しかしどこまでモチベーションが続くかどうか……。
「この学園って、勉強も運動も専門的に伸ばしてくれるんだって!」
「そうみたいね」
「私、家から一番近かったから受けてみたんだ。試験に通ったとき、色んな人にビックリされたよー!」
「俺も似たようなもんだ。受かればいいなくらいの気持ちだったし」
「あたしもそんなものよ。特に優れた才能なんて思いつかないし、どうしてあっさり受かったのか」
ヒバリさんは普通に勉強出来そうな感じするけどな。
「それじゃ、何か好きなものはないの?」
「えっ!?」
「唐突だなおい。ヒバリさんビックリしてるじゃねえか」
「す、好きな……えっと、趣味……なら。ええ、少し……あっ、あなた達は?」
「私はね、動物が大好きなんだ! 何でか分からないけど、色んな動物が私のところに寄ってきてくれるんだよ! ほら、さっきも助けたわんこが」
「あれ噛まれてただけでしょ!?」
「大体いつもあんな感じだからな。杏の片思いで終わることが多い」
「えー、そうかなあ」
「じゃあ清瀬君は?」
「俺はそうだな……強いて言えばゲームかな」
「あら、てっきりアウトドア派なのかと」
「運動するのも嫌いじゃないんだがな」
「でもゆー君って毎日運動してるよね! ほら、さっきも橋の上からダイビングして」
「あれはお前が川に落ちたからだろうが!」
本当に死ぬかと思ったんだからな……。思い出すだけで身震いしてしまう。
「クスクス……」
「「「?」」」
「あ……ごめんなさい。お三方の会話がとても楽しくてつい……」
口元に手を当てながら微笑んでいたのは、メガネをかけた三つ編みの女子だった。……何というか、凄く気品に満ち溢れている。
……ってあれ? この娘、入学式のときに遅刻してきた娘じゃないか? 確か、息も絶え絶えで死に掛けていたような気が……。
「他人の会話を盗み聞きした上……こんな得体の知れない気持ち悪い女が笑っていて、さぞご気分を害されたでしょうね……」
「いや……そこまでは思ってないけど……」
「考え方がネガティブすぎるだろ……」
上品な振る舞いとは裏腹に、斜め下の方向に思考がぶっ飛んでいるようだ。あ、ネガティブだから斜め上ではなく斜め下ね。
「まあ! では、こんな私を法に訴えないでいて下さるんですか? 綺麗な方だと思っていましたが、まさか天使様だったなんて!」
「は、はぁ……」
「ヒバリさんマジ天使ってか」
「清瀬君? からかってるの?」
「睨むなよ冗談だよ」
只でさえちょっと吊り目なんだから、そんな風に見られると普通に怖いわ。
「私、
「よ……宜しく」
すっげー微妙な表情してんなヒバリさん。握手してるようでしてないし。
「宜しく。えっとぼたんさんって呼べばいいかな?」
「はい、ご自由にお呼び下さい。「家畜」でも「奴隷」でもお好きなように……」
「ぼたんさんって呼ぶからな!! 「家畜」とか「奴隷」なんて呼んだら、周りから何て思われるか……ところで、式のときぶっ倒れてたと思うんだけど、体調の方はもう大丈夫なのか?」
「私のような路傍の石以下の存在に、そのようなお気遣いをいただけるとは……本当にありがとうございます」
「いや、もう……何というか……」
何かつっこんだら負けな気がしてきた。ぼたんさんってこういう性格なんだな、うん。もうそういうことにしておこう。あれこれ考え出したらキリがねえわ。
「ぼたんちゃんって可愛い名前だねぇ。私は……」
「はなこさん、ですよね?」
そう言いながら杏とぼたんさんが握手をした瞬間、聞こえてはいけない音がした。具体的に言えば、骨がやられちゃったような。
「? ビキ?」
「何、今の音……」
「……そうであってほしくないけど、ぼたんさんの方から聞こえた気がするぞ」
「……お……お気になさらないで下さ……い。よくあること……です……っ。きっと指の骨に、少々ヒビが入った程度で……大したこと……ありません……から……」
「大したことあるでしょう!?」
いやいや握手しただけで骨折ってシャレにならんぞ……。
「本当に……よくあるんです。少しのことで骨が折れたり、倒れたりしまったり……」
「ごめんね……」
「残念ですが、
「でも……っ」
「まあ、無理はすんなよ……?」
見ていてとっても心配になってくる。いや、心配っつーか、不安というか、何でこうなってしまったんだっていう疑問が湧いてくる。
ヒバリさんも複雑な表情してるし、多分俺と同じようなことを思ってるんだろう。
少しすると、俺達のクラスの担任がやってきた。おっとりした感じの優しそうな先生だ。これで厳つい、まさに体育教師っていうような先生だったら、正直俺はかなりガッカリしていたと思う。せっかく一年間一緒になるんだから、どうせなら女の先生がいいってもんだよな。
……そう思っていたことが、俺にもありました。
担任、
1~3組が勉強、4~6組がスポーツのスペシャリストを目指すクラスになっているそうだ。クラスがそういう風に分かれるっていうのは、珍しいことじゃないし、そこは「ふーん」って感じで聞いていた。問題はそこじゃない。
俺達のクラスは
「あなた方皆さんには……クラス全員、
……はい? 多分、クラス全員がこんな反応だったと思う。一体何を言っているのかと。
「ねえねえゆー君、ヒバリちゃん! 皆で幸せになれるんだって! 凄いよ!! ヒバリちゃんにも知り合えたし、やっぱり私……すっごくついてるんだよ!」
「あー、うん。そうだな……俺もお前みたいにそう考えられたらどんなによかったことか……」
全く持って意味が分からない。「幸福」になるってどういうことなんだ?
「せ……先生、それってどういう……」
クラスメイトの一人が質問をする。
「戸惑うのも無理はありませんね。理解する時間はこれから沢山ありますから、ズバリ言っちゃいましょう」
「ここにいる皆さんは、全員「不幸」です」
……はい? 一日にこう何回も戸惑ったのは、もしかしたら初めてかもしれない。いや、でも面と向かっていきなり「不幸」なんてのたまわれたら、誰だってこういう反応になると思うんだ。
「世の中、多大なる幸福を持って生まれる人あれば……。不幸……「負」の業でせっかくの才能を発揮出来ない人もいます! 皆さんは大なり小なり負を背負う、「不幸」側の人間なんですよ!」
すっげー笑顔でとんでもないことを言われている。しかもこれから最低一年は担任となる人から。
もちろん教室内は騒然となった。当たり前だ。しかも「不幸」だなんて、言われて嬉しいことでもないし。
「……すみません。せっかくですけどあたし、人に言われる程「不幸」な人間だと思えないんですが!」
ヒバリさんが立ち上がって抗議した。流石はヒバリさん、こんな場面でもズバッとものを言えるスタンス、見習いたいところだ。
「あら、あなたは……雲雀丘瑠璃さんね。……はたしてそうですか?」
ん? どういうことだ?
「学園は受験前に、しっかりとした極秘調査を行います。あなたには、本当に
おいおい、極秘調査って何だよ。もしかして、ここにいるクラスメイト全員が調査されてるっていうのか? その結果、全員が「不幸」と呼ぶのに相応しい人材だから、この7組に集められたっていうことなのか。えーと……じゃあ、つまりは俺自身も「不幸」ってことなるのか?
……ナンダソレ。
さっきよりも教室内は騒がしくなった。ますます意味が分からないから、なのかもしれない。いや本当に何なんだよこれ。
とか何とか考えていると。
「さっさと黙れよガキ共。そんなだからロクな運持ってねえんだろーが」
え……だれこれこわい。小平先生の豹変っぷりに、あれだけ騒がしかった教室内も、見事なまでに静まりかえった。ってか、差し棒へし折ってたけど、あれって金属製じゃないのか? どんだけ馬鹿力なんだよあの先生。あ、ごめんなさい。謝りますから睨まないで下さい。
少し前まで、優しそうとか思っていた自分がバカみたいだ。これなら、厳つい体育教師の方が、もしかしたらマシだったのかもしれない。
とりあえず、「不幸」認定されてしまったこのクラスで、俺達は「幸福」になることを目指すこととなってしまった。色んな意味で右も左も分からない状態。いやもう先行きが不安過ぎて、今からもう頭やら胃が痛くなりそうだぜ……。
うーん、やっぱり難しい……。