安心して読んでくださいね?
「提督ぅ~、暑いんだけど~」
「ごめんな、北上」
「……まぁ、提督が悪い訳じゃないからいいんだけどさぁ~……」
彼女はソファに寝そべり、気だるげにそう言った。その頭は、同じく座る僕の膝の上。
「いいえっ、北上さん。すべてこの男が悪いのですわ!……というか提督?さっきから北上さんに触り過ぎなので―――」
そして、光の消えた瞳でこう言った。
「―――魚雷20発、撃っていいですか?」
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どうしてこんな事になってしまったのか。
全ての原因はエアコンの故障にある。
窓の外を眺めれば、青い空。白い雲。
そして、眩しく輝く太陽。
もう梅雨明けしたのではないかというほどの暑さである。
そんな職場の環境に耐えかねた本日の秘書艦、北上が僕に嘆願してくるものだから―――と言いつつ、自分が一番使いたかったのだが―――エアコンの電源を入れたのだった。
が、その直後、執務室に響き渡る異音。
と言う訳で、故障していることが判明し、現在は修理中である。
ちなみに。修理は工廠に居る二人、夕張と明石にお願いした。
あの二人には、甘味か何かを奢ろうか。
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自らの死を悟ったからか、思わず過去を振り返ってしまった。走馬燈的なあれだろうか。
「止めなよ大井っち~、提督びびってるじゃーん」
「……そう言っても、僕の膝から頭をどかしてはくれないんだね……」
他人事だから、と言わんばかりだ。大井の脅迫をまったく意に介していない。
「減るもんじゃないし、いいじゃんいいじゃん?それに、提督から触ってる訳でもないし~」
しかし、至極全うな事を言ってくれた。いいぞいいぞ。
「さぁ、北上さん!その男から早く離れてください!」
肝心の大井に聞き入れてもらえなかったが。
……本当に、北上が関わると性格変わるよなぁ……
「私の魚雷が光って唸る!北上さんからの愛を掴めと轟き叫ぶ!」
どこかで聞いたような……けどちょっと違うような……?
「まーた大井っち、何かに影響されてるよ……大方、
そういえば、夕張はアニメや映画をよく見ると言っていたっけ。
……じゃなくて!
「僕は全然良くないんだけどっ!?」
命がかかっているのに、そんな簡単に流されるなんてっ……
「だいじょぶだいじょぶ。大井っち、本気で提督を攻撃するつもりなんてないもん」
と、ここで北上から意外な一言。
「……なんで?」
気になったので聞いてみた。
「だって大井っち、普段はあんな事ばっか言ってるけど、本当は提督の事―――」
「ちょっと北上さああああぁぁぁんっ!?」
肝心の部分はまるで聞こえなかったけど。
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「んもぅ……大井っちうるさいよー」
ぷんぷんっ、と声に出して怒る北上。
「はっ……北上さん、すみません……」
本当に申し訳なさそうに謝る大井。
僕にやるときにもそうして欲しい。
「……ほーんと、素直じゃないんだから……」
「北上さん、何か言いました?」
「何でもないよぅ、大井っちぃ……ふぅ、それにしても暑いね~」
結局何だったんだろうか。気になるが話を逸らされてしまった。
こうなると中々聞きづらいんだよね……
「僕と密着するのを止めたら、少しは涼しくなるんじゃない?」
ここで今更なツッコミを入れてみる。が。
「それは出来ない相談だねぇ……ここ、居心地良いんだよね~」
そんな訳ないと思うんだけどなぁ……?
自分の膝で寝た事ないけども。
「ぐうっ、やはり羨ましいっ……!…提督!貴方、そこ代わりなさいよっ!」
と、やっぱり大井の怒りの矛先が僕に向いてしまった。
「ぐええ……ちょ、大井やめて……っ」
肩を掴んで首を揺らさないでええぇぇぇ……
「大井っち?」
「はいごめんなさい」
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なにこれデジャヴ?
「もー、大井っちのせいで益々暑くなってきたじゃんか~」
「わ、私のせいですかっ!?」
「そうだよぅー」
そう言って、益々だらける北上。
しかし、北上に言われたのだ。少しは落ち着くだろう。
そう思ったのだけど。
「むむむ……あっ、そうだ」
苦々しげな表情の大井が近づいて来て、耳打ちしてくる。
「……このままでは私が北上さんに嫌われてしまいます。なので提督っ、貴方、何か私の株が上がりそうな事を考えなさいっ」
えぇ……
「なんで僕が……そうだなぁ……」
頼まれてしまっては断れない。一応考えてみる。
……
…あっ。
「間宮さんの所に、甘味を食べに行こう、とか?」
確か今の季節、かき氷を出してくれるって言ってたような……
うん。甘いものも食べられて、涼む事もできる。我ながら良い案だ。
と思ったんだけど。
「よくやりました提督、魚雷の数は5本に減らします」
あっ、撃つのは変わらないんですね……
「んんっ……きーたかーみさんっ?」
そして大井は、未だソファでごろごろする北上に提案した。
「なぁに~」
「間宮さんの所に、甘味を食べに行きましょう?……この男の奢りで」
「ちょ」
それはおかしい。……というか大井の株を上げるのに僕が奢るのはなんか違うよねっ!?
と言いたいのが顔に出ていたようで。
「何ですか提督?……何か文句でも?」
よーし、がつんと言ってやるぞー!
「文句っていうか…大井が奢ればいいたいいたいちからつよいからつねんないでえぇ」
「奢ってくれますよねっ、提督♡」
「はいぃ……」
ダメでした。
「さ、この男から言質も頂いたことですし、行きましょ?北上さん!」
「あはは……提督、大変だねぇ……」
やっぱり他人事の北上。まぁ、彼女からすれば他人事なのだけど。
「まったくだよ……さぁ、置いて行かれないうちに早く―――」
「と、言う訳でそんな疲れ切った提督に北上さんからプレゼントだー、えいっ」
ちゅっ。
「……は?」
「何さ提督ぅ、恥ずかしがれよ~……あたしが恥ずかしくなっちゃうじゃん……」
「……え?」
「ありゃ、固まってらっしゃる……ま、いいや」
「提督、いつもありがとね♪」
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……どうやら、北上は執務室から出て行ったようだ。
いきなりの事でフリーズしてしまった。
頬に残るのは、柔らかな唇の感触。
「何だったんだ今の……ん?」
突如、背後から尋常ならざる殺気を感じ、振り返る。
「ほう……!私の北上さんに……なんという事をっ……!」
ですよねー。
殺気の主は大井であった。
北上がこんな男にキスをしたのだ。それはそれは大層ご立腹であろう。
「待って落ち着いて大井。今のは僕も想定外―――」
「魚雷の数を減らすと言ったな……」
というか一つツッコミを入れたいのは。
「あれは嘘だ」
普通の人間には魚雷が5本だろうと20本だろうと大した差はな―――
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「……ごめんねぇ、提督。あと大井っちぃ……」
執務室の中にいる二人に、呟くように声をかける。当然、届いていない。
心配だったから、様子を見に戻って来たけど……やっぱり、そうなっちゃうよねぇ……
本当に手のかかる妹だ。
いつだったか。あの娘は私に恋していると言っていた。
同時に、彼の事も。
が、彼女はまだ気づいていないのだろう。
私に抱く感情は、提督へのそれとは全く別物である、という事に。
「いつか気付くといいんだけどなぁ……」
ま、いいや。取り敢えず今は……
「代金は提督持ちだし、高いのたーのもっと」
最近暑いですよね。皆様いかがお過ごしですか?
この間エアコンが壊れた私にとって非常にタイムリーな話題で書きました。
どうでしたかね?
さて。
北上さんのゆるーい感じ、いいですよね。なんだか気が合いそうな気がします。気だけ。
大井っちについてですが、この鎮守府では北上さんも、提督の事も好きです。
北上さんと大井っちと提督の三角関係。個々人、色々思い描くものはあるとは思うのですが……
時報とか聞いていても、そこまで提督の事が嫌いって訳でもなさそうだったので。
……どうなんでしょうね?
という訳で、今回はここまでです。お付き合いくださり、ありがとうございました。