その4でラブライブサンシャイン主人公。
宿題を長期休み終了ギリギリまでやらない系ちょっぴりポンコツ系幼馴染。
家である高海屋は老舗旅館で有り、現実にも【安田屋】という名前でしっかり存在している。
ちなみにだが安田屋旅館はあの太宰治ゆかりの旅館である。
これにてShiny×Cation体験版の公開は終了です。
製品版の投稿がされるのはアニメが放送した以降となります。
読了ありがとうございました。続きは製品版でお会いしましょう。