課金厨のソシャゲ廃人がリリカルなのは世界に神様転生してまた課金するようです   作:ルシエド

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カキングストーンフラッシュ! 王の輝き!


アルハザード製超弩級巨大ロボ襲来の章
ソシャゲの闇統べる王


 

 

 

 

 

 

 

 

「いつかの未来で、また会おう。たとえその想い出が、どこにもなかったとしても」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 課金少年15歳。

 彼は今、突如としてミッドに現れた古代遺跡の調査に足を運んでいた。

 通常、ミッドの古代遺跡というものは土の中に埋まっているものだ。

 その例に漏れず、この遺跡も地中に埋まっていたのだが……何故か突然、地中の遺跡が街を巻き込んで地上まで浮上して来ていた。

 

 死人こそ出ていないものの、怪我人は続出。

 クイント・ナカジマの夫、ゲンヤ・ナカジマが率いる管理局陸上部隊が出動しなければならないほどの事件となってしまっていた。

 クイントに頼まれ、ゲンヤが忘れた弁当を届けに来ていた課金少年も巻き込まれ強制連行。

 "突然のゲリラミッションは宗教的にダメなんです"と妄言を吐く少年が走り回り、あちらこちらでゲンヤの指示を受け、救助活動を行う。

 

 そして救助活動が一段落した段階で、課金少年とゲンヤは遺跡の調査を行っていた。

 万が一を考えて、慎重に、これ以上の災害を起こさせないために。

 

「造り自体はかなり頑丈ですね、ゲンヤさん」

 

「ったく、少し脆くてもいいってのによ。

 見ろ、我が家が愛用してたスーパー・ミッドンキホーテが粉々だぜ」

 

「ミッドンキホーテは安くなんでも揃えてますからね」

 

「ミッドンキホーテ……『驚安の殿堂』の異名は伊達じゃねえ。

 ミッド以外の次元世界を探したってこれほどの店はそうそうねえさ」

 

 凄いぞ安いぞミッドンキホーテ、オンリーワンだぞミッドンキホーテ、他の誰も真似できないぞミッドンキホーテ。

 ゲンヤは二児の父だが、彼の妻も、彼の二人の娘も、ミッドンキホーテの力を借りなければ生活費が危険域になるくらいによく食う健啖家であった。

 そんなミッドンキホーテも今は粉々。遺跡の直上に立てられていた不運を呪うしかない。

 

「ところでよ、リーダー」

 

「ゲンヤさん」

 

 少年がゲンヤの言葉を遮る。

 他の局員に聞かれるかもしれない状況でその呼び名はやめてくれ、という意図を込め、少年はゲンヤに手の平を向けた。

 ゲンヤは言葉を途中で止めて、バツが悪そうに頭を掻く。

 

「っと、坊主。悪い」

 

「いえいえ、念のためですから。で、なんでしょうか?」

 

「この遺跡が飛び出して来たのは、偶然だと思うか?」

 

「いや」

 

「だな。そう考えて動いた方が良さそうだ」

 

 ゲンヤは幾多の修羅場をくぐり抜けて来た勘で、少年は魔導師特有の感性で、この遺跡が偶然浮き上がって来たものでないことを理解していた。

 この遺跡の中で、微量な魔力が指向性を持って循環している。

 それは遺跡の外にも向かっているものだった。

 魔力自体は何の作用も及ぼさないものであったが、遺跡が遺跡の外の何かに反応、あるいは干渉していることは明らかである。

 

「一定の時間が経つと浮上するようになっていたのか……

 あるいは、何かに反応して浮き上がってきたのか……」

 

「何かってなんだ、坊主」

 

「年代的には古代ベルカ期の遺跡っぽいですよ、この遺跡は」

 

「……何か来るとしたら、それ相応のものが来るってことか」

 

 ゲンヤは非魔導師だが、少年は魔導師だ。

 崩れている所もある遺跡だが、慎重に進んでいれば魔法の力で怪我はしないだろう。

 

「お前さんの護衛役が居てくれりゃあ、ちっとは安心だったんだけどな」

 

「あの子にも休暇は要りますよ。でないと過労死待ったなしです」

 

「あれはお前さんから離れてる時の方が気疲れするタイプだと、俺は思うが、ねっ!」

 

 ゲンヤが気合を入れて瓦礫をどかすと、その奥に部屋が見える。

 遺跡の中に流れていた微量な魔力の発生源はここだ、と少年の感知魔法が告げていた。

 瓦礫の向こうの部屋は狭く、狭い部屋の半分を不可思議な形状の機械が埋め尽くしていて、その中央に次元航行船によく見られるものが鎮座していた。

 

 人や物を遠くに飛ばすための機器、転送装置である。

 

「これは、転送装置……?」

 

 その装置が、突然光る。まるで、少年を待ち構えていたかのように。

 

「ゲンヤさん!」

 

「!?」

 

 光は少年とゲンヤを飲み込んで、二人を遠く離れた場所に転移させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が消えた頃、少年とゲンヤは見たこともない場所に居た。

 辺りを見渡せば、どこもかしこも機械機械。

 絵描きが想像で描いた近未来の機械と、現実でメカニックが作った機能美溢れる最先端の機械が融合したかのような、幻想と現実が融合した機械が四方八方を埋め尽くしている。

 ここが部屋であると、気付くまでに数秒かかるような光景であった。

 

「ここは……?」

 

「こちら時空管理局陸上警備隊第108部隊長ゲンヤ・ナカジマ、応答願う。

 こちらゲンヤ・ナカジマ、応答願う。……ダメだな、通信機も通じやしねえ」

 

 ゲンヤは通信機を弄って四苦八苦していたが、通信機はうんともすんとも言いやしない。

 部屋を調べていた少年がコンソールを見つけ、それを操作して壁の一部を窓に変え、ようやく彼らは現状を理解した。

 彼らが窓を覗けば、宇宙空間に浮かぶミッドチルダという星が遠目に見えたからだ。

 

「う、宇宙空間だと?」

 

「ここ、宇宙みたいですね……あれ、機械通信だけじゃなく、魔法通信もダメ?

 念話も通じない? これ、距離の問題じゃなくて、通信が遮断されてるのか?」

 

 少年は目を細め、アンチメンテを使って通信をしようとする。

 だが電波を飛ばしても、魔力波を飛ばしても、量子波を飛ばしても、ミッド地上の誰にも通信が繋がらない。

 少年は少し悩んで、代金ベルカ式の魔法陣を構築、少し大掛かりな通信を行い始めた。

 

「あ、代金ベルカ式は通った。流石課金、万能だぜ」

 

「"課金が特別だから通信出来た"とかいうそのアホみたいな発想を今すぐやめろ」

 

 これは通信魔法でもあるが、厳密にはメッセージを遠くに送り、メッセージを遠くから受け取る転移魔法に近い魔法だ。

 それも、以前なのはが平行世界を繋ぐことなどに使っていた未完成魔法の完成形である。

 六年前は未完成だった亜種転移魔法も、今や『アカウント移行魔法』として完成した姿を見せていた。

 

 スマホからスマホへの、ソシャゲのデータ移行機能。

 異なる二つ、繋がってもいない二つの間で、"もの"がやり取りされるという摩訶不思議な現象。

 二つの間でデータのやり取りがされたわけでもないのに、データは移行するという矛盾。

 指でポチポチ数回タッチするだけで、何十万という価値が移動するという奇跡。

 課金少年はこの概念を組み込むことで、とうとう魔法を完成させたのだ。

 

 そのためこれは、『移動』の魔法でもなく、『転移』の魔法でもなく、『移行』の魔法という分類をされている。

 通信魔法と転移魔法を遮断する場所でも、この魔法は簡易な通信くらいなら可能とするのだ。

 

「ええと、今拠点に居るのは……よし、ゆっちーにしよう」

 

 少年はそうしてある施設に通信を送る。

 声は送れないが、文字列は送れることも受け取ることもできるようだ。

 だがそこで少年とゲンヤは、ミッドの施設からユーノが送って来た情報に驚愕することになる。

 

「かくかくしかじか。え? まるまるうまうま?」

 

 ミッドに飛来する全長20万km以上の超巨大ロボの話。

 それにより地上が大パニックに陥っているという話。

 管理局の戦艦が出撃しているが、歯牙にもかけられず次々と破壊されているという話。

 

 情報のすり合わせは、少年達に正しい現状認識をもたらした。

 

 少年とゲンヤは遺跡に転送され、巨大ロボの中に居るのだということ。

 魔法を遮断し外部から内部に転移できないこのロボを、破壊できるチャンスだということ。

 ミッドの運命は彼らの双肩にかかっているのだということ。

 

「不幸中の幸いか。よし、このやたらロストロギア臭いロボの中を探索―――」

 

「お前は座ってろ。

 良い意味でも悪い意味でも他人の予想ひっくり返すお前が歩き回ってちゃたまらん」

 

「辛辣ッ!」

 

 少年は気合を入れて歩き出そうとするが、ゲンヤにアンチメンテをぶん取られて脇に追いやられる。正しい、極めて正しい選択ではあるのだが……少年が釈然としない気持ちになるのも、むべなるかな。

 ユーノと通信し、ユーノの古代知識を借りて巨大ロボの内部を解析しつつ進んでいくゲンヤの後を追いながら、少年はスマホをいじり始める。

 どうやら、ゲンヤに全部任せて自分はソシャゲを始めたようだ。

 課金で通信する魔法の無駄遣いにもほどがある。

 することがないとはいえ、真面目に頑張っている人に丸投げして自分はソシャゲを遊ぶなど、まごうことなくクズの所業である。それを許容するゲンヤの器の大きさに眩しさすら感じるほどだ。

 

 背後で課金ガチャが金を溶かす音を聞きながら、ゲンヤはロボ内部を地道に進んでいく。

 

「……よし、ここから中枢区画に飛べるな。助かるぜ、スクライアの坊主」

 

 ゲンヤは叩き上げの優秀な部隊長だ。

 他人を手足のように動かすことも、他人の手足となって動くことも得意でそつがない。

 彼はユーノの頭脳と直結した手足であるかのように、現行のミッドとは違う技術体系のロボの中を突き進む。

 

 全長20万kmのロボともなれば、当然その内部を移動するために、途方も無い数の転送機器を搭載しているはずだと、ユーノとゲンヤは読んでいた。

 そしてほどなく、転移装置を発見する。

 少年とゲンヤは転移装置を使ってロボのみぞおち辺り、アニメや漫画の世界ではそこを殴ると何故か人間が瞬時に気絶する、人体不思議スポット辺りに移動した。

 

「む」

 

「これは……非魔導師でも感じられるくらいの、とんでもない魔力ですね」

 

 そこには"何一つとして絵柄の無い銀一色の地球儀"とでも言うべき物が鎮座していた。

 地球儀における地球にあたる球の部分が、奇妙な回転を一定の速度で続けている。

 右に回転しているのか、左に回転しているのか、じっくり見ていても分からない。

 課金少年は銀一色の地球儀のようなものを見つつ、ユーノに問いかけの通信を送る。

 

「ゆっちー、このロボはアルハザード製の可能性が高いんだよな?」

 

 アンチメンテが少年の言葉を文字データにしてユーノに送り、ユーノから送られてきた文字データを少年の前に表示する。

 ユーノいわく、この銀一色の地球儀は時空に干渉する機械であるらしい。

 このロボの機内に数万個設置されていて、ロボの大きすぎる体に空間干渉と時間干渉の両方を行い、この物理法則を超越した機体を維持・駆動させているようだ。

 

「時空に干渉する機能だぁ?

 あいかわらずロストロギアはなんでもありだな……っと、坊主、何してんだ?」

 

「アルハザード製の機械なら、端子があるはずです」

 

「端子?」

 

 うずくまりごそごそと機械の根本を探る少年を見て、ゲンヤは怪訝な表情になる。そんな表情とは対極的な笑顔を浮かべ、少年が立ち上がり振り返った。

 

「あった、ガチャ接続端子!」

 

「USB端子感覚でンなもん実装してるアルハザードォ! 滅びろ! 滅びてた!」

 

 叫ぶゲンヤを気にもせず、少年は魔力で編んだコードで自分と機械を繋ぐ。

 かつて"コンセントはあるのにスマホに繋ぐ端子がない"という地獄を越えるため、少年が編み出した窮地を脱する魔法だ。

 少年の能力が起動し、機械へのアクセスが始まる。

 

「ここはオレに任せて早く行ってください、ゲンヤさん!」

 

「は?」

 

「ここはオレ一人で十分です!」

 

「は?」

 

「ゲンヤさんは事件の解決をお願いします! オレも後から必ず追いつきますから!」

 

「は? てめ……てめえこの野郎! ミッド存亡の危機にガチャ引こうとしてんじゃねえ!」

 

「一回だけ、一回だけやらせてください!」

 

「一回だけだぞこのバカ野郎!」

 

 かくして、少年は時空を超えたガチャに挑む。

 

「うおうッ! 回れぇッ!!」

 

 十連分の石が溶け、ガチャが回る。

 課金能力と相性がいいアルハザード製の時空干渉機が唸りを上げ、時間と空間を削いでいく。

 "求める心のままに喚ぶ"ガチャ能力は、そうして少年の縁を頼りに、とんでもないものを喚ぶ。

 

「な、なんだ!?」

 

 膨らむ閃光。

 弾ける閃光。

 消える閃光。

 ガチャで大当たりが出た時の派手な光的演出が部屋を満たし、消え、後には"召喚された者達"が残される。

 

「トーマ・アヴェニール」

 

「アインハルト・ストラトス」

 

「「 参上しました。で、今度の敵は誰ですか? 」」

 

 それは、『未来』より召喚された"未来の仲間"。

 少年にとっては初対面の者達であり、未来で少年と深い仲であった青年と美女。

 彼と彼女は、時を渡り少年を助けるためにやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、色々とややこしくなってきた。

 トーマとアインハルト、少年とゲンヤはそれぞれが違う時間軸の人間で、しかも四人全員がこの現状を完璧に理解していない、

 課金少年は20代半ばに見えるトーマという青年、トーマと同年代に見えるアインハルトという美女から親しみを込めた目を向けられ、ちょっとばかり戸惑っていた。

 その戸惑いに気付いていないのか、トーマが少年に語りかけて来る。

 

「総司令、また急に喚んで……何かあったんですか?」

 

「え、総司令? オレが?」

 

「総司令は総司令、元管理局戦時総司令ですよ!」

 

「!?」

 

 トーマ・アヴェニールの発言は、一つ一つが核爆弾級のものであった。

 

「あれ、また記憶喪失にでもなったんですか、総司令……」

 

「また? またっつったかお前」

 

「ほら、あなたはこう―――」

 

 そこでトーマが語る言葉の大半は、少年にもゲンヤにも理解し難いものだった。

 単語だけ拾っていっても

『管理局史上最大の汚点となる人選』

『新暦最大の反面教師』

『課金界の小早川秀秋』

『ソシャゲ界のマザーテレサ』

『無血終戦の英雄』

『管理局の予算一年分でガチャを回して管理局を叩き出された男』

 とインパクトだけ先行して中身の想像がつかないものがつらつらと並んでいる。

 

「ええ、あんたらの言ってることまったく分からんよオレ」

 

「そんな……」

 

「総司令! 私と一緒にお風呂入った時の想い出を一緒に語り合った仲じゃないですか!」

 

「!?」

「!?」

 

 ここでトーマからアインハルトにバトンタッチ。

 課金少年とゲンヤのハートに、反応弾級の発言がぶちかまされた。

 ゲンヤは少年の頭を引っ掴み、脇に抱えてこそこそと内緒話を始める。

 

「お前、年上趣味だったのか……式はいつだ?」

 

「ゲンヤさん、親父臭いです」

 

「いいカラダしてるねーちゃんじゃねえか、男として羨ましいぞおい」

 

「ゲンヤさん、親父臭いです」

 

「真面目そうな顔しててああいうナイスバディなのは、夜が凄いとか聞くな。

 まあどんないい女だろうが、うちのクイントには劣るがな! 羨ましいだろ!」

 

「親父臭い」

 

「お前も所帯持つ気配が出て来たか……俺ぁ嬉しいぞ。相手が予想外だったがな」

 

「だからなんでゲンヤさんオレの親父気取りなんです!?」

 

 男二人は内緒話を継続しつつ、更に声をひそめていく。

 

「第一ですね、オレが女作るとかありえないです。理論的に考えれば分かるでしょう?」

 

「あん?」

 

「まず、恋人とか、妻とか子ができたらオレの私生活の時間はそっちに割かれるわけです」

 

「おお、お前がそういう思考をちゃんと持ってることに俺は安心したぞ」

 

「オレの稼いだ金も、その大部分は家族のために使うべきです」

 

「おお、お前がそういう思考をちゃんと持ってることに俺は安心したぞ」

 

「だから恋人も結婚も、オレの人生にあるわけがないんです。

 オレの金と人生の時間は、ほぼ全てソシャゲと課金に使う予定なんですから。

 余計な責任を作ってしまったら、オレの金と時間が余計なとこに吸われるじゃないですか」

 

「おおぅ……お前がいつもの思考で、俺は悲しみながらもどこか安心してるぞ……」

 

 不動の課金厨、ここに在り。

 

「だからありえません。オレが課金のことを忘れるくらいありえないです」

 

「そこまでありえないことかっ……!?」

 

「過去も、今も、未来も、オレはオレです。

 オレがオレである限り、どんな未来だろうとオレが課金を止めることはありえないですから」

 

 ケッコンカッコカリはしても結婚はしないという鉄の意志と鋼の強さが感じられる。

 結婚しない理由が『面倒臭い』『相手が居ない』などではなく、『ソシャゲと課金の邪魔になるから』というのがいかにも彼らしかった。

 結婚したならソシャゲと課金なんかより、家族のために金と時間を使うことを優先しなければならない、と認識している辺りも彼らしい。

 

「あ、そうです、私伝言を預かっていたんでした。

 カレルとリエラが怒ってましたよ?

 忙しいのは知ってるけど、一緒に買物行く約束を破ったのは許さないと、もうカンカンでした」

 

「―――カレルと、リエラ? ハラオウンの?」

 

「え? あ、はい。そうですが」

 

 ここに来て、アインハルトの何気ない言葉から少年が事情の一端を察する。

 認識のすり合わせが始まろうとしていた。

 

「どうした? 知ってる名前か? 坊主」

 

「……クロノ・ハラオウンとエイミィ・ハラオウン。

 オレの十年来の友人達で、新婚夫婦な二人です。

 それで、妻のエイミィ・ハラオウンが子供に付けようと集めていた名前候補。

 その中に、『カレル』と『リエラ』の名前があったのを、オレは覚えています」

 

「何?」

 

「忘れるわけがないです。

 妊婦のエイミィ・ハラオウンと何時間も一緒に、皆で名前を話し合ってたんですから」

 

 クロノとエイミィは結婚し、妊婦のエイミィが産休を取るくらいには仲が進展していた。

 少し前、クロノとエイミィが特に仲のいいメンツを集めて、妊婦のエイミィの周りで子供の名前をあれやこれやと考え、笑顔で語り合った日のことを、少年は覚えている。

 ちなみに課金少年は「"セク"とかどうよ」と言い「セクハラオウンなんて名前にして君は僕の子供の人生をどうしたいんだ?」とクロノにはたかれていた。

 今でもジョークが通じる仲ではあるらしい。

 

「と、なると……つまり……」

 

 ハラオウン一家が手がかりとなり、少年は真実に辿り着いた。

 

「今新暦71年だけど、そこんとこ把握してる?」

 

「え?」

「えっ」

 

 そして少年を通し、トーマとアインハルトも即座に真実に辿り着く。

 先程のゲンヤと少年のように、トーマとアインハルトも密着して密談を始めた。

 

「まさか私達、今過去に居るのでは……?」

 

「だけど、総司令の姿とか結構まんまだし……あ、でも手の辺りはちょっと違うか」

 

「あの人は妖怪みたいなものですから、そんなこと気にするだけ無駄です」

 

「妖怪で言えば日本の垢嘗(あかなめ)、アカウント舐め妖怪みたいなもんだしな……」

 

 会議終了。

 

「えーっと、ちょっとお話しましょうか」

 

 そうして、トーマ主導で四人の話し合いが始まった。

 過去を変えちゃいけないから接触は最低限に云々、といった当たり前の認識は、過去と未来の課金少年のせいで既にどこかへ飛んで行ってしまっている。

 

「ええとつまり、アインハルトは未来のオレの友人で」

 

「はい」

 

「トーマは色々あって合体してる誰かとこっち来ようとしたけど、召喚事故。

 合体してる誰かと会話できない状態で、存在が偏ったままこっちに来ちゃったと」

 

「そうです!」

 

 アインハルトは平常な状態であったが、トーマは誰かと合体した状態で時間移動をしたせいか微妙に偏在してしまっており、トーマ:その人物=9:1くらいの比率で存在しているらしい。

 元の時間軸にはトーマ:その人物=1:9くらいの比率の存在も居るのだろう。

 ゆえにかトーマ・アヴェニールは、ちょっと死の恐怖的な格好で一人佇んでいるようだ。

 

 まあその辺りを緻密に話していても、この状況では意味が無いだろう。

 事情説明は最低限に留め、彼らはミッドに迫る超巨大ロボという未曾有の危機をどうにかする方法を模索し始める。

 

「新暦71年の大事件、って……アインハルト」

 

「ええ、トーマ。あの事件のことで間違いないと思います」

 

「総司令が前に楽しそうに話してたのって、これのことかぁ」

 

「そこの二人、物分りの悪いこのおっさんを置いてけぼりにしないでくれねえかな」

 

 しかして彼と彼女は未来人。

 この事件のことを彼と彼女は知っていて、そのためこの状況での最適解も知っている。

 

「失礼しました、ゲンヤ・ナカジマさん。

 私達はこのとてつもなく大きなロボットが何であるかを知っています。

 そしてどう対処すればいいのか、どうすれば倒せるのかも知っています」

 

「! 本当か!」

 

「時間がそう多くあるわけでもありません。移動しながら話しましょう」

 

 アインハルトは皆を連れて転送機の前まで走り、迷いの無い手つきでコンソールを操作し、転送機に移動先の情報を入力。全員を連れて転送した。

 アインハルトと同程度の情報を持っているのか、転送が終わった後はトーマが走り、皆を先導し始めた。

 二人がこのロボの内部のことを知っているのは、おそらく未来で誰かから聞いたからだろう。

 

「俺達も又聞きで聞いただけなんですけど……

 このロボットはアルハザード時代に造られた

 『星よりデカい巨大ロボ作れば最強じゃね?』

 という発想から生まれた最高に頭悪い傑作機なんだそうです、総司令」

 

「マジかよ……このロボ、オレが課金で対抗策探したら、数千万でも多分見つからない強さだぞ」

 

「何を言ってるんですか総司令!

 宝くじで当てた三億を一晩で溶かした時のあなたはもっと輝いていましたよ!」

 

「……未来のオレも、オレだなぁ……」

 

 アインハルト達の未来と、少年の現在が時間軸として接続されるのかという問題もあるが、少なくとも課金少年の性格という部分では一つの線が繋がっているようだ。

 

「このロボットはスペックも高いですが、その特性も凶悪です」

 

「どういうことなんだ、アインハルト?」

 

「このロボットは別の時間軸に自分の存在の一部を置いています。

 そのため、この時間で直接的に破壊することができないんです」

 

「はぁ!?」

 

「このロボットを破壊する方法はたったひとつ。

 別の時間に置き去りにされたロボの一部を見つけ、それを破壊することです」

 

 別の時間軸にあるロボの一部を見つけなければ、このロボはそもそも壊れない。

 別の時間軸にあるロボの一部を破壊しても、このロボをその後破壊する必要がある。

 流石はアルハザード製だ、凶悪にもほどがある。

 走り続けた先、アインハルトとトーマが目指していた部屋に少年達は辿り着き、そこに置かれていた金一色の地球儀のようなものを見た。

 

「これは?」

 

「このロボの時空操作システムの核。

 これを破壊しても、核は別の操作システムに移動し、セキュリティシステムが起動するだけ。

 けれど、これを使えば……代金ベルカ式使いのあなたなら、過去に飛ぶことができるはずです」

 

「―――!」

 

 少年が一人過去に飛び、過去にてロボの一部を探し出し、破壊する。

 そして現代に戻って、このロボを破壊する大決戦を行う。

 どちらも尋常でない難易度であることは明白だが、課金少年は瞬時に覚悟を決めていた。

 

「おい待て、危険……」

 

「危険は承知の上です、ゲンヤさん。ですが時間もなければ、他に方法もなさそうです」

 

 ロボはあと30分と経たずにミッドを攻撃範囲に入れてしまいそうな勢いだ。

 全長20万km以上のサイズともなれば、グーパン一発でミッドは粉砕する。

 他の手段を探している時間も余裕もない。

 

「……無事に戻って来い。クイントがここに居たら、俺と同じことを言ってただろう」

 

「言うでしょうね、あの人は……行ってきます!」

 

 少年はゲンヤが突き出した拳に拳を合わせ、軽くぶつける。

 男の別れの挨拶など、これで十分だ。

 少年はトーマが「任せてください」とでも言いたげに頷いているのを見て、アインハルトが何故か微笑んでいるのを見て、金一色の地球儀に触れる。

 体と意識がどこか遠くに飛んで行く感覚と共に、少年の背後でアインハルトが呟いた言葉が、やけに耳に残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつかの未来で、また会う約束を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は遡り、新暦から旧暦へと少年の体は飛んで行く。

 古代ベルカの戦乱が終わる少し前の時間へ。

 古代ベルカの戦乱がまだ終わっていなかった頃の時代へ。

 絶大な力を持った諸王達が争い合っていた頃の時代へ。

 

 少年は時の流れを逆流し、川を上るように押し流されていく。

 

「ぐっ……!」

 

 それは偶然だったのか、必然だったのか。

 幸か不幸か、時の出口が開いたのは、ある青年が戦っている戦場のまっただ中だった。

 淡い若草色の髪色をした青年は、カビの生えた土を練り上げたかのような、黒と緑の混じった泥の怪物と戦っている。

 だが怪物が強いのか、押されているようだった。

 怪物が今この瞬間に、青年にトドメを刺そうとしているくらいには、追い詰められていた。

 

(このままではっ)

 

 そこにタイミングよく、時の中を猛スピードで飛んで来た少年が落ちて来る。

 少年は凄まじいスピードで落下、魔力で申し訳程度に強化された体で怪物に衝突し、少年と怪物の脳天が鈍い音を立てて打ち合わされた。

 

「!?」

 

 それが若草色の髪の青年には、自分の身を呈して自分を助けてくれた勇気ある人……といった風に見えた。

 事実、青年は怪物にトドメを刺されるという未来を回避し、怪物は痛みに頭を抱えてうずくまっている。

 青年の危機は、突如落下してきた少年の乱入により、青年の勝機へと反転した。

 

「そこだッ!」

 

 青年が大地を強く踏み、星そのものから反作用を引き出す。

 引き出された力は螺旋を描き、ほぼ一瞬で足先から拳足へ。

 練り上げられた力が瞬きの間もなく破裂し、怪物の体を千々に砕いていた。

 若草色の青年は怪物を倒すやいなや、自分を助けるために怪物に単身特攻してくれた――ように見えた――少年を抱き起こす。

 少年は気絶しているようで、目を閉じたままピクリとも動かない。

 

「だ、大丈夫か!? 僕はクラウス・G・S・イングヴァルト!

 君の名前は!? 痛いところはないか!? どうして助けてくれたんだ!?」

 

「う……」

 

 クラウスと名乗った青年の声に反応し、少年はうっすらと目を開ける。

 クラウスの問いは少年の身を案じるものと、少年の身の上を知ろうとするものがごちゃまぜになっていたが、一つ一つ丁寧に答えていけば問題はないだろう。

 答えられれば、の話だが。

 

「ここは……ここは、どこだ……なんだっけ……何か、覚えていないといけないことが……」

 

「え?」

 

「オレは……誰だ……?」

 

 自分が誰かも分らなくなった少年が、クラウスの問いに答えられるわけもなく。

 課金すらも忘れたその心は、あらゆる想い出を喪失していた。

 

「君は、もしかして……記憶喪失?」

 

 かくして、新たな物語が始まる。

 

 何もせずとも世界に名を響かせる古き王、聖王。

 後の時代にその名を轟かせる、世界で最も新しい王の伝説となる者、覇王。

 多くの王が群雄割拠し、終わることなき戦乱が終わりを迎えるこの時代。

 世界の裏で暗躍する悪と、未来から来た、か細くも唯一無二の希望が舞台に上がる。

 

 この日クラウスを怪物から救った出来事は、後の時代に、『彼』が初めて歴史の表舞台に出て来た事件であるとして、歴史研究家達の間で語られ続けることとなる。

 

 諸王の中で最も特異な、国も民も兵も持たぬ謎の王、『課金王』。

 

 聖王と覇王の盟友であったと語られる謎の王の名は、そしてこの少年が重ねていく功績は、この日より幾多の歴史書に刻まれていった。

 

 

 




「課金王に、オレはなる!」
「お前頭の中最高にモンキーだな」





約300年前→未来からここに飛ばされた
新暦65年→PT事件(起こらなかった)闇の書事件(解決した)
新暦67年→なのはさん特に撃墜されなかった事件
新暦69年→主人公、ロストロギア『シュヴァリエソード・マグナ』を虚数空間に投げ捨てる
新暦71年→ここから過去に飛ばされた
新暦75年→STS開始予定
新暦77年→色々起こる

【以下、この作品で描写される範囲の外側】

新暦79年→超銀河大戦勃発
新暦81年→【悲報】Forceの事件、起こらない
新暦89年→アインハルトとトーマが来た時間軸

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