新道、平坦にあらず   作:hawkman

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 ずいぶんお待たせしました。遅筆というかなんというかすいません。一応生存してます。

 今回の話というか全体に関わることなのですが、この“新道、平坦にあらず”においては味方陣営に普賢君が加わっているために相対して原作より難易度が上がっていることを先にお伝えいたします。

ちなみに今回の難易度はイージーです。


新道試練――チュートリアル

『誰かっ! この声が聞こえる力のある人! お願いします――――力を貸して下さいっ!!』

 

 ガバリ、と普賢は勢いよく起きあがった。

時刻は深夜。穏やかな睡眠は叫ぶような助けを求める声によって打ち破られた。

 

 普賢は部屋の中を見回してみるが他の子供達はまるで声が聞こえていないかのように未だに夢の中だ。

いや、事実、普賢以外の子供達には聞こえていないのだ。この声は直接普賢の頭の中に響いているのである。

 

『誰かっ! お願いします、僕だけじゃどうにもならないんです!』

「これは――念話?」

 

 普賢の推測は正しく、この声は念話によるものであった。“力”の無い人間には感じ取れないようで、施設内で感じ取れたのは普賢一人だけだった。

 

『よくわからないけど、助けが欲しいのかい? 安眠妨害君?』

『安眠妨害君!? い、いやそれより、そうなんです! たすっけ、て、ほしぃいぃぃんですぅぅぅぅぅ!!??』

『んっ? おい、どうした? なにがあった!?』

 

 念話の先で何が起こったようで、突然先ほどまでとは別の意味で必死な声に変わる。

 

『ごめっんな、さい! 今! ちょ、っと、よ、ゆうがぁぁ!!??』

『あぁ、いいわかった! とりあえず向かうからもうちょっと持ち堪えててくれ! 返事もいらないからな!!』

『あ、あり……が、とうぅぅぅぅぅ!!』

『だから、いらんと言ったろう……』

 

 危機的状況にあるようなのに、わざわざお礼を言う辺り声の主は律儀なようだ。やや、生真面目に過ぎる気もするが……。

そんなやり取りを済ますと普賢は上着を引っ掴んで窓から空へと飛び出し、念話元を感じ取って全速力で空を翔けた。

 

 

 そうして目的地上空に辿り着いた普賢の目に、信じられない光景が飛び込んできた。

動物診療院の建物が壁を内側からぶち抜かれる形で半壊しており、その周辺の道路は耕され、ブロック塀はいくつか崩されてしまっている。

 

 本来平和な住宅街が、局所的に嵐が暴れたかのような惨状に姿を変えてしまっていた。

 

 そして、その嵐の中心に奇妙な生き物がいた。

見た目は大きな黒い球体だ。トラック染みた大きさのその生き物は、表面が脈打って蠢動しており、ギラリと赤い目のような器官が二つ備えられていた。

 

 それは確かな化物であった。

 

「ああいう類が存在()るのか、知らなかったな……」

 

 それを見た普賢はぽつりと感想を言って化物の様子を窺っていると、その化物の視線の先に一匹のフェレットがいるのを発見した。

何故フェレットが此処にいるのか? と普賢は疑問に思ったが、そんな悠長な思いは化物がフェレットに向かって突進を仕掛けたことによってすぐさま吹き飛ばされた。

 

「――――!!」

 

 もし、化物の突進を放置すれば哀れな小動物が命を落とすことになるだろう。それを見過ごすことは流石に普賢の持ち合わせている良心が許さなかった。

 

「シールドォ!!」

 

 普賢の叫び声と共に化物の進行方向に道路を完全に塞ぐほど大きな蒼色の盾が出現する。

化物は突然眼前に出現した壁にそのまま衝突した。化物の出力と質量を鑑見るに恐ろしい衝撃だったはずだが蒼い盾はびくともしていない。むしろ正面衝突した化物の方が自身の力の反作用でしたたかに吹っ飛ばされてしまった。

 

 化物が吹き飛んだ隙に普賢はフェレットの元に降り立ってフェレットの無事を確認して安堵の息を吐くと――

 

「あなたが念話に応えてくれた人ですか? 助けてくれてありがとうございます!」

 

――と、元気な声でフェレットが言った。

 

「…………は?」

 

 そう、元気な声でフェレットが言った。つまり、普賢の目の前にいるのは世にも珍しい喋るフェレットということだ。

しかもそのフェレットの声色には確かに聞きおぼえがある。

普賢を夢の中から叩き起こした念話の主。その声とフェレットの声は、普賢の耳に異常が無い限り同じもののように普賢には聞こえた。

つまり、襲われていたのは目の前のフェレットで、念話で助けを求めたのもそのフェレット。

普賢のリアクションも仕方のないことと言えるだろう。

 

「あのーすいません。あなたが念話に応えてくれた人で良いんでしょうか?」

「あ、ああそうだ、念話の相手は俺で合ってる。しかしまさか相手がフェレットとは思わなかったが」

「フェレット? ああ、この姿は確かにそうですけどこれは変身魔法で姿を変えているだけですよ」

「……へぇ、そう、変身魔法(・・)、ね」

「?」

 

 含みを持たせる普賢の物言いに首を傾げるフェレットだが、普賢は気にも止めずに魔法、という単語に一種の感慨を抱いていた。

長年分からなかった自身の力が魔法だったとわかって思うところがあるのだろう。

 

 このまま思い馳せるなり、情報の交換を続けたかった普賢だが――――壁を飛び越えてきた化物がそれを許さなかった。

 

 化物は先ほどのように突進するのではなく、蠢く身体の一部を細長く伸ばすとそれを鞭のように振るった。

しかし、いくら話していたと言っても化物を完全に意識から外していた訳も無い、普賢はすぐさま迎撃に移る。

 

「疾ィ!!」

 

 いつの間にか手に握っていたシールドと同じ色の棒で黒鞭を打ち払う。普賢の握っている棒は、鍔、(つか)柄頭(つかがしら)それぞれが刀のそれのように装飾されているのに対して、刀の刀身に当たる部分が風情も何もない幾何学的な円柱状になっている極めて奇妙な代物だった。

 

「安眠妨害君。名前は?」

「根に持ってる!? ゆ、ユーノ・スクライアです!」

「OK、スクライア君、俺は天瀬普賢だ。とりあえずコイツ仕留めたら詳しい話聞かせてもらえるということで良いか?」

「! すいません……お願いします!!」

 

 ユーノが頼むのと同時に今度は普賢が化物に仕掛けた。

 

「エナジーショット」

 

 普賢の周りに五つの光弾が出現し、化物へと殺到する。化物もあからさまな攻撃をそのまま受けるような真似はしないのか、避けようとしたが化物が動くのと同時に光弾も化物目掛けて進路を変更しそのまま直撃して弾けた。

光弾は拳大の大きさにも関わらず、殺傷力が高いものだったらしくヒットした部分を爆破によって抉り取っている。

人間相手なら致命傷は免れない傷が出来ているが、化物は身体が流動体なためか徐々に傷が塞がっていく。

 

「これはもっとデカイのを叩きこんだ方がいいかな?」

 

 と、普賢が言った瞬間。

 

「って、殺傷設定!!?? ふ、普賢君、非殺傷設定は!!??」

 

――ユーノが叫ぶ。悲鳴に近い声で普賢の魔法について問い詰める。

非殺傷設定とは、よほどユーノにとって見過ごせない事であるようだった。

 

「非殺傷設定? なにそれ?」

 

 が、問い詰められた方の普賢が臆面も無く聞き返すと、ユーノは愕然とした様子で固まってしまった。

そして、そんな無防備なユーノに化物が目敏く触手を伸ばして絡め取ろうとする。

それに気づいたユーノは身を躱そうとするが、固まっていた身体で咄嗟に避けることは出来ずに捕えられてしまう――――といった所で、黒い触手に蒼色の触手が絡まりその動きを止めた。

 

「まあ、設定うんぬんもあとでな。下がっててくれ、思ってたより危ない」

 

 普賢の持つ棒が持ち手の部分はそのままに、円柱状だった刀身に当たる部分が触手のように変形して化物の触手に巻きついている。

 

「――ナイア、増えろ。そして打ちのめせ」

 

 普賢の言葉に呼応するように持ち手の先からさらに触手を何本も生やすと一斉に化物に殺到し命令通りに打ちのめしにかかった。

だが、化物もそれに対応して触手の数を増やして普賢の武器――ナイアという名前のようだ――の触手を打ち払い、絡め取り、むしろ普賢を打ちのめしてやろうと数と勢いを増していく――――。

 

 黒と蒼の応酬は決して途切れることなく時間を経るごとに加速し続ける。

 

打ち据える、打ち払う、絡め取る、引っ張り崩す、上から下から右から左から。しなりは遠心力を生み出し加速を続け、鞭の先端は既に音の壁を突き破り、極小のソニックブームを引き起こしてさえいる。

 

 化物と普賢の間には黒蒼のキリングフィールドが出来上がっており、時折弾け飛ぶアスファルトの破片が粉微塵に砕けていることが、その場に足を踏み入れた場合の末路を物語っていた。

 

 そんな戦場の様子に息を呑むユーノは、言われたとおりに普賢の遥か後方に避難していた。弱っている今の彼ではあの場に立つのは自殺行為であったからだ。

 

(すごい……!! あの武器は彼の魔力で作られているのか、しかもあれだけの数を……恐ろしい程のマルチタスクと魔力操作能力! しかもデバイスを使用してる様子も無いみたいだからデバイスなしであれだけの戦いをしているってことで…………信じられないな。もしかしたら……いや、間違いなくなにかしらのレアスキル持ち!!)

 

 ユーノが持つ魔導士的常識にケンカを売っていると言っていい普賢の非常識加減を分析していると、戦場に変化が起きた。

普賢の目の前に巨大な光弾が出現する。

先ほど化物に打ち込んだ拳大の物とは違い、今回の光弾は単発であるがデカイ。その大きさは実に直径三メートルを超えるほどだ。

先ほどの光弾の威力そのままに大きさが増しているのであるならばその推定される威力は破滅的な破壊力と言えるだろう……。

 

「エナジー、クラッシャー!」

 

 破滅の光弾は、触れた触手を蒸発させて化物にぶち当たり弾ける。純粋なエネルギー弾は爆発を起こし、化物の体を吹き飛ばした。

化物はその身体の大半を焼かれ、焼け残りの大きさも普賢より小さくなってしまっていた。

そして身体に張り付くようにして蒼い宝石が露出していた。

 

「……これは?」

『それは、ジュエルシード!! それがそいつの本体です!』

『へぇ、で、これを壊せばいいのか?』

『こ、壊さないでください!! というか、壊せないと思いますが……それを封印(・・)してください! そうすればその暴走体も消えます!』

『…………封、印?』

『そうです。急いで下さい、そいつが再生する前にっ!』

『封印、そう封印。ふういん、かー』

 

 封印という言葉を繰り返す普賢。

明らかに様子がおかしい、先ほどまでの精悍な様子はなりを潜め、顔には汗が浮き、目が泳ぐ。

実にコミカルな様相を呈していた。

 

 

 

 話は変わるが、普賢は昔から趣味として能力の訓練をしていた。

 

 そして訓練の結果彼は実に多くの能力を手に入れることが出来た。

彼は超人の如き身体能力を手に入れたし、スーパーマンの如く空も飛べる。“力”をそのまま形にすることや自在に操ることも、氷や炎、雷にまでも変換することが出来た。

 

 彼の“力”は実に融通が利くようで、訓練すれば実に多彩なことが出来るようになった。

 

――――そう、訓練すれば(・・・・・)、である。

 

 つまり、

 

『いや、封印魔法ってどうやるのかなー、って、思ってさぁ』

 

 普賢は封印魔法を使うことが出来ないのだ……。

 

『…………はぁ!!??』

『仕方ないだろ!? 今まで封印するような対象なんてなかったんだよ!!』

『何とかならないのかい!?』

『対象をじっくり手に取って見れるんならまだしも、すぐに習得するのは無理だ! 一か八かで挑戦できなくは無いが…………』

『それは待ってくれ! ジュエルシードが下手に活性化したら辺り一帯吹き飛んじゃうよ!!』

 

 実にシャレにならない事をさらっとユーノが言い、普賢は頬を引き攣らせていた。迂闊なことは出来ないなと小声で呟くほどには。

 

『そうか……というか、ユーノは封印出来ないのか?』

『ごめん。今は封印出来る程の魔力が無いんだ……』

『じゃあ、俺の魔力を分けるから封印してくれ!』

『その手があったか!! じゃあ近づくよ!』

『いや、ここから出来る! よし、送るぞ!!』

『遠距離からの魔力譲渡とかまた君は非常識な事を……ぶっっっ!!! ぐえっ! ストップ! ストーップ!!!!』

 

 普賢の魔力が送られた途端にユーノが苦しんだ。まるで絞められた鶏のような声を出したあたり如何に苦しかったのかが想像に難くない。

 

『どうした!?』

『なんだこれ!?? 僕と君の魔力の相性が悪いのか!? 拒絶反応起こしてるよ!!?? これじゃあ魔法使うどころじゃないっ!!!』

『なにぃ!? こんな土壇場で!? 運無さ過ぎじゃないのか!??』

『ほんとだよっ!! 他に何か手は……そうだ! 僕の持ってるデバイスを君が使えば良いんだ! 封印術式を起動してくれるよ!!』

『デバイス? まあいい! それを早く渡してくれっ、と、ああっ!? すまん、しばらく無理だっ!!!』

 

 

 あーでもない、こーでもない、と二人してわたわたとしている間に化物の再生が終わったらしく、早速普賢に向かって黒鞭を振るってきた。

すかさず普賢も鞭状のナイアを振るって応戦する。

 

 またしても黒と蒼が打ち据えあう空間が出来上がり、先程の焼き直しになるのかと思われたその時。

 

「うおっ!? チッ、流石にそこまで馬鹿じゃないかっ……」

 

 見ると普賢の頬に一筋の傷が出来、つつーと、血が顎へと滴っていた。

 

 その負傷は鞭が掠めたものではなかった。そも、もしも鞭が掠めていたりしたら掠めた箇所の肉をごっそり抉られていただろうから悪態を吐くことも出来なかっただろう。

 

その傷をもたらしたのは一発の黒弾である。

 

普賢のエナジーショットを真似たのか複数の黒弾を化物は放ったのだ。

咄嗟の事であるが、展開している鞭で大半を打ち払ったが、一発だけ仕損じたのである。黒弾がエナジーショットと同じなのは見た目だけだったのが不幸中の幸いであった。

もしもエナジーショットと同じように爆発する代物であったなら普賢の命は危なかっただろう。

 

 普賢もそれがわかっているのか、続けて放たれる黒弾は確実に処理していた。しかし、黒弾への処理分リソースを削られた普賢は窮していた。

 

 普賢は自身と化物の攻撃が住宅に流れないように注意を払いながら戦っている。

化物の攻撃を律儀に打ち落としたりして基本的に避けないのはそのためだ。

爆破攻撃もそのために範囲を狭めたりもしていた。

先程まではそうして戦っていても問題はなかった。だが、防御に回すリソースが増えたことによって反撃に移るのが難しくなったのだ。

――――ギリギリ反撃に移れなくもないといった程度に。

 

 本当に反撃の目が無くなったら普賢はいっそのこと短期決着を着けるために防御を捨て、一転攻勢に出ただろう。

 

 もし、もう少し攻勢が手緩かったら反撃に移るのが比較的楽だっただろう。

 

――――つまり、偶々ではあるが普賢にとって最もジリ貧になる状況なのだ。

 

 

 

――――普賢は変化を求めていた。

 

 鞭と弾丸が飛び交う嵐の中、普賢はただ変化を求めていた。激しくなった化物の攻撃のせいで反撃用の魔法に必要な工程が遅々として進まないからだ。

息つく間もなく振りかかる攻撃を一つ一つ丁寧に潰しながらでは、エナジークラッシャーの準備はじれったくなるほど遅かった。

 

(いい加減一息吐きたい……せめて一呼吸。一手打つ余裕が出来れば……)

 

 一息の間隙が出来れば、即座に発動させるなり一度仕切り直すなりして状況を変えることが出来る。

普賢は心底からただの一呼吸の間を欲し、そのために極限まで集中して隙を探った。逆転の一手を打つ一呼吸の隙を――――。

 

 

 

 

 

『普賢君っ! 避けてっ!!』

「っ!?」

 

 機を窺っていた普賢の頭に突然の警告が響く。

その一言に、集中を解いた普賢は自身の背後から迫る膨大な魔力を感じ取り即座に飛びあがって空へと逃げた。

 

――瞬間。極太の光線が化物を呑みこんだ。

 

 その激烈な威力と裏腹に可愛らしい桃色をしたあべこべな砲撃は一撃のもとにこの戦いに幕を下ろした。

 

 

 

 

「……えーと、これでよかったの?」

 

 聖祥小学校の白い制服に装飾を施したような衣装に身を包み、赤い宝石が輝く機械杖を手にした幼気な少女の呟きと共に――――。

 





 これで一つ目のジュエルシード封印ですね。ユーノが前日に封印しているものを含めると二つ目ですが。
投稿ペースが上がるかどうかは作者のリアル次第なのでご了承願います。

 お気に入りとか感想とか頂けると励みになります。感想はまだ無いですが、ありがたいことにお気に入りしてくださっている方がいらっしゃるのでそれを励みに頑張ります。ありがとうございました。
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