課金厨のソシャゲ廃人がリリカルなのは世界に神様転生してまた課金するようです   作:ルシエド

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【今回の話の序盤の魔法理論はすっ飛ばしてもそんなに問題はないです】

「やあ、ぼくアンパンマン! 愛と融資だけが友達さ!」

「出たなカバライキンマンめ!」
「アンパンマン! 新しいカネよ!」
「現金100倍! アンパンマン!」


PT事件最終決戦! 主人公VSクロノ!

 むかーしむかしのこと。

 リーゼロッテ、リーゼアリアという二人の魔導師の下で、まだ未熟だった頃の課金少年とクロノが修行を積んでいた頃の、その一幕。

 

「訓練に付き合ってくれ、と言われたから僕は君の訓練に付き合ったわけだが……」

 

 代金ベルカ式の魔法陣から放たれた魔力弾を見た瞬間、クロノは首筋に猛獣の牙が触れたかのような悪寒・危機感・死の予感を感じ、その魔力弾を必死に回避していた。

 恐る恐る、クロノは今親友が放った魔法について問いかける。

 

「なんだ、今のは……?」

 

「射撃魔法はどうにも合わないから、オレ流に射幸魔法を開発したんだ」

 

「射幸魔法!?」

 

「直接的に射幸心を煽る直射弾。

 遠回しに課金したくなるようにする誘導弾。

 この二種類を巧みに組み合わせて、戦闘中に流動的に使い分けていくんだよ」

 

「直射弾と誘導弾!?」

 

「上手くやれば、自制心の無い犯罪者を一発で課金廃人にできるぞ!」

 

「封印しろそんなもの!」

 

 速さ・正確さ・無駄の無さと全ての点で少年の魔力弾を上回るクロノの魔力弾が放たれ、デコピン程度の威力に抑えられたそれが少年の額を打つ。

 少年が開発したこの魔法は、少しばかり犯罪者の人権を侵害しすぎている。当然だろう。

 

「もう少し真面目に魔法を開発しろ! そんなだからロッテがお前の指導に心折れたんだ!」

 

「結構有用だと思うんだけどこれ……」

 

「派出所の警官が細菌兵器を使うようなものだろうそれは!

 一般市民が『あの管理局の人が使う魔法怖すぎ』と思ったならその時点でアウトだ!」

 

 正義は残酷や残虐であってはならない、というのが人間の一般的な感情だ。

 実弾よりゴム弾。殺傷する魔法より非殺傷の魔法。法と市民を守る人間は、できる限りダーティなイメージを排除しつつ、犯罪者に後遺症を残さず、社会復帰できる可能性を残さなければならない……というやつだ。

 社会からドロップアウトさせる魔法など、流石にアウトすぎる。

 

「他にないのか、君が開発中の魔法の中でまともなものは……」

 

「これ以外だと構想段階の凍結魔法と、まだまだ未完成な魔法理論くらいしかないんだが」

 

「それでいい、聞かせてくれ。僕はこのままだと気が変になりそうだ」

 

 眉間を揉むクロノ。ガシガシと後頭部を掻く少年。

 未完成品を見せる気恥ずかしさを感じつつ、少年は訓練室の地面の土に、その辺に落ちていた石の欠片で単純な図形を書き始めた。

 

「規定の数字範囲……今回は0から1までと仮定する。この0から1までの間を直線とする」

 

 0――――1

 

「これを真ん中でぶった切り、0の側の切断点をA1、1の側の切断点をA2とする」

 

 0――A1 A2――1

 

「0から1までの間は、0.1やら0.01やらの数字の集合体だ。

 この直線が数字の集合で構成されている以上、A2>A1が当然成り立つ。

 だがここで問題が出て来る。その場合、『1/2』という数字はどこに来るんだという話だ」

 

 0――A1(ここ)A2――1

 

「ちょうど真ん中で切ったんだから、A1もA2も1/2だと言えるっちゃ言える。

 だがその場合A1=A2となるため、"A1=A2かつA2>A1"とかいう意味分からんものができる。

 0と1を使った実数線は極小の数字の集まり、んで1/2の部分をどうしたかという話になるわけ」

 

 少年が地面に描いているのは、少年が魔法理論を構築するために参考にしたとある考え方。

 

「さて、じゃあこれがどうなのかというと……」

 

「実数を表した直線の切断の仕方は二通り。

 ……フォウマルハウトの分割理論か。僕も四歳の時に習ったな」

 

地球(こっち)だとデデキントの切断って名前なんだけど、世界違うと名も違うんだよなあ」

 

 地球だろうとミッドチルダだろうと、世界の真理を求めるならば至る計算式は同じだ。

 されど理論は似て非なるものであることも時々あり、特に発見者の名前が理論の名前に入っている場合は、世界ごとに"同じ理論を話しているのに理論の名前だけが違う"という事が起きるのだ。

 少年が少し魔法理論の最初の部分を語っただけで、クロノは容赦なく補足を入れていく。

 

「フォウマルハウトの分割理論は幻影魔法の使用にあたり必ず理解するべきものの一つだ。

 フェイク・シルエットなどはこの手の理論をいくつも習得することが前提だったな……

 実数に仮想の刃を通す時、有理数に当たるか無理数に当たるか。

 それは刃を通して確認することが前提だ。

 この場合有理数が実体、無理数が幻影になるわけだ。

 ただし有理数(実体)は無理数にはならず、無理数(幻影)は有理数にはならない。

 刃を通した時点でどちらがどちらであるかは確定するため、攻撃の命中で幻影は消えてしまう」

 

「フェイク・シルエットはそういう理屈だな。

 でも最近は光学迷彩のスキン貼る方が主流……っと、話がズレたか」

 

 ええいこの優秀野郎め、と少年は思ったが、口には出さない。

 

「んで、色々考えてたんだが、そこでポアンカレ予想とその証明見てさ。

 ピーンと来たんだ。

 『単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相である』ってやつ」

 

「ああ、こちらの世界で言うところの12の空間定理の発表時に提唱されたあれと似たものか」

 

「ああ。こっちの世界だと『虚数空間』って言葉は次元世界の通常空間に空いた穴……

 つまり次元断層などで垣間見える、次元世界と次元世界の合間にあるものだと定義されてる。

 ゆえに虚数空間は閉多様体なわけだ。あれ自体に境界面はないわけだからな」

 

「虚数空間はほとんど何も分かっていない、不可思議の塊だ。厄介なものだよ」

 

 少年が頑張って文献を集め組み立てた魔法理論に、クロノは自分の素の知識だけでついていく。これだけでもクロノの優秀さは見えてくるというものだ。

 

「それをとっかかりにして調べてみたら、驚いた驚いた。

 次元世界ってそれぞれ単連結なのも単連結じゃないのもあるのな」

 

「それはそうだろう。世界の数だけ宇宙構造の形はある。

 『隣り合う次元世界』という表現を使う際にすら、バリエーションはあるんだ。

 球の世界が隣り合っているだけ、輪の世界が噛み合っている、など色々あっただろう?」

 

「だから目についた世界構造と虚数空間を使って、こういうのを描いてみた」

 

 アンチメンテが主の指示で立体映像を映し出す。

 映し出された立体映像は、少年が地球の理論とミッドの理論を自分なりに噛み砕いて作った、多種多様な次元世界とその隙間の虚数空間を組み合わせた立体であった。

 立体として視覚化された、棒状の多次元世界モデルとも言う。

 少年は更にそこから発展させ、棒状の多次元世界モデルを一本の色のついた直線に変形させる。

 

「そうか、世界を有理数、虚数空間を無理数として二次元的な直線モデルに組み立てたのか!

 実数は有理数とその隙間にある無理数の連続、魔法の干渉をそこに入れる刃に見立てて……」

 

「そういうこと」

 

「これは……面白いな。感性が先行しがちで細かい理論の煮詰めが甘い気もするが」

 

「だから未完成って言ってんだろ!」

 

 あと何年かかけて時間見つけて煮詰めるんだよ、と少年はクロノに刺々しく言う。

 

「だが、自分の故郷の学理を参考文献に使う意外な堅実さは、なんとも君らしい」

 

「参考文献に管理局のデータベースかなり借りたんだよなー……

 いや、こっちの世界はすげえわ。地球じゃ証明されてないものが証明されまくってるし。

 管理局のデータベースは嘱託だとそれ全部無料で見られるし、参考文献が多い多い」

 

「管理外世界出身の魔導師は検索のしやすさとデータの量にまず驚くらしいな。

 生まれも育ちもミッドな僕には、その辺りの驚愕はよく分からないのが少し寂しいよ」

 

 管理局のデータベースの学問記録を見て、それを片っ端から地球に持ち込むだけで巨万の富と大混乱を生み出すことを知り、少年は心の底から思う。

 魔法のことを抜きにしても確かに管理外世界への干渉は控え目にすべきだ、と。

 この知識を違法に地球に持ち込んで稼いだ金を課金するのは、流石に後味が悪すぎる。

 

「で、この魔法理論を何に使うんだ?

 僕が見たところ、超長距離の転移魔法に使えそうなものだが」

 

「おお、ちょっと聞いただけでそこまで分かるのは流石クオンだな……

 大当たりだ。代金ベルカの転移魔法と、課金ガチャ用のマクロに応用しようと思ってる」

 

「後者はやめろ。珍しく君を褒めてるんだ、上げて落とすのはやめてくれ」

 

「え? やだよ」

 

 発射される魔力弾。再開される訓練。一方的に攻め立てていくクロノ。

 訓練室の外からそんな二人の声を聞きつつ、クロノの友人のエイミィ・リミエッタ、クロノの母のリンディ・ハラオウンは、生暖かい視線を向けていた。

 

「あの二人仲良いですよね」

 

「そうよねえ」

 

 それから、何年が経っただろうか。

 何度少年とクロノが共闘しただろうか。

 今、少年は、味方ではなく敵でもないという形で、クロノに挑もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年とユーノがアースラに来る、ほんのちょっと前のこと。

 アースラの艦長の私室にて、クロノは母リンディから渡された地球からの救援要請、正確にはそこに書かれていた現場担当者の名前を見ていた。

 

「……報告書の名義が、あいつか」

 

「あら、知り合いの分気は楽じゃないの?」

 

「僕はこの報告を鵜呑みにする気はありません」

 

「あら」

 

 報告された内容におかしなところはない。

 矛盾や齟齬は勿論のこと、違和感も出て来ないように仕上げられていた。

 その上、報告者の少年本人がアースラに来て細かい説明をするとの一文まで加えられていた。

 

「おかしなところは見当たらないけど?」

 

「本当に何もないなら、あいつは僕に全てを任せます。

 あいつは適材適所の意味をよく知っていて、他人に信頼して任せることができる人間です。

 そんなあいつがここまで積極的に動いているのは、何か隠したいことがあるということです」

 

「そうかしら。でもこの事件、あの子がそういう偽装をするリスクの方が大きすぎない?」

 

「あいつの辞書に保身という言葉はありません。

 『これはリスクが大きすぎる』と危険性で思い留まることはなく。

 『メリットよりリスクが大きすぎる』と比較で思い留まることもなく。

 『これにはこういうメリットがある』というだけの理由で、あいつはやります。

 リスクが10でメリットが1でも迷いなくやります。だからあいつは課金をやめないんです」

 

「あら、親友だからよく分かるのかしら?」

 

「僕はそういう風に軽々しく親友という言葉を使うのは好きじゃありません。

 そういう言葉は滅多に言わないから価値があるんです。それをあいつは……まったく……」

 

 忌々しげに少年のことを語るクロノ。

 自制ができていないように見える人間は、きっちりした性格のクロノからすれば、そこそこに不快感を感じる人間なのだろう。

 だが、リンディ・ハラオウンはクロノ・ハラオウンの母だ。

 彼女だからこそ、彼女だけに見えるものというものはある。

 

(人前でそう呼ばれるのはそれだけで恥ずかしいのかしら)

 

 彼女視点、『親友』という言葉の正しい使い方を語るクロノの辛辣な態度の中には、ちょっとばかりの照れがあるように見えた。

 

「では、あいつを迎えに行ってきます」

 

「ええ、任せたわ。私とエイミィも後から合流するから」

 

 そして、時系列は合流する。

 船長に運ばれて来た少年二人と、クロノはこうして顔を合わせた。

 

 

 

 

 

 話の主導権を渡してはならない。

 時に受動的に、時に能動的に話の流れを誘導する課金主義者に、優位性を与えてはならない。

 クロノはそう考え、第一声をもぎ取っていた。

 

「それでだ、カ―――」

 

「ストップだクオン。去年の約束を忘れたのか?

 お前は賭けに負けたから、俺のことを一年間『親友』って呼ばなくちゃならないんだぜ」

 

「……ぐっ」

 

 少年のことを下の名前で呼びかけたクロノだが、少年に遮られ、悔しげに口を閉じる。

 律儀に約束を守ろうとする真面目さと、親友と呼ばなければならないという恥ずかしさが拮抗して、クロノは口ごもってしまった。

 この時点で、クロノの手の内に主導権など残るわけがない。

 

「賭けって……何したのさ、かっちゃん」

 

「本局と地上本部の選出局員による模擬戦ってのがあってさ。

 その時『あのSランクとAAランクどっちが勝つか賭けようぜ』って話してな。

 クオンはオレに課金を控えろと言ってSランクに賭けた。

 オレは一年間オレのことを親友と呼べよシャイボーイ、って言ってAAランクに賭けた」

 

「……っ、クロノ・ハラオウン一生の不覚だ。言い触らされても仕方がない」

 

「うーん、賭けの内容もさることながら君が弱い方に賭けたのも中々意味不明だね」

 

「賭けは確率の高い低いじゃない。狙った結果が出るかどうかだろ?」

 

「いやそれはそうかもしれないけど……あ、いや、そんなわけないじゃん!」

 

 その場に居なかったユーノにも、その時の様子がありありと脳裏に浮かんで来るようだ。

 妥当な選択肢を選んだクロノの前で、最高レアが当たると何の根拠もなく確信してガチャを回す時のような顔をして、実際に分の悪い賭けに勝利する少年の姿は、想像に難くない。

 

「あ、クロノ君に課金君。それにそっちの子は、ユーノ・スクライア君かな?」

 

「エイミィ」

「あ、エイミィさんちょっとぶり。今日は寝癖ないですね」

「朝に時間がなくてセットできなかった時に一回だけだったでしょ、寝癖は!」

 

「あ、初めまして。ユーノ・スクライアで……あれ、今凄い呼称が流れていかなかった!?」

 

 課金少年の本名と『か』しか合ってない、でもこれ以上なく合っている愛称が、突如現れたお喋り好きそうな女性の口から放たれる。

 女性……エイミィ・リミエッタは声をかけてきたものの、かなり忙しそうに見えた。

 

「ごめんね、今ちょっと忙しくて応対できないんだ。

 A112の部屋にお茶とお菓子を用意してあるから、まったり話してて!」

 

 突如現れて挨拶してきたかと思えば、会話をちゃんと成立させもせずささっと去って行く、彼女の在り方はまさに暴風。普段からそうというわけではないが、忙しい時のエイミィの案件処理スピードはまるで風のようだ。

 

「はぁ……とりあえず、座って話そう。立ち話で済ませる話でもない」

 

 そんなエイミィの忙しなさにクロノは溜め息を吐くが、去り際にエイミィが浮かべていた笑顔のせいで、どうにも叱る気が起きない。

 彼は気分を切り替えるように、アースラの二人のお客さんをA112室にまで案内していった。

 

 

 

 

 

 そして、事件担当執務官として、クロノが当事者達に話を聞くフェーズが始まった。

 ユーノも少年も(特に少年の方が)根掘り葉掘りクロノに聞かれていたが、ボロは出さない。言葉尻を捉えられて揺さぶられもしたが、事前にクロノがどういうことを聞いてくるかを綿密かつ正確に予測していた少年が居たおかげで、それもさしたる問題にはならない。

 世間話のようで、どこか取り調べのような時間が過ぎていく。

 

 クロノは全ての真実と罪を明らかにして、その後その人間に最も相応な罪の大きさを法廷で決めるべきだ、と考えるタイプ。逮捕時は容赦なくとも、法廷で情状酌量の余地を語るタイプだ。

 対し課金少年はそこまできっちり法の裁きを徹底する必要はなく、罰はあくまでその人間の良心の呵責に繋がるものであるべき、と考えているタイプ。

 二人がそういう自分の考え方を相手に話したことはないが、二人とも相手がそういう考え方をしていることは知っていた。腐れ縁の親友だ、そういうこともある。

 

「埒が明かないな」

 

 やがて遠回しなクロノのやり方を遮るように、課金少年が声を上げる。

 

「お前は僅かに疑惑を持っている。

 それは何か証拠があるものってわけでもなく、自分の勘に基づくものだ。

 そんでも、オレならその疑惑を解消するために何時間だって付き合うって分かってるんだろ?」

 

「ああ」

 

 一つ例を挙げよう。トラブルにあった船の操舵手が発狂した件。これは操舵手がスマホをうっかり家に置き忘れたことが原因ということで、説明は付いている。

 だが、クロノはこれがどうにも引っかかっていた。

 スマホに長時間触れないということがないよう、ソシャゲの行動力を定期的に消費できるよう、日常的に自分のタイムスケジュールを計算している廃人が、家を出てから次元航行船で出向するまでの時間、自分がスマホを持っていないことに気付かないものなのだろうか、と彼は考えている。

 クロノの近くには長年一人のソシャゲ廃人が居た。

 そんなクロノだからこそ、気付けた違和感だった。

 

 この一件だけでなく、クロノはいくつか違和感に気付いていたが、そのどれもが他人に説明したところで"確かにそれは違和感があるな"という納得を得られないものだった。

 

「『クオンの勘は信じられる』

 『お前の勘に付き合うなら、何時間でも悪くない。最後には勝つからな』

 どちらも君が、昔僕に言ってくれたことだ。それとも、もう僕の勘は信じられないか?」

 

「まさか。だけどまあ、今回はその疑惑、勘違いだと思うぜ」

 

「そうか」

 

 そしてクロノの勘が感じている違和感は、ほぼ正しい。

 操舵手への小細工や、嘱託魔導師の少年が許可を出す前にフェイトが管理外世界の地球でプレシアの私欲のため魔法戦闘を行っていたことなど、探せばいくらでも余罪は出て来る。

 隠されているだけだ。

 特にプレシアの生命実験の中には――既に少年が証拠を処分して裏工作もした――、ロストロギア絡みの罪状も合わせて、百年単位の懲役を強いられるようなものもあった。

 

「ジュエルシードをこの短期間で全部集めるのに協力してくれた人達だぜ?

 オレとしては見返り無しのその協力に、違法研究の減刑という形で応えたいんだ」

 

「確かに、それは情状酌量や恩赦の理由としては十分だ。

 ロストロギア・ジュエルシードは一つだけでも複数の世界を吹き飛ばす力を持っている。

 君の言う通り、君の故郷を完全に善意で助けたということが事実なら、報われるべきだろう」

 

「だったら……」

 

「ただ、気になる点が無いわけでもなくてね」

 

 クロノが有能であることは、少年の企みにはマイナスに働いた。

 ならばクロノと少年の付き合いが長いことは、少年の企みにどう働いているのだろうか。

 

「特に君だ。

 止むに止まれぬ事情で犯罪を犯してしまった者が居た時……

 君はどうにも、過剰に犯人に同情して減刑の材料を探そうとする癖がある」

 

「あれ、そうだっけか?」

 

「君は時折、相対した犯罪者より自分がクズで下等だと思っているフシがあるからな」

 

「……んなわけないだろ」

 

「ああ、そうだ。君がどう思っていようが、そんな事実があるわけがない」

 

 正義はクロノにあり、少年に理はない。

 ただし、二人とも譲れない信念だけは持っている。互いの信念への敬意は持っている。

 いつしか二人の会話に割って入れなくなり、二人の話を聞いているだけの状態になったユーノは、この場の空気に不思議なものを感じていた。

 

(言葉に柔らかさが全く無いのに。不思議と、険悪さは全く無い……)

 

 空気は張り詰め、少年もクロノも言葉に隙を生まないよう最大限に集中し、相手の言葉に少し変なところがあればすぐさまそこに突っ込んでいた。

 なのに、そこには一欠片の敵意も無かった。

 

(どうしたものか……僕は知っている。

 この男は、本当に裁かなければならない悪質な犯罪者なら、決して庇うことはない。

 正直なところ、違和感は気のせいだったのではないかと思い始めている僕も居る)

 

 法を守ろうとする信念も、少年が偽証罪で破滅する可能性も、二人の会話の近くを漂っているというのにだ。

 

(クオンの考えてることは大雑把に分かる。

 違和感を覚えつつも、それが疑いってほどのものじゃない上、少し揺れている。

 罪を犯してしまった一般人寄りの人に、これ以上の罪を追及する可能性への優しい気後れ。

 罪は罪だからちゃんと明らかにしてきっちり裁かないといけない、と思う公正さ。

 人道と公正さの間を歩いていけるのが、クロノ・ハラオウンの長所だ)

 

 ならば、と二人は同時に頭の中で同じ選択をした。

 

「クオン、ゲームをしないか?」

 

「ゲーム?」

 

「オレも結構忙しい身でな。で、だ。

 オレが勝ったらお前は最速でこの案件を片付ける。

 お前が勝ったらオレはお前に全面的に協力してとことん付き合う。シンプルだろ?」

 

 クロノが知らない、今やあるかどうかさえ疑っているプレシアとフェイトの余罪。

 管理局のやり方を知り、アースラチームのやり方を知る少年がそれを隠したものの、少年がそれを隠すのをやめればすぐさまそれは日の下に晒されるだろう。

 逆に言えば隠した少年がそれを明らかにしない限り、それが明らかになることはない。

 

 明確に"これだけの重犯罪があった"という確証がなければ、動かせない調査班・検証班というものもある。

 クロノが勘だけを理由に動かせる人員だけでは、少年の偽装は破れまい。

 だからこそ、肝心なところを何も言及しないまま、そのゲームは始められようとしていた。

 

「……ああ、いいだろう。種目は君が決めていいぞ」

 

 クロノは思考する。

 仮に、この事件の裏に何かがあったとする。

 その場合"最速でこの案件を片付ける"とは『事件の裏を探らせない』ということを意味し、"全面的に協力"は少年が全ての真実をクロノに見せることを意味する。

 仮に、この事件の裏に何も無かったとする。

 その場合"最速でこの案件を片付ける"とは無駄な努力でしかない捜査の早期打ち切りを意味し、"全面的に協力"はクロノが満足するまで少年が付き合うことを意味する。

 

 この少年が約束を違えないことは、クロノもよく知っていた。

 なればこそ、少年が提案したゲームの勝敗で、この事件の全てが決まる。

 

「種目は単純。『有償石ガチャ十連勝負』だ!」

 

「は?」

 

 そして少年は何の躊躇も容赦も逡巡もなく、自分の土俵での勝負を申し出た。

 

「オレとお前は単発でガチャを引く。使う金は……二人分オレ持ちでいいか。

 単発十回引いて、SSR5点・SR4点・R3点・N2点・C1点で計算、その合計値で勝負だ」

 

「ま、まあいいだろう。運勝負なら公平か」

 

「あと、クオンの敗北は二回まで無かったことにしていいぞ」

 

「……何?」

 

 運勝負ならば勝敗の可能性は五分五分……だと思っていたクロノであったが、少年が余裕たっぷりに与えてきたハンディキャップに、眉を顰める。

 

「ただの運勝負に大きく出るな? 僕に分からないよう何か小細工でも仕込んでいるのか?」

 

「いや、何も。細工なんてする必要もなくオレが勝つってだけの話だ」

 

 いつも通りの、何の根拠もなくガチャで大当たりすると信じているその姿に。

 クロノに負けるわけがないと確信しているその姿に。

 多少どころではなく、かなりイラっときたクロノは、語調をほんの少しだけ荒げた。

 

「君のその勝利を確信してガチャを回す姿は、いつも心臓に悪いと思っていた。

 今日ここで! 君が何の根拠もなくガチャに抱いているその幻想を、打ち砕いてやる!」

 

 二人はそうして、合図もなしに二人同時にガチャを回し始める。

 

 ここに、プレシア・テスタロッサが始めた事件の最後を飾る最終決戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 単発十連勝負、第一回。

 課金少年戦果、SSR0枚、SR2枚、R2枚、N3枚、C3枚。

 クロノ戦果、SSR0枚、SR0枚、R2枚、N3枚、C5枚。

 惜敗にすらならない、圧倒的な決着だった。

 

「も……もう一度だ!」

 

「いいぞ。事前に二回まで無かったことにしていいって言ったのはオレだしな」

 

「再勝負を挑んだんだ。ここからの課金支払いは僕が持つ」

 

 単発十連勝負、第二回。

 課金少年戦果、SSR0枚、SR1枚、R5枚、N1枚、C3枚。

 クロノ戦果、SSR0枚、SR1枚、R2枚、N1枚、C6枚。

 結構いい勝負にはなったが、それが余計に『越えられない壁』のようなものを感じさせて。

 

「……!?」

 

「どうする? もう一回やるか?」

 

「僕がここで退くと思うか?」

 

「思わないな。さあ、もう一勝負だ」

 

 真剣勝負にありがちな"どちらが勝つんだろう?"といった緊張感のようなものが、まるで感じられない。二人の勝負を眺めていたユーノは、何故かクロノが勝利する姿を思い浮かべることすらできない自分に、不可思議な戸惑いを感じていた。

 

(これは、いったい? 確かにかっちゃんは小細工をしてない……だけど確率は偏ってる……)

 

 やがて、二回の敗北を越えた先の本当の勝負、一度きりの最終戦。

 

「……!」

 

 単発十連勝負、第三回。

 課金少年戦果、SSR1枚、SR1枚、R2枚、N3枚、C3枚。

 クロノ戦果、SSR0枚、SR2枚、R2枚、N3枚、C3枚。

 僅か一点差。たった一点差。されど一点差。クロノの運が良ければ超えられていたかもしれない一点……だなどと、この場の誰もが思ってはいなかった。

 他の誰でもないクロノ自身が、この引きで勝てなかったのならば、どうやっても勝てなかっただろうと、そう思っていた。

 

「オレの勝ち、だな」

 

(何故だ、何故勝てない? 確率は均等なはずなのに……)

 

 敗北の確信の次にクロノの胸中に去来したのは、この勝負への純粋な疑問。

 

「お前は凄いよ、クオン。

 オレが知る限り、お前くらい正道を生真面目に進んでる奴は居ない」

 

「……いきなり、なんだ」

 

「犯罪者が大抵お前に勝てないのも納得だ。

 お前は人一倍勉強してて、人一倍鍛錬してて、人一倍頑張ってるんだからな。

 クロノ・ハラオウンに勝てるのは、クロノ・ハラオウンより頑張った人間だけだと、俺は思う」

 

「頑張るのは当然だろう。法の番人(ぼくら)が弱くては、力の無い人は安心して夜眠れないじゃないか」

 

 警察の一番重要な役目は、悪に負けないことだ。

 『自分を守ってくれている人』が悪に負ければ、人々は不安になってしまう。

 そういう意味で、クロノは法の番人として理想的な少年と言っていいのかもしれない。

 

「お前は知識も経験も鍛錬の積み重ねもあるから、大抵の奴との戦いでは負けない。

 知識、経験、鍛錬の積み重ね。

 それが無い奴がそれがある奴に勝てないのは、ガチャだって同じだ」

 

「何? たかだか運勝負のガチャにそんなものがあるはずが……」

 

「あるんだよ、知識の差も、経験の差も」

 

 自分とクロノがガチャで引いたゴミを捨てつつ、少年は自分が絶対に勝つと確信していた理由、クロノが絶対に負けると確信していた理由を語る。

 

 

 

「現にお前は、『物欲センサー』の存在を知らなかった」

 

「物欲……センサー……?」

 

 

 

 それは、成り立ての課金戦士が必ず一度はぶつかる壁の名称でもあった。

 

「人には誰しも"これが欲しい"という物欲がある。

 ガチャにはこれを感知して、欲しがられた物を出さなくするという特性があるんだ」

 

「!?」

 

「だからこそ、課金戦士(おれたち)は……

 何かを欲しがりながらも、全ての欲を捨ててガチャを回すという矛盾を行う」

 

「……それは、迷信の類じゃないのか?」

 

ブラジルで蝶が羽ばたけば(Does the Flap of a Butterfly's Wings in Brazil)テキサスに竜巻が引き起こされるか?(Set Off a Tornado in Texas?)

 実際起こるかどうかは知らん。

 だがこうしてバタフライ・エフェクトの存在を前提に置くことで、初めて理解できる事もある」

 

 少年がデバイス・アンチメンテを起動させると、二つのグラフが空間に投影される。

 片方はほぼフラットな状態を維持し、もう片方はガチャを引く前にも引いた後にも揺れていた。

 それは、少年とクロノがガチャを引いていた時の脳波を計測したグラフであった。

 ガチャを引く前に無念無想を極めていた少年に対し、クロノはガチャを引くたび、ガチャを引く直前に余計な脳波を出していたようだ。

 

「お前の脳波は、蝶の羽ばたきになっていなかったと断言できるか?」

 

「!」

 

「無我の境地に至らずにして、ガチャを回すなど愚の骨頂」

 

 ガチャをただ引くその瞬間、少年の心は神域のそれに至る。

 

(今かっちゃん僕が理解できる程度にすげーバカな話してる)

 

 それを課金ガチャ以外に活かせばいいのに、と話を聞き流しながら本を読んでいたユーノがぼんやりと思考した。

 

「お前はオレに負けたんじゃない。お前は、お前自身の欲に負けたんだ」

 

「僕の……僕自身の、欲……」

 

 この物欲センサーがあるため、この少年をどこかしらの組織が囲って良い物がピックアップされた時に組織の金でガチャを回させる、という事柄が成立しないのだ。

 少年に欲がなくとも、組織単位の欲望が混ざってしまえば物欲センサーは反応してしまう。

 クロノが欲深な人間でなくとも、勝ちたいという欲望とそのために良い物を出したいという欲望があれば、その欲はガチャの確率を歪ませてしまう。

 なんであれ、欲は人の何かを蝕むということだ。

 課金が社会性や人間性を蝕むのと同様に。

 

「勉強でも戦闘でも顔でもオレはお前に勝てないが、この土俵の上でなら、オレはお前に勝てる」

 

 何一つとして自慢にならない勝利。

 

「他の何で負けても、課金(これ)でだけは負けられない」

 

 されど、少年が心の底から求めた勝利だった。

 

「……分かった。元より僕は勘で動いていただけだ。

 無為に時間と労力を割くのはやめることにするよ」

 

 勘を理由に捜査を続けようとし、何の証拠もなく事件に執着していた自分に、クロノは敗北で一区切りをつける。

 

「結果として死傷者が誰も出なかった事件を、これ以上掘り下げる気もない。

 だが、忘れないでくれ。

 ロストロギアが絡む事件で人死にが出るか出ないかは、ほとんど結果論なんだ」

 

 予想も予測も計測も計算も出来ないのがロストロギアなんだからな、とクロノは釘を刺す。

 何のためかと言えば、念のためでしかない釘刺しだ。

 

「君もよく分かっていると思うが」

 

 クロノの真っ直ぐな視線が少年に向けられる。

 

「優しさを理由にしても、法を蔑ろにしていいなんてことはない。

 法で定められた"してはいけないこと"にはそれなりの理由があるんだ。

 管理局の人間が、法の裁きを誤魔化すようになったなら……その時は、僕が裁く」

 

「ああ、そうしてくれ。

 正義じゃなくて法を是とするお前に裁かれる奴は、きっと幸せ者だろうさ」

 

 お前は優しいからな、と、そこから先に繋げようとした言葉を、少年はぐっと堪える。

 何故そんなことを言おうとしたのか、少年自身にも分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壁にかかった時計を見て、少年は現在時刻を確かめる。

 

「ん……まだなっちゃんを迎えに行くまで時間があるか」

 

 少年がアースラに来た目的は二つ。

 一つ目の目的、テスタロッサ家をささやかに助けるという目的は果たされた。

 ほんじゃまついでに二つ目の目的もやっちゃうかーという軽いノリで、少年はアンチメンテからジュエルシードを排出する。

 

「さて、ここに21個のジュエルシードがあります」

 

「報告通りだな。高町なのはにフェイト・テスタロッサ……

 この短期間で全てのジュエルシードを集めるとは、本当に優秀な魔導師のようだ」

「怪我人すら出なかったのは僕も本当に凄いと思うよ」

 

「オレのガチャは一回につき石二個が必要。

 なんでこの21個の内20個をガチャに放り込んで十連回します。

 ヒャッハー! 回収した無償石(ジュエルシード)大盤振る舞い十連だァー!」

 

「「ファッ!?」」

 

 そして排出されたジュエルシードの内20個がガチャに飲み込まれ、代わりに十個のゴミが吐き出される。一番レア度が高いのでもRという爆死であった。

 

「チッ、シケてやがる」

 

「お、おま、このクソ野郎! 貴重なロストロギアで証拠品になんてことを!」

「何やってんの!? 君本当になのはがそばに居ないとやりたい放題だな! 本当に!」

 

「そしてここに有償石(ジュエルシード)20個と無償石(ジュエルシード)があります。無償石はどれだと思う?」

 

「「ンッ!?」」

 

 そしてすかさず、少年は普段自分にしか見えていない・自分にしか触れられない有償石を合計20個排出し、一個だけ残っていたジュエルシードと混ぜる。

 クロノとユーノは課金の石とジュエルシードがそっくり過ぎることにまず驚き、その後どんなに調べても有償石と無償石(ジュエルシード)の見分けがつかないことに驚いた。

 

「……ま、魔力精査でも本物と偽物の区別がつかない……」

 

「オレが偽物作ったわけじゃなくて、いつも使ってる有償石を現実に出しただけなんだが」

 

「君が普段課金で出してる石が、僕らが遺跡で見つけたジュエルシードと同じもの?」

 

 クロノもユーノも混乱していたが、素の頭が優秀な二人だ。

 混乱しつつも頭の片隅は常に冷静さを保ち、やがていくつかの仮説を組み立て始める。

 その仮説を誘導するように、少年は矢継ぎ早に言葉を続けた。

 

「クオン、オレが二年前にロストロギア・レリックを見つけた時のこと覚えてるか?」

 

「忘れるわけがないだろう。

 君の第一報が『子供にねだられて20mの城作った』

 第二報が『砂掘ってたらロストロギア見つけた』

 第三報が『これレリックってやつだろ』。それだけでも耳を疑ったのに、挙句の果てに……」

 

「『アルハザードは課金文化で滅んだ』ってオレの説は、そんなにトンデモか?」

 

「トンデモだ!」

 

 かっちゃん絶好調オブ絶好調。

 

「このジュエルシードの存在はオレの説の裏付けにならないか?

 つまり『大昔にもオレと同じ能力を持っていた奴が居た』。

 そして『ジュエルシードもレリックもガチャを回す石だった』。

 そう考えれば、オレが出した石とジュエルシードが全く同じことの説明がつくだろ?」

 

「説明はできるかもしれないが納得ができない」

 

「ジュエルシードは願いと欲望を吸ってその方向性で力を発揮する。

 まさしくガチャを回す石そのものだ。

 レリックは人体に埋め込み強化する、船の枯渇した力を回復させる、等の伝承がある。

 これもまさしく石を割った時に得られる強化・回復効果そのものだな。

 ……いや、まあいいか。この説の証明はオレより頭のいい人に丸投げして任せよう」

 

「丸投げ? ……かっちゃん、まさか」

 

「ああ、丸投げできるってことは、この話題も前置きであって本題じゃないんだわ」

 

「勘弁してくれ……」

 

 少年の話はついでに話した前置きを通り過ぎ、更に加速する。

 

「で、だ」

 

 いまだ成長を続けている少年の課金能力が感知した、課金兵の永遠の宿敵。

 

「最近オレが地球で感知した、課金者虐殺ロストロギア『闇の書』の話をしよう」

 

 世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだった。

 

 

 




ぼちぼち話のアクセルを踏んで行きたいと思います


『アルハザード』

 既に失われた古代世界。今の常識では考えられないレベルの技術と魔法文化を持っていた、超古代文明とでも言うべきもの。
 ここに至ることであらゆる望みは叶うと言い伝えられ、主に奇跡を望む者達に信奉されている。
 プレシアもジュエルシードを用いてここに辿り着く事を目的としていた。。
 その技術力は、自己の連続性を度外視すれば、擬似的な不死すら可能としていたという。

 新暦77年に発生したバタフライエフェクトの遡行波及効果により、アルハザードには課金ソシャゲ文化が発生した。
 課金ソシャゲはその手軽さや射幸心を煽るシステム等、あの手この手で娯楽文化の中心となり、ソシャゲ以外の娯楽を淘汰していく。
 娯楽の衰退に加え、娯楽に払われる金の流れがソシャゲに集中したことで人材までもがソシャゲ界隈に集中してしまい、娯楽の偏りは更に加速する。

 娯楽の一極化と課金ソシャゲの悪質化、ソシャゲ運営から政治方面への献金、娯楽分野から始まった社会の堕落は何十年という時間をかけてじわりじわりと世界を蝕む。
 "間違った金の使い方"が世界に定着する。
 "歪んだ金の流れ"が当たり前になる。
 金と娯楽という社会の歯車の腐敗は、そのまま社会の腐敗へと繋がっていった。

 しまいには、世界的に知られる悪質なプレイヤーが国家元首の一人であったことが判明。
 他国を酷くこき下ろしていた外交官の個人情報晒し、世界中から搾取していたソシャゲ運営のガチャ確率操作の発覚、課金目的の強盗、ソシャゲの人間関係がきっかけの殺人事件……
 数えきれないほどの事件や問題が浮上し、人々の中に不和が撒かれていく。
 国民と国民の対立が、国と国の対立に発展し、やがて戦争に発展していってしまう。

 『楽しさ』の追求は、『自分にとっての楽しさ』の追求に変わり、『戦争』に変わった。

 やがて、アルハザードは滅んだという。



 滅んだ理由が明らかになっていないアルハザードが悪い。どんな理由で滅んだかを後付けされても致し方なし。しかたないね。

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