スタンドとは精神のビジョンである。そのものの精神の形を表したもの、言ってみれば鏡のようなものだ。
スタンドとその使用者は密接な関係で結びついている。スタンドが傷つけば本体も傷つく、その逆もまた然り。
人の心の奥底は誰にもわかりはしない。しかし、スタンドはその心を映し出す。
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あれから1日ほどが経った。子供の親からは感謝され、いろいろ警察に話をした。そして僕は今日、ある人の家の前まで来た。
口の中がカラカラに乾いているのが分かる。息が上がっていくのを抑えチャイムを押す。
いくらか待つと女性の声が家の中から返事が上がる。果たして僕は本当にここに来てよかったのだろうか。そんな疑問が頭を掠めるが覚悟を持ってここに来たのだ、みすみすと帰ることなどできやしない。
「はーい、って誰よあんた?」
少し気の強そうな初老の女性がドアを開け出てくる。間違いない、資料で見た通りの人だ。
一度目を閉じ大きくいきを吸い込む。ヘドロのように僕を包み込む過去を清算する時が来たのだ。
「東方、東方仗助さんはいらっしゃいますか」
僕の生物学上の親、片桐安十郎に対する過去を。
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僕の人生は決して楽なものではなかった。こうして語っていると、いい気になりやがって気に入らねえ、そう思う人がいるかもしれない。けれど、僕の人生はこれなくしては決して語れないのだ。
僕の母は美しい人だった。才色兼備という言葉が最も似合う人物だと聞いている。友達も多く、いい大学も出て、結婚相手も決まっていた。そんな順風満帆の人生を怪我したのが片桐だった。
それは蒸し暑い夜の事だったと聞いている。偶然にも母が残業で遅くなり、普段は通らないであろう脇道を通った時のことらしい。奴は物陰から一瞬で母に跳びかかり暴力を振るい、そして強姦した。
奴はその後すぐに捕まったらしい。しかし問題はその後だった。母の中にはもう一つの命、つまり僕がすでに宿っていたのだ。
母の両親はもちろん反対した。そんな鬼の子など降ろしてしまえ、産んだら親子の縁を切る。そうなんども説得されたらしい。けれど僕の母はその説得を聞き、「たとえどんな外道が父親だろうと生まれてくるこの子に罪はないわ。それに、こんなに元気に育っているんだもの、この子を殺すことなんてできないわ」そう言い切ったらしい。そして母は一人で僕を産んだ。
生活は楽ではなかった。会社をやめ、住んでいたアパートを引き払い、誰も知らない土地へ小さなボストンバック一つで赴いたのだ。女手一つで小さな子供を育てるために、昼夜を問わず母は働き続けた。貧乏だったが幸せは確実にそこにあった。しかし、その幸せは長くは続かなかった。
母が死んだのだ。それも体の中から引き裂かれて。その時は知らなかったが、どうやら片桐安十郎が脱獄した時とほとんど一致するらしい。兎にも角にも母は一生を最悪の犯罪者に汚されたのである。
不幸がこれで終わればどれだけ良かったか。親戚をたらい回しにされ、学校では馴染めず、リンチを受け、祖父母が住んでいるイタリアに行けばスタンド使いの戦いに巻き込まれる。ドンだけついてないか分からない。まあ、これも運命だと思い諦めているが。
そんなことを考えながら黄昏れていると客間に誰か入ってくるのがわかる。それは巨大な男だった。身長180センチメートルはあるんじゃないかというリーゼントヘアーの筋肉質の男、東方定助。
彼はじっと僕を見つめる。まるで心の奥底まで見られているんじゃないかと錯覚するほど美しく澄んだ瞳をしていた。
「一つ確認するがよ~、お前が承太郎さんが言っていた奴でいいんだよな~」
妙に間延びした口調で問いかけてくる。小さく頷くと、何か考えこむように黙ってしまった。
「お前のおやじのアンジェロはジジイ、俺のじいちゃんを殺した。確かにそれは変えようもねえ事実だ。だがよ~、お前が別に気にすることじゃねえんじゃねえか。親のやったことだ、ガキのお前には関係ねえしよ~」
彼はまっすぐ僕を見つめながらそう諭してきた。しかし、僕はそれでは納得行かないのだ。片桐安十郎のしでかした罪、そしてその身に受けた罰を見なければ納得出来ないのだ。
「分かった……。ついてこい。てめえが何を感じるかはしらねえが、後悔だけはすんじゃねえぞ」
彼はそう言って席を立った。僕も席を立ち外に行く準備をする。ふと窓の外を見つめる。外は小雨が降っており、ジメジメとした天気が妙に僕の気分とマッチしていた。
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仗助さんに連れられて来たのは近くの交差点だった。雨脚は強くなり1M先も見えそうにない。
前を歩いていた仗助さんが突然立ち止まったため、僕は彼の背中に顔をぶつけてしまった。
「これがアンジェロの、お前のおやじの成れの果てだぜ」
彼はそう言って道に置かれた大きめの岩を指さした。
それは見てくれはいささか悪いがどう見ても普通の岩だった。それがなぜ……。
「俺がお前のおやじと岩をスタンド能力で『融合』させたんだよ」
彼は横目で僕を見ながらそう告げる。岩がかすかに蠢いたかと思うと小さく「アギ」と音を発した。
「なあ、これで分かっただろ。お前が何しようが無駄だって、おい!何を!」
僕は彼が何かを言い切る前にスタンドを出しその岩を覆った。新種の深海生物のように蠢いたかと思うと、何かを溶かすような音がしてくる。
「なあ父さん。あんたは自分のやりたいことをやっていいよな。他人に負債を押し付けて自分は自由奔放に生きる。確かにそれは悪いことじゃない。けれど、あんたはいい気になりすぎたんだ。僕は、あんたみたいに良い気になってるやつを張っ倒すのが一番好きなんだぜ」
一息に言い切る。スタンドのパワーを強くして、溶けるスピードを早くする。スタンドごと大きく痙攣したかと思うと、それ以後動きを見せることなくそいつは溶けて消え去った。
僕は曇天の空を仰ぎながら今までの事を思い出す。そしてこれからのことを考え、がっくりと肩を落とした。
次回予告(仮):再収穫