でも、いつも通りだと思います。
「……うん、これでよし、っと」
先程帰投した艦隊から受け取った書類を一通り確認し終えた様子の彼。
小さな声でそう呟くと、確認したことを証明する判を押した。
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出撃後には、こうして書類を提出する必要がある。
書類の内容は、戦果だとか、こちらの被害状況、或いはMVPは誰か―――
等々、といったところである。
ちなみに。
今提出された書類は、最終的に大本営の元へと届くこととなる。
そうして、各鎮守府から集まった書類を基に、提督毎の戦果等の公表が月単位で行われるのだそうだ。
順位付けされ、上位入賞者には褒賞もあるらしい……がそれはまた別のお話。
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話は戻って。
今回の出撃はほぼ無傷であったため、彼も一安心したようだ。
コーヒーを一口啜り、ほっ、と息を吐いて、一言。
「長門と陸奥には頼りっぱなしだね。……無理しなくていいんだよ?」
申し訳なさそうに言うものだから。
「いやいや。気にするな、提督」
「そうよ、提督。私たちが好きでやっているのだから、ね?」
ぱちっとウィンクをして見せた。
彼が心配しているのは、
……きっと、『疲れているだろうに、ここまでしなくても……』などと思っている顔だ、あれは。
私たちが好きでやっているのだ、心配する必要もないのに……
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一言では信用できない、とそんな提督に、
「それに、この長門。昔はこれ以上の大役を任されていた事もあるのだからなっ!」
この程度で音を上げる訳がなかろうよ、と我が姉。
彼女が言わんとするのは、きっとあの頃の記憶―――私と共にビッグ7と称されていた事か、或いは連合艦隊旗艦を務めた事か―――。
酒の席で、彼女が悪酔いする時は、決まって私にくだを巻く。
そんな時、よく出す話題だ。……私もビッグ7って言われてたんだけどな、長門姉。
勿論、彼には伝わっていたようで。
「ふふ、よく知ってるよ。……職業上、ある程度そういった知識は頭に入れておく必要があると思ったんだ」
まだまだ勉強中だけどね、とは彼の弁。
まったく、こういうところには気が回るんだから。
「む、そうなのか……少し、恥ずかしい気もするな」
「あら、あらあら?……でも、悪い気はしないわ」
それに。ある程度、私たちについて調べてくれていると、やりやすい事もあるのだろう。
例えば、トラウマがぶり返して来た時とか。
打算的な面―――その結果、艦娘として機能しなくなったら―――もあるだろうが、私たちの事をよく考えてくれている。
尤も。彼に言わせれば、それも仕事の内、なのだろうが。
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そんな話を聞いたからだろうか。
「寧ろ、我々の方が礼を言うべきなのだろうな」
と、姉が言う。
「……気にする必要はないよ、長門。僕は、僕がやるべきだと思う事をやっているだけさ」
と、苦笑する彼。……本気でこんな事を言えてしまう男なのだ、この人は。
しかし、そこで引き下がらない我が姉。神妙な面持ちで、こう言った。
「それでも、言わせてくれ……いつも、ありがとう、提督」
「こっちこそ……いつもありがとう、長門。それに、陸奥」
珍しい、姉のしおらしい態度。思いがけず、会話に入れなかった。
「なんだか湿っぽくなってしまったな。……さて。戻るとするか、陸奥」
「ええ。そうしましょうか」
先程までのやり取りが恥ずかしくなったのだろうか、逃げるように執務室を後にしようとする長門姉。
……これでは締まらないではないか。思わず吹き出しそうになってしまった。
そんな、どこか頼りない姉を先頭に、部屋を出ようとしたところで。
「あれっ。長門、何か落としたみたいだよ?……これは」
彼が何かを拾い上げた。……あれは―――
「んっ、なっ!み、見るな提督!」
「うわっ!?」
その手には、私たちの部屋の鍵。……可愛らしい熊のキーホルダーの付いた。
「……驚いただろう?提督……」
恥ずかしそうに、それでいてどこか悲し気な顔をする姉。
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……というか、これでは『私が選んだものです』と言っているようなものではないか。
妹のセンスだ、という事にすれば良いものを。……生真面目な姉らしいといえば、らしいか。
さらに言えば、恥ずかしがる事もないというのに。
自分のキャラじゃない、なんて思っているのだろう。
まったく、我が姉ながら、可愛いというか、面白いというか……
だから時々、からかってみたくなっちゃうのよね。
……まさか妹がこんな事を考えているとは思いもしないのだろうな。
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意識を戻し、長門姉の様子を伺う。
何か話そうと、しかし言いよどみ……ついには涙目になってしまった。
「すまない、提督。私の柄では―――」
見かねた彼が声をかける。
「いいじゃないか、長門」
「なっ!」
「あらあら?」
さてさて、どう慰めるのかな?
「確かに意外だったけど、長門だって女の子じゃないか。可愛いものが好きだって、何もおかしくないよ?」
「うぁ、て、提督!?」
たじろぐ姉。真っ赤な顔の提督。……ふぅん?そこからどうするのかしら。
そんな風に、少し楽しみ始めていたのだけど……
「寧ろ、僕としては―――」
あらあら、雲行きが怪しくなってきたわね。
……お姉さん、知らないぞ?
「―――長門の意外な一面が見れて、嬉しかったな」
「~~~~~っ!?」
耐えきれなくなった長門姉。顔から本当に火が出そうなくらい照れている。
その場から全速力で走って逃げだした。
「提督のばか~~~っ!」
そんな捨て台詞を残して。
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うふふ、姉さんらしいわね。可愛いわ。
……さて。
「どこ行くの長門っ!?ていうか今、さらっと酷い事言わなかったっ!?」
「そうよ。酷いわ、提督」
本当に、酷い人……
「む、陸奥まで……」
自意識過剰なのも問題だけれど、ここまで鈍いのも……
もはや罪ね。大罪よ?
しかし、彼の態度。ちょっと怪しいのよね。はぐらかしているんじゃないの?
「ふふっ。……女の子にあんな事ばっかり言ってると、勘違いされるわよ?」
軽くジャブをいれて、探ってみる。
「?……どういう事、陸奥?」
が、当の本人はさらに困惑。
本当に気付いてないのね……?
……ならば。
私の可愛い姉を泣かせた事だし、少し意地悪―――お灸を据える事にしよう。
「……そうだ、提督。一つ、忠告して―――いえ、これは警告」
「えっ、何、それ―――」
「いいから」
「は、はいっ」
「貴方、これからもこのまま進むつもりなら―――」
「それほど遠くない未来に、貴方はきっと後悔する事になるわ」
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時が、止まったような気がした。
いつになく、冷たい―――恐怖さえ、覚えるような―――瞳で。
今まで見たことがないような、どこか苛立ちを感じる―――
そんな顔で近づいて来るものだから、息が詰まった。
理解が追い付かない。
部屋が、緊張感のある静寂に包まれたように感じた―――
「ふふっ、なんて、ね?」
が、それを壊したのは、他でもない陸奥であった。
「うふふ、お姉さん、少しからかってみたくなっちゃったのっ」
この間見た映画のワンシーンの真似をしてみたの、と陸奥が言う。
「……びっくりさせないでよ、陸奥……怖かったじゃないか」
「あら。怖いだなんて……酷いわ、提督」
あっ、また言葉を選び間違えた。
「ち、違っ」
中々難儀なものである。
「あらあら……さて、私もそろそろお暇しようかしら」
なんだかどっと疲れた気がする。
「あっ、ごめんなさい。もう一つあったわ」
思い出したように、部屋を出て行こうとしていた陸奥が振り返った。
「ヒントをあげる。……一つ目。長門は、貴方の事が好き」
「はっ?それ、どういう―――」
「それと、二つ目。……私は、貴方の事が好き」
ちゅっ。
「―――えっ?」
「うふふっ。やっぱり、恥ずかしいわね。……私らしくなかったかしら」
心なしか、朱の差した頬をこちらへ向ける。
「とぉっても鈍い、貴方に宿題をあげるわ―――」
「―――いつか、答を出してみて?」
ご無沙汰しております。
律儀に待って下さっている方、いらっしゃったら本当に申し訳ないです。
いきなりですが。
補足のようなものを―――と見せかけていつもの。
まずむっちゃんについて。
彼女の振る舞いは(個人的に)計算されたもの、であると思っています。
本当のところが分からないミステリアスな感じが表現したかった。
この鎮守府の陸奥。決して提督の事が嫌いな訳ではありません。嫉妬はしてるけど。
それ以上に長門の事が好きすぎるのです。
なので、長門を傷つける者には容赦しないのです。海の上でも、陸の上でも。
可愛い姉を守ってあげたい。そんな、少し捩じれた愛を持っています。
やっぱりちょっと病んでるのもご愛嬌。
ながもん。駆逐艦スキー。でも変態じゃないよ!
可愛いもの大好き。だったらいいなぁという願望。
隠している事に気づいたら、顔を真っ赤にするまでいじってあげたい。
お前の方が可愛いよ!
ちょっと天然気味。割と抜けているので、よく陸奥にいじられています。
だったらいいな(二度目)。そんなところも可愛いよ。
という訳でそんな二人でした。いかがでしたでしょうか。
次も気長にお待ちくださいな。